魔術師は恋い恋う

魔術師は恋い恋う。

旅はすべて終わった。

一行は四月一日の店で、最後の夜を過ごしていた。

明日対価を払い、四月一日にそれぞれの望む次元へ送ってもらうためだった。

ファイは天涯孤独になってしまった。

自分はどう生きていったらいいんだろうと他人事のように考えていた。

他のメンバーは次の道筋を決めていた。

自分だけ、まだ決まらないでいる。

夜も更けていく。

クロウ国でサクラちゃんと小狼君の孫守りもいいかもしれない。

あ、モコナと好きな次元を旅してもいいかな?

それとも、店主を失い、店主代理として奮闘している四月一日君の力になるのもありかもしれない。

それから、それから…。

敢えて、黒鋼のことを考えないでいた。

彼には帰る故郷がある、待つ主もいる。傲岸不遜な彼を可愛がっている人たちを見て痛感していた。

「オレどうしたいんだろう…。」

実は心には希いが薄らとあった。

だが、自分から言えるわけもないと心の奥底に沈めていた。

自分は誰かにとって、不幸を招く存在でしかなかった。

だが彼はそれが真実ではないことを示してくれた。

大切な利き腕を落としてまで自分を引き上げてくれた。

連れて行ってくれる誰かをずっと待っていた。

引き上げてくれる誰かを。

それがまさか、敵だと聞かされていた彼だったなんて。

「本当に人生って、人との縁ってわからないやー。」

ファイは他人事のようにひとりごちた。

出会うまでは、どうせ自分には敵となる存在だろうし、関係ないと思っていた。

「ああ、なんでこんなに想ってしまうんだろう。断ち切らなきゃ。もうみんなの時間は進んでいくのに…。早く自分の行く方向を決めなきゃ。」

ファイは敢えて言葉にして自分に言い聞かせようとした。

黒鋼の存在が、自分の中で狂おしいほどに大きなくなっていた。手放すには心が苦しく重くなり、張り裂けそうな想いに膨れ上がっていた。

「こんなに離れるのが苦しくなるんだったら、出会わなければよかった。黒様のバカ。。オレのバカ。」

店の一室で、1人深酒をしていた。1人になりたかったからだ。

だが…。

気配は感じられなかった。

「おい、誰がバカだって?」

背後から聞き慣れ親しんだ忍者のぼやきが聞こえた。

「ちょ、気配を消して聞いてるなんて、趣味悪いよっ!」

本音を聞かれたことに恥ずかしさを感じながらファイは黒鋼を見上げた。

黒鋼はファイの横にどかっと座った。

「俺にも酒寄越せ。」

黒鋼はファイのワイングラスを奪ってくいっと飲んでしまった。

「オレのなのに!黒様は全部持ってく!オレの心もお酒も何もかも!」

珍しく酔っ払っている魔術師は、管を撒き出した。

黒鋼の厚い胸板をポカポカとグーで殴る。

まるで子どものようで、こんなことを思ったら申し訳ないが、可愛いくて愛しい感情がわく。

目の前のふわふわの綺麗な髪の毛に手を翳した。

子どもにするように、撫で撫でをしてやる。

「オレのこと子ども扱いする気?」

そんなことを言いながらも、優しい手を振り払うことをしないファイ。

そんな魔術師の様子を見ながら撫で撫でを繰り返していた。

…また、1人で自分はいらない人間なんだろうとか、考えてたんだろうなと、黒鋼は思った。

どうしたものか。

「あのな、また1人でぐるぐる悩んでるんだろ。なんで言わない。小僧にいつもそう言って慰めるくせに。なんで自分のことになると、引くんだ。」

ファイはそんなことを言われてもっと駄々っ子のようになった。自分でも恥ずかしく思うけれど。

「小狼君みたいに、言えない。だって。。」

言葉を飲み込む。

「オレのことなんて、わがまま言えない。君は帰る故郷があるし、待ってくれてる人たちがいるから。君には君にだけは迷惑かけたくないんだ。」

ファイは、ジレンマになっている心の糸を解くために、少しずつ言葉にする。

もう項垂れてしまっている。

諦めきってしまっている。

それが痛いほどわかる。

ヒョロイヘンテコな魔術師だと思っていた。

今は細くて今しも消えていきそうなファイを苦虫を噛むような思いで黒鋼は。

「バカ、俺にだから言え。お前のことを。今更迷惑だとか何言ってる。」

そう言って、初めて抱きしめられた。

包み込むように。離さないというかのように。

ファイはびっくりしていた。こんな風に黒鋼に抱擁されることはなかった。

突然のことで、心の臓がきゅーっとなるのがわかる。

「あ、あ、君なにして…。」

言葉が辿々しくなる。でも心臓の音が重なる。

「お前が愛おしい。もう離せなくなってる。俺のエゴだがお前は日本国に連れて行くぞ。」

黒鋼はぎゅーと抱きしめる力を込めて告げた。

「君、正気なのか。オレを。。オレは。。」

ファイは黒鋼の胸の中でポロポロと大粒の涙を溢していた。

ポンポンと背中を撫でさすってやる。

ファイは嗚咽をこらしながら、黒鋼の背中に腕を回した。

その力を感じた黒鋼は、ファイの頭にキスを落とした。

涙をなめとった。塩っぱかった。

蒼い大きな瞳。瞼にキスをする。

ほっぺたに。そして、唇に。

甘い甘いキスの雨だった。

「ああ、黒たん、キス、オレ…はじめてなの。。」

そんなことを告白する。

なお一層愛おしくなる。

口付けが深くなる。舌を入れられた。歯を舌でなぞられる。

「んぅ、くろさまぁ。」

ファイは甘い声を漏らす。

舌を甘噛みされたり、何度も角度を変えて口蓋に舌を這わせられる。

気持ちいい。ファイはこんなところに性感帯があるなんてとびっくりしていた。

「んぁぅんん、はぁ。」

息をするのも許されないほど、口付けが深くなる。

お互いの唾液が糸を引く。

月夜に照らされたファイの顔は、紅く染まってとろんとした瞳になっていた。

「お前の大事な初めてを俺が奪っているんだな。」

ファイはとろんとした瞳で見上げた。

「くろさまなら、いいよ。あげる、オレの全部。」

ファイは黒鋼に体をあずけた。

黒鋼はこのままファイを抱いてしまいたかった。

だが店に世話になってるという現実を思い出してしまった。

それに大切なファイを欲のまま扱うことに抵抗があった。

「お前の全てを大事にする。絶対傷付けさせない。だから、俺と日本国に来い。」

その言葉を聞いたファイは、より一層自分の腕を大きな忍者に回して抱きしめ返してきた。

「オレ、黒さまと一緒に生きたい。もう君と以外考えられないんだ。」

ファイは本当に心の底からの希いをやっと口にできた。

心からの安堵。

「ああ、俺が共に生きたいと心から願ったのはお前しかいない。」

想い人の不安を少しでも溶かすことができたようだ。

「本当にありがとう、黒たん。」

ファイは泣き疲れて、黒鋼の胸の中で眠りだした。

辛すぎる人生を歩まされてきたファイにとって、これからは何度でも何度でも伝えていきたいと、黒鋼は誓った。
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