1人
電車の行ってしまったホームに独り、ぽつんと取り残される。
星は見えないのにぽっかり浮かぶ月だけは鮮明に見えていて辺りをぼんやり照らしていた。
「何も口にしないように」というジフナからの連絡を見て、カトクの通知を切った。なぜだか充電が残り少なくなっていて、もしもの時の為にとっておこうと思ったからだ。
hs「寂しい所だな...」
人はおろか生き物の気配もないこの場所はどうにも異様で、特に改札周辺は日本ではもちろん韓国でも見たことのないような形をしていた。
ホームを端から端まで歩いてみても、駅の外に見えるのは山とススキのような細長い植物の生えた草むらだけだった。
hs『なんか気持ち悪いよ、ここ』
気づけばそんなことを送っていて、乾いた笑いが零れる。
後でジフンに笑われるな、なんてこの時までは呑気に考えていたのだ。
jn『大丈夫だよ、スニョン』
jn『今いるの、駅なんでしょ...?』
jn『だったら最悪、線路沿いに歩けば帰ってこられるよね』
いつもは不思議なところが多いけれど、ジュンは頼りになる。
そのカトクを見て少し落ち着いた俺は目の前の線路に目を向けた。暗いけれど、月明かりもあるし、おかげで方角も分かる
。少しだけれどスマホのライトだって使える。なら...
hs『俺、線路歩いてみるわ』
hs『来た道の方...』
hs『西』
hs『西の方に歩いていくからもし場所が分かったらそこに迎えに来てほしい』
hs『充電少ないから、通知は切っておく。なにかあったらまた連絡するね』
wz『気をつけろよ』
その言葉を見届けて俺は線路沿いを歩きだした。
幸い線路脇は山と草むらだから、急に電車が来ても轢かれることはないとみて歩いていくと、思っている以上に荒れていて、木や石の散らばったそこは本当に電車が通れるのかと疑問に思った。
hs「怖い」
暫く歩いてそんな言葉が無意識に零れた。
気のせいでなければ先程から震えが止まらなくて、後ろから何かに見られているような感覚がする。脳は絶対に振り返るなと警鐘を鳴らしていて、逃げるように前に進むと背中に絡み付く視線はどんどん強くなるように感じた。
不安で頭がいっぱいになって止まりそうな足を「皆のところへ帰る」その一心で動かし続けた。
hs「ぇ...」