泣かないで
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失恋した。
たかが1年。されど1年。
まるで砂の城が崩れるみたいに、あの人はあっけなく消えていった。
今思えば、いつかこんな日が来るって、始めから分かってたような気もする。
優しい人だった。
とてつもなく優しくて、そして、とても冷たい人。
爽やかな笑顔で、柔らかい言葉で、さりげない態度で、私の全てを受け止め、壊した人…
「…ちゃん、けいちゃん。」
「あ…はい。」
「な〜にボサッとしとるんや〜。早よ食わんと焦げてまうで。」
目の前でじゅうじゅうと音をたてて肉が焼けている。
「あ、ありがとうございます。」
「ほら、どんどん食いや〜」
嬉しそうに私のお皿に肉を放り込む。
真島さんは、取引先の真島建設の社長だ。
私は、月に一度真島建設の帳簿をチェックするために会社を訪問している。
担当になりかれこれ1年が経つ。始めはこちらの話を軽く聞き流していた真島さんも、ここ最近は私の提案に素直に耳を貸してくれるようになった。
そんな真島さんは、仕事が終わるといつも私をご飯に連れていってくれる。
「お疲れさん。さてと、今日は何食いに行こか?」
今月も無事に入力チェックが終わり、パソコンを閉じた私に真島さんが言う。
「あ…真島さん、すいません。今日はちょっと、パスさせてください。」
「なんや、予定あるんか?」
「いえ、そうじゃないんですけど…ちょっと、食欲なくて…」
「どないしたんや?いつもなら何食べます〜?て食いついてくるんに」
「人を食いしんぼうみたいに言わないでくださいよ。」
男か?
思わず心臓がピクッとする。真島さんは何気に勘が鋭い。
「……まあ…。そんなところです。」
真島さんは少し考えたあと、
「よっしゃ、ほんなら焼肉やな。いくで。」
と手を叩く。
「は?今の聞いてました?
食欲ない人間に、よりによってなんで焼肉なんですか?」
「ええやんか。今月はけいちゃんのアドバイスで売上目標もクリアやったし、スタミナつけて明日からまたハッスルや。」
ハッスル発言に突っ込む気力もなく、なんだかんだと真島さんのペースに巻き込まれ、結局、韓来へ。
「やっぱりここの肉はごっついな〜。」
なんて言いながら、上機嫌でビールを煽っている。
「真島さんて、いつもテンション変わらないですよね。その性格、うらやましいです。」
皿に盛られた肉をつつきながらつぶやく。
「そんなことあらへんで。ワシかてけいちゃんが知らんとこで、フラれて枕濡らすこともあるわ。」
煙草に手を伸ばし、火をつけながら真島さんは言う。
「え?嘘でしょ?真島さんが?」
「せやで。こう見えてもガラスのハートっちゅうやつや。」
ククッと笑い、煙を吐き出す。
思ってもないことをさらっと言える真島さんがあの人に重なり、何だか無性に腹が立った。
「なんでそんな嘘つくんですか?
真島さん、仕事できるし、男前だし、優しいし、お金持ちだし、失恋なんてしたことないでしょ。
いや、むしろ女泣かせてますよね?
最低じゃないですか!ひっどい男!
真島さんみたいな男がいるから、泣かされる女がいるんですよ!」
ぶつけるべきじゃない相手に、ぶつけるべきじゃない言葉をぶつけてるって分かってるけど、一度口から出た思いは留まることを知らない。
そんな私を真島さんはじっと見つめている。
「けいちゃん、フラれたんか。」
煙をゆっくり吐き出しながら、低い声でつぶやいた。
「そうですよ!悪いですか?!
すごく優しい人だったんですよ。素敵な人だったんですよ。あんなに好きだったのに…。なんで…。」
止まらない。涙が、溢れて止まらない。
どうして。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
私はどうすればよかったの?
この恋の正解を誰か、教えてほしい。
「…泣かんでええ。」
煙草の火を灰皿に押しつけ、真島さんは静かに言う。
「そんなしょーもない男のために、けいちゃんが泣くことないわ。」
「…しょーもない…?って…?」
…真島さんにしょーもないって言われた瞬間、何だか急にすべてが見えた気がして。
ああ。そうか。きっとしょうもない人だったんだ。どうしようもなくしょうもなかったんだ。
私があの人に始めに感じた違和感は、やっぱり間違ってなかったんだ。
そう気づいたら、いつのまにか泣きながら笑ってた。
「なぁんやねん。さっきまで泣いとったカラスがもう笑っとるんか。」
手を伸ばし私の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
………。
初めてだ。。真島さんにさわられたの。
「それでええんや。けいちゃんはいつも笑っとらなあかんのや。」
「…え…?」
真島さんは優しい目で私を見つめている。
「なぁんせ真島建設の旗振り役やからな。頼りにしとるんやで。」
思いがけない人からの思いがけず優しい言葉。
違う涙がじわっと滲んで。
「泣くなや〜」
笑いながら今度は頭をガシガシ撫でる。
真島さん、優しすぎるよ。
好きになっちゃいそうじゃない。
…泣かないで 2020.3.25
たかが1年。されど1年。
まるで砂の城が崩れるみたいに、あの人はあっけなく消えていった。
今思えば、いつかこんな日が来るって、始めから分かってたような気もする。
優しい人だった。
とてつもなく優しくて、そして、とても冷たい人。
爽やかな笑顔で、柔らかい言葉で、さりげない態度で、私の全てを受け止め、壊した人…
「…ちゃん、けいちゃん。」
「あ…はい。」
「な〜にボサッとしとるんや〜。早よ食わんと焦げてまうで。」
目の前でじゅうじゅうと音をたてて肉が焼けている。
「あ、ありがとうございます。」
「ほら、どんどん食いや〜」
嬉しそうに私のお皿に肉を放り込む。
真島さんは、取引先の真島建設の社長だ。
私は、月に一度真島建設の帳簿をチェックするために会社を訪問している。
担当になりかれこれ1年が経つ。始めはこちらの話を軽く聞き流していた真島さんも、ここ最近は私の提案に素直に耳を貸してくれるようになった。
そんな真島さんは、仕事が終わるといつも私をご飯に連れていってくれる。
「お疲れさん。さてと、今日は何食いに行こか?」
今月も無事に入力チェックが終わり、パソコンを閉じた私に真島さんが言う。
「あ…真島さん、すいません。今日はちょっと、パスさせてください。」
「なんや、予定あるんか?」
「いえ、そうじゃないんですけど…ちょっと、食欲なくて…」
「どないしたんや?いつもなら何食べます〜?て食いついてくるんに」
「人を食いしんぼうみたいに言わないでくださいよ。」
男か?
思わず心臓がピクッとする。真島さんは何気に勘が鋭い。
「……まあ…。そんなところです。」
真島さんは少し考えたあと、
「よっしゃ、ほんなら焼肉やな。いくで。」
と手を叩く。
「は?今の聞いてました?
食欲ない人間に、よりによってなんで焼肉なんですか?」
「ええやんか。今月はけいちゃんのアドバイスで売上目標もクリアやったし、スタミナつけて明日からまたハッスルや。」
ハッスル発言に突っ込む気力もなく、なんだかんだと真島さんのペースに巻き込まれ、結局、韓来へ。
「やっぱりここの肉はごっついな〜。」
なんて言いながら、上機嫌でビールを煽っている。
「真島さんて、いつもテンション変わらないですよね。その性格、うらやましいです。」
皿に盛られた肉をつつきながらつぶやく。
「そんなことあらへんで。ワシかてけいちゃんが知らんとこで、フラれて枕濡らすこともあるわ。」
煙草に手を伸ばし、火をつけながら真島さんは言う。
「え?嘘でしょ?真島さんが?」
「せやで。こう見えてもガラスのハートっちゅうやつや。」
ククッと笑い、煙を吐き出す。
思ってもないことをさらっと言える真島さんがあの人に重なり、何だか無性に腹が立った。
「なんでそんな嘘つくんですか?
真島さん、仕事できるし、男前だし、優しいし、お金持ちだし、失恋なんてしたことないでしょ。
いや、むしろ女泣かせてますよね?
最低じゃないですか!ひっどい男!
真島さんみたいな男がいるから、泣かされる女がいるんですよ!」
ぶつけるべきじゃない相手に、ぶつけるべきじゃない言葉をぶつけてるって分かってるけど、一度口から出た思いは留まることを知らない。
そんな私を真島さんはじっと見つめている。
「けいちゃん、フラれたんか。」
煙をゆっくり吐き出しながら、低い声でつぶやいた。
「そうですよ!悪いですか?!
すごく優しい人だったんですよ。素敵な人だったんですよ。あんなに好きだったのに…。なんで…。」
止まらない。涙が、溢れて止まらない。
どうして。
どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
私はどうすればよかったの?
この恋の正解を誰か、教えてほしい。
「…泣かんでええ。」
煙草の火を灰皿に押しつけ、真島さんは静かに言う。
「そんなしょーもない男のために、けいちゃんが泣くことないわ。」
「…しょーもない…?って…?」
…真島さんにしょーもないって言われた瞬間、何だか急にすべてが見えた気がして。
ああ。そうか。きっとしょうもない人だったんだ。どうしようもなくしょうもなかったんだ。
私があの人に始めに感じた違和感は、やっぱり間違ってなかったんだ。
そう気づいたら、いつのまにか泣きながら笑ってた。
「なぁんやねん。さっきまで泣いとったカラスがもう笑っとるんか。」
手を伸ばし私の頭をくしゃくしゃっと撫でる。
………。
初めてだ。。真島さんにさわられたの。
「それでええんや。けいちゃんはいつも笑っとらなあかんのや。」
「…え…?」
真島さんは優しい目で私を見つめている。
「なぁんせ真島建設の旗振り役やからな。頼りにしとるんやで。」
思いがけない人からの思いがけず優しい言葉。
違う涙がじわっと滲んで。
「泣くなや〜」
笑いながら今度は頭をガシガシ撫でる。
真島さん、優しすぎるよ。
好きになっちゃいそうじゃない。
…泣かないで 2020.3.25
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