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小噺やネタもどき

この手を離せば、世界は変わる

2018/05/19 11:20
俺達の神様は、手を伸ばせば届く距離にいる。
感情豊かにいつも目まぐるしく変わる表情。些細な事で笑って、大袈裟に泣いて、くだらないことで怒って、子供みたいに拗ねてみせる。
俺達は、そんな当たり前に安堵して、救われている。
そんな神様は、けれど決して万能などではなく、感情と云う不具合に汚染されたその思考はとんでもないエラーを引き起こした。
唐突に、俺達の神様は身を投げる。
親しい誰か、見知らぬ誰か、聖人や犯罪者。そんな誰かを救うため、なんの躊躇もなく自分を投げ出してみせる。博愛主義の神様は、誰のものにもならない代わりに、全ての人のものだった。
200人と100人どちらを救うかと問われれば、自分が死んで300人を救うと答える。そんなイカれた神様は、ヒーローになりたいのだ。世界を救って死んでいく救世主を夢見る神様は、実のところ遠回りな自殺志願者でしかない。
俺達は気づいている。
きっとこの神様の救済はそれでしか為されない。誰かの為に死ぬことでしか、自らの価値を認識できない。だから、本当は駆け出そうとした神様を引き留める手を離すべきなのだ。
「どうしたんですか、二人とも」
「行くな。大丈夫だから」
「うん。俺たちが手出しすることじゃないよ」
明るかった表情が色をなくしていく。僅かに俯いた神様は、小さく「そうですか」と呟いた。
俺達は理解している。
この手を離せば、イカれた神様は漸く救われ、俺達は一生救われない。救われたい俺たちは今日も手を伸ばして、自らの我儘で神様を引き留める。

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