『俺の嫁』より特別な
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「俺の嫁じゃなく、彼女になって」
私の手を握りながらそう言ったのは、ファンの子はみんな俺の嫁と言って憚らない私の最推し。国民的アイドルグループのひとり、イメージカラーは黄色、歌唱力抜群で運動神経もよくてダンスもキレッキレで本職のダンサーにだって負けない、本物のトップアイドル。我妻善逸くん。
そんな彼が、ファン歴の長い私でも見たことの無い、眉を情けなく下げて涙を溜め、アイドルらしからぬ縋るような仕草で私の手を握っている。
はいもうキャパオーバーです推しの新たな一面に拝み倒したい気分だけど手を握られていて叶わない、せめて心のアルバムに保存しよう新規スチルありがとう。
って現実逃避してる場合じゃない、私の目の前には変わらず輝く金髪。いつもはステージの上で自信に満ち溢れ堂々と伸びている背中を丸めて、私の手をすっぽり包み込んで握って、こちらを窺う上目遣い。なんだかまるで、まったく知らない人みたいだ。
「ぜんいつ、くん」
「うん」
名前を呼べば返事をするし、聞き間違えたりしない大好きな声は確かに善逸くんだ。こんな不安そうな顔もするんだ。
「……本当は俺、物凄く怖がりだし緊張しいだし、ステージに出る時だって炭治郎や伊之助が居なきゃ立ってらんないんだよ」
コンサートやイベントで楽しそうに嬉しそうに跳ね回る姿、駅で私を助けてくれた時や、何度か誘ってくれてデートした時。そのどれとも違う姿を見せて、なんだかとんでもない事を言ってる。
「今だって震えてるし、もう泣きそう。情けなくてかっこ悪いけどさぁ、これが本当の俺なんだ」
握った私の手を祈るように額に当てた。
「きみが好き」
切実な響きに胸がぎゅうと締め付けられる。あの善逸くんが私に告白をしてる。いや、あの善逸くん、じゃないのかもしれない。彼が言ったように、アイドルとしての善逸くんじゃなくて本当の我妻善逸として、ひとりの男の人として私を好きだと言ってくれている。
きちんと認識した途端に心臓がどくんと大きく跳ねて、遅れて身体中に熱が広がる。心臓が、心が燃えているみたいに、熱い。
「……そんな、かわいい音させられたらさぁ。勘違いしちゃうよ?」
「お、と?」
「ドキドキしてて、弾けるみたいにキラキラしてて……恋の音」
音、そうだ善逸くんの載ってた雑誌のインタビュー記事。『耳がいいんだよね、離れてても心音とか聞こえんの。俺医者になれたんじゃない?(笑)音で君の考えてる事だってわかっちゃうかもよぉ!』一字一句覚えてる、なんなら全文暗唱できる。え、じゃああれは冗談じゃなくて、本当の事なの?私の推しすごい。
「ナオちゃんの好きなアイドルの俺じゃないけど、こんな俺だけど。好きになってくれないかなぁ……?」
少し震えた声は、なにかに怯えているみたいだ。何を怯えることがあるんだろう。私は、善逸くんが言う情けなくてかっこ悪い所も、新たな一面が見られて嬉しいくらいなのに。中途半端な覚悟で推しちゃいないんだ、舐めないでほしい。
「アイドルじゃ、なくたって。私は善逸くんが好きだよ」
「……っ!」
息を飲んだ善逸くんががばりと顔を上げ、その勢いで目に溜まっていた涙がキラキラと零れて落ちた。私の手を握っていた手を離したかと思うと、その手が両脇から肩の方にそろそろと伸びてくる。もどかしいくらいゆっくりと、どうやら抱きしめようとしてくれてるみたい。そんなことをされたら心臓が爆発して死ぬかもしれない、けれど善逸くんの不安そうな顔を見てると、胸が締め付けられて死にそう。どうせどっちに転んでも死ぬんなら、善逸くんのために死にたい。
一歩にも満たない短い距離を、私から詰めた。善逸くんはびくりと肩を揺らしたけれど、その一瞬後にはぎゅうと痛いくらいに抱きしめてきた。大好きな善逸くんに抱きしめられているという状況、ここが私の楽園か。
私のノースリーブから伸びた腕が、彼の半袖から伸びた腕と触れ合ってぺたりとくっつく。あ、まって今日も暑かったから汗かいてる。ベタついてない?汗くさくない?今の状況に喜んだり焦ったり、感情がジェットコースターすぎる。
ぐす、と鼻をすする音がして、その後にくすくす笑う声が耳元で聞こえる。無事に死んだ。
「音すごいねぇ、飛んだり跳ねたりしてるみたいだ」
ゆっくりと腕の力が弱められて、そっと身体を離した善逸くんの、濡れて艶やかなはちみつ色と目が合う。
「……でも、嫌がってる音は、しないねぇ?」
「だって、嫌じゃ、ないから」
「ん、ふふ……ありがとねぇ、俺の彼女さん」
いつもは善逸くんのファン達の呼び名である「俺の嫁」って呼んでたのに、はちみつが本当に溶けたみたいな甘い瞳で私を「彼女」と呼んだ。それってつまり、善逸くんと私が、恋人同士になったってことだ。
「っあーーーー良かった!ナオちゃんに嫌われたらもう死ぬかと思ってたんだよぉ」
「えぇ……?そ、そんなに?」
「ほんっと良かった……好き、きみが好き。好きだよ、ナオちゃん。大好き」
「う、ぁ……ま、まって!しぬ、死んじゃう!」
私を腕の中に収めたまま、破壊力の強すぎる言葉をぽんぽん投げてくるから、もう瀕死だ。そんな私を見て一瞬きょとりと目を瞬かせた後、にぃ、と笑った善逸くんはあろうことかおでことおでこをこつんとくっつけてきた。
「これから飽きるくらい言うんだから、慣れてよねぇ?俺の大好きな彼女さん!」
「ヒェ……無理ぃ……」
急にアイドルの顔になって、そんなこと言うなんてずるい。けれど私はもうどうしようもないくらい善逸くんが好きで、本人を知らなかったただのファンの頃には戻れそうにもない。彼の言うとおり慣れるか、翻弄され続けるか。後者になりそうだなぁと思いながら、キラキラのアイドルスマイルで嬉しそうに笑う最推しの姿を脳裏に焼き付けたのだった。
私の手を握りながらそう言ったのは、ファンの子はみんな俺の嫁と言って憚らない私の最推し。国民的アイドルグループのひとり、イメージカラーは黄色、歌唱力抜群で運動神経もよくてダンスもキレッキレで本職のダンサーにだって負けない、本物のトップアイドル。我妻善逸くん。
そんな彼が、ファン歴の長い私でも見たことの無い、眉を情けなく下げて涙を溜め、アイドルらしからぬ縋るような仕草で私の手を握っている。
はいもうキャパオーバーです推しの新たな一面に拝み倒したい気分だけど手を握られていて叶わない、せめて心のアルバムに保存しよう新規スチルありがとう。
って現実逃避してる場合じゃない、私の目の前には変わらず輝く金髪。いつもはステージの上で自信に満ち溢れ堂々と伸びている背中を丸めて、私の手をすっぽり包み込んで握って、こちらを窺う上目遣い。なんだかまるで、まったく知らない人みたいだ。
「ぜんいつ、くん」
「うん」
名前を呼べば返事をするし、聞き間違えたりしない大好きな声は確かに善逸くんだ。こんな不安そうな顔もするんだ。
「……本当は俺、物凄く怖がりだし緊張しいだし、ステージに出る時だって炭治郎や伊之助が居なきゃ立ってらんないんだよ」
コンサートやイベントで楽しそうに嬉しそうに跳ね回る姿、駅で私を助けてくれた時や、何度か誘ってくれてデートした時。そのどれとも違う姿を見せて、なんだかとんでもない事を言ってる。
「今だって震えてるし、もう泣きそう。情けなくてかっこ悪いけどさぁ、これが本当の俺なんだ」
握った私の手を祈るように額に当てた。
「きみが好き」
切実な響きに胸がぎゅうと締め付けられる。あの善逸くんが私に告白をしてる。いや、あの善逸くん、じゃないのかもしれない。彼が言ったように、アイドルとしての善逸くんじゃなくて本当の我妻善逸として、ひとりの男の人として私を好きだと言ってくれている。
きちんと認識した途端に心臓がどくんと大きく跳ねて、遅れて身体中に熱が広がる。心臓が、心が燃えているみたいに、熱い。
「……そんな、かわいい音させられたらさぁ。勘違いしちゃうよ?」
「お、と?」
「ドキドキしてて、弾けるみたいにキラキラしてて……恋の音」
音、そうだ善逸くんの載ってた雑誌のインタビュー記事。『耳がいいんだよね、離れてても心音とか聞こえんの。俺医者になれたんじゃない?(笑)音で君の考えてる事だってわかっちゃうかもよぉ!』一字一句覚えてる、なんなら全文暗唱できる。え、じゃああれは冗談じゃなくて、本当の事なの?私の推しすごい。
「ナオちゃんの好きなアイドルの俺じゃないけど、こんな俺だけど。好きになってくれないかなぁ……?」
少し震えた声は、なにかに怯えているみたいだ。何を怯えることがあるんだろう。私は、善逸くんが言う情けなくてかっこ悪い所も、新たな一面が見られて嬉しいくらいなのに。中途半端な覚悟で推しちゃいないんだ、舐めないでほしい。
「アイドルじゃ、なくたって。私は善逸くんが好きだよ」
「……っ!」
息を飲んだ善逸くんががばりと顔を上げ、その勢いで目に溜まっていた涙がキラキラと零れて落ちた。私の手を握っていた手を離したかと思うと、その手が両脇から肩の方にそろそろと伸びてくる。もどかしいくらいゆっくりと、どうやら抱きしめようとしてくれてるみたい。そんなことをされたら心臓が爆発して死ぬかもしれない、けれど善逸くんの不安そうな顔を見てると、胸が締め付けられて死にそう。どうせどっちに転んでも死ぬんなら、善逸くんのために死にたい。
一歩にも満たない短い距離を、私から詰めた。善逸くんはびくりと肩を揺らしたけれど、その一瞬後にはぎゅうと痛いくらいに抱きしめてきた。大好きな善逸くんに抱きしめられているという状況、ここが私の楽園か。
私のノースリーブから伸びた腕が、彼の半袖から伸びた腕と触れ合ってぺたりとくっつく。あ、まって今日も暑かったから汗かいてる。ベタついてない?汗くさくない?今の状況に喜んだり焦ったり、感情がジェットコースターすぎる。
ぐす、と鼻をすする音がして、その後にくすくす笑う声が耳元で聞こえる。無事に死んだ。
「音すごいねぇ、飛んだり跳ねたりしてるみたいだ」
ゆっくりと腕の力が弱められて、そっと身体を離した善逸くんの、濡れて艶やかなはちみつ色と目が合う。
「……でも、嫌がってる音は、しないねぇ?」
「だって、嫌じゃ、ないから」
「ん、ふふ……ありがとねぇ、俺の彼女さん」
いつもは善逸くんのファン達の呼び名である「俺の嫁」って呼んでたのに、はちみつが本当に溶けたみたいな甘い瞳で私を「彼女」と呼んだ。それってつまり、善逸くんと私が、恋人同士になったってことだ。
「っあーーーー良かった!ナオちゃんに嫌われたらもう死ぬかと思ってたんだよぉ」
「えぇ……?そ、そんなに?」
「ほんっと良かった……好き、きみが好き。好きだよ、ナオちゃん。大好き」
「う、ぁ……ま、まって!しぬ、死んじゃう!」
私を腕の中に収めたまま、破壊力の強すぎる言葉をぽんぽん投げてくるから、もう瀕死だ。そんな私を見て一瞬きょとりと目を瞬かせた後、にぃ、と笑った善逸くんはあろうことかおでことおでこをこつんとくっつけてきた。
「これから飽きるくらい言うんだから、慣れてよねぇ?俺の大好きな彼女さん!」
「ヒェ……無理ぃ……」
急にアイドルの顔になって、そんなこと言うなんてずるい。けれど私はもうどうしようもないくらい善逸くんが好きで、本人を知らなかったただのファンの頃には戻れそうにもない。彼の言うとおり慣れるか、翻弄され続けるか。後者になりそうだなぁと思いながら、キラキラのアイドルスマイルで嬉しそうに笑う最推しの姿を脳裏に焼き付けたのだった。