ランチは屋上で
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"あの"風紀委員と付き合い始めた。なぜかその噂は瞬く間に広がって、良くも悪くも有名人になってしまった。転校してきたばかりでもともと距離のあったクラスメイトとの距離がさらに開いた気がする。泣いてはいない。
そう、別に泣いたりはしてない。もともと人付き合いが得意な方でもないし、大して仲の良くない人と喋ったりするのは、苦手だ。だから休み時間の度に一緒にトイレとか、移動教室は連れ立ってとか、お昼は机をくっつけてとか、そういうのが無くて個人的には快適だったりする。
「お昼か……お弁当持ってきたけどどうしようかな」
少し考えてから思いついたけれど、この学校には屋上がある。たまに人の姿が見えるから、きっと生徒も入れるんだろう。私は同級生達がわいわいと机を囲む教室を抜け出し、ひとり屋上へと向かった。
この時私は忘れていた。最近トラブル吸引体質だということを。
「……前までこんなんじゃなかったのに……!」
「なにヒトリゴト言ってんだぁ?」
「そんなん構うかよ。こいつどうする?」
目の前には、煙が立ち上る細い棒を指の間に挟んで持つ、制服姿の男子。明らかに校則違反、というより法律違反をしてる不良たち。屋上の扉を開けたと同時に煙の匂いがして、あっという間に腕を掴まれ囲まれてしまった。持っていたお弁当は落としちゃうし、馴染みのない煙のにおいに不快感はあるし、やたら凄んでくる不良たちはまあ、素直に怖い。
怖い、けれど。前みたいに泣きそうになるほどじゃないのは、ここに来る前にスマホを通じて送ったメッセージがあるから。立て続けに似たような事態になったから、ぶっちゃけ慣れもあるけど。でもさすがにメンチ切ってくる目の前の男子が、黄色い隕石に衝突され真横に吹っ飛んでいったのはびっくりした。
「てんめぇら……俺の彼女に何してくれてんだああぁ……」
威圧すると言うよりは呪い殺しそうな低い声で唸りながら私の前に立ったのは、校内でヤバいと有名な風紀委員、私の彼氏、我妻善逸くん。どうやら飛び蹴りしたらしい。一人蹴り飛ばし、もう一人を威嚇して、くるりと振り返る。わあ目が血走ってる。こわい。
「ちょっとおぉぉお!!移動する時は俺を呼んでって言ったよねええええ!?教室に迎えに行くって送ったじゃん!!」
「えっうそ、ごめん見てない」
「ハイ!そうだと思いました!ほんとなんなの!?きみまじで一瞬たりとも目が離せないのぉぉおお!?」
叫びながら横にいた不良の頭を掴んで床に叩きつける善逸くんの前で、ポケットからスマホを取り出して画面を見ると私が送った『今日は屋上でお弁当食べる!』の文字の下に『迎えに行くから待ってて』と続いていた。ほんとに見てなかった。
床に倒れ伏す不良をさらに踏みつけながら大きなため息をつく彼氏に、両手を合わせてごめんねと謝る。
「うわ……上目遣いとかずるいでしょ……んんん可愛い許しちゃう!!」
踏んでた不良を蹴って転がし、私をガバッと抱きしめてきた。前から思ってたけど、私の彼氏、チョロすぎ……?けれど苦しくない程度の力加減で抱きしめて、全身で愛情表現をしてくれるこの恋人のことが、私は結構好きだったりする。
視界の端で不良達がそっと屋上から逃げていくのが見える。また善逸くんに助けられてしまった。
「そういやお弁当は?」
「あー……落としたからぐちゃぐちゃかも……せっかく作ったのになぁ」
足元でひっくり返っていたランチバッグを拾い上げると、お弁当箱は壊れていないみたいで少しほっとした。私と一緒にランチバッグを覗き込んでいた善逸くんが、なんだかそわそわとしてる。
「ね、ねぇ、良かったら交換しない?って言っても俺のは買ってきたパンだけど……」
少し顔を俯けてちらとこっちを見るのは、さっき自分でずるいと言った上目遣い。たしかにこれは、ずるい。お願いされたら断れない。
「いいの?中身多分酷いことになってるよ?」
「いい!食べたい!ナオちゃんの手作り、なんでしょ!?」
目をキラキラさせて既に私からランチバッグを奪い取った善逸くんはへへへと嬉しそうに笑いながら床に座って、自分の横をぽんぽんと叩いた。誘われるままに隣に座ると、パンがいくつも入った袋を渡される。
「こんなに食べれない」
「食べたいのだけ食べていーよ、後は俺が食べるし」
元々は全部善逸くんが食べる予定だったであろうパンは多くて、そりゃ私のお弁当だけじゃ足りないだろう。なるほど、残しても心配はないらしい。パンをひとつ取り出してから隣を見ると、やっぱり中身がぐちゃぐちゃに混ざってしまったお弁当を嬉しそうに食べる善逸くん。
「ねえ善逸くん」
「ほぁ?んぐ、……なぁに?」
私用の短いピンクの箸を持ちづらそうに、でも綺麗な持ち方で、小さなお弁当を食べている。うん、やっぱり必要だ。
「放課後買い物に行きたいんだけど」
「いいよぉ一緒に行く!何買うの?」
「んー、大きいお弁当箱と箸、かな?」
もぐもぐしていた口もぴたりと止まって、驚きを浮かべていた顔がだんだんと赤くなる。私の意図は正しく伝わり、そして、どうやら喜んでくれそうだ。
屋上から学校中に、あまり綺麗でない高音の叫び声が響くまで、あと少し。
そう、別に泣いたりはしてない。もともと人付き合いが得意な方でもないし、大して仲の良くない人と喋ったりするのは、苦手だ。だから休み時間の度に一緒にトイレとか、移動教室は連れ立ってとか、お昼は机をくっつけてとか、そういうのが無くて個人的には快適だったりする。
「お昼か……お弁当持ってきたけどどうしようかな」
少し考えてから思いついたけれど、この学校には屋上がある。たまに人の姿が見えるから、きっと生徒も入れるんだろう。私は同級生達がわいわいと机を囲む教室を抜け出し、ひとり屋上へと向かった。
この時私は忘れていた。最近トラブル吸引体質だということを。
「……前までこんなんじゃなかったのに……!」
「なにヒトリゴト言ってんだぁ?」
「そんなん構うかよ。こいつどうする?」
目の前には、煙が立ち上る細い棒を指の間に挟んで持つ、制服姿の男子。明らかに校則違反、というより法律違反をしてる不良たち。屋上の扉を開けたと同時に煙の匂いがして、あっという間に腕を掴まれ囲まれてしまった。持っていたお弁当は落としちゃうし、馴染みのない煙のにおいに不快感はあるし、やたら凄んでくる不良たちはまあ、素直に怖い。
怖い、けれど。前みたいに泣きそうになるほどじゃないのは、ここに来る前にスマホを通じて送ったメッセージがあるから。立て続けに似たような事態になったから、ぶっちゃけ慣れもあるけど。でもさすがにメンチ切ってくる目の前の男子が、黄色い隕石に衝突され真横に吹っ飛んでいったのはびっくりした。
「てんめぇら……俺の彼女に何してくれてんだああぁ……」
威圧すると言うよりは呪い殺しそうな低い声で唸りながら私の前に立ったのは、校内でヤバいと有名な風紀委員、私の彼氏、我妻善逸くん。どうやら飛び蹴りしたらしい。一人蹴り飛ばし、もう一人を威嚇して、くるりと振り返る。わあ目が血走ってる。こわい。
「ちょっとおぉぉお!!移動する時は俺を呼んでって言ったよねええええ!?教室に迎えに行くって送ったじゃん!!」
「えっうそ、ごめん見てない」
「ハイ!そうだと思いました!ほんとなんなの!?きみまじで一瞬たりとも目が離せないのぉぉおお!?」
叫びながら横にいた不良の頭を掴んで床に叩きつける善逸くんの前で、ポケットからスマホを取り出して画面を見ると私が送った『今日は屋上でお弁当食べる!』の文字の下に『迎えに行くから待ってて』と続いていた。ほんとに見てなかった。
床に倒れ伏す不良をさらに踏みつけながら大きなため息をつく彼氏に、両手を合わせてごめんねと謝る。
「うわ……上目遣いとかずるいでしょ……んんん可愛い許しちゃう!!」
踏んでた不良を蹴って転がし、私をガバッと抱きしめてきた。前から思ってたけど、私の彼氏、チョロすぎ……?けれど苦しくない程度の力加減で抱きしめて、全身で愛情表現をしてくれるこの恋人のことが、私は結構好きだったりする。
視界の端で不良達がそっと屋上から逃げていくのが見える。また善逸くんに助けられてしまった。
「そういやお弁当は?」
「あー……落としたからぐちゃぐちゃかも……せっかく作ったのになぁ」
足元でひっくり返っていたランチバッグを拾い上げると、お弁当箱は壊れていないみたいで少しほっとした。私と一緒にランチバッグを覗き込んでいた善逸くんが、なんだかそわそわとしてる。
「ね、ねぇ、良かったら交換しない?って言っても俺のは買ってきたパンだけど……」
少し顔を俯けてちらとこっちを見るのは、さっき自分でずるいと言った上目遣い。たしかにこれは、ずるい。お願いされたら断れない。
「いいの?中身多分酷いことになってるよ?」
「いい!食べたい!ナオちゃんの手作り、なんでしょ!?」
目をキラキラさせて既に私からランチバッグを奪い取った善逸くんはへへへと嬉しそうに笑いながら床に座って、自分の横をぽんぽんと叩いた。誘われるままに隣に座ると、パンがいくつも入った袋を渡される。
「こんなに食べれない」
「食べたいのだけ食べていーよ、後は俺が食べるし」
元々は全部善逸くんが食べる予定だったであろうパンは多くて、そりゃ私のお弁当だけじゃ足りないだろう。なるほど、残しても心配はないらしい。パンをひとつ取り出してから隣を見ると、やっぱり中身がぐちゃぐちゃに混ざってしまったお弁当を嬉しそうに食べる善逸くん。
「ねえ善逸くん」
「ほぁ?んぐ、……なぁに?」
私用の短いピンクの箸を持ちづらそうに、でも綺麗な持ち方で、小さなお弁当を食べている。うん、やっぱり必要だ。
「放課後買い物に行きたいんだけど」
「いいよぉ一緒に行く!何買うの?」
「んー、大きいお弁当箱と箸、かな?」
もぐもぐしていた口もぴたりと止まって、驚きを浮かべていた顔がだんだんと赤くなる。私の意図は正しく伝わり、そして、どうやら喜んでくれそうだ。
屋上から学校中に、あまり綺麗でない高音の叫び声が響くまで、あと少し。