きみのハートに霹靂一閃
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
デフォルメされたカミナリマークを背負う黒のジャケットに、鮮やかなビタミンイエローのインナー。オフィシャルサイトで買ったキャップには黄色のバッジやカミナリマークのピンバッジを飾り、ピアスも、チョーカーも、バングルも指輪も靴も。身に纏う全て全てを推し色で染める。オレンジのシャドウにゴールドを乗せ、ブラウンのラインを引く。目じりのまつ毛にポイントでイエローをつける。マットなオレンジのリップにサーモンピンクのチーク。はちみつ色のカラコンを入れた目は、自分でも唸るほどの推し色だ。ネイルだってイエローからオレンジのグラデに白い三角模様がついている。黄色のバッグを肩にかけて、向かうはライブ会場。それはさながら戦闘服のようだった。あながち間違いじゃない。半端な覚悟で推しちゃいないんだ。
「今日は善逸くんに会える……!よし!!」
ひとつ深呼吸して拳を握り、気合いを入れて家を出た。今日は推しアイドルグループのライブがある。ライブに行く時は最低スマホと財布とチケットがあれば何とかなるけど、自担は自分のカラーがいればいるほど喜ぶのだ。ならば黄色を纏わねばならないと、それは善逸くん担としては最低限のマナーだと思ってる。
ライブでは今回も最高のパフォーマンスをしてくれて、赤より青より黄が多いと喜び飛び回る自担が可愛すぎて隣にいた知らない人(黄色かったから同担)と手を取り合って咽び泣いた。推しが尊い。
『君のハートにぃーーーー?』
「「「霹靂一閃!!」」」
『ありがとねぇ!!みんな大好きーー結婚しよ!!』
コールアンドレスポンスも完璧だ。黄色い子はみんな俺の嫁と言って憚らない自担が尊い。推しが今日も最高にかっこよくて可愛い。明日も最高に違いない。
そんな訳で私は、某アイドルグループの大ファンであり、中でも我妻善逸くんを激推ししていた。ライブの日は前述の通り全身を黄色で染め上げて参戦しているが、普段の服装なんて判で押したような特徴の無いオフィスカジュアル、通勤ラッシュの駅でなんて背景くらいにしかならない目立たない格好だ。仕事に行くのにそんなに気合を入れてもしょうがないし、これでいいんだ。うん。
もうすぐ来る電車を待つホームは、人がだんだんと増えてくる。珍しく先頭に立っていた私はスマホを見ながら遠くに電車の音を聞いていた。
どん、と後ろから押され体が傾く。普段なら耐えられる程度の衝撃に、タイミング悪くぼんやりしていた私はバランスを崩した。ぐらりと傾いた先はホームの下、線路の方。けれど焦るよりも先に腕を引かれて私はまたホームにしっかりと立っていた。
「……大丈夫?」
「あ、はい……ありがとうございます。すみませんでした」
たぶん、隣に立っていた人だ。声を聞いたことがある気がするけど、知り合いだろうか。頭を下げてから隣を見ると、帽子を目深に被っていて顔が見えない。ちょうど電車が来たので先頭の私たちは並んで乗り込む。席は空いてなかったので、降りやすいように出入口付近に立つと、さっきの人が隣に立っていた。手元のスマホを見てるようだけれど、相変わらず深く被っている帽子で顔は見えない。ひとつふたつと駅を通り過ぎるごとに、電車内は人が増えてくる。私の周りも人がぎゅうぎゅうに押し合いしているが、そんなに辛くないなと思って見れば、さっきの人が私を庇うように立って周りの空間を確保してくれていることに気づいた。なんでだろう。助かるけど見ず知らずの人がここまでしてくれるなんて。
電車が会社の最寄り駅に近づき、車内アナウンスで駅名が告げられる。降りるためにドアの方に向き直ると、帽子の人から声がかけられる。
「ねえ」
「はい?」
「今日は黄色じゃないの?」
「……え?」
振り返ると、帽子の影からこちらを見るはちみつ色と目が合う。この、色は、
「まあでもきみ、いつも黄色だもん俺の嫁だよね!お仕事?えらいねぇ、行ってらっしゃい!」
電車が駅に着いて、慣性の法則で進行方向に重力がかかる。目の前にいるのは、黄色い子はみんな俺の嫁と言って憚らない、まさかの私の最推し。呆然とする私にくすりと笑い、人差し指をピストルのように向けてくる。
「きみの、ハートに?」
何度も聞いたその言葉を耳にすると同時に、電車のドアが開いた。なだれるように降りていく人達に流され、私も電車の外に押し出される。
「霹靂、一閃……!」
何度もライブに足を運び、よく訓練された口が咄嗟に答えた。閉まるドアの向こうで、ピストルを撃つような動作が見える。はちみつ色は細められ、唇が綺麗な弧を描いていた。
「今日は善逸くんに会える……!よし!!」
ひとつ深呼吸して拳を握り、気合いを入れて家を出た。今日は推しアイドルグループのライブがある。ライブに行く時は最低スマホと財布とチケットがあれば何とかなるけど、自担は自分のカラーがいればいるほど喜ぶのだ。ならば黄色を纏わねばならないと、それは善逸くん担としては最低限のマナーだと思ってる。
ライブでは今回も最高のパフォーマンスをしてくれて、赤より青より黄が多いと喜び飛び回る自担が可愛すぎて隣にいた知らない人(黄色かったから同担)と手を取り合って咽び泣いた。推しが尊い。
『君のハートにぃーーーー?』
「「「霹靂一閃!!」」」
『ありがとねぇ!!みんな大好きーー結婚しよ!!』
コールアンドレスポンスも完璧だ。黄色い子はみんな俺の嫁と言って憚らない自担が尊い。推しが今日も最高にかっこよくて可愛い。明日も最高に違いない。
そんな訳で私は、某アイドルグループの大ファンであり、中でも我妻善逸くんを激推ししていた。ライブの日は前述の通り全身を黄色で染め上げて参戦しているが、普段の服装なんて判で押したような特徴の無いオフィスカジュアル、通勤ラッシュの駅でなんて背景くらいにしかならない目立たない格好だ。仕事に行くのにそんなに気合を入れてもしょうがないし、これでいいんだ。うん。
もうすぐ来る電車を待つホームは、人がだんだんと増えてくる。珍しく先頭に立っていた私はスマホを見ながら遠くに電車の音を聞いていた。
どん、と後ろから押され体が傾く。普段なら耐えられる程度の衝撃に、タイミング悪くぼんやりしていた私はバランスを崩した。ぐらりと傾いた先はホームの下、線路の方。けれど焦るよりも先に腕を引かれて私はまたホームにしっかりと立っていた。
「……大丈夫?」
「あ、はい……ありがとうございます。すみませんでした」
たぶん、隣に立っていた人だ。声を聞いたことがある気がするけど、知り合いだろうか。頭を下げてから隣を見ると、帽子を目深に被っていて顔が見えない。ちょうど電車が来たので先頭の私たちは並んで乗り込む。席は空いてなかったので、降りやすいように出入口付近に立つと、さっきの人が隣に立っていた。手元のスマホを見てるようだけれど、相変わらず深く被っている帽子で顔は見えない。ひとつふたつと駅を通り過ぎるごとに、電車内は人が増えてくる。私の周りも人がぎゅうぎゅうに押し合いしているが、そんなに辛くないなと思って見れば、さっきの人が私を庇うように立って周りの空間を確保してくれていることに気づいた。なんでだろう。助かるけど見ず知らずの人がここまでしてくれるなんて。
電車が会社の最寄り駅に近づき、車内アナウンスで駅名が告げられる。降りるためにドアの方に向き直ると、帽子の人から声がかけられる。
「ねえ」
「はい?」
「今日は黄色じゃないの?」
「……え?」
振り返ると、帽子の影からこちらを見るはちみつ色と目が合う。この、色は、
「まあでもきみ、いつも黄色だもん俺の嫁だよね!お仕事?えらいねぇ、行ってらっしゃい!」
電車が駅に着いて、慣性の法則で進行方向に重力がかかる。目の前にいるのは、黄色い子はみんな俺の嫁と言って憚らない、まさかの私の最推し。呆然とする私にくすりと笑い、人差し指をピストルのように向けてくる。
「きみの、ハートに?」
何度も聞いたその言葉を耳にすると同時に、電車のドアが開いた。なだれるように降りていく人達に流され、私も電車の外に押し出される。
「霹靂、一閃……!」
何度もライブに足を運び、よく訓練された口が咄嗟に答えた。閉まるドアの向こうで、ピストルを撃つような動作が見える。はちみつ色は細められ、唇が綺麗な弧を描いていた。
1/1ページ