怪8
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私は隊の中でも特に新入りで、隊員の名前は一致するようになったものの人となりとかまでは知らない。生まれや育ちなんてのはもちろん、何が好きとか嫌いとか休みの日に何してるとか、防衛隊に入った理由とか。なんにも知らない。知ってるのは、自分の目で見たものだけだ。
「……鳴海隊長」
「なんだ」
鳴海隊長は手を止めることなく、更にその手元から目をそらすこともなく返事を返した。手に持った携帯ゲーム機はまさに文字通りの目と鼻の先だ。
「そんなに近くてちゃんと見えます?」
「当たり前だ。見えてるからゲームしてるんだろ」
そりゃそうか、たしかに。澱みなく動く指はめちゃくちゃに動かしているようには見えない。ちゃんと意志を持って動かされている。ならやっぱり見えてるんだなぁ。でもその画面の近さは、傍から見てなんとも目に悪そうだ。
「鳴海隊長」
「まだなにかあるのか」
ゲームをする手は止めず、それでも律儀に返事をしてくれる。ゲームの邪魔になってそうだけど、意外にも無視はしないし怒られたことも無いのだ。
「目、悪くなりますよ」
そう言った私を、鳴海隊長が視線だけでちらりと見る。それは瞬きするくらいの間だけで、次の瞬間にはもうゲーム画面に戻っていた。
「ならん」
はっきりと、目は悪くならないと否定された。私としては、今の鳴海隊長みたいに目に近づけて画面を見たりすると目が悪くなると思うのだけど。あと暗いところでテレビを観たりとか……これも鳴海隊長はよくやってる。暗い部屋でゲームしてるのを見たことがある。小さい頃から口を酸っぱくして言われ続けたことだし、きっと根拠があるはず。
そう思っていると、鳴海隊長は手に持っていた携帯ゲーム機をポイと放って、今度はしっかりとこちらを見た。ゲームは終わったんだろうか。
「ナオ、ボクの目なら心配するだけ無駄だぞ」
ゲームを放って自由になった手が、前髪をかき上げる。顕になったのは、私がさっき悪くなると心配した目だ。有事のそれではないものの、じいっと射抜くように見つめられどくんと胸が鳴る。心臓に、悪い。
「これ以上悪くなりようがない」
「それって……」
識別怪獣兵器だからですか。とは、聞けなかった。私は第一部隊の隊員だけれど新入りで、鳴海隊長がどうしてその目を持つようになったのかは知らない。 元々の目はどうだったのか、どうなったのかは知らない。
言葉を継げない私を見て何を思ったのか、鳴海隊長はきゅうと目を細めて、ホレ、と腕を広げた。来いということだろうか。のそのそと近づくと腕の中に収められ、さっきよりも随分と近づいた距離で見つめ合う。
「今お前の事は見えてるんだ。それでいいだろう?」
「……ですね」
私の目の前には鳴海隊長。私はこの人の過去を詳しくは知らないけれど、今私に向けている、普段からは想像もできないような柔らかい顔を知ってる。だから、それで、いい。