+10了ヒバSS

くちづける

了ヒバがまどろっこしく唇をくっつけるだけ



 了平の手が雲雀へと伸び、その指先が頰に触れたとき、雲雀はわずかに目を細めた。了平の指が遠慮がちに雲雀の頬をなで、幾度も唇をなぞった。輪郭を確かめているような手つきで、雲雀の頬やら顎やら唇に触れるのだが、了平の顔はもちろん、身体すら近づいてはこない。
 雲雀はいよいよ焦れて、くり返し唇をなぞる親指の腹に舌をあてた。一瞬、了平の手が雲雀の頬から離れて浮いた。しかし、ふたたび了平の手は雲雀の頬へもどり、親指が上唇を持ち上げるようにして分け入った。待ちわびていた雲雀は、前歯の先端で了平の親指を甘噛みした。雲雀は歯を立てたまま、親指の腹を舐めた。やわらかな舌が親指を吸い、自然と尖った唇を了平が見とがめた。雲雀の唇を見つめる了平の瞳が揺らいだかと思うと、ふいにその顔が雲雀に近づいていった。
 雲雀の視界に、了平の顔がひろがっていく。これまでにない互いの近さを感じた直後に、雲雀の唇は了平と接触した。目と鼻の位置関係から、触れているのは唇とわかる。
 雲雀の唇の端にかかったままの了平の親指を、舌先がからかうように舐めた。舌と親指とのたわむれに、了平の舌が加わって湿った音が生じる。雲雀は指よりも熱く濡れた舌を選んだ。互いの舌を合わせて、いよいよ遠慮はいらないのだとそれぞれが理解した。
 衣擦れの音とともに了平の身体が雲雀に近づいて、待ちかねていたかのように雲雀の腕が了平の身体に巻きついた。唇とともに身体をも密着させ合った二人は、同性のあからさまな肉のかたち、その熱を布越しに感じた。
20211207
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