かみさま、たすけて
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得体の知れない化け物に追いかけられている。暗い夜道で姿なんてよく見えなかったけれど、人のようで人ではなかった。本能的にあれはまずいやつだと思った。きっと追いつかれたら殺される。私のこういう直感は昔からなぜかよく当たった。ぶわりと全身に鳥肌が立って、それでも竦むことなく走り出した私の足はえらい。
なんで、どうして。いつもと同じ帰り道だったはず。確かに時間だけは、いつもより少し遅かったかもしれないけれど。
はぁはぁとうるさく整わない息と、どくどくと跳ねる心臓の音が自分の頭の中に響く。いつの間にか人気のない神社の敷地に入り込んでしまい、周りが静かな分余計に自分の音が響いた。当然、追いかけてくる化け物が近づく音も、よく聞こえる。迫る音、目の前には社殿、逃げ場がない。
神社。神様がいる所。祈る場所。後ろには化け物。神様、かみさま。
「……たすけてっ……、」
信心深い方ではないし、なんなら家は仏教だけど。口をついて出たのは、この場にいるのかどうかもわからない神様に助けを求める声だった。振り返れば私に伸ばされる化け物の腕。今この場から救い出してくれるのなら、神でも悪魔でも、なんだっていい。
「かみさま、……ったすけて!」
「いいよ」
急に聞こえた声と同時に、一瞬目の前が眩しいほどに明るくなり、バチンと音をたてて目の前に迫っていた化け物が飛ばされ距離が開く。その開いた空間に、どこからか、空から降りてきたかのようにふわりと降りてきたのはパチパチと小さな放電を纏った人影だった。こちらを見る瞳は稲妻のように明るい光色で、明るい月色の髪をした頭上に獣の耳と、背後には揺れる尻尾が見える。
目が合うとにこりと笑って、太めの眉尻が下がり雰囲気が和らいだ。こんな状況だというのに、優しげな表情に少しほっとしてしまう。
神様だ。助けてくれた。その人間離れした神々しさに、素直にそう思った、のだけれど。
「そのかわり、俺と結婚して?」
「……えぇ?」
かけられた言葉が予想外すぎて、思わず気の抜けた声を出してしまった私は悪くないと思う。
さっき弾き飛ばされた化け物が再び襲いかかってきたのを、一薙ぎした腕から雷のような放電を飛ばして倒してしまうとそのまま私の手を握る。その手が未だ纏う放電は私に痛みを与えることも無く、不思議にパチパチと弾けている。
「ねぇ頼む!頼むよぉ!!俺と結婚してくれよぉぉぉ!!」
化け物を倒してくれた強さ、神々しさは何処へ行ったのか。耳を伏せて尻尾も垂れ下がり、泣きながらすがりついてきた。まるで出かける飼い主に置いていかれる犬みたいだ。
「え……うん?なにこれ……」
「あっ!うんって言った!言ったね!?俺は聞きましたー絶対言いましたー!!はい結婚しましょうそうしましょう!!」
怒涛の勢いでそう言うと、私の背と膝裏に手を入れて抱き上げた。意外と身長のある相手に抱き上げられ、高い視界に恐怖を感じて思わずしがみついてしまった。私の反応がお気に召したのか、さっきまで泣いて縋っていたとは思えない満足気な顔をしている。
「よろしく!俺の花嫁!」
にぃ、と笑う目は細く弧を描き、口元からは牙が覗いている。ああ、私は、違う化け物に捕まってしまったのかもしれない。
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