恋人達の転生誓約
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狭霧山の冬は雪が深く、鱗滝さんの他に人も住まない上に獣も眠り静かだ。寒さを感じる身体は無いが、それでも寒いような気がするのは生きていた頃の感覚に引きずられているのかもしれない。
私は昔から寒がりで、冬にはいつも鱗滝さんが火鉢に炭を入れてくれてそれを抱えるようにしていた。寝る時も焼いた石を布で包んで抱いて、なおかつ兄弟弟子たちとくっついて寝ていた。手足の冷たさに迷惑がられたりしたっけ。
「……懐かしいなぁ」
「何がだ?」
ぽつりと呟いた独り言に、誰もいないと思っていたのに声が帰ってきた。同時に背後から白い羽織を重ねた特徴的な柄の袖が伸びてきて、ふわりと抱きしめられる。
「錆兎。いたの?」
「お前を探していた。……で、何が懐かしいんだ?」
顔が近い。きっとお互い生きていたら、吐く息で顔のまわりが白くけむったことだろう。後ろ手に錆兎の羽織を手繰りよせ、懐にすっぽりと収まるように寄りかかる。
「まだここで修行してた時のこと。狭霧山の冬は寒くて苦手だった」
「ああ……ナオはいつも手足が冷たかったな」
錆兎の羽織を握る私の手を覆うように手が重ねられる。冷えるわけじゃないし温かさを感じることもないはずなのに、あったかいような気がする。
「よくみんなと一緒に寝てもらったなあ」
「足の間に冷えた足を入れてくるから、一緒に寝てる方は大変だったんだぞ」
「えっ……錆兎にそんなことしたことあったっけ」
記憶にある限り、錆兎には足を絡めたりしてないはずだ。さすがに私の事を好きだろうなと思ってる男にそんなことをする程、私は酷くない。
振り返ると、錆兎は眉を寄せ視線を逸らす。
「ちょっと、どういう感情の顔なのそれ」
「いや、してない、なんでもない。俺は知らない」
「錆兎、それはちょっと自縄自縛じゃない……?」
こんなの、なにかしてたって言ってるようなものだ。
私だって錆兎の事を好きだったし、好きな男の子に布団の中で、暖を取るためとはいえ、足を絡めるなんてはしたないことは出来ない。まあ真菰や義勇にはやったけど。あの子たちは妹や弟みたいなものだからいいんだ。
背中の方に体重と力を込めて錆兎をぐいぐい押すと、観念したように口を開いた。
「……俺が後から寝床に行ったら、真菰と義勇の間でお前が寝ていたから」
「うん」
「義勇に変わってもらった」
「なるほど」
私が義勇だと思って冷たい足を押し付けていたのは、錆兎だったと。付き合ってもいない男と一緒の布団で寝たの?女としてどうなの?何度も言うが義勇は弟枠だからいいのだ。
ああ今更だけど恥ずかしくて死にそう。死んでるけど。恥ずかしくてこの場から離れたい、ぐっと力をこめて錆兎の腕から逃れようとする。
「そう何度も逃がすと思うか」
「ぐえ」
後ろから抱きしめている腕に力が込められ、先手を打たれて逃げられなかった。不覚。
「俺だってナオと寝たかったんだ。仕方ないだろ」
なにそれ可愛い。私の弟弟子はやはり可愛い。逃れようとするのをやめて、錆兎の羽織の袖を引っ張ると拘束がすこし緩む。緩んだのはほんとに少しだけで、逃がすつもりは無いという錆兎の意思が現れていた。
腕の中でくるりと向きを変え、錆兎と向き合う。背中に腕を回すと、思いのほか背中が広い。そのままぎゅっと抱きつくと、錆兎も腕に再び力を込めて抱きしめてくれた。
「今度はちゃんと錆兎だってわかって一緒に寝たいなあ」
「今の俺たちは寝る必要がないからな、来世でだ」
「そうだね」
それじゃあ、来世でよろしく。