君とごはん
「なんで、間違えてんだよ!」
買い物から帰ってきた二世が手にしたパックをテーブルに叩き付けた。
「どうしたんだよ、二世?」
リビングで打合せをしていた真吾、妖虎にヨナルデ、ピクシーたちが二世の叫びを聞きつけてやって来た。
「何を怒っておるんじゃ?」
「どうもこうもねえよ!」
二世の話を要約すると、ドイツ料理のアイスバインを作ろうといつもは行かぬ肉屋に豚の脛肉を求めて行ったのに出てきたのは豚足でそれに気づかずに買って帰って来てしまったらしい。
「二世のうっかり屋さん」
「ほんとにうっかり〜!」
「オレはちゃんと、アイスバイン用に豚の足を一本って言ったんだよ!」
ピクシーの煽りに噛み付いた二世に、ヨナルデがため息混じりに言う。
「豚の足にはかわりないわさ」
同じく苦笑する真吾の脇から妖虎が手を出して、豚足を眺める。
「ほう、上物ではないか」
「良かねぇよ!アイスバインには向かねえし!」
「電鍋はあるか?」
「あ、なんだ?そんなもんねぇよ!」
「でも、炊飯器はあるじゃろう?とにかく鍋に湯を沸かせよ」
渋々、鍋を火にかける二世を他所に冷蔵庫を漁ると、ネギの青い部分をへし折って湯の中に豚足と共に投げ込んだ。
「適当に茹でてくれ、炊飯器はどこじゃ?」
「ここにあるよー」
「なんにつかうの?」
ピクシーたちを退かせて、内釜を取り出すと懐から引き出した酒瓶からとくとくと琥珀色のそれを注ぎ込む。
「黒糖と生姜はあるか?」
「生姜はあるが、きび糖じゃダメか?」
「上等、上等」
渡された生姜を爪で引き裂いて、これでもかと砂糖を入れた。
「豚足をここに」
湯気の上がるそれを放り込むと炊飯器に戻して、スイッチを入れた。
「あとは、放っておくだけじゃ、ささ悪魔くん」
「そうだ、話し合いの最中だったわさ」
茹で汁と二世をキッチンに残して、そそくさとリビングに引き上げた。
◆◇◆
「うん、それなら上手くいきそうかな?」
「過去の事例からしても中国の悪魔は地方性が強いんだわさ」
「儂は幻の酒を求めて全土を幾度となく巡っておるからな」
話し合いがまとまりかけたところに、
「できたぞ!」
と、二世が鉢に盛った豚足をどんと置いた。
白っぽかった姿はすっかりと変わり、照りのきいた琥珀色になりぷるぷると震えていた。
「書類がー」
「退かさないと」
ピクシーたちがテーブルを走り回って集めた書類を他の三人が取りまとめて、避難させた。
取皿と箸が配られ、恐る恐る真吾が口に運んだ。
「ん!とろっとろに柔らかくて、美味しい!」
「そうじゃろ、良い紹興酒を使ったからな」
からからと笑って、再び取り出した酒を盃に注いでヨナルデと真吾へ勧める。
「フェイジョアーダとはまた違った味わいであるな」
ヨナルデも小さく割いた肉をピクシーたちに取り分けながら、舌鼓を打つ。
「八角か茴香があればー」
「もっと本格的かもー?」
「妖虎、何を呑んでんだよ!」
そこへ文句を言いつつ鍋を持った二世が戻ってきた。
「それはなあにー?」
「別の料理?」
興味津々のピクシーたちがまとわりつくなか、蓋を開けると中からは卵粥が姿を現した。
「折角のスープが勿体ねぇからな」
椀についで渡しながら妖虎を睨む。
「打合せ中に飲まねえで飯を食え!」
「ほう、葱と生姜が効いておるな」
盃を置いて箸をつけた妖虎が頷く。
「いい出汁が出てたから、塩とごま油だけでシンプルにした」
「さっぱりして美味しいよ」
真吾か笑顔で告げると、二世が得意気に胸を張った。
「二世の奴、悪魔くんの前で儂の株が上がるのが許せなかったとみた」
小声で呆れたように言うと、
「図体やら魔力は成長しても、根っこのところはかわらないのであるな」
と、同じく小声でヨナルデが返した。
「悪魔くんにラブなんだよねー」
「ねー、ずっと一緒なのにー」
きゃらきゃらとピクシーたちが笑うのにも気づかず、
「もう、そんなに食べられないよ」
と、苦笑する真吾の給仕に夢中の二世だった。