このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

小噺やネタもどき

何れ世界は彼の愛で壊される

2018/04/14 17:42
「君って可哀想だね」
悪魔の言葉に、聖職者は手を止めた。花瓶に花を生けようと聖堂に足を踏み入れた時には無かった気配が、べったりと背中に貼りつく。しかし、それに怖じることなく、再び手を動かし始めた。
庭から摘み取ってきた花は、まだ瑞々しい。柔らかな手触りの花弁が手を擽る。それを払い除け、幾つかの花を花瓶へと差す。
それを見つめていた悪魔は、再び口を開いた。
「アダムくん、花に水をあげすぎて枯らすタイプでしょ。根腐れしようが枯れようが、水を注いで、注いで、注いで、そのまま…」
聖職者は、悪魔の科白に煩わしいと嘆息を吐き、そのまま鋏で茎を切り落とした。
短い茎が足元に転がる。それを踏み躙るように、悪魔は目を細めた。
「君って大事なモノこそ、壊さずにはいられないんだね。その重さで潰しちゃうんだ。蕾を毟り取る子供みたいな純真さで」
悪魔は軽快に笑う。
「可哀想だね」
鈍い音と共に、赤が散った。
先程まで花瓶に生けられていた花々が、鋏で花弁を切り落とされ無惨に転がる。その中央で、聖職者は僅かに笑みを浮かべた。踏みにじった踵が、赤い痕を残す。
「可哀想な神の羔くん。一つ忠告してあげる。行き過ぎた信仰心は、最早盲信だよ」
「盲信なんかじゃ足りない。知ってるか、悪魔サン。人間を堕落させるのは林檎じゃない、愛だ」
「ハッ。君ってやっぱりイカれてる」
ただ一人の神様を信仰して、ただの人間が××になりたいと願ってしまった。
その代償のように諦観なく踏みにじられた花々がまるで世界のようで、悪魔は小さく笑った。

コメント

[ ログインして送信 ]

名前
コメント内容
削除用パスワード ※空欄可
  • このコメントは削除されました。