花影に縋った日々のまにまに、
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誇り高く生きなさい。それは母の言葉でした。
何人たりとも触れられない、抗えない、穢せない。この世界に存在する、たった一色血の通ったその花を、枯れるまで手折られることなく咲かせ続けなさいと。
母は死にました。
強ばった頬を撫でた時、少女は涙を拭うこともせず、目を瞑ることもなく、ただ静かに肺を膨らませたのでした。
光など信じるに値せず、希望に縋るほどの気力もなく。しかし目の前に広がる暗闇の中で瞼を閉ざすということは、母を拒絶していると同義だと、少女は理解せざるを得なかったのです。
少女は誇り高く生きました。
しかし少女は、〝誇り〟という物の正体を知りませんでした。
〝孤独〟ではなく〝孤高〟であると。
〝言えない〟のではなく〝言わない〟のだと。
替えがきかないだけの道具として使われることが誇りであるなら、道を逸れてはいけないのだから。
愛でしょうか。情けでしょうか。仁義でしょうか。
握りしめた手のひらに刺さる、砕けた金平糖のような信念。
母が遺した言葉は、年端もいかない少女に背負わせるには余りに強情、それでいてちっぽけで、恐ろしい呪い。否、魔法と呼ぶべきなのかもしれません。確かに少女はその言葉一つでなんだって、当たり前に頑張れてしまえたのですから。
奇妙な血。誰もが少女をそう忌避しました。
少女を育んだもの全てが、少女の生を望み、不幸を願っている。
大人になると鈍くなってしまうけれど、子供という生き物は存外、自分に向けられる視線の色に気付いているのでしょう。少女も例外ではなく、自分を取り巻く異質なやさしさを肌で感じとって尚、無知なふりをしました。
相容れぬものと相容れる少女を人々は敬い、恐れ、閉じ込めた。
目が痛くなるほど鮮やかな花園が、少女の純白を引き立てる。
仕方の無いことでした。いつか近い将来少女が牙を剥くと信じて疑わない大人たちは、少女が口を開けて笑う様を一度も見たことがないのですから。それはきっと、血の繋がった母ですら。
健康な土も、透き通った水も、手を取り合う蜂も。何もかもが足りなくとも、少女は誇りだけで咲き続けるのでしょう。
だって、もう、考えることすら億劫なのです。否定や反抗は、押し殺してしまった方が簡単で、疑問なんて、捨てた方が軽くなる。人間味の無いと言ってしまえばそれまでですが、少女が人として扱われたことなど、これまでにありませんでした。花であることすら認められないまま。
風に揺れる危うさに、徒然なる救済を。
少女は今日も、贄となるための花を咲かして摘むのです。
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