未設定の場合は「ミョウジ ナマエ」表記になります
お金ないよ
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
目覚ましがなって慌てて飛び起きたけれど、今日は祝日だった。こんな時、少し損した気分になる。
あと3時間は寝れるはずだと布団をかけ直したけれど、ドアを叩く音に呼び出され、私は仕方なく部屋着のまま玄関へと向かった。
「開けろ」
ドアチェーンをつけたまま、言われた通りに扉を開けると、強面のいかにもやくざという風な男が出てきた。
「お前今月分足りてねぇぞ」
「え、そうなんですか。すみません」
嘘だ。吹っかけられている。私がきちんと馬鹿正直に金を収めているから、もっと巻き上げられると判断したのだろう。こいつに金を渡せば、中抜きされるので意味がないことは、きちんと知っている。
「で、ないのか」
「お金、ですか」
「それ以外ないだろ」
面倒臭い。このまま粘っていると、家の中に侵入されて色々といじくり回されるかもしれない。それだけは面倒だ。四畳半の居間には、服がどっさりと入った段ボールがあるし、何かとねちっこく、部屋中探されるだろう。
「今月はもう払いました」
「ア? 何言ってんだ。舐めてんじゃねぇぞ」
「ちゃんと確認してください」
こういう面倒な輩と対峙するのは、何度も経験のあることだ。わかってはいるが、この場合、相手はしつこく、執念深い。
「足りないって言ってんだよ! こっちは!」
「知らないですって!」
ドアを閉めようとすると、チェーンの隙間から男の手がグッと入ってきた。構わず閉めようとすると、男は内側からチェーンを外そうとしてきた。
「不法侵入! このっ!」
そこからは最悪だった。男は大声で叫び、それを見かねて通報されたせいで、警察がここにきた。私は、もうここには住めない。おおよそ人の形を留めていない大家は、私に退去しろと命じた。今まで、やくざが取り立てにくることは許されても、警察までくるとなるとだめだったらしい。私は少ない荷物をまとめて、その日のうちに出ていくことになった。吉田にもらった服やら鞄は、質屋に持っていくとそこそこの値段で売れた。
根なし草になった私は、ネットカフェに居座りながら、仕事をこなしつつ学校に通う日々が続いた。毎日かかってくる諸々の維持費のせいで、私は毎日切り詰めながら生活する必要があった。ろくに野菜をとれていないせいで肌は荒れ、昼には眠くて仕方がなかった。
「ミョウジさん、最近顔色が悪くない? 大丈夫?」
私の教師は、私に親がいないことを知っていた。だから、こうやって気を遣ってくれていた。それはありがたいのだが、それで何かが解決するわけではない。
ここで、ネットカフェに寝泊りしていて、親が残した借金をやくざが取り立てにくるんですと言ったところで、一介の地方公務員がどうこうできるわけがない。
「最近バイトで忙しくって」
私ははぐらかすように、いつものごとく嘘をついた。先生は、いつでも話を聞くからと人の良さそうな表情で言った。なんだか裏切っているような気持ちになって、余計にため息をつきたくなる。
なぜか、私の頭の中には吉田ヒロフミの顔が浮かんだ。世界で一番私を知っているのは、紛れもなくあいつだ。あの一件以来、いろいろあって遭遇することはなかったが、ちゃんと生きているんだろうか。
まぁ、私より強いんだからそうそう死ぬこともないだろう。っていうか、なんでわざわざ心配しているんだ、私。
日に日に資金は尽きていく。悪魔だって無限に湧くわけではない。仕事がない。普通のバイトをやってもいいかと思ったけれど、以前それをしようとして、結局うまく行かなかったことを思い出した。
財布の中には小銭だけが貯まるようになり、臓器を売るか、風呂に沈まされるかという選択肢がいよいよ現実味を帯びてきた。
犬のように働いた。公衆電話から、事務所あてに電話を入れると、久しくお金を稼げたことへの安堵感が押し寄せてくる。なんというか、人間は頑張るほど搾取されやすくなるのだと、そう思った。
帰りに、女性向け水商売の求人誌を受け取った。デビルハンターやってて、何が悲しくて風俗なんて。
閉店間近のスーパーで、消費期限ギリギリのパック寿司を買って食べると、あの日吉田に奢ってもらった天然の鯛やらマグロやらの味を思いだした。人は贅沢を知るとダメだな。
公園のベンチで、風に当たりながら細々と夕食をとっていると、急に悲しくなってきた。私の残りの借金はいくらだったか。もう、数えても数えても減る気がしない。
公園のすぐそばは大手の予備校だった。私も、こんな風に生きていなかったら、あそこで勉強できたんだろうか。行きたいなあ、大学。
隣のベンチで、カップの日本酒を飲みながらうなだれているサラリーマンも、私ほど不幸ではないだろう。そう考えると、吉田の手によって豪遊していた日々が懐かしく、一夜の夢のように感じられた。
そして、気づいた。私は彼を懐かしく思っている。会いたいんだと。
豊さに飢え、心がひもじいと、嫌いな相手のことさえ懐かしく思えてしまうらしい。
実際、私には友人と呼べる存在さえいなかった。私を知っているのは、学校の教師と、借金取りと、事務所のおばさんたちと、吉田ヒロフミだけだった。そして、私と最も対等だったのは、吉田だ。
気づくと、私は泣いていた。寒くて惨めで、辛かった。今まで気を張っていた全てが、崩壊した。誰でもいいから、会って泣き付きたかった。
あと3時間は寝れるはずだと布団をかけ直したけれど、ドアを叩く音に呼び出され、私は仕方なく部屋着のまま玄関へと向かった。
「開けろ」
ドアチェーンをつけたまま、言われた通りに扉を開けると、強面のいかにもやくざという風な男が出てきた。
「お前今月分足りてねぇぞ」
「え、そうなんですか。すみません」
嘘だ。吹っかけられている。私がきちんと馬鹿正直に金を収めているから、もっと巻き上げられると判断したのだろう。こいつに金を渡せば、中抜きされるので意味がないことは、きちんと知っている。
「で、ないのか」
「お金、ですか」
「それ以外ないだろ」
面倒臭い。このまま粘っていると、家の中に侵入されて色々といじくり回されるかもしれない。それだけは面倒だ。四畳半の居間には、服がどっさりと入った段ボールがあるし、何かとねちっこく、部屋中探されるだろう。
「今月はもう払いました」
「ア? 何言ってんだ。舐めてんじゃねぇぞ」
「ちゃんと確認してください」
こういう面倒な輩と対峙するのは、何度も経験のあることだ。わかってはいるが、この場合、相手はしつこく、執念深い。
「足りないって言ってんだよ! こっちは!」
「知らないですって!」
ドアを閉めようとすると、チェーンの隙間から男の手がグッと入ってきた。構わず閉めようとすると、男は内側からチェーンを外そうとしてきた。
「不法侵入! このっ!」
そこからは最悪だった。男は大声で叫び、それを見かねて通報されたせいで、警察がここにきた。私は、もうここには住めない。おおよそ人の形を留めていない大家は、私に退去しろと命じた。今まで、やくざが取り立てにくることは許されても、警察までくるとなるとだめだったらしい。私は少ない荷物をまとめて、その日のうちに出ていくことになった。吉田にもらった服やら鞄は、質屋に持っていくとそこそこの値段で売れた。
根なし草になった私は、ネットカフェに居座りながら、仕事をこなしつつ学校に通う日々が続いた。毎日かかってくる諸々の維持費のせいで、私は毎日切り詰めながら生活する必要があった。ろくに野菜をとれていないせいで肌は荒れ、昼には眠くて仕方がなかった。
「ミョウジさん、最近顔色が悪くない? 大丈夫?」
私の教師は、私に親がいないことを知っていた。だから、こうやって気を遣ってくれていた。それはありがたいのだが、それで何かが解決するわけではない。
ここで、ネットカフェに寝泊りしていて、親が残した借金をやくざが取り立てにくるんですと言ったところで、一介の地方公務員がどうこうできるわけがない。
「最近バイトで忙しくって」
私ははぐらかすように、いつものごとく嘘をついた。先生は、いつでも話を聞くからと人の良さそうな表情で言った。なんだか裏切っているような気持ちになって、余計にため息をつきたくなる。
なぜか、私の頭の中には吉田ヒロフミの顔が浮かんだ。世界で一番私を知っているのは、紛れもなくあいつだ。あの一件以来、いろいろあって遭遇することはなかったが、ちゃんと生きているんだろうか。
まぁ、私より強いんだからそうそう死ぬこともないだろう。っていうか、なんでわざわざ心配しているんだ、私。
日に日に資金は尽きていく。悪魔だって無限に湧くわけではない。仕事がない。普通のバイトをやってもいいかと思ったけれど、以前それをしようとして、結局うまく行かなかったことを思い出した。
財布の中には小銭だけが貯まるようになり、臓器を売るか、風呂に沈まされるかという選択肢がいよいよ現実味を帯びてきた。
犬のように働いた。公衆電話から、事務所あてに電話を入れると、久しくお金を稼げたことへの安堵感が押し寄せてくる。なんというか、人間は頑張るほど搾取されやすくなるのだと、そう思った。
帰りに、女性向け水商売の求人誌を受け取った。デビルハンターやってて、何が悲しくて風俗なんて。
閉店間近のスーパーで、消費期限ギリギリのパック寿司を買って食べると、あの日吉田に奢ってもらった天然の鯛やらマグロやらの味を思いだした。人は贅沢を知るとダメだな。
公園のベンチで、風に当たりながら細々と夕食をとっていると、急に悲しくなってきた。私の残りの借金はいくらだったか。もう、数えても数えても減る気がしない。
公園のすぐそばは大手の予備校だった。私も、こんな風に生きていなかったら、あそこで勉強できたんだろうか。行きたいなあ、大学。
隣のベンチで、カップの日本酒を飲みながらうなだれているサラリーマンも、私ほど不幸ではないだろう。そう考えると、吉田の手によって豪遊していた日々が懐かしく、一夜の夢のように感じられた。
そして、気づいた。私は彼を懐かしく思っている。会いたいんだと。
豊さに飢え、心がひもじいと、嫌いな相手のことさえ懐かしく思えてしまうらしい。
実際、私には友人と呼べる存在さえいなかった。私を知っているのは、学校の教師と、借金取りと、事務所のおばさんたちと、吉田ヒロフミだけだった。そして、私と最も対等だったのは、吉田だ。
気づくと、私は泣いていた。寒くて惨めで、辛かった。今まで気を張っていた全てが、崩壊した。誰でもいいから、会って泣き付きたかった。