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お金ないよ
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吉田の食べ方は上品で、まるで貴族みたいだった。一人だけ銀座の高級料亭にいるみたいに見えた。こういう時に育ちの違いってやつが出てるんだと思う。
だから、私は吉田の二倍は食べた。なんだかここだけは負けたらダメな気がして、頑張って食べた。吉田は公園の鳥に餌をやるみたいな表情で私をじっと見ていた。
月の食費の何倍、いや、何十倍という額の皿が積まれて、塔ができていく。人の金で食べる寿司、最高! いつも食べているスーパーの、消費期限ギリギリの安物パック寿司になんてもう戻れない。
今日は、一生分の寿司を食べたと思う。
パンパンになった腹を抱えて、私はエスカレーターを登る。右には吉田がいて、涼しい顔で横の広告を眺めていた。
私は寿司が食べれてハッピーだったので、硬い指が私の指の腹を撫でるのも、給料だと思って我慢することにした。
「俺はナマエが今の二倍の体型になっても、似合う服を見繕う自信あるぜ」
私のふくらんだ腹を愛おしげに見つめる視線は、得体の知れない何かを孕んでいるようで、私はそれに気づかないように顔を逸らした。
彼がティーン向けの雑誌を読む姿を想像した。少し面白い。
「へーぇぇぇ」
吉田の話は、怒られない程度に聞き流しておけば良い。シーズンもののバーゲンが、結構な規模で開催されるらしいとか、特設会場で画家の個展があるとか、どうでもいい情報を受け取って、周りの幸せそうな人たちの顔を見る。
買い物袋を手に、たのしげな人たちばかりだった。
「ナマエって、はじめてだよな?」
私の肩に触れるか触れないかギリギリのところに立った吉田が、そんなことを言った。
「はじめてぇ……?」
初めてという響きには、どこか不健全なニュアンスが含まれているように聞こえた。
「そ、デート」
口調こそ穏やかだったが、尋問じみた雰囲気を感じた。
「……別に」
「うーん、その口ぶりだとはじめてだな」
適当に答えると、嬉しそうな声が返ってきた。
心底どうでもいい。
確かに、異性と二人きりで買い物というシチュエーションは初めて遭遇することだった。けれど、誰かと二人きりで過ごすなんてこと、今までにも何回かあった。
デートなんていいものじゃないし、今回だってそうだ。
「なんか、言い方きもいよ」
私の手首を柔く掴んで、彼は微笑んだ。得体の知れないこいつの、無駄に愛嬌のある笑みが、私は苦手だった。
エスカレーターを順番に登っていくと、学生向けの服屋がある階へとついた。脇目もふらずどこか目的地へとずんずん進んでいく吉田に取り残されないように、私は必死で足を動かした。
女性向けのフロアにいる吉田は、ここの誰よりも目立っていた。白を基調として、華やかな内装の店内で、モデルのような佇まいの男は、いやでも目についてしまう。
デート中のカップルにあけすけな視線を向けられても、当の本人は涼しげな顔でいた。代わりに私が恥ずかしくなった。
迷うことなく進む彼に、そこ知れぬ経験の違いを見せつけられているような気分になり、この男への恐怖がさらに増した。
「これとか可愛くね?」
「動きにくそう」
一番奥の店の、セール品ワゴンに突っ込まれたスカートやらシャツを、器用に引っ張り出しては、次々と私にあてがった。
そういう、ピンクだったり黒だったり青だったり黄色だったりする服を、順番に押し当て、私に意見を求めた。
マネキンに着せられている黄色いワンピースを遠目に見つめて、この時間が早く終わることだけを祈った。
あの繊細なレースはどうやったら洗濯できるのだろうか。この生地は少しでも擦れたら破れそうだ。
吉田一人だけが盛り上がっていた。私を着せ替え人形のように扱い、楽しんでいるように見えた。
しばらくそうされていると、どれもこれも一緒に見えてきて、私は退屈した。店内にかかっているのは、どこかで聞いたことのあるJpopで、それが余計に帰りたいという気持ちを煽った。
私にどれがいいか聞いてくるが、意見はあまり反映されなかった。吉田が選ぶ服は、どれも女性らしいシンプルなデザインのもので、どこかしらで誰かが着ていそうだと思った。まぁ、趣味は悪くないと思う。
「俺はこれ、いいと思う」
結局、私が却下した服を全て手に取って、店員の女性に声をかけていた。
値札を見ずにカードを切る様子を見て、思わずレシートをひったくって、確認したくなった。まぁ、彼が素早く財布にねじ込んで、結局のところはいくらしたかわからなかったけれど。
小一時間も経つ頃、私たち二人の両手には、様々なロゴのついた買い物袋がぶら下がっていた。服というのは意外と重量があるらしく、腕が千切れそうなくらいに重かった。
「これ、家に送ろう」
サービスカウンターに服の山を預けて、私が青い紙に住所を記入するのを、吉田は肩越しにじっと見ていた。
「……個人情報なんだけど」
「悪い悪い」
多分、絶対悪いなんて思っていない。
ああ、多分今ので住所を覚えられた。こういうところで無用心になってしまうのが、私のいけないところだ。
「明日には届くってさ」
「はぁ……」
「よし、次行こうぜ」
え、まだいくの。いつの間にか私の腕を取って、彼は進みだす。もう解放してほしいんだけど、と文句を言ったけど、結局無効だった。
だから、私は吉田の二倍は食べた。なんだかここだけは負けたらダメな気がして、頑張って食べた。吉田は公園の鳥に餌をやるみたいな表情で私をじっと見ていた。
月の食費の何倍、いや、何十倍という額の皿が積まれて、塔ができていく。人の金で食べる寿司、最高! いつも食べているスーパーの、消費期限ギリギリの安物パック寿司になんてもう戻れない。
今日は、一生分の寿司を食べたと思う。
パンパンになった腹を抱えて、私はエスカレーターを登る。右には吉田がいて、涼しい顔で横の広告を眺めていた。
私は寿司が食べれてハッピーだったので、硬い指が私の指の腹を撫でるのも、給料だと思って我慢することにした。
「俺はナマエが今の二倍の体型になっても、似合う服を見繕う自信あるぜ」
私のふくらんだ腹を愛おしげに見つめる視線は、得体の知れない何かを孕んでいるようで、私はそれに気づかないように顔を逸らした。
彼がティーン向けの雑誌を読む姿を想像した。少し面白い。
「へーぇぇぇ」
吉田の話は、怒られない程度に聞き流しておけば良い。シーズンもののバーゲンが、結構な規模で開催されるらしいとか、特設会場で画家の個展があるとか、どうでもいい情報を受け取って、周りの幸せそうな人たちの顔を見る。
買い物袋を手に、たのしげな人たちばかりだった。
「ナマエって、はじめてだよな?」
私の肩に触れるか触れないかギリギリのところに立った吉田が、そんなことを言った。
「はじめてぇ……?」
初めてという響きには、どこか不健全なニュアンスが含まれているように聞こえた。
「そ、デート」
口調こそ穏やかだったが、尋問じみた雰囲気を感じた。
「……別に」
「うーん、その口ぶりだとはじめてだな」
適当に答えると、嬉しそうな声が返ってきた。
心底どうでもいい。
確かに、異性と二人きりで買い物というシチュエーションは初めて遭遇することだった。けれど、誰かと二人きりで過ごすなんてこと、今までにも何回かあった。
デートなんていいものじゃないし、今回だってそうだ。
「なんか、言い方きもいよ」
私の手首を柔く掴んで、彼は微笑んだ。得体の知れないこいつの、無駄に愛嬌のある笑みが、私は苦手だった。
エスカレーターを順番に登っていくと、学生向けの服屋がある階へとついた。脇目もふらずどこか目的地へとずんずん進んでいく吉田に取り残されないように、私は必死で足を動かした。
女性向けのフロアにいる吉田は、ここの誰よりも目立っていた。白を基調として、華やかな内装の店内で、モデルのような佇まいの男は、いやでも目についてしまう。
デート中のカップルにあけすけな視線を向けられても、当の本人は涼しげな顔でいた。代わりに私が恥ずかしくなった。
迷うことなく進む彼に、そこ知れぬ経験の違いを見せつけられているような気分になり、この男への恐怖がさらに増した。
「これとか可愛くね?」
「動きにくそう」
一番奥の店の、セール品ワゴンに突っ込まれたスカートやらシャツを、器用に引っ張り出しては、次々と私にあてがった。
そういう、ピンクだったり黒だったり青だったり黄色だったりする服を、順番に押し当て、私に意見を求めた。
マネキンに着せられている黄色いワンピースを遠目に見つめて、この時間が早く終わることだけを祈った。
あの繊細なレースはどうやったら洗濯できるのだろうか。この生地は少しでも擦れたら破れそうだ。
吉田一人だけが盛り上がっていた。私を着せ替え人形のように扱い、楽しんでいるように見えた。
しばらくそうされていると、どれもこれも一緒に見えてきて、私は退屈した。店内にかかっているのは、どこかで聞いたことのあるJpopで、それが余計に帰りたいという気持ちを煽った。
私にどれがいいか聞いてくるが、意見はあまり反映されなかった。吉田が選ぶ服は、どれも女性らしいシンプルなデザインのもので、どこかしらで誰かが着ていそうだと思った。まぁ、趣味は悪くないと思う。
「俺はこれ、いいと思う」
結局、私が却下した服を全て手に取って、店員の女性に声をかけていた。
値札を見ずにカードを切る様子を見て、思わずレシートをひったくって、確認したくなった。まぁ、彼が素早く財布にねじ込んで、結局のところはいくらしたかわからなかったけれど。
小一時間も経つ頃、私たち二人の両手には、様々なロゴのついた買い物袋がぶら下がっていた。服というのは意外と重量があるらしく、腕が千切れそうなくらいに重かった。
「これ、家に送ろう」
サービスカウンターに服の山を預けて、私が青い紙に住所を記入するのを、吉田は肩越しにじっと見ていた。
「……個人情報なんだけど」
「悪い悪い」
多分、絶対悪いなんて思っていない。
ああ、多分今ので住所を覚えられた。こういうところで無用心になってしまうのが、私のいけないところだ。
「明日には届くってさ」
「はぁ……」
「よし、次行こうぜ」
え、まだいくの。いつの間にか私の腕を取って、彼は進みだす。もう解放してほしいんだけど、と文句を言ったけど、結局無効だった。