君とごはん


「んん、んーっ」
息苦しさにじたじたとするも一向に改善されず、まだくっついていたがる目を開けると眼前に白い面。
仕事で動けない真吾の代わりに天界と悪魔界の折衝のため、半月ほど出ずっぱりのはずの二世が何故かいつもの礼装のまま真吾にぎゅうぎゅうに抱き着いていた。
「どうしたの、きみ……」
なんとか腕を緩めさせて、熟睡する二世の頬を指先でたたくとぱちりと目が開いた。
「しん、ご……」
再び巻き付こうとする腕をなんとか押さえて、
「もう話し合い終わったの?」
と、問うとむにゃむにゃと答える。
「んん、まだ……」
「じゃあ、どうして戻ってきたの?」
「ん、しんご」
それだけ言うとまた、ぎゅうと抱きついて頬にキスした。
目を閉じたまま、盲滅法に顔中にキスをすると満足して寝息を立てたので起こさないようにベッドを出た。

◆◇◆

「甘えに帰ってきたな」
苦笑してコーヒーメーカーに挽いてあった粉をセットする。
「さて、起きたらすぐに戻るんだろうな」
呟きに知らず、昨日までの寂しかった気持ちが混ざってしまい振り払うように首を振った。
「せめて、ごはんを食べてから送り出したいな」
冷蔵庫を開けるも二世の不在と仕事の繁忙期のため、外食やらテイクアウトで済ませていたためにドレッシングや牛乳ぐらいしか入っていなかった。
仕方無しに備蓄品の棚を見るとパスタの乾麺と缶詰のソーセージが見つかって思案する。
「あ、卵がそろそろ賞味期限だった」
冷蔵庫に戻って卵のシールを確認すると、明日の日付が印されている。
「久しぶりにあれを作るか」
鍋に水を張って、塩を二摘み入れて火にかける。
缶詰を開けて、ソーセージを適当に切ってから、
「玉ねぎなんて、、ないからなぁ……」
と、ぼやきながら冷凍庫からミックス野菜を出してレンジで解凍する。
湯が湧いたところで袋に残っていたパスタを投入。
一番大きいフライパンにオリーブオイルを引いて、火にかけて温まったところにチューブのにんにくを入れるとぱちぱちと跳ねるのにビビりつつもソーセージとミックス野菜を入れて炒める。
スマホのタイマーが鳴ったので、慌てて火を止めてパスタを笊に空けるも、
「すごい、増えた……」
と、笊に山盛りになったのを見て困ってしまう。
フライパンには入らないので空になった鍋にオイルを引いてフライパンの中身を入れて、そこにパスタも入れてなんとか塩コショウをして混ぜたところへありったけの牛乳を注ぎ込む。
なおも混ぜながら牛乳がふつふつと沸いて来たところへ、冷凍庫にあった卵を割り入れてざっくりと混ぜて火を止めた。

◆◇◆

「二世、起きて!ごはんだよ!」
「ん、しんご……」
揺さぶるといびきをかいて寝ていてもすぐに目が開いて、真吾へ抱きつこうと腕を伸ばす。
その手を取って半身を起こさせてからもう一度、肩を掴んで起こさせると、
「僕がご飯を作ったから、食べようよ」
その言葉に、二世がすぐさま覚醒した。
「へ?真吾が?!」
「うん、君みたいに上手くいかなかったけど」
「なに、作ったんだ?」
「貯蔵してあった材料で、カルボナーラ」
「まじ、か?」
「うん、たくさん作っちゃったけど食べられる?」
返事をする前に腹の虫が答えて、真吾がふふと笑った。

◆◇◆

「すげぇ、量だな」
テーブルに置かれた鍋いっぱいのパスタに二世が笑う。
「まぁ、足りなくて困るってことはねぇか」
そう言って座ると甲斐甲斐しく、真吾が取皿とフォークを持ってきて食事となった。
薄黄色のクリームたっぷりのパスタの間からソーセージやブロッコリー、にんじんが覗いていて色味は決してわるくはない。
フォークに巻き付けて口に運ぶと、優しい味わいの奥からソーセージの塩気と共にかすかににんにくの香ばしさが漂うのが良くてすぐにおかわりをした。
「味、薄くない?」
「乾麺に塩分があるから、それほどでもねぇよ」
黙々と食べるも鍋にはまだ半分ほどのパスタが残った。
「やっぱり、多過ぎた……」
困ったように呟いた真吾に大きなジップ袋を持って来させると、鍋の中身を入れた。
「冷凍でもするの?」
「いや、持っていく」
「え?」
「折角、真吾がオレのために作ってくれたんだから弁当代わりにする」
そう言うとどうやったのか、被ったままだったシルクハットの中へと押し込んだ。
「ちょっと、恥ずかしいし止めてよ!」
「いいだろ!ちゃんと食うんだから!」
二世にハットを取ろうと伸ばされた手を掴んで、
「なぁ、仕事に遅刻してねぇか?」
と、八時をとっくに過ぎた時計を示した。
「あ、まずい!」
慌てて寝室に飛び込んだ真吾が着替えもせずに戻ってきて、
「お疲れ様」
と、頬にキスをしたので、
「このまま、お互い休みになんねぇかな」
と、呟くも真吾の耳には届かなかった。


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