約束【メィリツ】
「リツカ」
「っわ、!?」
部屋で本を読んでたらいきなり耳元で声がしたから急いで振り向くと、横にメィジが立っていた。
「そんなびっくりする事かぁ?」
「ノックしてって言ったでしょ!」
「ドアから入ってきてねえからなあ……つかノックしないと駄目な事あんのか?」
「……、着替え中、とかだったら恥ずかしい、でしょ……」
「お、おお……そうか……」
「もう、赤くならないでよ!」
「いやオマエもなってるだろ!?」
「ううう……着替えてくるから、待っててね!」
そう言い切ると急いで母さんの所へ向かう。ああ、彼は何て言うだろう?
***
「よぉ」
「あ、メィジ」
「支度は出来たか、よ……」
「うん。……どう?」
「……」
「め、メィジ……?」
「すげぇ、キレイだ」
「!」
メィジは、真っ直ぐだ。少し乱暴な言葉遣いの中に隠れているけど、いつだって真っ直ぐな愛情を私にくれる。だから私はいつだってその真っ直ぐさにぎゅっと抱き締められているような感覚なのだ。数日前にこれまたいつも通りいきなり現れて、花火大会に誘ってくれたメィジを思い出す。いつだって、私が喜ぶんじゃないかと考えてくれるメィジ。
ああ、すきだ。すき、すき、すき。大好き。メィジが大好き。
「……リツカ?」
「メィジも、かっこいいよ」
「っはぁ!?」
***
「……それが、浴衣ってやつか?」
「うん、そう。母さんとアズナと一緒に選んだんだ」
夜道を歩きながらぽつりぽつりと会話をする。からん、ころん、とした下駄の音がまた非日常を生み出しているようでワクワクする。白地に赤や黒の金魚が描かれたもの。アズナが「今はこういうレトロなのが流行ってるんだって!」なんて言っていた。帯は母さんおすすめの片花文庫という形にした。
「何か、髪もふわふわしてんだな」
「うん。前髪はふわっとさせて、後ろは編み込んであるの」
どうせなら髪型もいつもと違うものがいいんだけど、どうすればいいのか分からず困っていた私を助けてくれたのもアズナだった。最初うまく出来ずに焦っていた私を助けてくれたのもアズナ。
「歩きにくくねえのか?」
「そんな早足じゃなきゃ大丈夫だよ。メィジはいつもの服なんだね?」
少し、ほんの少しだけ甚平着てくれないかなあと期待していたんだけど。嫌がるだろうなあとも思ってたから無理強いはしないしそこまで落胆もしていない。
「動きにくいと何かあった時オマエを守れないだろ」
「えっ」
「ったく、ウリエのやつはあんな服でどうやって動き回ってんだ?」
ああ、もう、どうしよう。メィジを知る度に、言葉を交わす度に、触れる度に、好きの上限が上がっていく。
***
それから会場に着いて屋台を巡っているとあっという間に時間が経って……花火が打ち上げられる時間になったので二人して歩き始めた時の事。
「あっ、」
「リツカ、大丈夫か」
「あ……うん、大丈夫」
人にぶつかってしまった拍子に、よろけてしまって思わず体勢を崩す。持っていたかき氷が相手や他の人、そして浴衣にも染みを作ってなくてほっとする。
「ほら」
「えっ!?」
気付くと丘に立っていて、あまりに突然のことだったのでアクマはすごいなあ、なんて思った。
「怪我……は、してねえみたいだな」
「あ、うん……ありがとう」
「ほらな、いつもの服で良かったろ」
「うん……メィジ、ごめんね」
「何がだ?」
「花火、」
見えないね、と言いかけたその時。ドン、といった音がして反射的にその方角を見る。そこは空だった。真っ暗な空に色とりどりの花火が咲いていたのだ。
「……なんで、」
ぽかんとした私にメィジは、穴場を兄さんから教わったのだと種明かししてくれた。
***
「なあリツカ」
それは、花火が一通り終わって、そろそろ帰ろうかといった時だった。
「?なあに?」
「これ……受け取ってくんねえか」
「指輪?屋台の?」
「オマエに……似合うと思ったんだ」
「……ありがとう、すごく、嬉しい」
「おう!次はもっときちんとした指輪渡すからな!」
「、つぎ」
「?ああ、次」
自惚れてしまう、こんなの。次、だなんて。
「……プロポーズ、みたいだなって」
「は!?」
思わず小声になってしまったけれど、メィジの耳にはきちんと届いてたみたいで。途端にあたふたし出すメィジを見て、どんどん頬に熱が集まってくるのが分かる。
「いや、その、えっと、」
「……将来」
「え?」
「将来、必ずこれよりも良い指輪をオマエに贈る。約束、だ」
「約束、してくれるの」
「当たり前だ!一度誓ったことは曲げねえ」
真っ暗闇の中。お互いの顔はきっと真っ赤で。そしてそのまま、引き寄せられるようにキスをした。
END
「っわ、!?」
部屋で本を読んでたらいきなり耳元で声がしたから急いで振り向くと、横にメィジが立っていた。
「そんなびっくりする事かぁ?」
「ノックしてって言ったでしょ!」
「ドアから入ってきてねえからなあ……つかノックしないと駄目な事あんのか?」
「……、着替え中、とかだったら恥ずかしい、でしょ……」
「お、おお……そうか……」
「もう、赤くならないでよ!」
「いやオマエもなってるだろ!?」
「ううう……着替えてくるから、待っててね!」
そう言い切ると急いで母さんの所へ向かう。ああ、彼は何て言うだろう?
***
「よぉ」
「あ、メィジ」
「支度は出来たか、よ……」
「うん。……どう?」
「……」
「め、メィジ……?」
「すげぇ、キレイだ」
「!」
メィジは、真っ直ぐだ。少し乱暴な言葉遣いの中に隠れているけど、いつだって真っ直ぐな愛情を私にくれる。だから私はいつだってその真っ直ぐさにぎゅっと抱き締められているような感覚なのだ。数日前にこれまたいつも通りいきなり現れて、花火大会に誘ってくれたメィジを思い出す。いつだって、私が喜ぶんじゃないかと考えてくれるメィジ。
ああ、すきだ。すき、すき、すき。大好き。メィジが大好き。
「……リツカ?」
「メィジも、かっこいいよ」
「っはぁ!?」
***
「……それが、浴衣ってやつか?」
「うん、そう。母さんとアズナと一緒に選んだんだ」
夜道を歩きながらぽつりぽつりと会話をする。からん、ころん、とした下駄の音がまた非日常を生み出しているようでワクワクする。白地に赤や黒の金魚が描かれたもの。アズナが「今はこういうレトロなのが流行ってるんだって!」なんて言っていた。帯は母さんおすすめの片花文庫という形にした。
「何か、髪もふわふわしてんだな」
「うん。前髪はふわっとさせて、後ろは編み込んであるの」
どうせなら髪型もいつもと違うものがいいんだけど、どうすればいいのか分からず困っていた私を助けてくれたのもアズナだった。最初うまく出来ずに焦っていた私を助けてくれたのもアズナ。
「歩きにくくねえのか?」
「そんな早足じゃなきゃ大丈夫だよ。メィジはいつもの服なんだね?」
少し、ほんの少しだけ甚平着てくれないかなあと期待していたんだけど。嫌がるだろうなあとも思ってたから無理強いはしないしそこまで落胆もしていない。
「動きにくいと何かあった時オマエを守れないだろ」
「えっ」
「ったく、ウリエのやつはあんな服でどうやって動き回ってんだ?」
ああ、もう、どうしよう。メィジを知る度に、言葉を交わす度に、触れる度に、好きの上限が上がっていく。
***
それから会場に着いて屋台を巡っているとあっという間に時間が経って……花火が打ち上げられる時間になったので二人して歩き始めた時の事。
「あっ、」
「リツカ、大丈夫か」
「あ……うん、大丈夫」
人にぶつかってしまった拍子に、よろけてしまって思わず体勢を崩す。持っていたかき氷が相手や他の人、そして浴衣にも染みを作ってなくてほっとする。
「ほら」
「えっ!?」
気付くと丘に立っていて、あまりに突然のことだったのでアクマはすごいなあ、なんて思った。
「怪我……は、してねえみたいだな」
「あ、うん……ありがとう」
「ほらな、いつもの服で良かったろ」
「うん……メィジ、ごめんね」
「何がだ?」
「花火、」
見えないね、と言いかけたその時。ドン、といった音がして反射的にその方角を見る。そこは空だった。真っ暗な空に色とりどりの花火が咲いていたのだ。
「……なんで、」
ぽかんとした私にメィジは、穴場を兄さんから教わったのだと種明かししてくれた。
***
「なあリツカ」
それは、花火が一通り終わって、そろそろ帰ろうかといった時だった。
「?なあに?」
「これ……受け取ってくんねえか」
「指輪?屋台の?」
「オマエに……似合うと思ったんだ」
「……ありがとう、すごく、嬉しい」
「おう!次はもっときちんとした指輪渡すからな!」
「、つぎ」
「?ああ、次」
自惚れてしまう、こんなの。次、だなんて。
「……プロポーズ、みたいだなって」
「は!?」
思わず小声になってしまったけれど、メィジの耳にはきちんと届いてたみたいで。途端にあたふたし出すメィジを見て、どんどん頬に熱が集まってくるのが分かる。
「いや、その、えっと、」
「……将来」
「え?」
「将来、必ずこれよりも良い指輪をオマエに贈る。約束、だ」
「約束、してくれるの」
「当たり前だ!一度誓ったことは曲げねえ」
真っ暗闇の中。お互いの顔はきっと真っ赤で。そしてそのまま、引き寄せられるようにキスをした。
END
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