もう一度きみに逢いに行く
「……じゃあ、日番谷隊長は最初っから知ってたのね?」
「ああ」
「なによ、それなら黙ってないで最初っからわけを言ってくれればよかったのに。おかげでとんだサプライズだわ。心臓が止まるかと思った」
一頻り泣き終わり落ち着いた乱菊は、茶を飲みながら、うなずく一護に不満そうに頬を膨らませて見せた。
「このことはまだ隊長格しか知らねぇんスよ。んな隊舎で堂々と、名前口にできるほど広まっちゃいねぇ」
「恋次。あんたも何でこんなとこに居んのよ。仕事は?」
「隊長の命令っスよ。総隊長に、市丸隊長をひとりにはするなって言われたみたいで、一護が来るまでの穴埋めで」
「斬魄刀もないボク相手に、副隊長さん寄越す必要はない思うけどなぁ」
ギンは呆れたように肩を竦め、ぽりぽりと頬を掻きながらつぶやく。
一護たちの尽力のおかげで尸魂界に戻っては来たものの、当然ながら斬魄刀は取り上げられている。ギンの助命は総隊長から約束を取り付けたものの処遇はまだ決まっていないと言うのだから、それも道理だろう。ギンとて、このまま何食わぬ顔で死神稼業に戻れるとは思っていない。
「下手に下の奴に任せて、事実が公開される前に変な噂でも広まっちゃ困るってことなんでしょうよ」
「にしても、こないな日中から副隊長さん抜けはったら、六番隊長さん困るんとちゃう?」
「あっ…そういえば隊長、あたしが抜けた分の仕事は六番隊に回すって…」
「あっ、やべっ、そうだった」
「なにー?!」
たったいま思い出したかのように告げる乱菊と一護に、恋次は表情筋をいっぱいに使ってぎょっとして見せる。
「悪り、恋次。あとで白哉に謝りに行くから」
「おいおい…ただでさえあの人いま機嫌良くねーのに……火に油注いでどーすんだよ…」
そらそうやな、とギンは思う。
何より大切に思っている妹を殺そうとした相手の命を、あの総隊長に取りなすという無茶な役回りを引き受けてまで救うなどという、非常に不本意であろうことをやらされたのだ。不機嫌になるのも必至。まったく何が悲しくて、といった心境だろうが、それでも一護の頼みとあらば叶えてやるあたり、彼が黒崎一護という男に如何に重きを置いているのかということがわかる。
俺急いで戻るわ、と慌ただしく立ち上がる恋次を見送りにギンも腰を上げると、背後からガッと乱菊に肩を掴まれた。ばいばい、と恋次にひらりと手を振ったギンは、くるりと首だけ後ろを振り返る。
「ギン。あんたも、あとでちゃんと朽木隊長んとこ行って、お礼言わなきゃダメよ」
「ええ〜? せやかてボク、六番隊長さんにはごっつ恨まれて――」
「問答無用!」
「ひどいわぁ〜」
それに、彼も自分などと顔を合わせたくはないだろうと思うのだが、それこそ先ほどの恋次の言葉ではないが火に油を注いでよいのだろうか。
「……それから……イヅルのとこにも、ちゃんと謝りに行きなさい」
「………」
「…わかった?!」
返事の途切れたギンに、乱菊は必死さを隠さずにぶつかってくる。こちらに踏み込んでくるのを躊躇っていた以前とは、ずいぶん変わったようだった。
「……きみも、あの子と同じこと言いよるんやね」
「あの子?」
乱菊は一瞬首を傾げたが、ギンが出口に視線をやると納得した顔になる。
「…ああ、恋次のこと」
「そ。あの子もきみたちが来る前に言うてたんや、頭下げてな、イヅルんとこに行ってほしいて。馬鹿やと思わへん?」
「何がよ」
ギンの物言いに、少し困惑した、そして怒ったような口調で尋ねてくる乱菊に、ギンはおかしそうに笑った。
「行かんわけ、ないやろ。きみにはあのとき謝っといて良かた思てたけど、イヅルには結局、何も言えてへんもん」
「…!」
乱菊は大きく目を見開き、それから、
「……ばかね」
と、ちいさくつぶやいた。
「せやろ?」
「違うわ。あんたのことを言ってるのよ」
「え、ボクが馬鹿なん?」
「そうよ。決まってるじゃない」
「何でや」
不思議そうに尋ねたギンの背に、とん、と額が触れる感触があった。ばかね、ともう一度ちいさな声が聞こえる。
また泣かれたら困るなぁ、と思いながら、しかし後ろを振り向くことはできず、ギンはそっと一護の方を見やった。見守るようにこちらを見やる一護の顔に、穏やかな笑みを見つけたのと、後ろからくすりと声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
「―――全然、足りないわよ。あんな言葉ひとつじゃ」
嬉しそうな、笑い声だった。
「――――おかえり」
5/5ページ