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私の印象は多分、リンと一緒にいる人だと思う。正確には、金魚のフン一号。二号はいない。
「私はナマエと一緒がいいな」
私が、「このまま一緒にリンについて行っていいと思う?」と、フロリーナと聞くと、彼女はそう言った。
なんて優しいんだろう。
そういえば以前、彼女のペガサスの世話を手伝おうとして、怪我をしたことがある。私に慣れきっていないペガサスに不用意に接近した私が完全に悪いんだけど、それでも彼女は私に謝った。それに、怪我の手当てまでしてくれた。一緒にいたリンも心配はしてくれたけど、「うかつに手を出しちゃダメよ」と、お母さんみたいに言うのだった。
「ここで休憩にしましょう」
リンがそう言うので、私たちは一旦足を止めた。
水筒の水を飲みながら、私は周りの人々を眺める。
いつの間にか、たくさん人が集まるようになったんだなぁ、と勝手に感傷に浸ってみる。
リンのことも、遠くの存在のように思えてきた。
「……はぁ」
思わず口からため息が漏れた。気を抜くと、すぐ自分が嫌になる。私の悪い癖だ。
「そんなため息をついてると、幸せが逃げますよ」
「っ!?」
気がつくと後ろには、セインさんが立っていた。
思いっきりビビった。恥ずかしい。
勝手に焦っていると
「あぁ、すみません。いきなり声なんてかけちゃって」
と彼は謝る。
「あの、大丈夫です!大丈夫ですから……これからガンガン話しかけてもらって大丈夫ですから……!」
謝るのには慣れているけど、他の人に謝罪されるのは苦手だった。
「えっ、そうですか?じゃあ、これからどんどんナマエさんとお話してもいいんですね?」
セインさんは、私にグッと顔を近づけてそう言った。私はうなずく。
ち、近い。そして、男の人っておっきいですね、身長……。普段は馬に乗っているから、気づかなかったけど、セインさんって素で距離が近い。人が嫌にならないギリギリの近さで話してくる。
「ナマエさんは、いつもリンディス様かフロリーナさんと一緒ですからね。前からナマエさんと一対一でお話ししてみたくって」
「は、はぁ……リンとはまぁ、ずっと一緒でしたね……」
そうだ、今日は珍しく、リンとは離れていた。軍師さんと大事な話をしているとかで、私とは、朝に挨拶をしただけだった。確かに、私はあの二人以外と会話らしい会話をしたことがない。最低限のやりとりだけだし。必要な時以外は奥にすっこんでいるし。
「ナマエさんって、弓が上手ですよね。リンディス様は剣、フロリーナさんは槍、ナマエさんは弓で、バランスがいいですね」
「……私、前に出るようなタイプじゃないんで、それがちょうどいいんですよ」
「前だってほら、敵に命中してましたよ。俺、あの時は槍が壊れていて、ナマエさんがいなかったどうなってたことか……」
あ。思い出した。それは一昨日のことだった。敵の攻撃を避けるために砦へと後退していくセインさんをみて、敵のアーマーナイトを足止めしようとした。放った矢が、たまたま急所に当たってなんとか持ち堪えられた。相手は手槍を持っていたし、私はそんなの投げられたらひとたまりもないから、本当は手を出すべきじゃなかったんだけど。それに、それをみたリンにまた叱られた。リンは、私が前に出るのを嫌がるのだ。弓兵は白兵戦ができないから。
「あの時はまぁ、まぐれだと思います」
「まぐれだって何だっていいですよ!とにかく俺はナマエさんのおかげで命拾いしたんですから!まぁ、それのお礼に今度食事でもどうですか?次の目的地に、いい店があるみたいなんですよ」
「……それって、お礼なんですか?」
「そうですとも!貴女のような強くて可憐な女性に助けられて、お礼をしないわけはないでしょう!」
「……じゃあ、リンも誘わないんですか?さっきの戦闘で、取り逃した弓兵を片してもらってたじゃないですか」
「いやぁ、リンディス様はお仕えしている相手なので……」
「私……その、男の人と二人きりで食事はできないです」
私がそう言った途端、リンが私を呼ぶ声がした。
「じゃあ、失礼します!わざわざありがとうございました!!」
逃げるようにその場を立ち去る。我ながら、結構失礼だったかもしれない。でも、デートとか二人で出かけるとか、そういうことをするにはまだ早いっていうか、ちょっと私には無理なんだ。セインさんには申し訳ないけれど、女の子の友達と街に行くことですらいっぱいいっぱいだから。
「……都会の男の人ってみんなそうなのかな」
「それはセインが特別なのよ」
リンにさっきのことを相談してみた。彼女はいつだって私に的確なアドバイスをくれる。私と同い年なのに、すごい。今みたいな大変な時だって、彼女はいつもみんなの先頭に立ってこの軍を率いているのだから。
「だよね、ケントさんはそんなこと言わないもんね」
「……確かあの二人との初対面の時も、私の後ろだったわね」
あの時、軍師さんの存在だけでもいっぱいいっぱいだったのに、新しくセインさんとケントさんが一緒にいて、男の人が三人もいたんだから、そりゃあリンに助けを求めてしまう。
それに、ケントさんはともかく、セインさんは私にあって早々「リンディス様のお友達ですね?いやぁ、かわいいお嬢さんですね。目の保養だ!」なんていうものだから、気絶しそうになった。
私にとっての男の人は、父親とかそれくらいだったから。
「どうしよう。私、ひどいこと言っちゃった……」
リンだったらこんな時どうする、と言いかける前にリンが口を開いた。
「……ナマエもそろそろ、自分がどうするかちゃんと自分で考えてみたら?私に聞くんじゃなくて」
「え」
「何かあると、いつも私に聞くでしょう?そうじゃなくて、ちゃんと自分で何をするか決めるの。私だって、これからずっとそばにいるわけにいかないんだから」
……確かにそうだ。リンは最近、いろいろあって大変だ。フロリーナだって、騎士として前線で頑張っている。後ろでウジウジしているのは私だけ。迷惑になっている自覚がある。
お荷物だ。それに、私ももう15歳だし、しっかりしないと。草原で暮らしてきたっていうのに、私はずっと弱虫だった。リンがいなくなったら、私、きっと生きていけない。絶対、それじゃダメなんだ。
「……そうだね。ちゃんと考えてみるよ」
「ナマエと離れるのは私だって嫌だわ。でも、ナマエは私に頼らなくたって一人で頑張れるんだから。セインはいい人よ。きちんと伝えればきっと大丈夫よ」
で、いろいろ考えた。そのせいでいろいろ疎かになってしまったけど。例えば、夜眠れなかったり、武器の手入れの時にボーッとして怪我したり。水をこぼしたり。それに、セインさんの顔がまともに見れない。
結局、私はどうするべきなんだろう。一回断ってしまった手前、行きたいです!なんていうのはちょっと無理かも。それに、セインさんは冗談のつもりで言ったのかもしれない。リップサービスみたいな感じで。でも、ここでまた何もしないでいたら、私はきっとずっとこのままだ。
「ナマエさん!?」
「うぉっ!!??」
何かにぶつかったと思ったら、セインさんだった。鎧に思い切りぶつかったので、おでこが痛い。
「大丈夫ですか!?傷は……」
「うっ……大丈夫、です。多分」
本当いうと、軽い脳震盪を起こしたみたいにジンジンする。
セインさんは、私の目線に合わせるように屈んだ。
「……傷薬を使いましょう」
私は涙目になっていたから、そんな間近でまじまじと顔を見られると、恥ずかしくて死にそうになる。傷薬を使いましょうって、私のおでこってそんなにひどいことになってるの?
「いい、です……大丈夫です」
「いや、全然大丈夫じゃないです。跡が残ったら困ります。女性の顔に、俺のせいでそんなものがついたら自殺ものですよ」
患部にそれを塗って、ひとまず腫れはひいたらしい。
「もう今日は前に出ないようにしてください。リンディス様には俺からいっておきますから」
「私のけが、そんなにひどくないです」
「万が一ってことがありますよね?」
「セインさん、今の私よりももっとひどい怪我してても前で戦ってたじゃないですか」
「俺は騎士だからいいんです」
「私だって草原の民です。ちゃんと訓練してますから!このくらい大丈夫です」
セインさんは意外としつこかった。騒いでいた私たちを見てやってきたリンは、呆れつつ、今日は大人しくしててね、と私に言った。
月が真上に昇っていた。そろそろ寝る時間だ。でも、ちょっとだけ外を覗いた。星が綺麗だった。肉眼で見れる星は、今日が新月だからかいつもより輝いて見えた。
「あ」
「こんばんは、奇遇ですね」
同じように、セインさんが外に出ていた。
「おでこはもう大丈夫ですか?」
「おかげさまで、もう平気です。ちゃんと見てもらいましたから」
いつもとは違って、鎧を身に付けていないラフな格好だ。私も、薄着で出てきてしまったから人のことは言えない。あまり見ない格好だ。なぜだか少し恥ずかしくなった。
「こんなに寒いのに、そんな薄着で……風邪ひきますよ」
「ふふっ」
「え、どうして笑うんですか?俺、何か変なこと言いました?」
「いいえ、セインさん、ちょっとリンに似てきたなって」
「俺が、リンディス様に?」
「リンは、私のことお母さんみたいに心配するんですよ」
「お、俺がお母さん……」
ショックを受けたのか、項垂れたセインさんがおかしくって、また笑ってしまった。
「こういう時、スマートに上着でもかけてあげられたらいいんですけどね」
「そういうところ、セインさんっぽいなぁって思いました」
「お母さん扱いですもんねぇ」
セインさんも自分の発言がツボに入ったのか、少し吹き出した。
しばらく二人して笑ったあと、今しかない、と思って私はあのことについて話すことにした。
「そう言えば昨日、食事に誘ってくれましたよね」
「覚えていてくれたんですか」
「もちろんです。あの、あの時は断ってしまったんですけど、私と食事に行ってくれませんか」
セインさんは、面食らったような顔をして、すぐに私の手を掴んだ。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「……今まで、セインさんのことちょっと怖かったんです。でも、いい人だってわかったから」
「不肖セイン、ナマエさんに満足していただけるような店に連れていくことを約束します!……あ、もちろんリンディス様と一緒じゃないですよね?」
「もちろん!」
「それを聞いて安心しました……せっかくリンディス様に相談したのに、ついてこられたら大変ですよ」
「相談?」
「いえ、何でもないです!それよりも、もう寝ませんか?明日も早いですし」
「そうですね、おやすみなさい」
「はい、いい夢を!」
その日はとってもいい夢が見れた。どんな夢だったかは忘れたけど、とにかくとってもいい夢だった。
「とっても美味しかったです」
「そうですか、よかった……」
結局、いろいろあって二人で食事をするまでには時間がかかってしまった。リンはキアランの領主様になってしまったし、それに伴って私たちも彼女のために奔走することになったのだ。
今日は久しぶりの休日で、前々から気になっていたお店に二人で行くことにした。
「まさか、本当にいけるなんて思っていませんでしたよ」
「そうですね、ここまでくるのに時間がかかってしまいました」
二人して、街をぐるぐると見て回る。かわいい服や、綺麗な小物なんかは物珍しくて、目が足りないくらいだ。寝る前に読む本を買ったり、美味しそうなお菓子を食べ歩きしていると、もう夕方になっていた。
「もう、帰らないと」
屋敷に帰らないといけない時間だ。リンには帰る時間とどこに行くかはちゃんと伝えてある。その時間に間に合わせないと、彼女は心配するだろう。
「ナマエさん、もう少しだけいいですか?帰り道に、寄りたいところがあるんです」
「ここが、そうですか?」
ついていくと、そこは小さな森のようなところだった。町の中心から少し離れるとこんな場所もあるのか、と少し驚く。
小さな花が咲いていた。息を吸い込むと、緑のいい香りがした。
「素敵な場所ですね」
「ナマエさんは、町の真ん中よりも、ここがいいと思って」
「ここ、とってもいいですね。気に入りました」
今度また、暇ができたらきてみよう。
「ナマエさん、少し目をつぶってもらってもいいですか?」
「はい?わかりました」
少しすると、セインさんが私の後ろに立ったのがわかった。背中からすぐ、触れそうな位置に彼がいる。そうすると、まぶたが震えて、緊張してぎゅっと拳を握った。
髪がかきあげられる。少しすると、何かが首に触れた。冷たい。もしかして、と思って目を開けた。私の首には、細い首飾りが付けられていた。シンプルなモチーフだ。銀だろうか。とても、綺麗。
「……これって」
「男性が女性にネックレスを送る意味って、わかりますか」
「……」
そこまでわからないほど、私は世間知らずではなかった。昔、本で読んだことがある。まさか、自分がされるとは思っていなかったけれど。
セインさんは、私の目を覗き込んだ。まっすぐな目だ。この人に見つめられると、私はもうおかしくなりそうになる。
「あなたが好きです。俺を恋人にしてください」
思わず、彼の手をとった。
「私でよければ、喜んで」
屋敷に戻ると、私はなんだか恥ずかしくなってネックレスを隠した。でも、リンはお見通しだったようで、こっそり私の部屋に来ると「まさかナマエが彼氏を作るなんてねぇ」と、噂好きなおばさんのように微笑んだ。
「リン……私、どうにかなりそう」
「ふふ、セインはいい人よ。どうにでもなっちゃいなさい。彼に責任取らせたらいいわ」
「せ、責任……」
「彼も彼で緊張してたのよ?私にナマエのこと聞いてきたときはびっくりしたけど、これも友達のためね」
「リンは全部知ってたんだね」
「まぁ、結果が全てよ」
そのネックレス、似合ってるわと言って彼女は去っていった。
夕食の時、みんなが私を見てニヤニヤしていたから、きっと全員に知られていたんだと思う。もうはずかしくて、穴があったら入りたい気分だ。フロリーナにも「おめでとう」と言われて、なんだか照れる。
「セインのことを、よろしくお願いします。あいつは軽いように見えるけれど、実はいいやつなんです。でも、ハメを外すようなこともあると思いますから、そのときは……」
ケントさんに頭を下げられ、私はどうしたらいいのかわからなかった。
「はは、大丈夫です……」
「俺は大丈夫だよ。ナマエさんのこと、大事にするからさ」
そう言って、セインさんは私の肩を抱いた。みんな見てるのに!!と抗議したくなった。バカップル丸出しだ。本当に。
恥ずかしいけど、まぁ、悪い気はしない。リンは満足そうに、私を見ていた。
「私はナマエと一緒がいいな」
私が、「このまま一緒にリンについて行っていいと思う?」と、フロリーナと聞くと、彼女はそう言った。
なんて優しいんだろう。
そういえば以前、彼女のペガサスの世話を手伝おうとして、怪我をしたことがある。私に慣れきっていないペガサスに不用意に接近した私が完全に悪いんだけど、それでも彼女は私に謝った。それに、怪我の手当てまでしてくれた。一緒にいたリンも心配はしてくれたけど、「うかつに手を出しちゃダメよ」と、お母さんみたいに言うのだった。
「ここで休憩にしましょう」
リンがそう言うので、私たちは一旦足を止めた。
水筒の水を飲みながら、私は周りの人々を眺める。
いつの間にか、たくさん人が集まるようになったんだなぁ、と勝手に感傷に浸ってみる。
リンのことも、遠くの存在のように思えてきた。
「……はぁ」
思わず口からため息が漏れた。気を抜くと、すぐ自分が嫌になる。私の悪い癖だ。
「そんなため息をついてると、幸せが逃げますよ」
「っ!?」
気がつくと後ろには、セインさんが立っていた。
思いっきりビビった。恥ずかしい。
勝手に焦っていると
「あぁ、すみません。いきなり声なんてかけちゃって」
と彼は謝る。
「あの、大丈夫です!大丈夫ですから……これからガンガン話しかけてもらって大丈夫ですから……!」
謝るのには慣れているけど、他の人に謝罪されるのは苦手だった。
「えっ、そうですか?じゃあ、これからどんどんナマエさんとお話してもいいんですね?」
セインさんは、私にグッと顔を近づけてそう言った。私はうなずく。
ち、近い。そして、男の人っておっきいですね、身長……。普段は馬に乗っているから、気づかなかったけど、セインさんって素で距離が近い。人が嫌にならないギリギリの近さで話してくる。
「ナマエさんは、いつもリンディス様かフロリーナさんと一緒ですからね。前からナマエさんと一対一でお話ししてみたくって」
「は、はぁ……リンとはまぁ、ずっと一緒でしたね……」
そうだ、今日は珍しく、リンとは離れていた。軍師さんと大事な話をしているとかで、私とは、朝に挨拶をしただけだった。確かに、私はあの二人以外と会話らしい会話をしたことがない。最低限のやりとりだけだし。必要な時以外は奥にすっこんでいるし。
「ナマエさんって、弓が上手ですよね。リンディス様は剣、フロリーナさんは槍、ナマエさんは弓で、バランスがいいですね」
「……私、前に出るようなタイプじゃないんで、それがちょうどいいんですよ」
「前だってほら、敵に命中してましたよ。俺、あの時は槍が壊れていて、ナマエさんがいなかったどうなってたことか……」
あ。思い出した。それは一昨日のことだった。敵の攻撃を避けるために砦へと後退していくセインさんをみて、敵のアーマーナイトを足止めしようとした。放った矢が、たまたま急所に当たってなんとか持ち堪えられた。相手は手槍を持っていたし、私はそんなの投げられたらひとたまりもないから、本当は手を出すべきじゃなかったんだけど。それに、それをみたリンにまた叱られた。リンは、私が前に出るのを嫌がるのだ。弓兵は白兵戦ができないから。
「あの時はまぁ、まぐれだと思います」
「まぐれだって何だっていいですよ!とにかく俺はナマエさんのおかげで命拾いしたんですから!まぁ、それのお礼に今度食事でもどうですか?次の目的地に、いい店があるみたいなんですよ」
「……それって、お礼なんですか?」
「そうですとも!貴女のような強くて可憐な女性に助けられて、お礼をしないわけはないでしょう!」
「……じゃあ、リンも誘わないんですか?さっきの戦闘で、取り逃した弓兵を片してもらってたじゃないですか」
「いやぁ、リンディス様はお仕えしている相手なので……」
「私……その、男の人と二人きりで食事はできないです」
私がそう言った途端、リンが私を呼ぶ声がした。
「じゃあ、失礼します!わざわざありがとうございました!!」
逃げるようにその場を立ち去る。我ながら、結構失礼だったかもしれない。でも、デートとか二人で出かけるとか、そういうことをするにはまだ早いっていうか、ちょっと私には無理なんだ。セインさんには申し訳ないけれど、女の子の友達と街に行くことですらいっぱいいっぱいだから。
「……都会の男の人ってみんなそうなのかな」
「それはセインが特別なのよ」
リンにさっきのことを相談してみた。彼女はいつだって私に的確なアドバイスをくれる。私と同い年なのに、すごい。今みたいな大変な時だって、彼女はいつもみんなの先頭に立ってこの軍を率いているのだから。
「だよね、ケントさんはそんなこと言わないもんね」
「……確かあの二人との初対面の時も、私の後ろだったわね」
あの時、軍師さんの存在だけでもいっぱいいっぱいだったのに、新しくセインさんとケントさんが一緒にいて、男の人が三人もいたんだから、そりゃあリンに助けを求めてしまう。
それに、ケントさんはともかく、セインさんは私にあって早々「リンディス様のお友達ですね?いやぁ、かわいいお嬢さんですね。目の保養だ!」なんていうものだから、気絶しそうになった。
私にとっての男の人は、父親とかそれくらいだったから。
「どうしよう。私、ひどいこと言っちゃった……」
リンだったらこんな時どうする、と言いかける前にリンが口を開いた。
「……ナマエもそろそろ、自分がどうするかちゃんと自分で考えてみたら?私に聞くんじゃなくて」
「え」
「何かあると、いつも私に聞くでしょう?そうじゃなくて、ちゃんと自分で何をするか決めるの。私だって、これからずっとそばにいるわけにいかないんだから」
……確かにそうだ。リンは最近、いろいろあって大変だ。フロリーナだって、騎士として前線で頑張っている。後ろでウジウジしているのは私だけ。迷惑になっている自覚がある。
お荷物だ。それに、私ももう15歳だし、しっかりしないと。草原で暮らしてきたっていうのに、私はずっと弱虫だった。リンがいなくなったら、私、きっと生きていけない。絶対、それじゃダメなんだ。
「……そうだね。ちゃんと考えてみるよ」
「ナマエと離れるのは私だって嫌だわ。でも、ナマエは私に頼らなくたって一人で頑張れるんだから。セインはいい人よ。きちんと伝えればきっと大丈夫よ」
で、いろいろ考えた。そのせいでいろいろ疎かになってしまったけど。例えば、夜眠れなかったり、武器の手入れの時にボーッとして怪我したり。水をこぼしたり。それに、セインさんの顔がまともに見れない。
結局、私はどうするべきなんだろう。一回断ってしまった手前、行きたいです!なんていうのはちょっと無理かも。それに、セインさんは冗談のつもりで言ったのかもしれない。リップサービスみたいな感じで。でも、ここでまた何もしないでいたら、私はきっとずっとこのままだ。
「ナマエさん!?」
「うぉっ!!??」
何かにぶつかったと思ったら、セインさんだった。鎧に思い切りぶつかったので、おでこが痛い。
「大丈夫ですか!?傷は……」
「うっ……大丈夫、です。多分」
本当いうと、軽い脳震盪を起こしたみたいにジンジンする。
セインさんは、私の目線に合わせるように屈んだ。
「……傷薬を使いましょう」
私は涙目になっていたから、そんな間近でまじまじと顔を見られると、恥ずかしくて死にそうになる。傷薬を使いましょうって、私のおでこってそんなにひどいことになってるの?
「いい、です……大丈夫です」
「いや、全然大丈夫じゃないです。跡が残ったら困ります。女性の顔に、俺のせいでそんなものがついたら自殺ものですよ」
患部にそれを塗って、ひとまず腫れはひいたらしい。
「もう今日は前に出ないようにしてください。リンディス様には俺からいっておきますから」
「私のけが、そんなにひどくないです」
「万が一ってことがありますよね?」
「セインさん、今の私よりももっとひどい怪我してても前で戦ってたじゃないですか」
「俺は騎士だからいいんです」
「私だって草原の民です。ちゃんと訓練してますから!このくらい大丈夫です」
セインさんは意外としつこかった。騒いでいた私たちを見てやってきたリンは、呆れつつ、今日は大人しくしててね、と私に言った。
月が真上に昇っていた。そろそろ寝る時間だ。でも、ちょっとだけ外を覗いた。星が綺麗だった。肉眼で見れる星は、今日が新月だからかいつもより輝いて見えた。
「あ」
「こんばんは、奇遇ですね」
同じように、セインさんが外に出ていた。
「おでこはもう大丈夫ですか?」
「おかげさまで、もう平気です。ちゃんと見てもらいましたから」
いつもとは違って、鎧を身に付けていないラフな格好だ。私も、薄着で出てきてしまったから人のことは言えない。あまり見ない格好だ。なぜだか少し恥ずかしくなった。
「こんなに寒いのに、そんな薄着で……風邪ひきますよ」
「ふふっ」
「え、どうして笑うんですか?俺、何か変なこと言いました?」
「いいえ、セインさん、ちょっとリンに似てきたなって」
「俺が、リンディス様に?」
「リンは、私のことお母さんみたいに心配するんですよ」
「お、俺がお母さん……」
ショックを受けたのか、項垂れたセインさんがおかしくって、また笑ってしまった。
「こういう時、スマートに上着でもかけてあげられたらいいんですけどね」
「そういうところ、セインさんっぽいなぁって思いました」
「お母さん扱いですもんねぇ」
セインさんも自分の発言がツボに入ったのか、少し吹き出した。
しばらく二人して笑ったあと、今しかない、と思って私はあのことについて話すことにした。
「そう言えば昨日、食事に誘ってくれましたよね」
「覚えていてくれたんですか」
「もちろんです。あの、あの時は断ってしまったんですけど、私と食事に行ってくれませんか」
セインさんは、面食らったような顔をして、すぐに私の手を掴んだ。
「ほ、本当にいいんですか!?」
「……今まで、セインさんのことちょっと怖かったんです。でも、いい人だってわかったから」
「不肖セイン、ナマエさんに満足していただけるような店に連れていくことを約束します!……あ、もちろんリンディス様と一緒じゃないですよね?」
「もちろん!」
「それを聞いて安心しました……せっかくリンディス様に相談したのに、ついてこられたら大変ですよ」
「相談?」
「いえ、何でもないです!それよりも、もう寝ませんか?明日も早いですし」
「そうですね、おやすみなさい」
「はい、いい夢を!」
その日はとってもいい夢が見れた。どんな夢だったかは忘れたけど、とにかくとってもいい夢だった。
「とっても美味しかったです」
「そうですか、よかった……」
結局、いろいろあって二人で食事をするまでには時間がかかってしまった。リンはキアランの領主様になってしまったし、それに伴って私たちも彼女のために奔走することになったのだ。
今日は久しぶりの休日で、前々から気になっていたお店に二人で行くことにした。
「まさか、本当にいけるなんて思っていませんでしたよ」
「そうですね、ここまでくるのに時間がかかってしまいました」
二人して、街をぐるぐると見て回る。かわいい服や、綺麗な小物なんかは物珍しくて、目が足りないくらいだ。寝る前に読む本を買ったり、美味しそうなお菓子を食べ歩きしていると、もう夕方になっていた。
「もう、帰らないと」
屋敷に帰らないといけない時間だ。リンには帰る時間とどこに行くかはちゃんと伝えてある。その時間に間に合わせないと、彼女は心配するだろう。
「ナマエさん、もう少しだけいいですか?帰り道に、寄りたいところがあるんです」
「ここが、そうですか?」
ついていくと、そこは小さな森のようなところだった。町の中心から少し離れるとこんな場所もあるのか、と少し驚く。
小さな花が咲いていた。息を吸い込むと、緑のいい香りがした。
「素敵な場所ですね」
「ナマエさんは、町の真ん中よりも、ここがいいと思って」
「ここ、とってもいいですね。気に入りました」
今度また、暇ができたらきてみよう。
「ナマエさん、少し目をつぶってもらってもいいですか?」
「はい?わかりました」
少しすると、セインさんが私の後ろに立ったのがわかった。背中からすぐ、触れそうな位置に彼がいる。そうすると、まぶたが震えて、緊張してぎゅっと拳を握った。
髪がかきあげられる。少しすると、何かが首に触れた。冷たい。もしかして、と思って目を開けた。私の首には、細い首飾りが付けられていた。シンプルなモチーフだ。銀だろうか。とても、綺麗。
「……これって」
「男性が女性にネックレスを送る意味って、わかりますか」
「……」
そこまでわからないほど、私は世間知らずではなかった。昔、本で読んだことがある。まさか、自分がされるとは思っていなかったけれど。
セインさんは、私の目を覗き込んだ。まっすぐな目だ。この人に見つめられると、私はもうおかしくなりそうになる。
「あなたが好きです。俺を恋人にしてください」
思わず、彼の手をとった。
「私でよければ、喜んで」
屋敷に戻ると、私はなんだか恥ずかしくなってネックレスを隠した。でも、リンはお見通しだったようで、こっそり私の部屋に来ると「まさかナマエが彼氏を作るなんてねぇ」と、噂好きなおばさんのように微笑んだ。
「リン……私、どうにかなりそう」
「ふふ、セインはいい人よ。どうにでもなっちゃいなさい。彼に責任取らせたらいいわ」
「せ、責任……」
「彼も彼で緊張してたのよ?私にナマエのこと聞いてきたときはびっくりしたけど、これも友達のためね」
「リンは全部知ってたんだね」
「まぁ、結果が全てよ」
そのネックレス、似合ってるわと言って彼女は去っていった。
夕食の時、みんなが私を見てニヤニヤしていたから、きっと全員に知られていたんだと思う。もうはずかしくて、穴があったら入りたい気分だ。フロリーナにも「おめでとう」と言われて、なんだか照れる。
「セインのことを、よろしくお願いします。あいつは軽いように見えるけれど、実はいいやつなんです。でも、ハメを外すようなこともあると思いますから、そのときは……」
ケントさんに頭を下げられ、私はどうしたらいいのかわからなかった。
「はは、大丈夫です……」
「俺は大丈夫だよ。ナマエさんのこと、大事にするからさ」
そう言って、セインさんは私の肩を抱いた。みんな見てるのに!!と抗議したくなった。バカップル丸出しだ。本当に。
恥ずかしいけど、まぁ、悪い気はしない。リンは満足そうに、私を見ていた。