君とごはん

「さっむい……」
二世の背からベランダへ降りた途端、大きく身震いをして呟いた。
「暗くなる前にって急いで、風を切ってきてからな」
被っていたハットを指先に引っ掛けて同じように冷えているはずの二世が苦笑する。
「それでもすっかり夜になっちゃったね」
言いながら入ったマンションの室内も留守の間に火の気があるでもなく冷え切っていたので慌ててエアコンをつけると、マフラーも取らずにソファへ沈み込んだ。
「何か温かいものが欲しい…」
そう言って立ったままの二世を見上げるも、
「オレも結構、疲れてんだがよ」
珍しく口をへの字に曲げたところにふふ、と笑いを漏らす。
「でも、ちょっと飛んでいくか電車に乗る元気はある?」
「真吾のちょっとはなんか怖いんだよな」
まだ口元を緩めない相棒の手を引いて告げる。
「百目の下宿先だから十分もかからないだろ?」
そう言って不器用に片眼を瞑ってみせると、途端に顔が緩んだ。
「張さんの中華!ラーメン!」
軽く飛び上がってから、
「着替えて飛んでくっから、真吾はコート脱ぐなよ!」
それだけ言ってばたばたと寝室に引っ込んだかと思うと、街へ出ても悪目立ちしない格好に着替えて戻る。
「さあ行こう、すぐに行こうぜ」
真吾の手を取り、再びベランダに出る。
さっきの疑いの目はなんだったのかと問いただしたくもあるが、鼻歌まで歌って浮かれている二世の耳はすり抜けてしまうだろう。
「ねえ、あんまり飛ばさないでね」
それだけ言って二世の肩に手を掛けた。

◆◇◆

「悪魔く〜ん!と、二世いらっしゃいだモン!」
戸を開けた途端に、エプロンに三角巾の百目が飛んできて思わず苦笑する。
「ご飯食べに来たんだ」
「おい、真吾とオレで態度が違くねえか」
後ろから暖簾を掻き分けた二世が憮然とした声を上げるも、
「寒いからカウンターに座るんだモン」
と、真吾の背中を押して行ってしまった。
「オレも客なんだが?!」
「わかってるから、早く座るんだモン」
真吾の隣の席を開けた百目がお冷を置いたので、渋々そこへ落ち着く。
「二世は味噌ラーメンなんだモン?」
「野菜多めの味噌とチャーハン、レバニラと餃子」
「食べるね」
そう笑ったものの当の真吾の視線はメニューの上を行ったり来たりしている。
「どうした、真吾?」
「寒いからラーメンの気分だったんだけど、天津飯も捨てがたくて……」
その言葉に百目が手を打つ。
「だったら天津麺にするんだモン」
「え、メニューにそんなのないよ?」
「作れるんだモン、ねぇ張さん」
「ハイよ」
厨房から威勢の良い声がかえってきて、
「じゃあ、それをおねがいします」
と、言うとカンとお玉で中華鍋を叩いて答えた。
「まずは二世の餃子、ボクが焼いたんだモン」
皮目もパリッと焼けた餃子が供されて、二世が皿と百目を交互に見ながら割り箸を割る。
「ちゃんと火が通ってんだよな?」
「当たり前なんだモン!」
「ふん、真吾も食うだろ?」
「百目の餃子なら一個貰おうかな」
小皿に酢とラー油を入れたところへ、思い切り胡椒を振りかけた二世とは別に酢醤油を作ってつけても口に運ぶ。
「ん、美味しいよ」
「おう、大したもんだ」
最初は不安そうだった二世も食べ始めたらぺろりと空になった。
「ハイ、レバニラにチャーハン!」
どん、とカウンターにごま油の香りも良い熱々の料理が並ぶ。
「ハイ、天津麺ネ!」
「わぁ」
たっぷりのあんの下の卵を箸で割ると、もやしと醤油ベースの麺が現れて思わず声が上がった。
「あったまる」
「よかったな」
箸とレンゲを器用に使い分けながらレバニラとチャーハンを腹に納めつつ、二世がわが事のように笑う。
「野菜多めの味噌ネ!」
もやしやらキャベツやらで山ができたラーメン鉢が置かれて、
「これは多すぎだろっ?!」
「サービスネ!」
そう言い切ってかんらと笑う、店主に、
「ありがとうよ」
と、答えて辛味のある味噌ラーメンを大きな口で吸い込むように食べてゆく。
「熱くないの?」
「美味いから平気、真吾は?」
「あんのせいか全然、冷めなくて」
舌先を出して、舐めるようにお冷を飲む真吾の背中をぽんと叩いて、
「待ってるから、伸びない程度にゆっくり食えよ」
と、言ってから笑った。

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