風紀委員の誕生日
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九月三日。それは偶然知った私の彼氏、我妻善逸くんの誕生日である。
「……ていうか、なんで教えてくれなかったんだろう。私彼女なんだよねぇ……?」
不良に絡まれたり不良に絡まれたり、はたまた不良に絡まれたりする私を何度も助けてくれたびっくりするほど強い彼は、その圧倒的な強さに見合わず泣き虫で騒がしくてちょっぴりお茶目なところがある。そして最近気づいたけれど、結構甘えただ。だからこそ誕生日だからとデートやプレゼントを強請ってきそうなものなのに、今日九月二日、誕生日前日になっても何も言ってこなかった。
教えてくれないなら、祝われる気はないのかもしれない。けれど私は日頃のお礼も兼ねてお祝いしたい。よろしいならばサプライズだ。
「善逸くん、今日用事があるから先に帰るね」
「ふぃ?大丈夫?あー俺も行くから待ってて」
「ありがと、でも時間なくて。また明日ね」
「あっちょっと!」
引き留めようとする善逸くんの向こうからピピーッとホイッスルの音が聞こえて、うげ、と嫌そうな顔をした彼に手を振るとそのまま校舎を後にした。
問題なく買い物を終えて何事もなく家に帰り、なぁんだ大丈夫じゃないトラブル吸引体質卒業かしら?とご機嫌にキッチンに立つ。買ってきたものをがさごそ広げ、鼻歌なんか歌いながら作業に取り掛かる。
みかん、ヨーグルト、生クリーム。それにゼラチンとレモン果汁。みかんはちょっと高いけど奮発しちゃった。まだ暑いからホイップクリームのケーキは不安だったし、夏らしさもあって、みかんのオレンジ色は彼に良く似合う。そんな訳で私はみかんのムースケーキを作り始めたのだった。
◆◇
『ごめん、明日の朝迎えに行けなくなった』
そんなメッセージを見たのは、明日渡すケーキを作り終えスマホを確認した時だった。なんでも抜き打ち服装チェックをするから早く登校しなくちゃいけないらしい。
『いいよ、じゃあ明日学校で』
そう送ると、ごめんねと可愛らしいスタンプが送られてきた。最近じゃ校内で私の認識が「我妻の女」になってるから、ガラの悪いみなさんもちょっかいをだしてくることもなくなった。ひとりで登校したって大丈夫だろう。それに昨日だってひとりで買い物もできたしひとりで帰れたんだから。
「……私、何歳児?」
改めて、私は善逸くんによくよく守ってもらってるなぁと思う。やっぱり明日はしっかりお祝いしなきゃ。朝作るお弁当も少し豪華にしよう、そう思って夜のうちに下準備をしておくことにした。
◆◇
翌朝、善逸くんの誕生日当日。保冷剤をたっぷり入れた保冷バッグと、私と善逸くんのお弁当。いつもより大荷物になってしまったけれど持てない量じゃない。慣れた通学路をひとり歩いている私は、学校近くだから同じ学校の生徒しかいないだろうとタカをくくっていた。
「ねー彼女それお弁当ー?」
「にしちゃ多くない?俺たち食べるの手伝ってあげようか?」
私の行く手を塞ぐように立ちはだかるのは、なんだかチャラい見た目のおにいさん。大学生だろうか、それとももっと上か。とにかくなんだか強引なナンパを仕掛けられてしまい、進むも戻るも出来ずに立ち尽くしていた。
遠巻きにうちの学校の生徒が見てるけど、助けてくれる様子はない。まあそうだよね、私だって別の子がこんな状況になってても割って入れる自信はない。
「重そうだねー持ってあげる」
「え、いいです平気です」
「遠慮しないでほら貸してよ」
「っ!離して、」
善逸くんに作ったケーキの入った袋を取り上げられそうになって、思わずぐいと引っ張って抵抗してしまった。それが気に食わなかったらしいおにいさんはチッと舌打ちをして、更に無理やり奪おうと引っ張ってくる。そのうちに腕まで掴まれて、私の抵抗をものともしない力で引きずられる。向かう先に見えたのは、車。うそでしょ。最近守られ慣れてしまい麻痺していた「怖い」という感覚が、久しぶりに蘇った。じわりと涙が滲む。咄嗟に口から出たのは、やっぱりいつも守ってくれる彼の名前だった。
「善逸くん……!」
腕を引かれる強い力とは逆方向に、ぐんと強い力で引き寄せられた。そのままぎゅうと抱き込まれて、顔も声も分からないのにほっとする。私はこの腕を知ってる。
「……おい、この子俺のなんだけどぉぉぉ?」
思った通りの声が聞こえて、今度は安堵で涙が溢れる。それに気づいたのか一度頭をするりと撫でられ、それからそっと身体が離される。
「ちょっと待っててねぇ」
ふにゃりと柔らかく笑いかけて、くるりとおにいさんたちに向き直ったかと思うと一足飛びに距離を詰めて、その勢いのまま上半身を捻って綺麗な回し蹴りを決めていた。
「俺の!彼女に!触っていいのは俺だけなのぉぉぉ!!」
「ぐぁ、いってぇええ!!なんだこいつやべえ!!」
「しかもなに!?ナオちゃんを泣かせてんの!?ふざけんじゃねえよおおお!!」
「がっ、いって……こいつ、あの我妻か!?」
「まじかよ!」
あの我妻、どの我妻なんだろう。ボコボコに蹴り飛ばされて転がりながら逃げていくおにいさんたちをぼんやり見送り、そういやケーキは無事かしらと手に持ったままの袋を覗き込む。無事みたい。よしよし。
「あーもう……ほんっときみ、目を離せないよねぇ?」
「ごめんなさい」
「ま、無事で良かったけど」
おにいさんたちを追い払った善逸くんが私のところに戻ってきて、盛大にため息をついた。
「で?今日は何に目をつけられたの?」
「ん、これ」
私は手に持っていた、たった今無事を確認したばかりのケーキが入った袋を差し出す。首をかしげながらも、普段から私の荷物を持ってくれてる善逸くんはなんの躊躇いもなく受け取ってくれる。
「んぁ?なにこれ」
「ケーキ」
「へ?」
「善逸くんの誕生日ケーキ」
「……ふぇえ??」
なんだか反応が悪くて、もしかして人づてに聞いた彼の誕生日は違ったかしらと不安になった頃。
「祝って、くれるの?」
無表情にも見える、少し驚いたような顔で、そうぽつりと呟いた。
「え?もちろん。いつもお世話になってるお礼もしたいし、それに、彼女だし?」
「彼女……そ、っか」
「うん、お誕生日おめでとう善逸くん。いつもありがとう」
お世話になってるお礼、は余計だったかしら。父の日母の日じゃあるまいし、恋人としてはおめでとうだけで良かったのかも。でも言っちゃったものは仕方ない。そんなことを思っていると、急に手を握られて、善逸くんは学校とは反対側へと歩き出す。
「え?どこ行くの?」
「今日は!ナオちゃんも怖い思いをしたから学校休もう!」
「善逸くんが助けてくれたから平気だよ?」
「ん゛んっ……そういうことではなくてですね……」
一度足を止めた善逸くんがそろりと振り返る。その顔は、真っ赤と言っていいくらいに、赤い。
「俺が、きみと居たくて、離れたくなくて!学校なんか行ってる場合じゃないの!誕生日だからいいでしょ!?」
そう言うとまた背を向けて、手を引いてずんずんと歩き出した。一瞬ぽかんとしてしまったけれど、どうやら誕生日なのは間違いではなかったらしい。それを理由に学校を休むのはどうかと思うけれど、まあ、一日くらいいいかという気になってしまった。
「ふふ、不良だね私たち」
「心外!……っふは」
善逸くんもやっと笑ってくれて、足取りが軽くなる。二人で笑いながら、朝の街を学校とは逆へと歩いていった。
「……ていうか、なんで教えてくれなかったんだろう。私彼女なんだよねぇ……?」
不良に絡まれたり不良に絡まれたり、はたまた不良に絡まれたりする私を何度も助けてくれたびっくりするほど強い彼は、その圧倒的な強さに見合わず泣き虫で騒がしくてちょっぴりお茶目なところがある。そして最近気づいたけれど、結構甘えただ。だからこそ誕生日だからとデートやプレゼントを強請ってきそうなものなのに、今日九月二日、誕生日前日になっても何も言ってこなかった。
教えてくれないなら、祝われる気はないのかもしれない。けれど私は日頃のお礼も兼ねてお祝いしたい。よろしいならばサプライズだ。
「善逸くん、今日用事があるから先に帰るね」
「ふぃ?大丈夫?あー俺も行くから待ってて」
「ありがと、でも時間なくて。また明日ね」
「あっちょっと!」
引き留めようとする善逸くんの向こうからピピーッとホイッスルの音が聞こえて、うげ、と嫌そうな顔をした彼に手を振るとそのまま校舎を後にした。
問題なく買い物を終えて何事もなく家に帰り、なぁんだ大丈夫じゃないトラブル吸引体質卒業かしら?とご機嫌にキッチンに立つ。買ってきたものをがさごそ広げ、鼻歌なんか歌いながら作業に取り掛かる。
みかん、ヨーグルト、生クリーム。それにゼラチンとレモン果汁。みかんはちょっと高いけど奮発しちゃった。まだ暑いからホイップクリームのケーキは不安だったし、夏らしさもあって、みかんのオレンジ色は彼に良く似合う。そんな訳で私はみかんのムースケーキを作り始めたのだった。
◆◇
『ごめん、明日の朝迎えに行けなくなった』
そんなメッセージを見たのは、明日渡すケーキを作り終えスマホを確認した時だった。なんでも抜き打ち服装チェックをするから早く登校しなくちゃいけないらしい。
『いいよ、じゃあ明日学校で』
そう送ると、ごめんねと可愛らしいスタンプが送られてきた。最近じゃ校内で私の認識が「我妻の女」になってるから、ガラの悪いみなさんもちょっかいをだしてくることもなくなった。ひとりで登校したって大丈夫だろう。それに昨日だってひとりで買い物もできたしひとりで帰れたんだから。
「……私、何歳児?」
改めて、私は善逸くんによくよく守ってもらってるなぁと思う。やっぱり明日はしっかりお祝いしなきゃ。朝作るお弁当も少し豪華にしよう、そう思って夜のうちに下準備をしておくことにした。
◆◇
翌朝、善逸くんの誕生日当日。保冷剤をたっぷり入れた保冷バッグと、私と善逸くんのお弁当。いつもより大荷物になってしまったけれど持てない量じゃない。慣れた通学路をひとり歩いている私は、学校近くだから同じ学校の生徒しかいないだろうとタカをくくっていた。
「ねー彼女それお弁当ー?」
「にしちゃ多くない?俺たち食べるの手伝ってあげようか?」
私の行く手を塞ぐように立ちはだかるのは、なんだかチャラい見た目のおにいさん。大学生だろうか、それとももっと上か。とにかくなんだか強引なナンパを仕掛けられてしまい、進むも戻るも出来ずに立ち尽くしていた。
遠巻きにうちの学校の生徒が見てるけど、助けてくれる様子はない。まあそうだよね、私だって別の子がこんな状況になってても割って入れる自信はない。
「重そうだねー持ってあげる」
「え、いいです平気です」
「遠慮しないでほら貸してよ」
「っ!離して、」
善逸くんに作ったケーキの入った袋を取り上げられそうになって、思わずぐいと引っ張って抵抗してしまった。それが気に食わなかったらしいおにいさんはチッと舌打ちをして、更に無理やり奪おうと引っ張ってくる。そのうちに腕まで掴まれて、私の抵抗をものともしない力で引きずられる。向かう先に見えたのは、車。うそでしょ。最近守られ慣れてしまい麻痺していた「怖い」という感覚が、久しぶりに蘇った。じわりと涙が滲む。咄嗟に口から出たのは、やっぱりいつも守ってくれる彼の名前だった。
「善逸くん……!」
腕を引かれる強い力とは逆方向に、ぐんと強い力で引き寄せられた。そのままぎゅうと抱き込まれて、顔も声も分からないのにほっとする。私はこの腕を知ってる。
「……おい、この子俺のなんだけどぉぉぉ?」
思った通りの声が聞こえて、今度は安堵で涙が溢れる。それに気づいたのか一度頭をするりと撫でられ、それからそっと身体が離される。
「ちょっと待っててねぇ」
ふにゃりと柔らかく笑いかけて、くるりとおにいさんたちに向き直ったかと思うと一足飛びに距離を詰めて、その勢いのまま上半身を捻って綺麗な回し蹴りを決めていた。
「俺の!彼女に!触っていいのは俺だけなのぉぉぉ!!」
「ぐぁ、いってぇええ!!なんだこいつやべえ!!」
「しかもなに!?ナオちゃんを泣かせてんの!?ふざけんじゃねえよおおお!!」
「がっ、いって……こいつ、あの我妻か!?」
「まじかよ!」
あの我妻、どの我妻なんだろう。ボコボコに蹴り飛ばされて転がりながら逃げていくおにいさんたちをぼんやり見送り、そういやケーキは無事かしらと手に持ったままの袋を覗き込む。無事みたい。よしよし。
「あーもう……ほんっときみ、目を離せないよねぇ?」
「ごめんなさい」
「ま、無事で良かったけど」
おにいさんたちを追い払った善逸くんが私のところに戻ってきて、盛大にため息をついた。
「で?今日は何に目をつけられたの?」
「ん、これ」
私は手に持っていた、たった今無事を確認したばかりのケーキが入った袋を差し出す。首をかしげながらも、普段から私の荷物を持ってくれてる善逸くんはなんの躊躇いもなく受け取ってくれる。
「んぁ?なにこれ」
「ケーキ」
「へ?」
「善逸くんの誕生日ケーキ」
「……ふぇえ??」
なんだか反応が悪くて、もしかして人づてに聞いた彼の誕生日は違ったかしらと不安になった頃。
「祝って、くれるの?」
無表情にも見える、少し驚いたような顔で、そうぽつりと呟いた。
「え?もちろん。いつもお世話になってるお礼もしたいし、それに、彼女だし?」
「彼女……そ、っか」
「うん、お誕生日おめでとう善逸くん。いつもありがとう」
お世話になってるお礼、は余計だったかしら。父の日母の日じゃあるまいし、恋人としてはおめでとうだけで良かったのかも。でも言っちゃったものは仕方ない。そんなことを思っていると、急に手を握られて、善逸くんは学校とは反対側へと歩き出す。
「え?どこ行くの?」
「今日は!ナオちゃんも怖い思いをしたから学校休もう!」
「善逸くんが助けてくれたから平気だよ?」
「ん゛んっ……そういうことではなくてですね……」
一度足を止めた善逸くんがそろりと振り返る。その顔は、真っ赤と言っていいくらいに、赤い。
「俺が、きみと居たくて、離れたくなくて!学校なんか行ってる場合じゃないの!誕生日だからいいでしょ!?」
そう言うとまた背を向けて、手を引いてずんずんと歩き出した。一瞬ぽかんとしてしまったけれど、どうやら誕生日なのは間違いではなかったらしい。それを理由に学校を休むのはどうかと思うけれど、まあ、一日くらいいいかという気になってしまった。
「ふふ、不良だね私たち」
「心外!……っふは」
善逸くんもやっと笑ってくれて、足取りが軽くなる。二人で笑いながら、朝の街を学校とは逆へと歩いていった。
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