いつか、もっと甘くなる
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会社からクリスマスケーキを貰った。真っ白なクリームに苺が飾られ、これみよがしに柊の飾りがぶっすり刺さった、いかにもなクリスマスケーキである。
「……でかすぎじゃない?」
渡された箱が大きいから嫌な予感はしてたけれど、予感的中。どう見てもファミリーサイズのケーキはそこそこ重量があって、一人暮らしの家へと帰る私の足取りも心も重くした。吐く息の白さも、さえざえとしたイルミネーションの明滅すら重たい気がする。
今年は忘年会をしないから、ささやかだけど皆にプレゼント。社長が言い出したらしいけれど、いい迷惑でしかない。ちなみに新年会も中止が決定してるけれど、その分は特別手当とやらでくれるらしい。忘年会分も是非そうして欲しかった。
「あれぇ?春野ちゃんこんばんは!」
声をかけられて視線を巡らせると、街の明かりをきらきらと跳ね返す金色の髪が目に入る。
「こんばんは、我妻さん」
「今帰り?お疲れ様!俺は今から帰るところだよぉ」
声をかけてきたのは同じアパートの隣人、我妻さんだ。前を開けたコートから見えるのはスーツだから、仕事の帰りなのかもしれない。いろいろあってベランダで防火壁越しに話したりする仲だけれど、外で会うのは初めてかもしれない。
「初めてだねぇ外で会うの」
「……私も今それ思ってました」
「あらまあ気が合うじゃないの」
ふにゃりと顔を緩めた柔らかい笑顔は、いつもベランダで見るのと同じはずなのに。胸がどくんと、いつもと違う反応をした。
確かに我妻さんと話すのは楽しくて好きだし、外から帰ってくれば隣の部屋の灯りが点いているかチェックしてしまうほどには、気になっている。けど。この胸が高鳴る感じは、久しく忘れていた感情……恋、なのかもしれない。
コートの前を合わせ直す振りをして、まだ跳ねている胸をそっと抑えた。
「……これからどこかにいくの?」
「えっ?」
「それ」
我妻さんはつい、と私の手元を指さす。私の手にはケーキの箱、中身はもちろん会社から貰った無駄に大きなクリスマスケーキだ。
「大きなケーキだねぇ。あ、もしかして家にだれか来る?」
「いえ、これは貰い物で」
きょとんとする我妻さんに事情を説明する。
「……というわけで。誰もこない家に一人でこれを持ち帰るはめに」
「え、ええぇ!?一人ひとつこのサイズのケーキ?いやでかすぎだし!春野ちゃんみたいに一人暮らしの子とかどうすんだよ会社おかしいでしょお!?」
「ですよねぇ……ふふ」
私と同じような憤りを、私よりも大袈裟に騒いでくれる我妻さんに思わず笑ってしまった。楽しい人だ。
年末で仕事は忙しくて、クリスマスだけれど一緒に過ごす予定がある人はいない。
少し気になっている人は、誰かと過ごす予定は無さそうで、今から帰るところだと言う。だから。
「……よかったら、一緒に食べませんか」
「へ」
誘ってみてから、遅れて心臓がどんどん跳ねだした。私と我妻さんは、付き合ってるわけでもなんでもない、ただの隣人だ。このケーキを一緒に食べるということは、すなわち私か我妻さんの部屋で、ということになる。部屋に行くのも招くのも、それはもう。ただの隣人の域を超えている。
驚いた様子の我妻さんは、視線をそろそろと左右に泳がせてから、その様子をじっと見ていた私の目を見る。
「え、ぅえぇーーー……いいの?」
「っ!もちろんです!」
「んひひ……前にも言ったっけ、俺甘いもの好きなんだ。ありがとね」
思わず食い気味に答えてしまった私に、相変わらずふにゃふにゃの柔らかい笑顔でそう言ってくれた。
「貸して、持ったげる」
「あ、ありがとうございます」
「俺も食べるんだし当然でしょ」
並んで歩き出した先は、もちろんお互いの部屋がある同じアパートの方向だ。足取りが軽くなったのは、手からケーキの重さが消えたことだけが理由じゃない。
「ね、コンビニでチキン買おうよ」
「いいですねぇ。せっかくのクリスマスですもんね」
「だよね!メリークリスマス!」
「ふふ、メリークリスマス」
一人きりじゃなくなったクリスマスの夜に頬が緩む。恋人と過ごすほどの甘さはまだ無いけれど、それでも。二人で食べるケーキはきっと、一人で食べるよりずっと甘いはずだ。
「……でかすぎじゃない?」
渡された箱が大きいから嫌な予感はしてたけれど、予感的中。どう見てもファミリーサイズのケーキはそこそこ重量があって、一人暮らしの家へと帰る私の足取りも心も重くした。吐く息の白さも、さえざえとしたイルミネーションの明滅すら重たい気がする。
今年は忘年会をしないから、ささやかだけど皆にプレゼント。社長が言い出したらしいけれど、いい迷惑でしかない。ちなみに新年会も中止が決定してるけれど、その分は特別手当とやらでくれるらしい。忘年会分も是非そうして欲しかった。
「あれぇ?春野ちゃんこんばんは!」
声をかけられて視線を巡らせると、街の明かりをきらきらと跳ね返す金色の髪が目に入る。
「こんばんは、我妻さん」
「今帰り?お疲れ様!俺は今から帰るところだよぉ」
声をかけてきたのは同じアパートの隣人、我妻さんだ。前を開けたコートから見えるのはスーツだから、仕事の帰りなのかもしれない。いろいろあってベランダで防火壁越しに話したりする仲だけれど、外で会うのは初めてかもしれない。
「初めてだねぇ外で会うの」
「……私も今それ思ってました」
「あらまあ気が合うじゃないの」
ふにゃりと顔を緩めた柔らかい笑顔は、いつもベランダで見るのと同じはずなのに。胸がどくんと、いつもと違う反応をした。
確かに我妻さんと話すのは楽しくて好きだし、外から帰ってくれば隣の部屋の灯りが点いているかチェックしてしまうほどには、気になっている。けど。この胸が高鳴る感じは、久しく忘れていた感情……恋、なのかもしれない。
コートの前を合わせ直す振りをして、まだ跳ねている胸をそっと抑えた。
「……これからどこかにいくの?」
「えっ?」
「それ」
我妻さんはつい、と私の手元を指さす。私の手にはケーキの箱、中身はもちろん会社から貰った無駄に大きなクリスマスケーキだ。
「大きなケーキだねぇ。あ、もしかして家にだれか来る?」
「いえ、これは貰い物で」
きょとんとする我妻さんに事情を説明する。
「……というわけで。誰もこない家に一人でこれを持ち帰るはめに」
「え、ええぇ!?一人ひとつこのサイズのケーキ?いやでかすぎだし!春野ちゃんみたいに一人暮らしの子とかどうすんだよ会社おかしいでしょお!?」
「ですよねぇ……ふふ」
私と同じような憤りを、私よりも大袈裟に騒いでくれる我妻さんに思わず笑ってしまった。楽しい人だ。
年末で仕事は忙しくて、クリスマスだけれど一緒に過ごす予定がある人はいない。
少し気になっている人は、誰かと過ごす予定は無さそうで、今から帰るところだと言う。だから。
「……よかったら、一緒に食べませんか」
「へ」
誘ってみてから、遅れて心臓がどんどん跳ねだした。私と我妻さんは、付き合ってるわけでもなんでもない、ただの隣人だ。このケーキを一緒に食べるということは、すなわち私か我妻さんの部屋で、ということになる。部屋に行くのも招くのも、それはもう。ただの隣人の域を超えている。
驚いた様子の我妻さんは、視線をそろそろと左右に泳がせてから、その様子をじっと見ていた私の目を見る。
「え、ぅえぇーーー……いいの?」
「っ!もちろんです!」
「んひひ……前にも言ったっけ、俺甘いもの好きなんだ。ありがとね」
思わず食い気味に答えてしまった私に、相変わらずふにゃふにゃの柔らかい笑顔でそう言ってくれた。
「貸して、持ったげる」
「あ、ありがとうございます」
「俺も食べるんだし当然でしょ」
並んで歩き出した先は、もちろんお互いの部屋がある同じアパートの方向だ。足取りが軽くなったのは、手からケーキの重さが消えたことだけが理由じゃない。
「ね、コンビニでチキン買おうよ」
「いいですねぇ。せっかくのクリスマスですもんね」
「だよね!メリークリスマス!」
「ふふ、メリークリスマス」
一人きりじゃなくなったクリスマスの夜に頬が緩む。恋人と過ごすほどの甘さはまだ無いけれど、それでも。二人で食べるケーキはきっと、一人で食べるよりずっと甘いはずだ。