かみさま、恋をしました
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最近少しおかしい。相変わらず狐に取り憑かれているし、たまに変な化け物が襲いかかってくるし……まあそれは善逸が倒してくれるからいい。日常が変わってしまったからおかしくなったのは私なのか周りなのかはわからないけれど。
「俺の花嫁はどうしたの?俺の顔になんか付いてる?」
じぃと見つめていた相手は、私に取り憑いている狐の妖怪なのか神様なのかわからない、とりあえず人外の男。善逸はきらきらと光を弾く髪を揺らして首を傾げた。一緒にぴくぴくと頭上で動く耳が、なんというか、可愛い。
「なんでもない。強いて言えば顔じゃなくて頭に付いてる耳が気になる」
「えーこれぇ?触る?」
はいどうぞ、と私の前に頭を下げてくるから、せっかくなので遠慮なく柔らかい毛に覆われた動物の耳を触らせてもらう。ほんのり温かいその耳はしっかりと頭から生えていて、私の手の動きがくすぐったいのか、たまにぴくりと動いている。ついでに髪を乱すように、大型の犬を可愛がるみたいにわしゃわしゃと撫でておいた。
「んっ……ふふ、君の手は気持ちいいねぇ」
顔を上げた善逸は目元を緩めた柔らかい顔をしていて、私の心臓が勝手にどくりと跳ねる。
そう、少しおかしいというのはこれだ。最近善逸に対して、時々今みたいに心臓が跳ねる時がある。それはまるで恋をしているみたいに。
「俺の花嫁は最近優しいねぇ。結婚する?」
「しません!」
「即答!?えー少しくらい悩んでくれても良くない?」
きっぱりと切り捨てるように断っているのに、善逸はにこにこと笑顔で楽しそうだ。背に見えるふさふさの尻尾もゆるりと機嫌良さそうに揺れている。
たまに泣きわめくとはいえ大体はいつも笑顔でいることが多い善逸だけど、最近は特に、何が楽しいのか嬉しいのか、本当に締まりのない顔をしている事が多い。だからこそ、その笑顔に当てられて私がどきどきする羽目になっているんだけど。
「善逸は最近いいことでもあったの?」
「んー?どうして?」
「なんか嬉しそうだから」
「へぇ?……んひひ」
なにも答えずにこにこと、いや、ニヤニヤと笑う善逸はたぶん答える気はない。きっと聞いても無駄だろうなと思うのは、彼に出会って三ヶ月が経った私がこれまでの付き合いで学んだ事だった。
けれど、今日は違った。答えとは違うけれど、善逸が会話を続けてきたのだ。
「ねぇ、言霊って知ってる?」
「聞いたことはあるけど。言ったことが本当になるってやつでしょ?」
だから悪いことは口に出さない方がいいよ、なんて私に言ったのは誰だったろうか。
「そう、口に出したことは本当になりやすい。もちろん全部じゃないけどねぇ?」
それが、どうしたというのだろう。話の目的がわからずに首を傾げる私に、善逸がたまに見せる、目を弓なりに細めた妖しい笑みを寄越す。その顔は、最初に見た時から怖かったはずなのに。ぞくぞくと背中を粟立たせる恐怖と共に、胸がドキドキと高鳴るのは、恐怖のためばかりではない。
「俺はこんなんでも一応神様だからね、言霊も少し使えるんだ……そろそろ、俺が好きなんじゃない?」
ねえ?俺の花嫁。
そう耳元に低い声で告げられた瞬間。ぶわっと顔に熱が集まったのがわかる。なんだこれ、なんだこれ。どくどく煩い心臓に、きっと赤い気がする顔。耳なんかもげてしまうんじゃないかと思うくらい、熱い。
目の前には蜂蜜を煮詰めたような甘い色をした瞳。そうか、花嫁と呼ばれる度、私は善逸の花嫁に近付いていってたんだ。縄で締めあげられるように絡む視線に、私は心まで捕らえられたことにようやく気がついた。