+10了ヒバSS

ポッキーの日



 沢田の執務室に入ってきた笹川了平が、口にポッキーをくわえていたのはご愛嬌だ。沢田はともかく、獄寺はけわしい顔をして声をあらげた。
「おい、芝生頭、てめぇまだわかんねぇのか? 十代目にもっと敬意をはらえっていってンだろうが!」
「あの、……獄寺くん、今日はほら十一月十一日だから……。なつかしいよね」
 沢田が場をなごませようと、獄寺の啖呵に割って入った。
「え……。ああ、……こっちじゃ、まったく見かけませんからね」
 獄寺は笹川をにらみながら言った。笹川は獄寺の態度を気にもとめず、スーツの内ポケットから封筒を出した。その動作のあいだにも、ポッキーは上下に動きながらしだいに短くなっていく。獄寺はいまいましげに舌打ちをして言った。
「おい、芝生、十代目にお出しする分はねぇのか?」
「む?」
「ポッキーだよ! 十代目がなつかしいって言ってンだろが!」
「ない。俺もすれ違いざま、雲雀からもらったのだ」
「あの野郎……、自分だけポッキー持ってやがったのか」
 いらだつ獄寺を尻目に、沢田はいままさに笹川の口に入っていくポッキーの末端に注目した。ポッキーは先端から食べ始めたとしたら、さいごに口に入っていく末端は、チョコのついていない部分のはずだ。しかし、笹川の口に入っていったポッキーには持ち手部分がなかった。最後までチョコがついていて、しかも食べかけのように見えた。
 沢田の目の前で、ポッキーが笹川の口の中へ消えていった。唇に残ったチョコを舌先がなぞる。そうしたしぐさを獄寺は苦々しい顔つきでにらみつけたが、沢田はある想像から落ち着きなく目を泳がせた。
 笹川は、そのポッキーを雲雀からもらったと言った。はたして、どんな状況下で?
 そう考えたとき、沢田の頭の中にはポッキーゲームが思い浮かんだ。向かい合った男二人、つまり笹川と雲雀が、ポッキーの端と端とをくわえている姿を想像した。とはいえ、沢田は事実がどうであったか確かめる気にはならなかった。
20211111
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