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スイセンの毒



 どうにも、今朝起きたときからおかしかった。

 そもそもここはどこだ?と恋次は布団の上に胡座を掻きながら、再度あたりを見渡す。見慣れた六番隊舎寮内の自室によく似ているけれど、しかし自分が知るものより遥かに広く落ち着かない部屋。乱雑に置かれた調度品も、ぐしゃりとシワのついた布団も、如何にも恋次の部屋の様相のように思えるが、残念ながら違った。

 極めつけは、これだ。

 恋次は部屋の壁にかけられたものを見上げ、困惑から眉間にシワを寄せる。まったく、これでは日頃の上官の顔の険しさを笑えないが、いまはそれどころではなかった。

 ―――なんで、隊長の羽織がここにあんだよ……

 絶対に朽木邸ではないと断言できるそこそこに薄汚い部屋に、まるでちぐはぐのように壁にかけられていたのは、恋次もよく見慣れた隊長羽織であった。その背には確かに六の文字。どう見ても白哉のものである。

 しかし、繰り返すが、これほど日常生活感溢れた部屋が、あの白哉の部屋であるわけがない。そもそも、恋次は白哉の私室にも何度か入ることを許されていたが、間違ってもこんな大衆向けな造りはしていなかった。どちらかというと恋次が住まいとしている副官室の方が似通った様相をしている。

 意味がわからないまま恋次が首を傾げていると、不意に、派手に扉を叩く音が辺りに響き渡った。ドンドンと遠慮なく叩かれているのは向こうの扉だろうか、と恋次は頭の中の疑問が解決しないまま立ち上がる。のっそりとした鈍い動作だったが、しかし、続けて叩扉の音に重ねるようにして飛んで来た声に、恋次は思わず背筋を伸ばして目を見開いた。

「いつまで寝ているのですか!」

 誰よりも聞き慣れたその声に、恋次はもはや反射的に反応して、探し当てた玄関の扉を開ける。そして、目の前に立っていた人物に、恋次は思わず叫んだ。

「隊長! よかった、ちょうどいいところに。なんであんなとこに隊長羽織掛けっぱなんスか? つかここ俺の部屋じゃないスよね、どこスかここ。起きたら知らねえ部屋ってちょっと怖いんスけど」

 とにかくわからないことはまず隊長に聞け。恋次の教訓である。相変わらず上司の顔は無表情で変わりないが、きっとすぐに恋次の疑問をため息混じりに解いてくれるはず―――…

 ―――ん? ていうか隊長、いま何て……つか、なんか、若い……?

 それこそ四六時中行動を共にしていてすっかり見慣れたはずの上司の顔が、どう見ても記憶にあるものより幼げに見えて、恋次は首を傾げる。そして、相変わらず綺麗な顔を白哉が訝しげに顰めているのを見て、さらに首を傾げた。

「……よもや立ったまま寝ぼけているのではあるまいな」
「え、なんで」

 ぽつりとこぼされた言葉に恋次が不思議そうな顔をすると、白哉の眉間のシワは益々深くなる。その仕草はよくよく見慣れたものであるのだけれど、やはり恋次の知るものとは微妙に違う気がして、そう感じた自分の直感に困惑する。

 しかし、その直感が正しかったことを、嬉しくもないことに次いで放たれた白哉の言葉が見事に証明してくれたのだった。

「誰が、隊長ですか。早朝から冗談に付き合っている暇はありません。そもそも羽織に関する問いを私にするなど見当違いも甚だしい。その気色悪い巫山戯た口調を直し、今すぐ身支度を整えてください。隊首会まで時間がないのですよ―――阿散井隊長」


 何の悪夢だ、と思った。
 
 
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