短編
媚薬を100本飲まないと出られない部屋
誰の仕業か知らないが、『媚薬を100本飲まないと出られない部屋』に閉じ込められてしまった。
目の前には無数の妖しげなピンク色の小瓶。そして、俺の隣には友達の知り合いの佐々木。俺たちは大の男二人して密室に閉じ込められていた。
佐々木とは同じ学部というだけで特に親しい訳でもなく、部屋の中身がアレなので非常に気まずい。お互いに全部一気飲みして出るか、うーむ、と頭を抱えていたら、佐々木が何の躊躇もなくピンク色の小瓶を片っ端から飲んでいく。俺が驚いて止めようとすれば、「自分、媚薬には耐性があるんだ」と佐々木。なんでも、地元が寒い地域で小さい頃から冷え性対策に媚薬入りのうどんが振舞われていたらしい。なんつーものを食べさせられて育ったんだ。とはいえ、この部屋を脱出する手段は他に思いつかなかったから、媚薬の消費は佐々木に任せることにした。
もう時間の感覚も狂ってきた頃、ついに残り一本、といった所で佐々木が俺の方を向いて、「飲む?」と尋ねてくる。その顔には火照りのほの字もない。そんな物飲めるかよ、と返すと、佐々木は残念そうな顔をして、残り一本の媚薬をぐびっと一気飲みした。
すると、カチャと鍵が開くような音が聞こえた。どうやら部屋の扉が開いたみたいだ。
「媚薬美味かったか」
「うん。おばあちゃんの味がした」
またこの部屋に閉じ込められたら任せて、とピースを決める佐々木。試しに一本だけ飲んでみてもよかったかもしれない、と思ったのは気の迷いにして、俺たちは外へ出た。
またこの部屋に閉じ込められたら任せて、と微笑む佐々木の様子を見て、試しに一本だけなら飲んでみればよかったかもしれない、と思いながら俺たちは外へ出た。
終わり