彼女と距離を縮めたい
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「……うん、うん。なぁに、俺に逢いたくなっちゃった?」
「ふふ、いいよぉ逢お?俺も逢いたい」
「じゃあいつもの店で、……いい子で待っててねぇ?」
画面をタップして通話を終了すると、近くですんごい顔をしている友達、いや……なんだろうな?こいつら。まあ同じグループのアイドルなのは間違いがない炭治郎をキッと睨みつけた。
「ちょっと炭治郎ぉおお!?その顔!やめて!?人が電話してる横でさぁ!!」
同じグループでひとつの楽屋だから、居るのは仕方ない。仕方ないにしても、そんな別の生き物を見るような目で見なくても良くない?未だ顔を引き攣らせたままの炭治郎が咳払いひとつして口元を覆った。
「いや……善逸はいつもそんな感じなのか?」
「そんな感じってなんだよ!普通だろ!?」
「普通だあぁあ?格好つけやがって気味悪ぃ!」
俺と炭治郎の言い合いに、離れたところに座ってた伊之助まで何故か参戦してきて、ほんとなんなの?電話の相手は俺のファンの子の一人で、駅で偶然会った時からお気に入り……って言い方が悪いな、うん、素直に言ってしまえば俺の好きな子だ。
ファンの子たちはみんな全身を震わすような好意の音をビシバシぶつけてくるけれど、その中でも波長が合うのかなんなのか、ライブ中でも聞こえるようなキモチイイ音をさせてたのがあの子。ナオちゃん。同じ駅にいたのはたまたまだけど、聞き覚えのある音を頼りに傍に寄ったのは俺自身だ。
いつもキラキラした音を向けてくれる彼女のくすんだ音が気になって、助けたのは偶然で。別れ際に撃ち抜けば、急に色付いた音の奔流を浴びて、気づけば恋をしていた。撃ち抜いたはずが撃ち抜かれてたのは俺だった、なーんて。
「だって、あの子はアイドルの俺が好きなんだぜ?」
だから格好つけと言われようとも、アイドルの俺として振舞ってるんだ。ほんとは好きな子を前にするとドキドキするし、ステージの上からでもわかるくらいの好意の音は、近くで聞いたら気持ちよすぎて軽率に抱きしめそうになる。いやしねえけど。そんなことしてすぐ手を出すみたいに思われてもヤだし、もし嫌われたら死ぬしかないじゃん?
「……善逸は、そのお嬢さんのことは遊びなのか?」
「待って炭治郎お前の口から遊びとか言う単語が出ると思わなかったんですけど待って、え?なんて??」
清廉潔白、純真無垢。そんな好感度ナンバーワンアイドル竈門炭治郎から発せられたあまりに似合わないセリフに脳内で咀嚼が追いつかない。
ほんと、なんて?遊び?俺が、ナオちゃんを?
「……んなワケねえよ、めちゃくちゃ本気だわ」
理解した頭で吐き出した声は近年稀に見る低さで、自分でもうわっと思ったけれど伊之助がうわって顔してる。うっせぇわ。無駄に顔がいいから傷つくだろやめろよ。
「なら、そのお嬢さんとの将来はどうするんだ?」
「しょ……!?なななななにいっ、おま、何言ってんのおぉぉお!?」
将来!?ショウライってなんだ!?俺と、ナオちゃんの、……?なに?今日はどうしたんだ炭治郎、言うこと尽く頭の処理が追いつかない。
俺とあの子の将来、そりゃナオちゃんのことは自分でもびっくりするくらい本気で好きだし?初めてちゃんと会った日からもう、遠い未来もこの子と一緒にいたいと思ったくらい。だからこそオフの日に初めて会った駅の近くをうろついたりしてたんだ。……あれ?これってストーカー?いやいやいやアイドルがファンの子をストーカーとか笑えん。今はちゃんと連絡先も交換してるし、嫌がってる音はしないから大丈夫。……大丈夫だよねぇ?
「将来も一緒にいるつもりなら自分を偽らない方がいいぞ」
「上っ面しか見てねぇメスならやめとけ」
口々に言われてはたと気づく。なんだ、こいつら。心配してくれてんのか。音を聞くまでもなく分かる気遣いに頬も涙腺もゆるゆるだ。俺は元々涙脆いんだ、舐めるなよ。
たしかに本当の自分を隠したままで彼女に向き合っていくのはずっと仕事をしてるみたいで辛いし、ナオちゃんにも悪いよな。
「……うううぇえぇぇ……もし嫌われたら、慰めてくれよなぁ」
「それはちょっと」
「知るか」
「ちょっとぉぉおお!?冷たくないぃ!?」
やっぱこいつら友達なんかじゃねぇわ。
◆◇
通話はいつもむこうから切れるのを待つ。コンマ1秒でも電波を通していたとしても、通話が切れるその瞬間までは推しと繋がってるんだから。自分から切るとか無理じゃない?
通話終了の文字がブラックアウトするまで画面を見つめ続け、ほうと息を吐いた。
「善逸くんに逢える……」
国民的アイドルグループの私の推し、我妻善逸くん。偶然が重なって知り合いになれただけでも五体投地ものなのに、なんといきなりデートに誘われて、理解が追いつかないままにOKしていた。
デート中のことは夢か妄想か現実か判別できなくて、ほんとにあったことなのか未だにわからない。けれど、私のスマホの画面に表示されている我妻善逸の文字は彼が勝手に登録したもので、デートの別れ際に彼はたしかに言ったのだ。
『またね、俺の嫁』
「夢じゃ、なかったんだぁ……」
休みの日に善逸くんに会ったのも、デートをしたのも。この登録されてる連絡先だって都合のいい妄想かもしれないと思ってたけど、この名前が表示されてかかってくる通話からは間違えようもなく推しの声。どうやら現実らしい。まじか。というか何回か通話したり会ったりしてるのに、未だに現実を受け止めきれない。毎度毎度大変な供給過多である。死ぬ。
時計を見れば約束の時間まではまだたっぷり時間がある、けれどゆっくりなんてしてられない。お風呂に入ってスキンケア、髪をセットしてメイクして。ああ服は何を着よう。せっかく善逸くんに逢えるなら、めいっぱいオシャレしたい。だって善逸くんだ、かっこよくて可愛くて輝いてて、生きているだけで全私の幸福度が天井知らずにガンガン上がっちゃう奇跡の存在だ。横に立つのに、というか同じ空間に存在するのに少しでも無礼が無いようにしたいじゃない。
鏡の中の私がまとうのはレモンイエローがメインカラーの、買ったばかりのワンピース。最近服でも小物でも、黄色ばかり買ってしまう。推しのイメージカラーなんだもん仕方ないよね。善逸くんに会うのに、これ以上相応しい色はない。
準備に念を入れすぎて、気づけば約束の時間が迫っている。
「……そろそろ出なきゃ」
善逸くんを待たせるわけにはいかない、なんてったってアイドル、しかもトップアイドル。私みたいなたかがファン、たかがモブが無駄な時間を使わせていい相手ではないのだ。慌ただしく準備をする手を、ふと止めて考える。
「善逸くんは……なんで、」
なんで、私なんかに会ってくれるんだろう。嫌なわけじゃない、嬉しすぎて毎日神様と太陽と大地と善逸くんに感謝の祈りを捧げてるくらいだけど、この疑問はずっと私の胸の中にあった。
◆◇
待ち合わせ場所にはいつも早すぎるくらいに着いてしまう。そこそこ忙しく仕事をしているはずなのに、こと彼女に関しては気が急いてしまって仕事は早く切り上げてしまうし、待ち合わせの数十分前にはスタンバってる。仕事でもこんな早く現場に入ったりしないのに。そのくせ変な見栄を張って、少し離れたところからナオちゃんが来るのを待って、出ていくタイミングを見計らってしまうのだ。
今日も待ち合わせ場所が見える程度に離れたところで一度足を止めてから、ふと炭治郎たちとの会話を思い出す。
『将来も一緒にいるつもりなら自分を偽らない方がいいぞ』
『上っ面しか見てねぇメスならやめとけ』
「そう、だよな……」
友人と呼んでいいのかよくわからないあいつらの言うことは、確かにその通りだと思った。なら、今日は最初から待ち合わせ場所に居よう。カッコつけの俺を壊す最初の一手だ。
待ち合わせに指定したのは、初めてのデートを申し込んだカフェだ。彼女の家から近いらしいし、あまりうるさくなくて居心地がいい。ここで少し話をして、それから出かけるというデートを何度かしてきた。
いつも俺とのデートに気合を入れてくれているのが見て取れるくらい可愛い格好をしてくるけれど、今日はどんな格好で来てくれるのか……店の入口から聞こえてきた彼女の音に逸る気持ちを抑え、一拍置いてから顔を上げた。
「……あ、善逸くん」
俺に気づいてぱぁっと顔を明るくして、それから慌てたように小走りで近づいてくる待ちわびた彼女。動きに合わせて揺れるワンピースの明るい黄色は、それはどうみても俺に合わせてくれた色で、贔屓目じゃなくめちゃくちゃ似合ってて可愛い。にやけそうになる顔を日々鍛えたアイドルとしての外面でなんとか保って、軽く手を挙げてひらひら振った。
「ごめんなさい、おまたせしました!」
「謝んなくていいよ!そんな待ってないし、俺が早く来たかっただけだからねぇ」
低く密やかな罪悪感の音を立てる彼女を座らせてメニューを渡す。一度頭を下げたのは謝る意図かメニューを渡したことへの感謝か。分からないけれど、そんなに俺に対して萎縮というか気後れというか、しなくてもいいのになと思う。欲を言えばもっと甘えたりわがままを言ったりして欲しい。そうしてくれないのは、俺がナオちゃんの前ではカッコつけてることや、俺の誘いを断らないのをいい事に気持ちを伝えてないのが原因だろう。
今日は、ちゃんとはっきり伝えよう。俺はきみが好きで、特別に思ってて、恋人になって欲しいって事を。
「今日はどっか行きたいとこある?どこでもいいよぉ連れてったげる!」
「え……えぇ?わ、私の行きたいところ、ですか……?」
戸惑いの音をさせて、その音に違わず戸惑った様子の彼女が目を泳がせる。ああ、困ってるところも可愛い。けれど、どこに行きたいとか何か欲しいものとか、そういうことをナオちゃんは言ってくれない。なんでも話して教えて欲しい。遠慮なのかもしれないけれど距離を感じてしまうから、まずはそこから直していかないと。いや、直すのは俺の方だった。俺がアイドルの我妻善逸じゃなく、ただのひとりの我妻善逸としてきみに接するから、どうかこの距離を縮めさせてほしい。
俺はきみと、アイドルとファンじゃなく恋人同士になりたいんだから。
「ふふ、いいよぉ逢お?俺も逢いたい」
「じゃあいつもの店で、……いい子で待っててねぇ?」
画面をタップして通話を終了すると、近くですんごい顔をしている友達、いや……なんだろうな?こいつら。まあ同じグループのアイドルなのは間違いがない炭治郎をキッと睨みつけた。
「ちょっと炭治郎ぉおお!?その顔!やめて!?人が電話してる横でさぁ!!」
同じグループでひとつの楽屋だから、居るのは仕方ない。仕方ないにしても、そんな別の生き物を見るような目で見なくても良くない?未だ顔を引き攣らせたままの炭治郎が咳払いひとつして口元を覆った。
「いや……善逸はいつもそんな感じなのか?」
「そんな感じってなんだよ!普通だろ!?」
「普通だあぁあ?格好つけやがって気味悪ぃ!」
俺と炭治郎の言い合いに、離れたところに座ってた伊之助まで何故か参戦してきて、ほんとなんなの?電話の相手は俺のファンの子の一人で、駅で偶然会った時からお気に入り……って言い方が悪いな、うん、素直に言ってしまえば俺の好きな子だ。
ファンの子たちはみんな全身を震わすような好意の音をビシバシぶつけてくるけれど、その中でも波長が合うのかなんなのか、ライブ中でも聞こえるようなキモチイイ音をさせてたのがあの子。ナオちゃん。同じ駅にいたのはたまたまだけど、聞き覚えのある音を頼りに傍に寄ったのは俺自身だ。
いつもキラキラした音を向けてくれる彼女のくすんだ音が気になって、助けたのは偶然で。別れ際に撃ち抜けば、急に色付いた音の奔流を浴びて、気づけば恋をしていた。撃ち抜いたはずが撃ち抜かれてたのは俺だった、なーんて。
「だって、あの子はアイドルの俺が好きなんだぜ?」
だから格好つけと言われようとも、アイドルの俺として振舞ってるんだ。ほんとは好きな子を前にするとドキドキするし、ステージの上からでもわかるくらいの好意の音は、近くで聞いたら気持ちよすぎて軽率に抱きしめそうになる。いやしねえけど。そんなことしてすぐ手を出すみたいに思われてもヤだし、もし嫌われたら死ぬしかないじゃん?
「……善逸は、そのお嬢さんのことは遊びなのか?」
「待って炭治郎お前の口から遊びとか言う単語が出ると思わなかったんですけど待って、え?なんて??」
清廉潔白、純真無垢。そんな好感度ナンバーワンアイドル竈門炭治郎から発せられたあまりに似合わないセリフに脳内で咀嚼が追いつかない。
ほんと、なんて?遊び?俺が、ナオちゃんを?
「……んなワケねえよ、めちゃくちゃ本気だわ」
理解した頭で吐き出した声は近年稀に見る低さで、自分でもうわっと思ったけれど伊之助がうわって顔してる。うっせぇわ。無駄に顔がいいから傷つくだろやめろよ。
「なら、そのお嬢さんとの将来はどうするんだ?」
「しょ……!?なななななにいっ、おま、何言ってんのおぉぉお!?」
将来!?ショウライってなんだ!?俺と、ナオちゃんの、……?なに?今日はどうしたんだ炭治郎、言うこと尽く頭の処理が追いつかない。
俺とあの子の将来、そりゃナオちゃんのことは自分でもびっくりするくらい本気で好きだし?初めてちゃんと会った日からもう、遠い未来もこの子と一緒にいたいと思ったくらい。だからこそオフの日に初めて会った駅の近くをうろついたりしてたんだ。……あれ?これってストーカー?いやいやいやアイドルがファンの子をストーカーとか笑えん。今はちゃんと連絡先も交換してるし、嫌がってる音はしないから大丈夫。……大丈夫だよねぇ?
「将来も一緒にいるつもりなら自分を偽らない方がいいぞ」
「上っ面しか見てねぇメスならやめとけ」
口々に言われてはたと気づく。なんだ、こいつら。心配してくれてんのか。音を聞くまでもなく分かる気遣いに頬も涙腺もゆるゆるだ。俺は元々涙脆いんだ、舐めるなよ。
たしかに本当の自分を隠したままで彼女に向き合っていくのはずっと仕事をしてるみたいで辛いし、ナオちゃんにも悪いよな。
「……うううぇえぇぇ……もし嫌われたら、慰めてくれよなぁ」
「それはちょっと」
「知るか」
「ちょっとぉぉおお!?冷たくないぃ!?」
やっぱこいつら友達なんかじゃねぇわ。
◆◇
通話はいつもむこうから切れるのを待つ。コンマ1秒でも電波を通していたとしても、通話が切れるその瞬間までは推しと繋がってるんだから。自分から切るとか無理じゃない?
通話終了の文字がブラックアウトするまで画面を見つめ続け、ほうと息を吐いた。
「善逸くんに逢える……」
国民的アイドルグループの私の推し、我妻善逸くん。偶然が重なって知り合いになれただけでも五体投地ものなのに、なんといきなりデートに誘われて、理解が追いつかないままにOKしていた。
デート中のことは夢か妄想か現実か判別できなくて、ほんとにあったことなのか未だにわからない。けれど、私のスマホの画面に表示されている我妻善逸の文字は彼が勝手に登録したもので、デートの別れ際に彼はたしかに言ったのだ。
『またね、俺の嫁』
「夢じゃ、なかったんだぁ……」
休みの日に善逸くんに会ったのも、デートをしたのも。この登録されてる連絡先だって都合のいい妄想かもしれないと思ってたけど、この名前が表示されてかかってくる通話からは間違えようもなく推しの声。どうやら現実らしい。まじか。というか何回か通話したり会ったりしてるのに、未だに現実を受け止めきれない。毎度毎度大変な供給過多である。死ぬ。
時計を見れば約束の時間まではまだたっぷり時間がある、けれどゆっくりなんてしてられない。お風呂に入ってスキンケア、髪をセットしてメイクして。ああ服は何を着よう。せっかく善逸くんに逢えるなら、めいっぱいオシャレしたい。だって善逸くんだ、かっこよくて可愛くて輝いてて、生きているだけで全私の幸福度が天井知らずにガンガン上がっちゃう奇跡の存在だ。横に立つのに、というか同じ空間に存在するのに少しでも無礼が無いようにしたいじゃない。
鏡の中の私がまとうのはレモンイエローがメインカラーの、買ったばかりのワンピース。最近服でも小物でも、黄色ばかり買ってしまう。推しのイメージカラーなんだもん仕方ないよね。善逸くんに会うのに、これ以上相応しい色はない。
準備に念を入れすぎて、気づけば約束の時間が迫っている。
「……そろそろ出なきゃ」
善逸くんを待たせるわけにはいかない、なんてったってアイドル、しかもトップアイドル。私みたいなたかがファン、たかがモブが無駄な時間を使わせていい相手ではないのだ。慌ただしく準備をする手を、ふと止めて考える。
「善逸くんは……なんで、」
なんで、私なんかに会ってくれるんだろう。嫌なわけじゃない、嬉しすぎて毎日神様と太陽と大地と善逸くんに感謝の祈りを捧げてるくらいだけど、この疑問はずっと私の胸の中にあった。
◆◇
待ち合わせ場所にはいつも早すぎるくらいに着いてしまう。そこそこ忙しく仕事をしているはずなのに、こと彼女に関しては気が急いてしまって仕事は早く切り上げてしまうし、待ち合わせの数十分前にはスタンバってる。仕事でもこんな早く現場に入ったりしないのに。そのくせ変な見栄を張って、少し離れたところからナオちゃんが来るのを待って、出ていくタイミングを見計らってしまうのだ。
今日も待ち合わせ場所が見える程度に離れたところで一度足を止めてから、ふと炭治郎たちとの会話を思い出す。
『将来も一緒にいるつもりなら自分を偽らない方がいいぞ』
『上っ面しか見てねぇメスならやめとけ』
「そう、だよな……」
友人と呼んでいいのかよくわからないあいつらの言うことは、確かにその通りだと思った。なら、今日は最初から待ち合わせ場所に居よう。カッコつけの俺を壊す最初の一手だ。
待ち合わせに指定したのは、初めてのデートを申し込んだカフェだ。彼女の家から近いらしいし、あまりうるさくなくて居心地がいい。ここで少し話をして、それから出かけるというデートを何度かしてきた。
いつも俺とのデートに気合を入れてくれているのが見て取れるくらい可愛い格好をしてくるけれど、今日はどんな格好で来てくれるのか……店の入口から聞こえてきた彼女の音に逸る気持ちを抑え、一拍置いてから顔を上げた。
「……あ、善逸くん」
俺に気づいてぱぁっと顔を明るくして、それから慌てたように小走りで近づいてくる待ちわびた彼女。動きに合わせて揺れるワンピースの明るい黄色は、それはどうみても俺に合わせてくれた色で、贔屓目じゃなくめちゃくちゃ似合ってて可愛い。にやけそうになる顔を日々鍛えたアイドルとしての外面でなんとか保って、軽く手を挙げてひらひら振った。
「ごめんなさい、おまたせしました!」
「謝んなくていいよ!そんな待ってないし、俺が早く来たかっただけだからねぇ」
低く密やかな罪悪感の音を立てる彼女を座らせてメニューを渡す。一度頭を下げたのは謝る意図かメニューを渡したことへの感謝か。分からないけれど、そんなに俺に対して萎縮というか気後れというか、しなくてもいいのになと思う。欲を言えばもっと甘えたりわがままを言ったりして欲しい。そうしてくれないのは、俺がナオちゃんの前ではカッコつけてることや、俺の誘いを断らないのをいい事に気持ちを伝えてないのが原因だろう。
今日は、ちゃんとはっきり伝えよう。俺はきみが好きで、特別に思ってて、恋人になって欲しいって事を。
「今日はどっか行きたいとこある?どこでもいいよぉ連れてったげる!」
「え……えぇ?わ、私の行きたいところ、ですか……?」
戸惑いの音をさせて、その音に違わず戸惑った様子の彼女が目を泳がせる。ああ、困ってるところも可愛い。けれど、どこに行きたいとか何か欲しいものとか、そういうことをナオちゃんは言ってくれない。なんでも話して教えて欲しい。遠慮なのかもしれないけれど距離を感じてしまうから、まずはそこから直していかないと。いや、直すのは俺の方だった。俺がアイドルの我妻善逸じゃなく、ただのひとりの我妻善逸としてきみに接するから、どうかこの距離を縮めさせてほしい。
俺はきみと、アイドルとファンじゃなく恋人同士になりたいんだから。