+10了ヒバSS

スイッチ→オン

お兄さんスイッチはじまるよ



 その顔を見たとき、了平は息を呑んだ。急にのどに渇きを感じた。苦痛を強いているだけの行為と思っていたが、そうではないと知った。濡れ髪の張りつく頬に、了平は享楽の芽吹きを見た。たちまちに飲み込まれる気配を察知した了平は、いつになく獣じみた光を目にやどしてあらがった。眼前の背中は汗に濡れ、色気の翳りが差す。これほどまでに興奮して、男の背中を見つめたことがあったか。汗を浮かべて震える優美な背中。もはやあらがいがたい熱情の渦中にあって、了平は獣のように口をひらき、肉厚な舌をのぞかせた。口角には、残酷な笑みが浮かんでいる。およそ、だれも知らない微笑だった。いまでさえ見とがめるものはいないのだから、これまでも了平の飢えた獣のごとき劣情を知るものはなかっただろう。
20211012
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