ホウプ


酷いんだよ。一人が声を上げた。
俺は悪くない。もう一人が声を上げた。
どうしたの。神様は聞いた。
「僕のことを突き飛ばしたんだ」
「邪魔だったんだよ」
「駄目ですよ。嫌なことはしちゃいけない」
酷い。一人が声を上げた。
うるさい。もう一人が声を上げた。
どうしたの。神様は聞いた。
「僕のパンを奪ったんだ」
「うるさい。早い者勝ちだ」
「駄目ですよ。二人で分け合わなきゃ」
なんで。一人が声を上げた。
どうして。もう一人が声を上げた。
どうしたの。神様は聞いた。
「なんで僕を殺したの」
「どうして殺したんだろう」
「駄目ですよ。それは、絶対に…」

『じゃあ、僕と俺、どちらを愛しているの』
『普通なら愛しているのは僕だ。だって僕は他人を傷つけず清廉潔白に生きてきたんだから』
『普通なら愛されないのは俺だ。だって俺は理由なく誰かを傷つけて生きてきたんだから』
「僕は、勿論、清廉潔白な貴方を…」
『本当に？』
「僕は、」
『正しい事を理想として、普通を模範とする。そんな上っ面なんて皆気づいているよ。見苦しいだけだ』
「僕は」
「…どちらも同じくらい愛している」
「どうしても嫌いになれない。嗚呼、どうして。どうして僕は正しい倫理観も持てないの。どうして正しい事だけを愛せないの。僕はいつかきっと大事な人を見ず知らずの誰かの為に見捨ててしまう。僕は…」

『だから僕は誰にも愛されないんだよ』