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お金ないよ
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ある週末の昼下がり、叩き起こされるように跳ね起きた。天変地異が起こっているかのような地鳴りと、聞いたことの無いような轟音で、地震が怒ったのかと思った。
ここにいては危険だと認識するまでに、そう時間は掛からなかった。急いで扉をこじ開けて、外に飛び出すと、見慣れた街並みがぐちゃぐちゃになっていた。街路樹はなぎ倒され、いくつかの建物が倒壊していた。人という人が押し合ってパニックになっていて、怪獣映画のワンシーンを連想させるような狂乱がそこら中に溢れていた。
すぐ近くの百貨店を中心に騒ぎが起こっているようだった。事件の類かと突っ立って観察していると、建物から人が放り投げられるのが見えた。正気で無い人々が、大勢争い、逃げ惑い、暴れていた。
最悪の状況下に置かれているが、どことなく私自身は落ち着いていた。ついに神経が麻痺してきたのだろうか。逃げようと訴える本能とは別に、ここに残るべきだという理性が叫んだ。
離れようとする人に逆行して、吸い寄せられるようにじっとそこを見ていた。じっと耐えるように壁にもたれかかっていると、あたりの景色がスローに見えて、音が遠くに聞こえた。
しばらくして、私が借金を踏み倒していた相手の事務所が誰かに潰されたことがわかった。つまり、闇金を返す必要がなくなったのだ。
あれだけ苦しんでいたことがあっけなく解決し、しばらく呆気に取られた。今までの苦しみを返せ!という怒りが若干あり、その後湧き出たのは、これからどうすればいいのかという疑問だった。
でも、自分が根無草であることには変わりなく、悪魔退治の副業は続いている。なんとなく、吉田に会えたら引退しようかな、とは思っている。こういうのは一生する仕事では無いし。今は、引退したあと契約した悪魔はどうしようかということをぼんやりと考えているところだ。
仕事の後、適当にそこらにあるチェーン店に入った。ランチセットを注文して、席を探していると、後ろから名前を呼ばれた。ハッとして振り返ると、二人用の席に鞄を置いた吉田が私を指差していた。
「あっ!?」
思わず、手に持ったプレートをひっくり返しそうになった。手の震えが止まらなかった。
「こっち」
声に導かれるように、よろよろとソファに座った。全く身構えていない再会だった。目と目があうと、全身の毛穴という毛穴がわーっと開いて、緊張で脳がガンガンと喚いた。
張った気持ちを落ち着かせようと、恐る恐るハンバーガーの包みを開け、様子を伺いながら一口食べた。動物園の餌やりを観察するような変な視線を、吉田は私に向けていた。
「久しぶり、何ヶ月ぶりだっけ」
「……さぁ」
口に含んだファストフードは、味らしい味を感じられなかった。喉の奥から無理やり放り出した声が、自分でも驚くくらい低くかった。
「俺はさ、色々大変だったんだぜ。国家が揺らぐレベルの仕事だったんだ」
ジョークでもいうような軽い口調だったが、それが本当のことだというのを本能的に感じ取った。それくらいすごい人だったのだ。とても事実とは信じ難いが。
「国相手の仕事をするのに、こんなところでバーガー食べてるんだ」
「いいだろたまには。高校生らしくって」
しばらく沈黙が続いた。昼時でほぼ満員だった店内も、少し静かになって慌ただしい雰囲気がなくなった。
「そういえば……なんか変わった?」
「ま、色々とね」
本当に色々あった。離れている間に、向こうも濃厚な日々を送っていたことだろう。
「なんか、明るくなったね」
「それは……まぁ、色々片付いたんだよ。その、お金のこととか」
私がそういうと、吉田は初めて心底驚いたような顔をした。その顔を、私は一生忘れないだろう。
大きく表情筋が動いたのは一瞬で、またすぐいつもの余裕そうな顔に戻ってしまった。
「へぇ、そうなんだ」
「そういうこと。だからもう、普通の人だよ。私は」
「じゃあ俺と同じ大学にいけるんだ」
「まーね、多分そうしないけど。あんたと同じ学校とか嫌だし」
それを聞いて、なぜか吉田は大声で笑った。
「は!? 今笑うようなところなかったじゃん!」
「俺とナマエ、同じ高校なんだけど」
「え?」
今、なんて
「ナマエって、ーー高の定時だろ? 俺、そこの昼なんだよね」
「……嘘」
「いや、あるから。下駄箱見てみ? 俺の名前のってる」
そういえば、私は吉田の制服姿を見たことがない。冗談でからかっているという可能性はなきにしもあらず、だが。
「俺さ、しばらくナマエに会えなくて寂しかった。もう色々終わったし、定時やめてこっちに来いよ、な?」
「絶対、嫌だ……絶対あんたと同級生とか、嫌なんだけど……」
「うちの高校、制服かわいいよ? ナマエに似合うと思う」
「制服とか買う金ないから……」
大きなため息が口から出るのがわかった。私は一生、この人に敵わないかもしれない。
ここにいては危険だと認識するまでに、そう時間は掛からなかった。急いで扉をこじ開けて、外に飛び出すと、見慣れた街並みがぐちゃぐちゃになっていた。街路樹はなぎ倒され、いくつかの建物が倒壊していた。人という人が押し合ってパニックになっていて、怪獣映画のワンシーンを連想させるような狂乱がそこら中に溢れていた。
すぐ近くの百貨店を中心に騒ぎが起こっているようだった。事件の類かと突っ立って観察していると、建物から人が放り投げられるのが見えた。正気で無い人々が、大勢争い、逃げ惑い、暴れていた。
最悪の状況下に置かれているが、どことなく私自身は落ち着いていた。ついに神経が麻痺してきたのだろうか。逃げようと訴える本能とは別に、ここに残るべきだという理性が叫んだ。
離れようとする人に逆行して、吸い寄せられるようにじっとそこを見ていた。じっと耐えるように壁にもたれかかっていると、あたりの景色がスローに見えて、音が遠くに聞こえた。
しばらくして、私が借金を踏み倒していた相手の事務所が誰かに潰されたことがわかった。つまり、闇金を返す必要がなくなったのだ。
あれだけ苦しんでいたことがあっけなく解決し、しばらく呆気に取られた。今までの苦しみを返せ!という怒りが若干あり、その後湧き出たのは、これからどうすればいいのかという疑問だった。
でも、自分が根無草であることには変わりなく、悪魔退治の副業は続いている。なんとなく、吉田に会えたら引退しようかな、とは思っている。こういうのは一生する仕事では無いし。今は、引退したあと契約した悪魔はどうしようかということをぼんやりと考えているところだ。
仕事の後、適当にそこらにあるチェーン店に入った。ランチセットを注文して、席を探していると、後ろから名前を呼ばれた。ハッとして振り返ると、二人用の席に鞄を置いた吉田が私を指差していた。
「あっ!?」
思わず、手に持ったプレートをひっくり返しそうになった。手の震えが止まらなかった。
「こっち」
声に導かれるように、よろよろとソファに座った。全く身構えていない再会だった。目と目があうと、全身の毛穴という毛穴がわーっと開いて、緊張で脳がガンガンと喚いた。
張った気持ちを落ち着かせようと、恐る恐るハンバーガーの包みを開け、様子を伺いながら一口食べた。動物園の餌やりを観察するような変な視線を、吉田は私に向けていた。
「久しぶり、何ヶ月ぶりだっけ」
「……さぁ」
口に含んだファストフードは、味らしい味を感じられなかった。喉の奥から無理やり放り出した声が、自分でも驚くくらい低くかった。
「俺はさ、色々大変だったんだぜ。国家が揺らぐレベルの仕事だったんだ」
ジョークでもいうような軽い口調だったが、それが本当のことだというのを本能的に感じ取った。それくらいすごい人だったのだ。とても事実とは信じ難いが。
「国相手の仕事をするのに、こんなところでバーガー食べてるんだ」
「いいだろたまには。高校生らしくって」
しばらく沈黙が続いた。昼時でほぼ満員だった店内も、少し静かになって慌ただしい雰囲気がなくなった。
「そういえば……なんか変わった?」
「ま、色々とね」
本当に色々あった。離れている間に、向こうも濃厚な日々を送っていたことだろう。
「なんか、明るくなったね」
「それは……まぁ、色々片付いたんだよ。その、お金のこととか」
私がそういうと、吉田は初めて心底驚いたような顔をした。その顔を、私は一生忘れないだろう。
大きく表情筋が動いたのは一瞬で、またすぐいつもの余裕そうな顔に戻ってしまった。
「へぇ、そうなんだ」
「そういうこと。だからもう、普通の人だよ。私は」
「じゃあ俺と同じ大学にいけるんだ」
「まーね、多分そうしないけど。あんたと同じ学校とか嫌だし」
それを聞いて、なぜか吉田は大声で笑った。
「は!? 今笑うようなところなかったじゃん!」
「俺とナマエ、同じ高校なんだけど」
「え?」
今、なんて
「ナマエって、ーー高の定時だろ? 俺、そこの昼なんだよね」
「……嘘」
「いや、あるから。下駄箱見てみ? 俺の名前のってる」
そういえば、私は吉田の制服姿を見たことがない。冗談でからかっているという可能性はなきにしもあらず、だが。
「俺さ、しばらくナマエに会えなくて寂しかった。もう色々終わったし、定時やめてこっちに来いよ、な?」
「絶対、嫌だ……絶対あんたと同級生とか、嫌なんだけど……」
「うちの高校、制服かわいいよ? ナマエに似合うと思う」
「制服とか買う金ないから……」
大きなため息が口から出るのがわかった。私は一生、この人に敵わないかもしれない。