ふたり暮らし
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
使い慣れた鍵を差し込みくるりと回す。カタンと小さな音を立ててロックが外れ、そのドアノブを握って力を込めた。
「ただいまー」
一人暮らしの部屋の玄関を開けながら帰宅の挨拶を口にする。小さな頃から躾られて染み付いた習慣はなかなか取れないものだ。
「おかえり!!おつかれさま!!」
今までであれば返ることのなかった返事が、明るく電気のついた部屋から聞こえる。そう、一人暮らしなのは過去形で、我が家には今居候がいる。
「ただいま、善逸」
「んふへへぇおかえりぃぃ」
「うわ気持ち悪」
「酷くない!?」
居候、同居人と言ってもいいのか、私の帰還を大袈裟なくらい喜んでにやにやと笑う金髪の男。名前は、我妻善逸。
そう、社会現象にまでなっているあの作品の、登場人物と同じ名前である。そう名乗った時はふざけてんのかと思ったけれど、地毛のように見える金髪と自前っぽい明るい色の瞳。それに特徴的な眉毛の形。不思議な質感の隊服に鮮やかな羽織、極め付きは綺麗な白い拵の刀。コスプレにしちゃ出来すぎているその造形は説得力があった。なによりあまりにも世間知らずすぎて、部屋の家電やらなにやらにビビり散らす様は嘘とは思えなかったのだ。炊飯器が炊きあがりのメロディを流した時にびっくりしてひとりで転んでたし。
あの日、風邪でぶっ倒れたあの日突然部屋に現れた時から、善逸は私の部屋に居候している。
「お風呂沸いてるよぉ」
「えっ準備してくれたの?」
「うん、ちゃんと教えられたとおりにやったよ」
「……ありがと」
世間知らずと思った善逸は、教えたことに対して飲み込みがとても早く、今では私が仕事に行ってる間にいろいろとやってくれるようになった。お風呂は掃除だけ教えておいたのだけれど、私がやるのをみて入れるように準備もしておいてくれたらしい。
最初は派手な泥棒か変質者か、と思ったけれど、今では善逸が居るおかげで生活水準が上がった気さえする。
「ご飯準備するから善逸先に入りなよ」
「一緒に入る?」
「入りません。冗談言ってないで早く入っちゃって」
「ええー?」
なんだか大層私に懐いた善逸は、ことある事にこういう冗談を言う。恋人同士でもなければ家族でもない男女が一緒に入るわけが無い。適当にあしらうと私はキッチンへと向かった。
「冗談のつもりはないんだけどなぁ」
決して小さくない声はきちんと私に届いたけれど、無視をした。
善逸のお風呂は早い。私が夕食の支度をしている間にもう上がったらしく「ごはんなぁに?」と後ろから覗きこまれた。お風呂上がり特有のしっとりした空気が肌を掠める。
「こら、火を使ってる時に危ないでしょ」
「それはごめんなさいねぇ」
「あと髪。ちゃんと乾かして」
「うぇえ……あれうるさくて嫌いなんですけど」
善逸はドライヤーが苦手だ。やはり漫画と同じように耳が良いようで、耳元で大きな音が出るのが嫌らしい。けれどそのままで居て風邪をひかれても困る。ちょうどご飯の支度も終わったから、私は火を止めて善逸に向き直った。肩にかけられたタオルを使ってわしゃわしゃと髪を拭いてあげると、なんだか嬉しそうに少し肩を竦めてされるがままだ。
「ほら、乾かしてあげるから」
「ナオちゃんが乾かしてくれるんなら、うん。我慢するよぉ」
ほんと手のかかる、けれどにこにこと嬉しそうにされると、これくらいならまあいいかと思ってしまうのだ。ドライヤーの温風をあてると気持ちよさそうに目を細める。洗い上がりの金糸は指通りがよくて、私が使うお気に入りのシャンプーの匂いがした。
「この世界、俺のいたところより未来なんだっけ?便利だねぇ」
「そうだねー。ほら乾いた」
「あんがとねぇ!」
厳密には善逸がいたのは漫画、もしくはアニメの世界なのだから、ここは未来ではないのかもしれない。けれど自分が創作の世界から来たと言われたらどんな思いをするかわからないし、あの話は完結しているけれど、善逸がどの時間軸から来たのかわからない。もし善逸がストーリーの途中から来たのなら、未来を知るのは良くないのではという思いがあった。それになにより、説明するのがめんどくさい。
すっかり髪の乾いた善逸は、ほかほかふわふわの髪の毛を揺らしながら勝手に冷蔵庫を開けている。お目当ては牛乳だったようで、コップに注いで腰に手を当て飲んでいた。ほんとに明治生まれの大正育ちなのだろうか。馴染みすぎてる。
「じゃ、ご飯できたし食べようか」
「やった!」
一人用の小さなテーブルに、なんとか二人分の食事を乗せて席に着く。向かい合った善逸がいそいそと手を合わせた。
「ナオちゃんの料理美味しいよねぇ、これからもずっと毎日食べたいなぁ」
語尾にハートマークがつきそうなくらい甘ったるく言う善逸を、はいはいと軽くあしらいながら箸を動かす。以前はほぼしなかった自炊も慣れてきたし、一人より二人で食べる食事は、うん。確かに美味しかった。
「ただいまー」
一人暮らしの部屋の玄関を開けながら帰宅の挨拶を口にする。小さな頃から躾られて染み付いた習慣はなかなか取れないものだ。
「おかえり!!おつかれさま!!」
今までであれば返ることのなかった返事が、明るく電気のついた部屋から聞こえる。そう、一人暮らしなのは過去形で、我が家には今居候がいる。
「ただいま、善逸」
「んふへへぇおかえりぃぃ」
「うわ気持ち悪」
「酷くない!?」
居候、同居人と言ってもいいのか、私の帰還を大袈裟なくらい喜んでにやにやと笑う金髪の男。名前は、我妻善逸。
そう、社会現象にまでなっているあの作品の、登場人物と同じ名前である。そう名乗った時はふざけてんのかと思ったけれど、地毛のように見える金髪と自前っぽい明るい色の瞳。それに特徴的な眉毛の形。不思議な質感の隊服に鮮やかな羽織、極め付きは綺麗な白い拵の刀。コスプレにしちゃ出来すぎているその造形は説得力があった。なによりあまりにも世間知らずすぎて、部屋の家電やらなにやらにビビり散らす様は嘘とは思えなかったのだ。炊飯器が炊きあがりのメロディを流した時にびっくりしてひとりで転んでたし。
あの日、風邪でぶっ倒れたあの日突然部屋に現れた時から、善逸は私の部屋に居候している。
「お風呂沸いてるよぉ」
「えっ準備してくれたの?」
「うん、ちゃんと教えられたとおりにやったよ」
「……ありがと」
世間知らずと思った善逸は、教えたことに対して飲み込みがとても早く、今では私が仕事に行ってる間にいろいろとやってくれるようになった。お風呂は掃除だけ教えておいたのだけれど、私がやるのをみて入れるように準備もしておいてくれたらしい。
最初は派手な泥棒か変質者か、と思ったけれど、今では善逸が居るおかげで生活水準が上がった気さえする。
「ご飯準備するから善逸先に入りなよ」
「一緒に入る?」
「入りません。冗談言ってないで早く入っちゃって」
「ええー?」
なんだか大層私に懐いた善逸は、ことある事にこういう冗談を言う。恋人同士でもなければ家族でもない男女が一緒に入るわけが無い。適当にあしらうと私はキッチンへと向かった。
「冗談のつもりはないんだけどなぁ」
決して小さくない声はきちんと私に届いたけれど、無視をした。
善逸のお風呂は早い。私が夕食の支度をしている間にもう上がったらしく「ごはんなぁに?」と後ろから覗きこまれた。お風呂上がり特有のしっとりした空気が肌を掠める。
「こら、火を使ってる時に危ないでしょ」
「それはごめんなさいねぇ」
「あと髪。ちゃんと乾かして」
「うぇえ……あれうるさくて嫌いなんですけど」
善逸はドライヤーが苦手だ。やはり漫画と同じように耳が良いようで、耳元で大きな音が出るのが嫌らしい。けれどそのままで居て風邪をひかれても困る。ちょうどご飯の支度も終わったから、私は火を止めて善逸に向き直った。肩にかけられたタオルを使ってわしゃわしゃと髪を拭いてあげると、なんだか嬉しそうに少し肩を竦めてされるがままだ。
「ほら、乾かしてあげるから」
「ナオちゃんが乾かしてくれるんなら、うん。我慢するよぉ」
ほんと手のかかる、けれどにこにこと嬉しそうにされると、これくらいならまあいいかと思ってしまうのだ。ドライヤーの温風をあてると気持ちよさそうに目を細める。洗い上がりの金糸は指通りがよくて、私が使うお気に入りのシャンプーの匂いがした。
「この世界、俺のいたところより未来なんだっけ?便利だねぇ」
「そうだねー。ほら乾いた」
「あんがとねぇ!」
厳密には善逸がいたのは漫画、もしくはアニメの世界なのだから、ここは未来ではないのかもしれない。けれど自分が創作の世界から来たと言われたらどんな思いをするかわからないし、あの話は完結しているけれど、善逸がどの時間軸から来たのかわからない。もし善逸がストーリーの途中から来たのなら、未来を知るのは良くないのではという思いがあった。それになにより、説明するのがめんどくさい。
すっかり髪の乾いた善逸は、ほかほかふわふわの髪の毛を揺らしながら勝手に冷蔵庫を開けている。お目当ては牛乳だったようで、コップに注いで腰に手を当て飲んでいた。ほんとに明治生まれの大正育ちなのだろうか。馴染みすぎてる。
「じゃ、ご飯できたし食べようか」
「やった!」
一人用の小さなテーブルに、なんとか二人分の食事を乗せて席に着く。向かい合った善逸がいそいそと手を合わせた。
「ナオちゃんの料理美味しいよねぇ、これからもずっと毎日食べたいなぁ」
語尾にハートマークがつきそうなくらい甘ったるく言う善逸を、はいはいと軽くあしらいながら箸を動かす。以前はほぼしなかった自炊も慣れてきたし、一人より二人で食べる食事は、うん。確かに美味しかった。
1/1ページ