はなのあめ ― 花の雨 ―
「……え――――…っと……」
目の前の光景に戸惑いを隠せず、一護は思わず視線を逸らして回れ右をしかける。ここまで同伴してくれたルキアに助けを求めるように視線をやったが、しかしルキアは不思議そうな顔で立ち止まった一護を見上げていた。
「? 何をしている一護、はやく入らんか」
「えっ…あっ…スルーの方向……?」
一護の指差す先には、六番隊の長とその副官がいる。もちろんそれは別におかしなことではない。ここは確かに六番隊舎で、一護はこの二人に用があって来たのだ。―――しかし。
椅子に座った白哉の後ろから、覆い被さるようにしてその手元の書類を覗き込んでいる恋次の体勢は、どう考えても普通の部下と上官の様子ではない。腕は机についているが、胸と背はしっかり触れ合っているし、一歩間違えれば後ろから抱きしめているようにしか見えない構図だ。しかも先日、ルキア経由とはいえ恋次の恋愛相談を受けたばかりの身では、一護でなくともこの気まずい雰囲気に逃げ出したくなるだろう。……隣りに例外もいるようだが。
お邪魔しました、と喉まで出かかった言葉を何とか飲み込み、一護は執務室へと足を踏み入れる。何なんだこの空気は。ていうかこの雰囲気に当てられることなく平然としているルキアの精神も何なんだ。
「おう、一護。久しぶりだな」
ぱたん、と執務室の扉の閉まる音と共に、恋次が顔を上げる。向けられるいつも通りの快活な笑顔に安堵しつつも、そこに羞恥とか動揺とかいった気配が微塵もないことから、これが彼らの普通の状態であるということを一護は不本意にも知らされることとなった。どうやら見られて困る状況ではなかったらしい。
「おー……何見てたんだ?」
「ん? ああ、今回のおまえの虚討伐の詳細だよ。ほら、前におまえ、退治した日付だの特徴だのいちいち全部覚えてられるかって総隊長に言ってたろ? それで、今回から予めこっちにデータだけ送られてくるようになったんだ」
「えっマジで?」
一護は驚いて目を見開いた。
そう。今回一護が尸魂界に来たのは、死神代行としての定期報告とやらのためだった。なんでも、現世にて代行としての役割を果たしている以上、死神たちと同様とまではいかずとも報告めいたものが必要なのだという。まあ、それを名目に会える人もいるし、それ自体は別にいいのだが、問題はその細かさだった。こちとら学生の本分である学業の合間にやっているのだ、細かいことなんて一々覚えていられるかと、そういえばこの前ため息混じりに総隊長の爺さんに言った気がする。一応気にかけてくれたのか。
完現術者たちとの悶着の末、再び死神の力を与えられた件といい、何だかあの人も以前より丸くなったような気がする。もしかしたら、この定例報告の担当を一番隊から六番隊に変えてくれたのも配慮の内なのだろうか。一護としても、あのお堅い爺さんに延々と尋問のような質疑応答を強いられるより、気心の知れた恋次や白哉が相手の方が何倍も気が楽だ。
「けど、データなんてどうやって取ったんだよ」
「何か浦原さんが協力したって聞いたけど」
「……あの人か…」
彼が関わったと言われるだけで、まあ、浦原さんだからな、で何でも済ませてしまえる気分になるのがすごい。それは一護に限ったことではないだろう。
「これ一護! 兄様にご挨拶もせず、いつまでも恋次と無駄話をするでない!」
「いや別にそんな待たせてねーだろ。つーか無駄話じゃねえよ、がっつり本題だよ」
ふんふんと恋次の話を聞いていると、小さい身体に似合わぬ大きな声でルキアが文句をつけてくる。相変わらずの様子に一護も負けじと言い返すが、ゴスッと鈍い音と共に脇腹にヒットした肘に早々に白旗を上げた。
「はいはいはいワカリマシタ」
「何だその適当な返事は。まったく貴様はいつもいつも…」
「うるせーぞブラコン」
ぱしん、と軽くルキアの頭をはたくようにして去なすと、一護はようやく白哉に視線を向けた。ぎゃいぎゃいと途端に賑やかになった空気を咎める様子はなく、書類から顔を上げた姿勢のまま一護たちを眺めている。その表情は何となくいつもよりやわからな気がして、一護は少し不思議な気分を味わいつつも機嫌よく笑った。変わったと言えば彼もまたそうだ。
「白哉も元気そう……ってか、なんか雰囲気また変わったか? なんかこう、いつもより柔らかいけど」
「たわけ。兄様は常より比類なき優しさに溢れた佇まいをしておいでだ。普段は貴様の目が曇っていて見えていないだけだろう」
「…おまえは何なんだよ、一言ごとに割って入って来やがって。俺が白哉と会話すんのがそんなに嫌なのか? 嫉妬か?」
「ばッ莫迦者! 貴様なんぞのために誰が嫉妬などするか! 思い上がるな! 莫迦一護!」
「……俺べつにどっちにとは言ってねーけど」
「………」
思わぬ反応が返ってきて、意外に思いながら反撃した一護に、ルキアはしまったと言わんばかりの顔をした。赤くなった、と思ったらみるみる内に大きな目を吊り上げて怒りを顕にする。
ぽかぽかと細い腕で殴りかかってくるルキアを軽く受け止めながら、一護は堪えきれずに噴き出してしまった。意外と愛されていたりするらしい。
まあまあ、とルキアを抑えにかかったのは、彼女ともっとも付き合いの長い幼馴染だった。
「ええい、離さんか恋次!」
「話が進まねーだろ。それとも何だ、一護がコッチ来るって聞いてからそわそわと落ち着かねえで嬉しそうにしてたことバラされてえのか?」
「……もうバラしてね?」
「―――ッ、恋次ッ!!」
しかし、一護のツッコミは拾われることなく霧散し、代わりにルキアの怒声が恋次を攻撃し始める。余計に悪化してないかこれ。
それにしても、と一護は幼馴染の二人を眺めながら、自分の案内役がルキアなのはやはり完全に配慮だよなあ、と思った。何だかんだと言っても絶賛片想い中の相手である。普通の会話より言い合いの方が多いのは気のせいではないと思うが、まあこれが自分たちの関係なのだろう。言い合う元気もなく悄然とされるよりずっといい。そういえば結局恋次の件はどうなったのだろう、とひとり気になる一護だったが、先ほどの近すぎる様子といい、ひとまずは良好な関係のようでほっと息をつく。……こっちが気恥ずかしくなるような空気は頼むから出さないでくれと思うが。
一層賑やかしくなった室内で、一護は己が元凶であることを棚に上げると、ルキアたちからやや距離をとって安全な白哉のそばへと避難する。そういえば、自分たちがここへ来てから白哉はまだ一言も喋っていない。主にルキアのせいだが。
「よ、いいのか? あんたの副官と妹いちゃついてるけど」
白哉の机に行儀悪く腰をかけ、ひょいと顔を覗き込むようにして一護はそう揶揄い混じりに尋ねてみたが、白哉は口を挟む気はないのか小さく息をついて言った。
「……好きにさせておけ」
如何にも興味なさげな様子でそう言ってはいるが、視線は書類から上げたまま恋次とルキアを眺めているところを見るに満更でもないというか、それなりに微笑ましく思っている部分もあるようだ。まあ、この男はルキアと違って嫉妬を易々と顔に出すような性格ではないか、と一護は早々に諦めをつける。
そもそも、嫉妬などという世俗めいた感情を、きちんと彼は搭載しているのだろうか。何というか感情の色んな部分に欠落を感じる白哉が一般人と同じように嫉妬に駆られる様子を想像してみようとして、一護は速攻で断念した。一瞬で想像力の限界の壁にぶち当たったのである。おかしいなあ、奥さんいたんだから普通にありそうなものなのに。
とはいえ、もし彼にも嫉妬という感情がきちんと存在するのだとしたら、果たしてその対象はどちらになるのだろう。白哉と同様にルキアと恋次を眺めながら、一護は思う。
先ほどの様子を見るに、恋次とは上手くいっているのだろうとある程度は推測できる。白哉にあれだけ接近―――というかもはや触れているが、そんな行動が許されるのは自分の知る中では恋次かルキアくらいのものだ。自分が恋次と同じような行動をしたら速攻で散らされる可能性が大である。まあ、別にしたいとも思わないのでする予定もないのだが。
そういえば、と自然な風を装って、一護は話を変える。
「白哉、最近なんかいいこととかあったか?」
「………なぜ」
「んー…なんか機嫌良さそうだからさ。さっきも言ったけど、雰囲気やわらかいし。まあ、だから……何かあったんじゃねえのかなあ、と…」
さすがに直球で聞くのは憚られるし、一護は何と言ったものかと思案する。しかし、そうは言ってもこんな調子では、ただでさえガードの固い白哉から望む答えは引き出せなさそうだ。
どうしようかと困っていると、白哉は、一護の慣れない遠まわしな言い方に違和感を覚えたのかばっさりと言った。
「回りくどい。端的に申せ」
「……えっ…と…、………恋次とはその後どーですか」
「………」
奥ゆかしい聞き方など思いつかなかった一護は、ううむと唸った末に素直に尋ねる。もともとこういうのは自分の性格にはとんと向かないのだ。とは言えどうなったのかは気になる。
「その……ルキアから聞いちまってて……」
「……そうか」
意外にも、踏み込んだ質問に白哉が怒ることはなかった。それどころか返答が妙に穏やかな口調だったものだから、一護は、これならもう少しばかり尋ねてみても怒られずに済むだろうかと思案する。そういえば、ここ最近は白哉が怒ったところをちっとも見たことがない。最初の印象と比べれば、まるで別人のようだった。―――いや、もしかしたらこちらの姿こそが、ほんとうは彼の素なのかもしれない。
ふっと、白哉の視線が書類から持ち上げられ、恋次の方へと向けられる。その眼差しと顔を見た一護は、そんなに心配することはないのかもしれない、と思った。
「その様子じゃ告白されたんだろ?」
「……されたが」
「で、どうなんだよ」
「……なぜ兄に話さなければならぬ」
「そりゃあ……家族になるかもしれねえ奴の話だし?」
言ってから、これはちょっと踏み込みすぎた発言かもしれないと一護は思ったが、白哉はやや驚いたように目を見開いたものの、そこにあるのは予想外ゆえの戸惑いが大きく、呆れや怒りといった感情ではなかった。
「……まあ、ルキアにいい返事貰えたらだけど」
ルキアの保護者が兄である白哉であるということは、たとえルキア本人から了承が貰えたとしても、その先でやはり「妹はやらん」といったイベントが発生するのだろうかと一護は考える。
しかし、そんな一護の胸中を裏切るかのように、白哉は普段と何ら変わらぬ静かな口調で短く言った。
「―――そうか」
「……、………あれ?」
あまりにあっさりと流された話に、一護は困惑の声を漏らす。おかしくないか、と思ったが、当の白哉はごく当たり前のような顔をしていて、それどころか一護の反応に逆に訝しげな視線を寄越してきた。
「何だ」
「いや、ほら、ここはやっぱりこういうとき恒例の、妹はやらん!みたいな展開になるんじゃねえのかなーと…」
「………」
沈黙を落とした白哉の様子に、もしかして現世と違い尸魂界にはそういう文化がないのか、いやしかしこれだけ妹に過保護な男が何も反応しないなどということはあるまいと、一護は脳を忙しく働かせる。
そんな一護に追い打ちをかけるように、確かに、と白哉は言葉を続けた。
「相手が兄以外ならそうしただろうがな」
「…………」
……いま、なんかものすごい爆弾発言があったような気がする。いや、気がするのではなく確かにあった。いま確かに白哉はさらりといつもの口調でとんでもないことを言ったぞ。
まさかの言葉に、一護は照れだか困惑だかわからぬ心地を持て余しながら慌てて早口に告げる。
「や、でもまだ、ルキアから返事は貰ってねえし…」
「……傍から見ていればわかる」
恋次を見ているのかルキアを見ているのか、どちらかはわからないが、自分から外された視線を追うようにして、一護は二人を見やる。やいのやいのといつまでやっているのだか賑やかに言い合いをしているその様子は確かに微笑ましいものがあるが、しかしふと白哉に視線を戻した一護の目が捉えた表情は、それだけでは片付け難い色に彩られていた。
なるほど、と一護は納得する。
―――傍から、なあ……
そりゃあんたにも言える台詞だろうと、喉まで出かかった言葉を一護はそうっと飲み込む。指摘したら照れ隠しという名の不機嫌が降臨しそうだ。
「おーい、恋次! ルキア! おまえらいつまでやってんだ」
どうやら玉砕せずに済んだらしい友人と、絶賛返事待ちの想い人を、一護はやや乱暴にも聞こえる口調で呼ぶ。くるりと振り向いた二人は、なぜかぎょっと目を見開き、次の瞬間、仲良く揃って怒声を上げた。一護に向かって。
「莫迦者! 一護、貴様どこに座っておるのだ!」
「え? どこって……机?」
嫌味というわけでもなく一護が素直に答えると、今度はルキアに代わり恋次の声が飛ぶ。本当に仲がいいことだ。
「隊長の、な! テメーさっさと降りろ!」
「いいじゃねえか、ケチケチすんなよ。別に白哉怒ってねーし」
「わ、た、し、が、怒っておるのだ!」
「心が狭えなあ…」
がしがしと頭を掻きながら、仕方なく一護は机から腰を上げる。そんなどっかりと白哉の邪魔をするかのように座っていたわけでもなし、ただ端っこに体重をかけていただけだというのに、過剰に反応し過ぎだと思うのだが。
「…ったく、どんだけ白哉大好きなんだよ」
「それ以前の問題だ! たわけ!」
「ばっかおまえ、いくら隊長がオメーに甘いからって、そりゃどう見てもやり過ぎだろーがよ」
「何言ってんだよ。白哉が甘いのは俺じゃなくておまえらだろ」
はあ、とため息混じりに言い返すと、なぜかルキアに信じられないという顔をされた。横を見ると恋次もそっくりな表情をしている。
「本気で言っておるのか…」
わなわなと震えるルキアに、一護は当然のように応えた。
「え? 白哉って恋次とルキア大好きだろ? おまえらにだけ明らか態度違えし」
なぜ責められるのか釈然としないまま、一護は、無自覚らしい二人に最近の出来事の内でそう思い至る根拠になりそうな事案を探して言い募る。
「それにこの前、京楽さんが、おまえらの休み合わせるために白哉が急にこっちに仕事押し付けてきて大変だったとか何とか愚痴言ってたぞ」
「なに…?」
「待てそれ初耳だぞ」
ぐるん、と一瞬にして一護から白哉へと移された二人の視線に対して、白哉は居心地の悪そうな顔をしてすっと視線を逸らした。
最近わかったことだが、彼はその生真面目な性格ゆえか嘘をつかない。答えにくいことや答えたくないことには大抵の場合沈黙が返ってくるため、実は意外とわかりやすい性格をしているのだ。元が頭が切れるため上手い具合に誤魔化されることもあるにはあるが、この手の話でその手腕が発揮されることはまずない。
「だ、だからこの前、急に非番が入ったのか…」
「隊長が把握できるのは俺の方だしな…」
どうやら、簡単にスケジュールを把握できる自分の副官の恋次の非番に合わせて、ルキアの非番を調節したらしい。
愛されてんなあ、と一護はあたたかい目をする。まあ、ちょっとは妬けるというかそういう気持ちも確かにあるにはあるが、せっかく戻った二人の距離を邪魔するような男にはなりたくない。大切な家族なのだと言っていたルキアの顔を、いまもはっきりと覚えている。彼女が笑顔になるのなら何だっていい。
「そういう気遣いは目に見えるトコでやってくださいよ」
「……うるさいぞ」
憮然とする白哉に、恋次は困ったような、けれど嬉しそうな顔で笑う。瞬間、さっと顔を逸らしてしまった一護をいったい誰が責められようか。またしても当てられそうな雰囲気の序章に、一護はやらかしたかと少しだけ後悔を覚える。そして、困ったことにその直感は間違っていなかった。
「なんで隊長そういうとこだけ極端に不器用なんスかねェ」
「……好かぬ場所をとやかくと…」
む、と不満そうな顔で零す白哉に、恋次はきょとんとした顔になったと思ったら、次の瞬間おかしそうに笑う。そしてさらりと言った。
「え? ははっ、何言ってんスか隊長。俺のこと嘗めてます? ンなの全部ひっくるめて好きに決まってんでしょう」
その言葉に、白哉は驚いたように目を見開く。こんなに表情の豊かな男だったかと一護が思ったのも束の間、何だかむず痒そうな口元を隠すようにうつむき、先ほどの不満げな声はどこへやら、随分と毒気の抜けた様子でつぶやいた。
「…――――そうか」
「……………」
恋次の嬉しそうに崩れた顔だとか、白哉の無表情に見えて満更でもなさそうな穏やかさだとか、こっちにしてみれば砂糖でも吐きそうな雰囲気を一瞬にして構築する二人に、勘弁してくれと一護は心の中で呻く。
助けを求めて再びルキアを見やる一護だったが、しかし先刻と同様ルキアにはまったく動じた様子がなかった。
「……なんでおまえはそんな平然としてるんだ?」
一護は思わず尋ねる。
ルキアは、そんな一護を小馬鹿にするかのように笑って言った。
「何を言う、今日は少ない方だぞ。毎日だいたい五回くらいは平均で言っているらしいからな」
「…えっ…何それ……どこの情報…?」
「当然、六番隊の隊士たちに決まっとるだろう」
「……、…それは…つまり……六番隊の奴らはこれを毎日見せられてるってことか……?」
いったいどんな拷問だ。すでに相手がいる者なら構わないのだろうが、そうでない者からしてみれば居た堪れないことこの上ない。しかもそれが上司ときたら、胃に穴が空きそうな勢いだ。
引き攣り気味な一護に、ルキアはおかしそうに笑った。
「あれでもまだ保留中なのだぞ」
「? 何が?」
「何って、告白の返事だ」
「…は? え、保留? 何だそりゃ」
一護は驚き困惑して、意味がわからんと首を傾げる。
「だから、兄様のお返事はまだだということだ」
「………あれで?」
そうっと一護が二人を指差しながら尋ねると、ルキアはうなずく。彼女の前でも終始こんな感じなのかと、一護は何とも言えない心地になった。
「まあ、公然と口説く許可はいただいたらしいがな」
「……それで…さっきの…」
「うむ」
何だかおかしなことになっているらしい二人を、一護はちらりと見やる。いつの間にか白哉のすぐそばに移動して何やら話を弾ませている恋次と、その距離を当然のように許している白哉の姿に、一護は心の中で唸った。
―――いや……どう見てもあれは……
何を躊躇って白哉が返事を保留ということにしているのか気づかないほど鈍くはないが、しかしそれも時間の問題なのではないかと一護は二人の間に流れる空気を避けるように首を竦めながら思う。
思春期真っ盛りの男子高校生、しかもすぐ横に片想い中の相手がいるこの状況で、この空気は非常に落ち着かないのだが、そんなことを正直にルキアに言うわけにもいかない。かと言って、あの二人の間に割って入るように声を上げる気概もない。一護は小さくため息をつく。
まあ、その、喜ばしいことには違いないのだが、できれば甘ったるさを感じるような雰囲気を醸し出すのは他所でやってほしいというか、むしろ二人きりのときにしてほしいというか。
ルキアが自分を受け入れるよりも彼らが丸く収まる方がきっと早そうだと、悲しいかなある程度の確信を持って言えてしまうことに、一護はひとり静かに困ったような笑みを零してため息をついたのだった。