緑豊かな農村の中心に流れる大きな川。

その川の近くに水を汲みに来た紗英理。目的を忘れ透明に煌めく水の中を泳ぐ魚をじっと見つめていた。

「おーい！紗英理！水は汲めたか？次の手伝いがあるから汲めたら早く帰ってこいよ」

魚に夢中になっていた紗英理は兄の声により目的を思い出し手桶を川に突っ込むようにして水を汲むと両手で零さないようにゆっくりと家に向かって進んだ。何往復かして汲んで来た水は家畜の飲み物として与えられた。

兄に呼ばれて次に行うのは夕飯の支度だった。夕日の綺麗なオレンジに包まれる麦の波を見たい気持ちをグッと堪え、家族の為に美味しいスープを作るのだと気合いを入れた。

日も沈み少し肌寒く感じ始めた頃、父と母が仕事から帰って来た。

「おぉ！今日はトマトスープか！色を見るだけで身体が温まりそうだよ」

「いつもありがとうね」

兄と紗英理の頭を撫でる母の手は冷えていた。