君とごはん
「お月見団子を作らない?」
見えない学校での会議のあと、幽子が言った。
「今夜は中秋の名月だからみんながよかったらだけど……」
唐突な発言に面食らった面々が黙っていると、徐々に声が小さくなる。
「うん、いいんじゃないかな」
真吾がにっこり笑って口火を切ると、
「食べたーい!」
「ボクは作ってみたいんだモン」
「つまみにはならんが手伝おうかのう」
「ただなら食べてやってもいいでやんす」
「こうもり猫、あんたは…!」
皆が口々に賛同したので心配そうだった幽子の表情がふんわりと笑顔に変わる。
◆◇◆
「買って来たんだモン」
人間界へ買い出しに行った百目・二世・真吾が戻ると、買い物袋を受け取る。
「なあ、上新粉とかもち米とかじゃなくていいのか?」
「うん、白玉粉とお豆腐でふわふわもちもちのができるのよ」
どこかから持ってきた巨大なボウルに勢いよく粉と豆腐をあける。
「ようくしっかり混ぜてね」
「わかったぞう」
しかっり洗った手をぬぐった象人が勢いよく粉と豆腐を混ぜる。
「バウー」
反対側でボウルがうごかないように抑えている家獣にも気合が入る。
「水はいれないのであるか?」
不思議そうにヨナルデが尋ねる。
「お豆腐ってほとんどが水分だからこれだけで大丈夫なの」
「混ざったぞう」
「少し冷やしておきたいのだけど」
言いながら視線を向けられた二世が、
「しかたねえな」
と、ステッキを取りだして魔力・絶対零度で氷を作りだしたそのうえにボウルを乗せた。
「こんなことのためにオレの魔力は……」
ぼやく二世の肩を真吾がねぎらうように撫でた。
「次はお湯を沸かさないと」
なみなみと水の入った鍋を家獣が持ってきたのを見て、
「コーン、エッサムコーン」
と、ユルグが狐火を灯す。
「ナスカちゃんと学者はお団子を丸めてお鍋にいれて」
「わかったわ」
「任せるのである」
「家獣は大きな入れ物に水をお願い、象人はこの氷を砕いて水に入れて」
「わかったぞう」
「バウー」
「百目ちゃんとサシペレレは浮いてきたお団子をお玉で掬って氷水へ」
てきぱきと皆に指示を振るたびに豆ユーレイたちもあっちへふわふわ、こっちへふわふわと大忙し。
「ねえねえ」
「僕らは?」
ピクシーたちが幽子の袖を引く。
「ピクシーちゃんたちはみたらしのたれを作ってもらおうかしら」
「では、儂も付き合おう」
妖虎の肩にピクシーたちが飛び乗った。
「二世さんたちは……」
「オレは他にすることがあるからパス」
そう言うとさっさと飛んで行ってしまったので、
「僕はお団子作りに混ぜてもらおうかな」
と、苦笑してナスカの隣に並ぶ。
「ありがとう、悪魔くん」
「じゃあ、あっしは皆さんを応援……」
「こっちで掬うのを手伝えよ」
「ズルはいけないんだモン」
作業から逃れようとしたこうもり猫もしっかりと捕まった。
◇◆◇
「やっとおわった……」
ざるに山と積まれた団子を見て壮観と思うよりも疲れが顔を出してみんな、我知らず苦笑する。
「形のよさそうなのを幾つか先にいただくわね」
器用に同じ大きさの団子を取って串にさしていく。
「すこしだけ串にさしてどうするんだい?」
「飾るのよ」
いつの間にか用意した三方の和紙の上に、貫かれた団子を丁寧に並べた。
「食べるにはちょうどいいけど、重ねるには柔らかすぎるの」
そんなことを言いながら重ねて言った一番上には、
「初栗よ」
と、月のように黄色いゆでた栗が乗せられた。
「おうおう、できたか?」
飛んできた二世が大皿を片手にふわりと舞い降りた。
「二世さん、何を作ってきたの?」
「へへ、お月見のツマミにスパニッシュオムレツなんぞな」
皿の上には言葉の通り、まん丸のオムレツ。
「急だったから、ポテトの他はミックスベジタブルの手抜きだがな」
言いながらもう一方の手に持っていたワインのボトルを真吾に押し付ける。
「妖虎も酒は用意してるんだろ」
「もちろんじゃ」
懐からいつもの酒瓶を取り出した。
「校内は禁酒じゃから、庭にでようぞ」
ヨナルデに言われて団子や皿を持ってぞろぞろと外に出ると、
「ほほう、月見かね」
と、博士がやってきて、
「ここからでは見にくいからのう」
と、杖を振るうと桃色の空が裂けて藍色の空に白い月が顔を出した。
それを見て歓声が上がる。
各々、酒盃や茶器を片手に乾杯をすると団子に手を伸ばす。
「たれはこっちだよ」
「あんこもあるよ」
柔らかな団子に甘いたれや粒ののこるあんを掛けて銘々、楽しむ。
飲ん兵衛たちはチーズやハーブを効かせたオムレツを突きながら、酒を呷る。
「ねぇ、二世は酔ってる?」
「いんや、妖虎らに取られて湿らす程度にしか」
「じゃあ、僕を乗せて飛んで」
言われるままに背中に真吾を乗せて飛び上がった。
「どこ、行くんだ?」
「あ、こっち」
言われて学校の屋根に降りる。
「見えない学校ともお月見したくてね」
そう言って笑う真吾の隣に腰を下ろした。
◆◇◆
「あれ、悪魔くんは?」
「あそこよ」
幽子の指差す方に、皆の視線が集まる。
「ほほ、一緒に月見とはのう」
博士が顎髭をしごきながら嬉しそうに笑う。
「いつもは離れ離れだけど、たまには一緒もいいわよね」
そう言って微笑む幽子に倣って、皆も頬を緩めた。
見えない学校での会議のあと、幽子が言った。
「今夜は中秋の名月だからみんながよかったらだけど……」
唐突な発言に面食らった面々が黙っていると、徐々に声が小さくなる。
「うん、いいんじゃないかな」
真吾がにっこり笑って口火を切ると、
「食べたーい!」
「ボクは作ってみたいんだモン」
「つまみにはならんが手伝おうかのう」
「ただなら食べてやってもいいでやんす」
「こうもり猫、あんたは…!」
皆が口々に賛同したので心配そうだった幽子の表情がふんわりと笑顔に変わる。
◆◇◆
「買って来たんだモン」
人間界へ買い出しに行った百目・二世・真吾が戻ると、買い物袋を受け取る。
「なあ、上新粉とかもち米とかじゃなくていいのか?」
「うん、白玉粉とお豆腐でふわふわもちもちのができるのよ」
どこかから持ってきた巨大なボウルに勢いよく粉と豆腐をあける。
「ようくしっかり混ぜてね」
「わかったぞう」
しかっり洗った手をぬぐった象人が勢いよく粉と豆腐を混ぜる。
「バウー」
反対側でボウルがうごかないように抑えている家獣にも気合が入る。
「水はいれないのであるか?」
不思議そうにヨナルデが尋ねる。
「お豆腐ってほとんどが水分だからこれだけで大丈夫なの」
「混ざったぞう」
「少し冷やしておきたいのだけど」
言いながら視線を向けられた二世が、
「しかたねえな」
と、ステッキを取りだして魔力・絶対零度で氷を作りだしたそのうえにボウルを乗せた。
「こんなことのためにオレの魔力は……」
ぼやく二世の肩を真吾がねぎらうように撫でた。
「次はお湯を沸かさないと」
なみなみと水の入った鍋を家獣が持ってきたのを見て、
「コーン、エッサムコーン」
と、ユルグが狐火を灯す。
「ナスカちゃんと学者はお団子を丸めてお鍋にいれて」
「わかったわ」
「任せるのである」
「家獣は大きな入れ物に水をお願い、象人はこの氷を砕いて水に入れて」
「わかったぞう」
「バウー」
「百目ちゃんとサシペレレは浮いてきたお団子をお玉で掬って氷水へ」
てきぱきと皆に指示を振るたびに豆ユーレイたちもあっちへふわふわ、こっちへふわふわと大忙し。
「ねえねえ」
「僕らは?」
ピクシーたちが幽子の袖を引く。
「ピクシーちゃんたちはみたらしのたれを作ってもらおうかしら」
「では、儂も付き合おう」
妖虎の肩にピクシーたちが飛び乗った。
「二世さんたちは……」
「オレは他にすることがあるからパス」
そう言うとさっさと飛んで行ってしまったので、
「僕はお団子作りに混ぜてもらおうかな」
と、苦笑してナスカの隣に並ぶ。
「ありがとう、悪魔くん」
「じゃあ、あっしは皆さんを応援……」
「こっちで掬うのを手伝えよ」
「ズルはいけないんだモン」
作業から逃れようとしたこうもり猫もしっかりと捕まった。
◇◆◇
「やっとおわった……」
ざるに山と積まれた団子を見て壮観と思うよりも疲れが顔を出してみんな、我知らず苦笑する。
「形のよさそうなのを幾つか先にいただくわね」
器用に同じ大きさの団子を取って串にさしていく。
「すこしだけ串にさしてどうするんだい?」
「飾るのよ」
いつの間にか用意した三方の和紙の上に、貫かれた団子を丁寧に並べた。
「食べるにはちょうどいいけど、重ねるには柔らかすぎるの」
そんなことを言いながら重ねて言った一番上には、
「初栗よ」
と、月のように黄色いゆでた栗が乗せられた。
「おうおう、できたか?」
飛んできた二世が大皿を片手にふわりと舞い降りた。
「二世さん、何を作ってきたの?」
「へへ、お月見のツマミにスパニッシュオムレツなんぞな」
皿の上には言葉の通り、まん丸のオムレツ。
「急だったから、ポテトの他はミックスベジタブルの手抜きだがな」
言いながらもう一方の手に持っていたワインのボトルを真吾に押し付ける。
「妖虎も酒は用意してるんだろ」
「もちろんじゃ」
懐からいつもの酒瓶を取り出した。
「校内は禁酒じゃから、庭にでようぞ」
ヨナルデに言われて団子や皿を持ってぞろぞろと外に出ると、
「ほほう、月見かね」
と、博士がやってきて、
「ここからでは見にくいからのう」
と、杖を振るうと桃色の空が裂けて藍色の空に白い月が顔を出した。
それを見て歓声が上がる。
各々、酒盃や茶器を片手に乾杯をすると団子に手を伸ばす。
「たれはこっちだよ」
「あんこもあるよ」
柔らかな団子に甘いたれや粒ののこるあんを掛けて銘々、楽しむ。
飲ん兵衛たちはチーズやハーブを効かせたオムレツを突きながら、酒を呷る。
「ねぇ、二世は酔ってる?」
「いんや、妖虎らに取られて湿らす程度にしか」
「じゃあ、僕を乗せて飛んで」
言われるままに背中に真吾を乗せて飛び上がった。
「どこ、行くんだ?」
「あ、こっち」
言われて学校の屋根に降りる。
「見えない学校ともお月見したくてね」
そう言って笑う真吾の隣に腰を下ろした。
◆◇◆
「あれ、悪魔くんは?」
「あそこよ」
幽子の指差す方に、皆の視線が集まる。
「ほほ、一緒に月見とはのう」
博士が顎髭をしごきながら嬉しそうに笑う。
「いつもは離れ離れだけど、たまには一緒もいいわよね」
そう言って微笑む幽子に倣って、皆も頬を緩めた。