優しい赤

店に珍しい依頼があった。

四月一日のもう一人の自分である、小狼からだった。モコナを通じて相談があった。

「黒鋼さんの誕生日?」

突拍子もない相談に、四月一日は自分としても情けない声が出た自覚はある。

小狼は困ったような恥ずかしいような顔をしつつ、言う。

「実は、ファイさんとモコナとサクラで相談したんだ。そしたら、ファイさんがみんなへインタビューをしたらどうかって言い出して。。」

頭を抱えた小狼が言った。

四月一日はよくわからず、、

「インタビュー?」と呆れた声を発していた。

小狼は困った顔のまま言う。

「黒鋼さんのことをどう思ってるかをインタビューして、編集してまとめるのはどうかって。。」

なるほど。小狼一行の父親的支柱の黒鋼はみんなにとっても特別な存在なのだろう。

しかも誕生日が年末らしい。

師走の忙しい最中だがと少し思いつつ、顔には出さずに。

「みんなの思いを聞けたら、黒鋼さんも恥ずかしいかもしれないけど、きっと喜んでくれるよ。小狼。」

そう伝えると、小狼の表情がパァっと明るくなった。

「有難う、君尋。こんな相談、君尋にしかできなくて。編集ってどうやってやればいいんだ?」

「ビデオってのがあるんだ。確か、百目鬼の野郎が持ってたな。あれを拝借しようか。」

百目鬼は仕事でビデオカメラを使うことが多いことを思い出した。少し借りるくらい、いつも上手い飯と酒を出してやってるからお釣りが来るくらいだと、四月一日は思った。

「対価なんだが。。」

少し引け目を感じたように小狼が言う。

「ああ、今の滞在してる国の地酒でも送ってくれよ。それで手を打とう。」

そう伝えると小狼はぱぁと笑顔になった。

「本当にありがとう!君尋!」

と真面目にお礼を伝えた。彼らしい。。

「インタビュアーは誰がやるんだ?」

「え?考えてなかった。。みんなで考えてみるよ。」

とても楽しそうな企画だなあ。仲良くなったな、あの一行はと四月一日は思った。

小狼は黒鋼にバレないように、こっそりファイに四月一日への依頼のやり取りについて話した。

「小狼君ありがとう。そのビデオカメラってやつでこっそり撮ろうね?ふふ。伝える内容はね〜、黒様の好きなところ、とかどう?」

「好きなところか、たくさんありすぎて纏まるかな。。」

「あははっ!本当だね。内容考えて撮らなくちゃね〜。」

黒鋼には内緒で撮影するために、彼だけ残して買い物に行くと嘘をついて出かけることにした。

モコナを通じて、クロウ国にいるサクラ姫の動画も撮影した。

色々手こずったが、サクラ、小狼、モコナ、そして最後にファイが動画に思いを吹き込んだ。

四月一日から聞いて、CDという円盤に記録を残してもらうことにも成功した。

ファイの魔法でいつでもその円盤を再生できるようである。

さあ、年末の12月31日がきた。

少しざわざわした師走の時だが、秘密裏でファイはお酒やご馳走を準備していた。

黒鋼はいつもより忙しそうにしている面々に。

「年末だからってそんなに特別にしなくていいだろ。俺も手伝うことはあるか?」

「黒たんはなーんにもしなくていいから、座っててよね!いい?」

ファイから嗜められ、渋々座った。

テーブルには日本酒やお寿司、黒鋼が好きなものばかり揃えられた。

「お前、寿司食えねえだろ?」

「いいの、オレは。それよりも!じゃんじゃじゃーん!みんな、せーの!」

ファイ、小狼、モコナ「お誕生日おめでとう!!!!」

突然みんなから祝いの言葉を言われて、ポカンとした。

「お前ら、、、なんか小っ恥ずかしいな。でも有難うな。。」

少しはにかみつつも、礼を言う黒鋼。

宴が始まった。

「これね、知世姫に頼んで送ってもらった、日本国でもとても良い美味しいお酒なんだって。」

「おう、これは祝いの席でしか飲まねえ銘柄だな。知世のやつ。気が利いたことしやがって。」

ぽりぽりと恥ずかしそうに頭をかいていた。

宴もたけなわ。

ファイが何かを持って黒鋼に近づいてきた。

「あのね、これなんだけど。小狼君が四月一日君に頼んで、みんなのメッセージ吹き込んであるだ。俺の魔法で再生できるからさ、あとで一緒に見ようよ。ね?」

よくわからない初めてみる銀色の円盤を見て

「メッセージ?なんだそりゃ。」と一言、受け取った。

酒が入っていい感じに酔った小狼は、モコナと一緒に早々に寝てしまった。

まだ酒を飲んでいる大人組。黒鋼はファイのお酌で酒をちびちび嗜んでいた。

「あのね、黒たん、この映像なんだけど。。みんなで考えて作ったんだ。黒様の好きなところを言ってもらったんだよ〜。」

「あ?なんだそりゃ!小っ恥ずかしいにも程があるだろ!」

「ふふ、そう言うだろうと思って、みんな寝てから見せようと思ったんだよね〜。」

CDという円盤を片手に、ファイの指で魔法を行使した。

すると、映像が宙に映し出された。

「便利にもほどがあるだろ!」

思った通りのリアクションに微笑みながら二人で動画を観ることにした。

最初はサクラ姫だった。

「黒鋼さん、お誕生日おめでとう御座います。お元気ですか?左腕の調子はいかがですか?

えっと、黒鋼さんの好きなところですね?

改まっていうのは恥ずかしいですけど。いつも顔には出さないですけど。。みんなのことを1番心配してくれていたのは黒鋼さんでしたよね。時に頑固な私のお願いを聞いてくれて、信じて待ってくれましたよね。本当に嬉しかったんです。私のことを認めてくれて受け入れてくれたことが。。本当にありがとうございます。。また絶対お会いしましょうね!それまでお元気でいてくださいね!」

サクラのメッセージに、正直うるっときそうになった黒鋼だった。

娘を思う父親の想いとはこんなものかと考えた。

「姫のやつ。。元気そうだな。。。」

「そうだね、サクラちゃんも黒たんのことちゃんと見てたんだね。」

「、、、そうだな。。」

元気そうな笑顔で話すサクラ姫を想いながら、美酒を嗜む。

「次はねー、んーと、小狼君だね〜。」

「次は、小僧か。」

映像が進む。

「次は小狼君ね〜。黒様の好きなところ教えて〜。」

「わかった。。えっと。。ごほん。改めると恥ずかしいな。。お誕生日おめでとう。貴方がいてくれたから、おれは剣も体術も操れるようになれた。それだけじゃない。前を向きすぎて周りが見えなかった時、そっと手を差しのべてくれた。苦しくて悩んでいる時は不思議と貴方が側にいてくれて、助言してくれた。おれの過去も今のおれもありのまま許して受け止めてくれた。とても嬉しかった。救われた気持ちだった。本当にありがとう。これからも、そのままの貴方でいてほしい。」

黒鋼は黙って、酒を飲んでいたが、よく見ると顔が赤くなっていた。

「これ、あとどれくらいあるんだ。恥ずかしいにもほどがあるだろ!」

「感動の間違いでしょ。次はモコナだよ。」

「白まんじゅうもかよ!」

映像は続く。

「じゃーん!次はみんなのアイドルモコナだよー。」

「じゃ、次はモコナに答えてもらうね。黒様の好きなところを教えてね〜。」

「わかったよ〜。では。黒鋼、お誕生日おめでとう〜!好きなとこはね!モコナの弄りにきちんと答えてくれるとこ!とっても楽しいもーん。追いかけっこしてるときとか!

あとね!黒鋼のお腹の上とか、お洋服の中とてもあったかいんだよー!だからいつも黒鋼の服の中で動き回るの楽しーんだー!あとね、肩に乗った時に落ちないようにバランス取ってくれて、手で添えてくれるよ。」

「さすが黒ぽんとモコナのコンビだねー。」

「でしょー!?それとね、とても嬉しかったことなんだ。。あの痛い雨が降る国にいたときに、黒鋼がアレのことを信じるってモコナのこと言ってくれたの。とても嬉しかったんだ!モコナのこともきちんと信じてくれてるんだって、思えたんだよ?



「•••••。言いたい放題だなっ。」

「まぁ、まぁ。」

「たく、白まんじゅうのやつ。」

と言いつつも、嬉しそうに微笑んでいる。

次はこいつで最後かと隣で酒を飲んでいるファイを見た。

「最後は俺だよ。恥ずかしいから、みんなには内緒だよ?」

そう魔術師は、落ち着いた声で伝えてきた。

そして映像を進めた。

相手はおらず、ファイだけが画面に向かって語りかけていた。

「黒様、、お誕生日おめでとう。

黒たんの好きなところもなんだけど、、伝えたいこと、言わせて?ね?

あのね、、、

生まれてきてくれてありがとう。

オレと出会ってくれて。

オレを連れて行ってくれてありがとう。

それに、生きていてくれて、本当に、本当にありがとう。。

消えていこうとしていたオレを、繋ぎ止めてくれたよね?力技すぎて君らしくてさ。。腹が立つときもあったけどね。正直ははは。

距離を置こうと決めたのにさ。変わらないからね君は。まったく。。

でもね君だからオレは今もここにいれると思うんだ。

もう帰る場所もない待ってる人もいないオレが、生きていてよかったと心から思えるのは、君がいてくれたからだよ。

君がありままのオレを受け止めてくれて、何もなかったように当たり前に接してくれた。

もう君が傷つかないように、オレは自分自身を大切にしようと思えたんだ。全て君が教えてくれたことだよ。

、、、、もうオレはあの頃に戻れない。君を知らないオレには戻れないんだ。。。

•••••。」

映像はここで終わっていた。

二人の間になんとも言えない空気が流れた。

すると、黒鋼が突然、ファイの頭を掻き抱いた。

「お前、また一人になるんだとか思ってんじゃねぇのか?」

「うっ。。••••。」

黒鋼の体温は高くて触れると暖かい。

このぬくもりを知ってしまった。

この優しさを知ってしまった。

もう何も知らなかったあの頃には戻れないことを、ファイは痛いほど心で感じていた。

「黒様には全てお見通しだよね、全く。。でもオレなんかが一緒にいていいの?」

ファイは凄惨な生い立ちや呪いから、自己肯定感がとても低かった。

明るく見せていても心の不安は中々なくならなかった。

黒鋼はファイの白くて細長い体を自分の大きな体ですっぽり包み込んだ。

「俺がそばにいてほしいと思ってる。これからも一緒に生きたいとな。だから、腕を落としたことも後悔してねぇ。そばにいろ。俺の目が届かない場所で、生きるな、そして死ぬな。全て俺に見せろ、絶対だ。」

聞いた人間によっては、束縛に聞こえるかもしれない。

でもファイにとっては違っていた。

「、、、ぅぅぅっ!」

黒鋼の腕の中でファイは嗚咽を堪えて涙をポロポロと溢していた。

嬉しさなのか悲しさから解放された心の叫びなのか。わけもわからず流れてくる。

たまらず大きな体躯に細い両腕を回した。

「うぅっ、、、黒様それ、オレよりすごいわがまますぎるよぉ、、」

涙を溢していたファイは自然と柔らかな笑顔になれている自分に気づいた。

胸の辺りが少しつくんと痛むけど、じわりと温かな想いが溢れてくる。

そうだ。いつも黒鋼は自分の思う通りに生きている。

誰かを救ったり幸せにしているとも自覚なく。

ふふ、君らしいね。ファイは心の中でそう思った。

「魔女さんが言ってた、必然て言葉。オレたちが出会って、色々あってさぁ、でもこうやっていられるのも、必然なのかなって。」

「••••。そうかもな。」

照れ隠しで、ファイの柔らかな髪の毛を優しく愛おしげにくしゃりと撫でながら、答えた。

ファイは心地よくて、まるで猫のように黒鋼の匂いを嗅ぎながら、自分の顔を厚い胸板にスリスリ擦り付けた。

「黒様のにおいがするー。」

「なんだそりゃ、猫みたいなやつだな。」

オレはいいにおい?って小声で問いかけた。

相手はふん、と肯定のような態度で、濡れた頬を触れてきた。ぬくもりに安堵した。

二人はお互いの体温を感じるように、心の臓を重ねあった。

とくんとくん、生きてる音。。

いつも鋭い君の瞳をそっと覗いてみた。

とても穏やかで、優しい赤だった。。

こんな愛おしそうな彼の瞳を見れるのは自分だけなんだと。。

とても嬉しくて。

この気持ちは黙ったままにしておこう。

いつも君はそばにいてくれた。

消えていこうとしていたオレに生きる意味をくれた。

本当は生きたかったと心が叫んでいた。

君の手をもう離さないよ。

もう逃げないよ。

どんなに辛くても。

君からもらった生を

もう投げ出さない。

君が繋げてくれたから。

君とこれからどんな景色を見られるだろう?

どんな旅が待ってるんだろうか?

君のそばで笑っていられたら、それだけでこんなにも幸せだよ黒様。
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