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百々目の短編

 どうしよう。少女Rは幾度も感じてきた感覚に焦りを覚えた。
 今まで楽しんでいたものに興味が無くなり、別のものが楽しくなっていくこの感覚。一から二年の周期で訪れるそれがまた来てしまったのだと思い知る。

 ずっとSNSでつながってやってきた趣味の交流があまりに生活に侵食しすぎたせいだろうか。それとも少し嫌なことがあったからだろうか。もしくは一定以上集中してしまったら興味を失うのは生まれ持った性なのかもしれない。どういうわけかわからないが、休日をまるまる一日、きれいに全部をつぎ込むことすらいとわなかった趣味よりも彼女は試験の勉強の方が楽しくなってしまったらしいことだけは理解した。
 わけのわからない化学式を書いて、覚えたかどうかを確認する。その単調な作業にわくわくとしている自分がいる。

 これはいいこと、なのかもしれない。そう思いつつも少女Rは焦っていた。趣味に義務感を感じている自分に、大好きだったものから興味を失っていく自分に。言いようもない違和感と不思議さを感じていた。
 なにも今回が初めてではないというのに、受験期ですら熱中できなかった勉学にこうも突然うちこみたくなるというのは何かにとりつかれたようにしか感じられない。もしかしたら、昨年亡くなった祖父が頑張れと言っているのかもしれないなんて思いながら彼女は机に向かう。
 なにも詰め込んでこなかった頭にするすると知識が入っていく感覚が心地いい。何も考えずに没入するのとは違う、行動一つ一つが自分の血肉となるような感覚。楽しい、楽しい、楽しい。
 それは以前の自分では感じることもなかったであろう不思議な感覚で没入していく。自分の手でマニュアルを作り頭に入れていく作業がたまらなく楽しい。

 以前の自分が、関心が死んでいく感覚とともに生まれた少女はどうやらだいぶ勤勉な女のようで。気の向くままに教科書を読み漁る。
 きっといつかこの感覚を手放すときは来る。今この瞬間のように唐突に彼女の関心は移ろってしまうのだから。

 少女Rはいつもそうだった。急に関心をなくしてしまえば今まで築いてきたものを簡単に捨ててしまう。ようやく見つけたと思っていた趣味も、自由気ままな彼女の肌には合わなかったらしい。

 少女Rは通知のたまったSNSを携帯アプリから消去すると机に向かう。

「おかしいよ、こんなの」

 専門書を片手にノートにペンを滑らせる彼女の頬は無邪気な子供のように緩んでいた。
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