かみさま、お静かに
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暗くなったいつもの帰り道で得体の知れない化け物に襲われたのは少し前のことで、その時が初めてだったし今までにそんなことはなかった。それなのに、あの日以来たまに化け物に襲われるようになったのはなぜなんだろう。今だってそうだ。
「もう……っ、なんなのよ……!」
最近は慣れたもので、元から鋭いと自負している直感頼りで、やばい気配を感じた時点で弾かれたように走り出せるようになる始末。今日も全力ダッシュしていると、私の隣をすいすいと浮かびながら並走、というか並行飛行?してる狐耳の男。
「ねえなんで俺に助けてって言わないの!?言ってよ!俺の花嫁にかっこいいとこ見せたいんですけどぉ!?」
走る私と違って息一つ乱していない彼は、私に取り憑いている狐の神様だ。
「善逸っ!うるさい……!」
「酷くない!?」
酷いのはどっちだ。善逸がギャンギャン騒ぐせいで、せっかく気づかれる前に走り出せたのにすぐに見つかってしまい、今こうして追いかけられているのだ。
確かに善逸の言う通り、助けてと一言いえばきっと彼は助けてくれる。けれどそれには代償が伴うのだ。数日前にうっかり助けを求めてしまった時なんて、対価として口付けをしてくれと地面に転がって壮絶な駄々を捏ねたのだ。ちなみに頬にキスしてこれで終わりと突っぱねた。
だから、助けを求めずに逃げて何とかなるのなら何とかしたかったのだけれど。
「俺の花嫁は足が早いね〜でも体力無さすぎじゃない?大丈夫?」
心配するようなセリフを口にしながらも、顔はいつも通りの笑顔で、とってもムカつく。
やがて追いつかれたらしく、後ろから風を切るような音がしたと思うと頬を走る熱い感触、じわりと何かが頬から垂れ顎を伝い、怪我をしたことがわかる。思わず俯いた私を善逸がひょいと覗き込んだ。
「い゙やあああぁぁぁ!!怪我!!しかも顔ぉ!?血ぃ出てる!!勿体ないぃぃぃ!!」
怪我をした本人の私より大騒ぎをする善逸は、なんだか不穏なことを叫びながら私を掴まえて抱き込んだ。助けを求める前に傍観を辞めたらしい。私を抱えたままバチバチと雷を纏い始めた善逸は、耳も尻尾も毛を逆立てて叫んだ。
「お前ぇえええ!!俺の花嫁に何してくれてんの!?!?」
牙を向いたその叫びと共に、善逸から雷が落ちるように真横に光が走り化け物を穿いた。私が必死で逃げていた化け物は、ものの一瞬で灰になってしまったのだ。
私はとんでもないものに取り憑かれてるんだなぁと善逸の腕の中で思う。一見シンプルだけど綺麗な地紋が浮き出た織りの着物に私の血がついてしまって勿体ない。
……勿体ないと言えば、さっき善逸も「勿体ない」って言ってなかったか?
そう思った瞬間、頬にざらりとした生暖かい感触を感じてぞくっと全身に鳥肌が立つ。慌てて腕を突っ張って体を離すと、口元を赤く染めた善逸が唇をぺろりと舐める所だった。
「うひひ、美味しい……今回の対価はこれを貰うねぇ?」
そう言うと再びぐっと顔を近づけてぺろりと頬を舐める。それはさっきと同じ感触で。
「……なにしてんのよ変態!!」
「いっでーーーーー!!!!」
渾身の力で振り抜いた手は、綺麗に善逸の頬に真っ赤な跡を残したのだった。
後で確認したら頬は血は付いているものの傷跡ひとつ無く、善逸に聞いたら「神様だから♡」と甘ったるく言ってべーっと舌を出していた。
やっぱり、私はとんでもないものに取り憑かれてる。