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捏造屋

「?!げほっげほっ....!何するんですか....!」

「これをする事によって、明日の一日だけ記憶が捏造されるんだ。あ、ごめん。先に言えば良かったのか。」

軽い口調で謝りつつ、なおタバコを吸い続けるこの男にいい加減あきれる。

「あの、そろそろお兄さんの名前聞いてもいいですか?」

「あれ、まだ名乗ってないっけ?俺は、ハルイチ。結目ゆいめハルイチ。」

いい名前だなと思ってしまったのがちょっとだけ悔しい。私は、記憶が変わるという実感のないまま、ハルイチさんに代金を支払い、部屋を後にした。


コンコンコン。朝、部屋のドアをノックされて目を覚ます。

「祭、寝てるかな?お誕生日おめでとう。俺、今からバイト行ってそのまま大学行くけど、今日は早めに帰ってくるから。じゃあ、行ってきます。」

お兄ちゃんが階段をおりていく。そういえば、今日は私の誕生日だった。まだ鳴らない目覚まし時計を見ると、午前三時半。今では珍しい新聞学生である兄の朝は早い。

「誕生日かー」

私はお母さんがまだ生きていた時の、誕生日パーティーを思い出す。テーブルの上には、毎年私の好物こうぶつが並び、誕生日ケーキはお母さん手作りのチョコレートケーキだった。お母さんの姉にあたる叔母さんに引き取られてからは、ケーキは市販のものになった。

私はバースデーガールという事を口実に、無断で学校を休んで、お母さんとの思い出巡りをすることにした。今日は、不思議とそういう気分だった。私は、1番近くの公園に向かった。

ここは、私が幼稚園生だった時にお母さんとお兄ちゃんとよく来た場所だ。日が沈むまで遊び、私が転ぶ度に、毎回お母さんが慌てて立たせに来てくれたのが懐かしい。
私はブランコを漕ぎながら、次なる目的地を決めた。そこは、珍しくお兄ちゃんと喧嘩けんかをして、家出先いえでさきに選んだ、橋の下の秘密基地だった。
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