死後数年の恋愛成就
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鱗滝さん、また弟子をとるとは思わなかったなぁ。まさに青天霹靂ってやつだ。
私はあいつに殺された。可愛い妹弟子も一番強かった弟弟子も殺され、鱗滝さんはとても悲しんでいた。ごめんなさい。義勇はなんとか生きて帰れたけれど、その憔悴ぶりは見てられないほどだった。その事も鱗滝さんの心を痛めた。
「もう鱗滝さんを悲しませたくないなぁ……」
「……そうだな」
「あの子、死なせたくないよね」
「だからあの岩なんだろう、今までで1番大きくて硬い」
「斬らせないつもりなの?」
「でもあの子、事情があるんでしょ?可哀想だよ」
「強い信念があれば、あの岩だろうと切れるはずだ。男ならばそれくらいできる」
「じゃあ……」
「鍛えて、あげる?」
私たちは頷きあうと、ひとり鍛錬を続ける新しい弟弟子……炭治郎を見た。ここに来てからずっと見守っているけど、優しくて素直ないい子だ。死なせたくない。けれどその信念を叶えてあげたい。
なら、死なないくらい強くしてあげなければ。私たちは炭治郎の姉弟子、兄弟子なのだから。
それから、錆兎と真菰と私で炭治郎の稽古をつけた。錆兎は剣を実戦で、真菰は型や剣筋の指導、私は体を上手く休めたり回復したりする方法や刀の手入れを教えた。
藤襲山では七日間生き延びなければならない。あいつに遭遇した時に、なるべく万全の状態で挑めるように。少ない時間で体力を回復さることを覚えていけば生存率も上がる。
「炭治郎、覚えててね。体力は最大の武器だよ」
「最大の武器……」
「深く吸って、吐く時は細く長く、胃の下を動かすように、でも吐ききらないでね。勤倹力行だよ、頑張って!」
「わかった!深く吸って、細く……胃のあたり……よし!!やってみる!!」
私たちの弟弟子がこんなにも可愛い。叶うならこのまっすぐな少年と肩を並べて戦いたかった。けれど私達にはもうこの子に並び立つことの出来る体は、ない。
ちょっとしんみりしてしまい、誤魔化すように炭治郎の頭を撫でた。硬めの髪に、丸いおでこ。可愛いな。
「……炭治郎!鍛錬の続きをするぞ!」
「え?ああ、わかった!」
怒鳴り込むような錆兎が現れて、そのまま炭治郎を連れていくと、入れ替わりに真菰が来た。いつもふわっと薄く笑う真菰だが、今はなんだかにっこにこと楽しそうな笑顔だ。
「錆兎、炭治郎に嫉妬しちゃったみたいだね」
「えっ?なんで?」
「あなたを取られたと思ったのかも?」
「心配しなくても春蘭秋菊って感じで、錆兎も可愛い弟弟子なんだけどなぁ」
「……錆兎も大変だね」
何がだろう。よく分からないけど錆兎が大変なら助けてあげたい。姉弟子なので。そう思いながら錆兎を見ると、今日も木刀ではあるが容赦なく炭治郎を打ち飛ばしていた。
「錆兎、ほどほどにねー」
「わかっている!」
あまり虐めては鍛錬にならない。そう思い錆兎に声をかけたら何故か苛立ったように叫ばれて姉弟子は悲しい……
素直な炭治郎が私たちの教えを吸収して強くなるのは早かった。錆兎との打ち合いの末に、今までの弟子たちの中で一番大きな岩を切ったのだ。
「炭治郎すごいね」
「ねぇ……炭治郎、勝てるかな?」
「わからない。努力はどれだけしても足りないんだよ」
「でも、生きて帰ってきて欲しいね」
炭治郎は最終選別へ向かった。可愛い弟弟子を中心に賑やかだった半年間が終わり、魂だけの私たちしかいない山は静かだ。炭治郎が来る半年前まではこれが日常だったのに、今は少し寂しい。
しんみりしていると、私が座る木の枝に錆兎が飛び乗ってきた。実態がないから枝が揺れたり折れたりはないけど少し狭くなる。錆兎は私を見たり、目を逸らしたり。何か言いたいことがあるのかなと思っていたら、意を決したらしく口を開いた。
「なあ、俺も……弟弟子だろう?」
「ん?そうだね」
「だから、その……」
錆兎の歯切れが悪い。珍しいこともあるものだ。
「なに?どうしたの?」
「……こんなのは男らしくないな。だが、言おうとしてることも男らしくない……」
「……ほんとにどうしたの?」
もそもそと呟く錆兎は生きていた頃にも見たことがない。隣に座る錆兎を覗き込むと、僅かに体を逸らして、目が泳いでる。ほんとに珍しい。
「いや、なんでもない。炭治郎が撫でられているのを見て、その。少し羨ましかっただけだ……」
「え……えぇぇええ!?」
これはもしかして、甘えられている?錆兎が、あのいつも男らしくあれと自分を律する錆兎が、甘えている!
「っ、すまない!忘れてくれ!」
「むり!!」
私の弟弟子がこんなにも可愛い。隣に座る錆兎の羽織を掴んで引っ張ると、宍色の、思ったより硬い髪をわしゃわしゃと撫でた。
「たまには甘えてくれていいんだよー!私、姉弟子なので!」
「……姉弟子だから、じゃないんだが」
「お姉ちゃんでもいいよ」
撫でていた手を掴まれて包まれる。ごつごつした皮の厚い、剣士の手だ。錆兎の努力がわかる。私が最終選別に行く前より背も伸びてるし、私よりもっと強くなってる。自慢の弟弟子。
「いつまでも、年下扱いしないでくれ」
「そっか、享年一緒だもんねー」
「そういうことじゃない……」
錆兎はがっくりと肩を落としてため息をつく。握られていた手を錆兎の手の中から抜くと、その背中をぽんぽんと叩いた。
そういえば真菰や他のみんなが見当たらない。……これは気を使われたかなぁ。なら私もあまり錆兎を虐めてないで、ちゃんと向き合わなきゃ。
「ねえ錆兎」
「なんだ?」
「私たち生きてたら、きっとそろそろ結婚してたような歳だよね」
「……」
錆兎は何も言わないが、目を見つめると、少し緊張しているのがわかる。やっぱり可愛いなぁ、私の弟弟子。可愛くて、強くて、優しくて、かっこいい。
「結婚するなら錆兎が良かったな」
「……っ!おい、それは」
「ふふ」
腕を掴もうとしてきたけど先手を打って木から飛び降りる。錆兎の手が宙を切る。慌てて追いかけてくるけど、簡単には捕まらない。なんせ姉弟子なので!剣は負けるかもだけど速さは私の方が上だ。疾風迅雷!
少し離れたところで真菰達が手を振ってるのが見えたので、私は笑いながら拳を天に突き上げる。
やってやったぜ!!
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