LIVE!
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遡ることひと月ほど。俺はもうすぐやってくる自分の誕生日になにか予定はあるかと愛しの彼女に聞いた。かわいいかわいい俺の彼女は、にこにこと愛らしい顔で笑い、当然のように答えたのだ。
「バースデーライブに行く」
「……へ?誰の?」
「善逸くんのだけど」
「なにそれ俺知らない」
「えっ?」
何故か本人であるはずの俺が知らないライブがあるらしい。ほら、とスマホの画面を見せてくれたけれど、ご用意できましたの文字と共に俺が所属するアイドルグループの名前、ご丁寧に「我妻善逸バースデーライブ!」の煽りまで書かれている。えっなにそれどういうこと?その疑問をぶつけるべくスマホを取り出すと、流石に把握しているであろうマネージャーに電話をかける。勤務時間外ではあるけれど数コールで出た。
『もしもーし。どうした?』
「ちょっと村田さあああぁん!?バースデーライブってどういうこと!?俺聞いてないんですけどぉ!!」
『うるさっ!ええ?言ったよ言っただろうがよ!突発ファンクラブ限定イベントだって!』
はて、聞いたっけ。そう言われれば聞いたかもしれない。小さなハコでライブをするとかなんとか……だめだあんま覚えてねぇわ。けれど村田さんはともかく俺の彼女が俺に嘘をつくとは思えないし、きっとライブがあるのは本当なんだろう。いやそれよりなにより。
「……ナオちゃん、ファンクラブ入ってたのぉ?」
「ん?うん、発足日に入ったよ?」
「うわガチだ」
えへへと照れ笑いを浮かべるナオちゃんは、俺がファンの子達をそう呼んでいる「俺の嫁」だったことは知ってる。けれどファンクラブにも入ってたのは知らなかった。あまり特典がないからグループの人気ほどファンクラブの人数は多くないんだけど。
けれど困った、俺の計画が狂ってしまう。付き合って少し経った彼女ともう少し先に進みたくて、誕生日に託けて「プレゼントはナオちゃんがいいなぁ」とか言おうと思ってたのに。お互い大人だというのに未だ軽いキスくらいしかした事のない彼女の、全てが欲しくてたまらない。
「ライブ楽しみにしてるね」
ナオちゃんの声で思考の奥から戻ってくる。心地よいふわふわした期待の音をさせてるから、なるほど言葉通り楽しみみたいだ。なら、やるしかない。
「まかせて。もーっと俺を好きにさせちゃうからねぇ」
アイドルの顔でそう言うと、彼女は赤く染った目元を細めて笑った。
◆◇
ライブは、最高だった。今までにない小さなライブハウスでの公演、当然ステージも近くてパフォーマンスも至近距離で見れる。残念ながら少し後ろの方の席だったけれど、この近さの最前列でファンサなんか浴びたらその場で倒れてたかもしれない。結果オーライだ。
善逸くんのバースデーライブと言うだけあり、彼のソロ曲やメインの曲を入れたセットリストになっていて、全ての曲に全力を出していたのだろうと思う。最後の方は汗を弾けさせてパフォーマンスをしていた。最前列だったらあの汗を浴びれたかもしれない、ならやっぱり最前列が良かった。推しの汗は聖水です。
ラストの曲が終わった時。善逸くんのコールアンドレスポンスが入った。君のハートに、と言われたら自然と口から飛び出る霹靂一閃。観客全員を俺の嫁と呼んで、ばちりと合った目。すい、と持ち上げられたピストル型の指。その指先は、きっと私に向いていた。
「……死ぬかと、思った」
まだ余韻の抜けきらないぼんやりした頭で、ほう、とついたため息は熱い。時間は終電間際。ライブ前にも物販に並んだけれど、あまりに推しが尊かったから追い課金しにライブ後も物販に並んだのだ。これからちょっと遠いけど家に帰らなきゃいけない、惚けてないでしっかりしなくちゃ。よし!と自分に気合いを入れ直して駅に向かおうとしたところで、私の手の中でスマホが震えた。
「……善逸くんだ」
通知に表示された推しの名前に、思わず独り言を零した。慌ててメッセージを開く。そこにはライブ会場からも近いホテルの名前、部屋番号。それに。
『おいで』
短い文字を目でなぞると、簡単に善逸くんの声が甦る。脳内再生余裕。私は反射のように踵を返し、駅とは反対の方へと歩き出した。
ホテルにつくとフロントの人の視線を無視してエレベーターに乗り込み、部屋番号から分かる階のボタンを押した。こんな時間に、男の人が、彼氏が待つ部屋に向かっている。今更ドキドキしてきた心臓を胸の上から押さえて、指定された部屋の前、インターホンを押そうと指を伸ばした。
私の指がボタンに触れる寸前、ドアがガチャリと開けられて中からキラキラした金髪の彼が顔を出した。
「ちゃんと来てくれたんだ、偉いねぇ」
ふわりと笑った善逸くんは、ホテルの部屋に置かれていたであろうバスローブをまとっていて、よくよく見ると髪の毛が濡れてる。微かに石鹸のような香りがするのは、シャワーを浴びたのだろうか。そわそわする私につい、と手を伸ばして肩に垂れる髪の毛をすくい上げ、ゆるりと視線を流してきた。
「ライブ、楽しんでくれた?」
「っ、うん、凄くすごく良かった!」
「ん、ふふ……知ってる。見てたから」
とろんとした顔の彼は、普段の元気な姿とのギャップがあって、なんというか、色気がある。ホテルの部屋、彼氏と二人きり。これは、やっぱりそういう状況なんだろうか。緊張で心臓が口からまろびでそうになる私を見ながら、善逸くんは目を細めてる。
「シャワー浴びておいで」
どくんと一際大きく鳴った心音が聞こえたのだろう。善逸くんが声を出して笑った。
それでもまあ、ライブ後の汗だくの状態で善逸くんの前にいるのは無理、万死に値するからシャワーは浴びたい。もともと善逸くんになら何をされたっていいくらい好きなんだ、逃げるなんて選択肢はない。私は促されるままにバスルームへと向かった。
困ったことに、こんな事になると思ってなかったから着替えがない、主に下着がない。せっかくシャワーを浴びたのに同じ下着や服を着る訳にもいかず、崩れかけのメイクをそのままにする訳にもいかず。結局頭からつま先まで綺麗に洗い流して、善逸くんと同じようにバスローブをまとって部屋に戻った。
善逸くんは、ベッドのふちに腰掛けてぼんやりと窓の外を見ていた。高いフロアの部屋だったから、眼下に夜景が広がっていてとても綺麗だ。
私の方をちらりと振り返ると、ちょいちょいと手招きをして私を呼んだ。心臓はばくばくうるさいけれど、断るなんて考えもしない私はすぐに彼の傍に寄る。推しが呼んでるんだから行くしかないでしょ。
「ふふ、いい子」
近くまで来た私の腕を引いて隣に座らせると、すっぽりと腕の中に収めて頭を擦り寄せてきた。
「楽しかった、けど疲れたなぁ……」
「……おつかれさま、かっこよかったよ」
そっと彼の背中に腕を回す。バスローブ越しに体温が伝わってきて、部屋の空調はしっかり効いているのに、暑い。そのままぐらりと傾いて、二人抱き合ったままベッドに倒れ込む。スプリングが効いているのか心地よい反発が受け止めてくれた。
「俺、誕生日プレゼントにナオが欲しいんだけど」
ああやっぱり。そういうことなんだ。緊張はしてる、すごいしてる。なんてったって相手は私の最推し、人生で一番大好きな彼氏だ。どうしたって緊張してしまうけれど、嫌な訳じゃない。むしろ嬉しい。幸せだ。こんなに幸せでいいのかしらってくらい、幸せ。
「……でももう誕生日、終わっちゃうなぁ」
さっきより随分眠そうに善逸くんが言う。ベッドに寝転んだから、今日の疲れやなんかが一気に押し寄せたのかもしれない。私より広い背中をあやす様に撫でて、うとうととする善逸くんをさらに眠りに誘う。この状況、少し残念だけれど推しの健康が第一だ。
やがて瞼が降りてはちみつ色を覆い隠し、まつ毛までキラキラの金色が扇形に広がり微かな影を落とした。すぅ、と息遣いが変わり、きっと眠ったのだろうと思う。
「誕生日じゃなくても、いつでも。私でよければ全部あげるからね」
小さく呟いて、善逸くんの胸に擦り寄って目を閉じる。相変わらず私の心臓はうるさい、けれど私もライブを目いっぱい楽しんで疲れてる。すぐに眠気が襲ってきて、私の意識も眠りに落ちていった。
「バースデーライブに行く」
「……へ?誰の?」
「善逸くんのだけど」
「なにそれ俺知らない」
「えっ?」
何故か本人であるはずの俺が知らないライブがあるらしい。ほら、とスマホの画面を見せてくれたけれど、ご用意できましたの文字と共に俺が所属するアイドルグループの名前、ご丁寧に「我妻善逸バースデーライブ!」の煽りまで書かれている。えっなにそれどういうこと?その疑問をぶつけるべくスマホを取り出すと、流石に把握しているであろうマネージャーに電話をかける。勤務時間外ではあるけれど数コールで出た。
『もしもーし。どうした?』
「ちょっと村田さあああぁん!?バースデーライブってどういうこと!?俺聞いてないんですけどぉ!!」
『うるさっ!ええ?言ったよ言っただろうがよ!突発ファンクラブ限定イベントだって!』
はて、聞いたっけ。そう言われれば聞いたかもしれない。小さなハコでライブをするとかなんとか……だめだあんま覚えてねぇわ。けれど村田さんはともかく俺の彼女が俺に嘘をつくとは思えないし、きっとライブがあるのは本当なんだろう。いやそれよりなにより。
「……ナオちゃん、ファンクラブ入ってたのぉ?」
「ん?うん、発足日に入ったよ?」
「うわガチだ」
えへへと照れ笑いを浮かべるナオちゃんは、俺がファンの子達をそう呼んでいる「俺の嫁」だったことは知ってる。けれどファンクラブにも入ってたのは知らなかった。あまり特典がないからグループの人気ほどファンクラブの人数は多くないんだけど。
けれど困った、俺の計画が狂ってしまう。付き合って少し経った彼女ともう少し先に進みたくて、誕生日に託けて「プレゼントはナオちゃんがいいなぁ」とか言おうと思ってたのに。お互い大人だというのに未だ軽いキスくらいしかした事のない彼女の、全てが欲しくてたまらない。
「ライブ楽しみにしてるね」
ナオちゃんの声で思考の奥から戻ってくる。心地よいふわふわした期待の音をさせてるから、なるほど言葉通り楽しみみたいだ。なら、やるしかない。
「まかせて。もーっと俺を好きにさせちゃうからねぇ」
アイドルの顔でそう言うと、彼女は赤く染った目元を細めて笑った。
◆◇
ライブは、最高だった。今までにない小さなライブハウスでの公演、当然ステージも近くてパフォーマンスも至近距離で見れる。残念ながら少し後ろの方の席だったけれど、この近さの最前列でファンサなんか浴びたらその場で倒れてたかもしれない。結果オーライだ。
善逸くんのバースデーライブと言うだけあり、彼のソロ曲やメインの曲を入れたセットリストになっていて、全ての曲に全力を出していたのだろうと思う。最後の方は汗を弾けさせてパフォーマンスをしていた。最前列だったらあの汗を浴びれたかもしれない、ならやっぱり最前列が良かった。推しの汗は聖水です。
ラストの曲が終わった時。善逸くんのコールアンドレスポンスが入った。君のハートに、と言われたら自然と口から飛び出る霹靂一閃。観客全員を俺の嫁と呼んで、ばちりと合った目。すい、と持ち上げられたピストル型の指。その指先は、きっと私に向いていた。
「……死ぬかと、思った」
まだ余韻の抜けきらないぼんやりした頭で、ほう、とついたため息は熱い。時間は終電間際。ライブ前にも物販に並んだけれど、あまりに推しが尊かったから追い課金しにライブ後も物販に並んだのだ。これからちょっと遠いけど家に帰らなきゃいけない、惚けてないでしっかりしなくちゃ。よし!と自分に気合いを入れ直して駅に向かおうとしたところで、私の手の中でスマホが震えた。
「……善逸くんだ」
通知に表示された推しの名前に、思わず独り言を零した。慌ててメッセージを開く。そこにはライブ会場からも近いホテルの名前、部屋番号。それに。
『おいで』
短い文字を目でなぞると、簡単に善逸くんの声が甦る。脳内再生余裕。私は反射のように踵を返し、駅とは反対の方へと歩き出した。
ホテルにつくとフロントの人の視線を無視してエレベーターに乗り込み、部屋番号から分かる階のボタンを押した。こんな時間に、男の人が、彼氏が待つ部屋に向かっている。今更ドキドキしてきた心臓を胸の上から押さえて、指定された部屋の前、インターホンを押そうと指を伸ばした。
私の指がボタンに触れる寸前、ドアがガチャリと開けられて中からキラキラした金髪の彼が顔を出した。
「ちゃんと来てくれたんだ、偉いねぇ」
ふわりと笑った善逸くんは、ホテルの部屋に置かれていたであろうバスローブをまとっていて、よくよく見ると髪の毛が濡れてる。微かに石鹸のような香りがするのは、シャワーを浴びたのだろうか。そわそわする私につい、と手を伸ばして肩に垂れる髪の毛をすくい上げ、ゆるりと視線を流してきた。
「ライブ、楽しんでくれた?」
「っ、うん、凄くすごく良かった!」
「ん、ふふ……知ってる。見てたから」
とろんとした顔の彼は、普段の元気な姿とのギャップがあって、なんというか、色気がある。ホテルの部屋、彼氏と二人きり。これは、やっぱりそういう状況なんだろうか。緊張で心臓が口からまろびでそうになる私を見ながら、善逸くんは目を細めてる。
「シャワー浴びておいで」
どくんと一際大きく鳴った心音が聞こえたのだろう。善逸くんが声を出して笑った。
それでもまあ、ライブ後の汗だくの状態で善逸くんの前にいるのは無理、万死に値するからシャワーは浴びたい。もともと善逸くんになら何をされたっていいくらい好きなんだ、逃げるなんて選択肢はない。私は促されるままにバスルームへと向かった。
困ったことに、こんな事になると思ってなかったから着替えがない、主に下着がない。せっかくシャワーを浴びたのに同じ下着や服を着る訳にもいかず、崩れかけのメイクをそのままにする訳にもいかず。結局頭からつま先まで綺麗に洗い流して、善逸くんと同じようにバスローブをまとって部屋に戻った。
善逸くんは、ベッドのふちに腰掛けてぼんやりと窓の外を見ていた。高いフロアの部屋だったから、眼下に夜景が広がっていてとても綺麗だ。
私の方をちらりと振り返ると、ちょいちょいと手招きをして私を呼んだ。心臓はばくばくうるさいけれど、断るなんて考えもしない私はすぐに彼の傍に寄る。推しが呼んでるんだから行くしかないでしょ。
「ふふ、いい子」
近くまで来た私の腕を引いて隣に座らせると、すっぽりと腕の中に収めて頭を擦り寄せてきた。
「楽しかった、けど疲れたなぁ……」
「……おつかれさま、かっこよかったよ」
そっと彼の背中に腕を回す。バスローブ越しに体温が伝わってきて、部屋の空調はしっかり効いているのに、暑い。そのままぐらりと傾いて、二人抱き合ったままベッドに倒れ込む。スプリングが効いているのか心地よい反発が受け止めてくれた。
「俺、誕生日プレゼントにナオが欲しいんだけど」
ああやっぱり。そういうことなんだ。緊張はしてる、すごいしてる。なんてったって相手は私の最推し、人生で一番大好きな彼氏だ。どうしたって緊張してしまうけれど、嫌な訳じゃない。むしろ嬉しい。幸せだ。こんなに幸せでいいのかしらってくらい、幸せ。
「……でももう誕生日、終わっちゃうなぁ」
さっきより随分眠そうに善逸くんが言う。ベッドに寝転んだから、今日の疲れやなんかが一気に押し寄せたのかもしれない。私より広い背中をあやす様に撫でて、うとうととする善逸くんをさらに眠りに誘う。この状況、少し残念だけれど推しの健康が第一だ。
やがて瞼が降りてはちみつ色を覆い隠し、まつ毛までキラキラの金色が扇形に広がり微かな影を落とした。すぅ、と息遣いが変わり、きっと眠ったのだろうと思う。
「誕生日じゃなくても、いつでも。私でよければ全部あげるからね」
小さく呟いて、善逸くんの胸に擦り寄って目を閉じる。相変わらず私の心臓はうるさい、けれど私もライブを目いっぱい楽しんで疲れてる。すぐに眠気が襲ってきて、私の意識も眠りに落ちていった。