+10了ヒバSS
唇の真価
唇のやわらかさは唇で触れたときにその真価を発揮する
これまでも唇の感触を知らなかったわけではない。拳のふちに、あるいはトンファー越しに、笹川了平の唇を感じていた。しかしどうしたことか、唇そのもので触れたとき、唇はかつて感じたことのないほどにやわらかい。押しあててはさみ、吸った。
離れてまじまじと見た笹川の顔は、茹だったように赤かった。それを指摘すると、笹川は落ち着きなく視線をさまよわせながら「おまえの唇が、極限にやわらかかったからだ」とまるで責めるような口調で言うのだった。
20220907