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ジェイド、頭をよくしてあげよう
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「じゃあさ、ジェイドは学校も行ってないんだ」
「うん。でも勉強もレーラァが教えてくれてるから」
「……ふーん」
公園で練習をしていると、学校帰りのナマエが現れた。水飲み場の横にあるベンチに彼女は腰掛けて、いつものように宿題を片付けている。
「宿題がないのはいいね」
「でしょ」
いいね、と言いつつその声色には納得できていなさそうな雰囲気が滲んでいた。何か他に言いたいことがあるんだろうけれど、それを聞いていいのかはちょっとわからない。
「この算数の問題、わかる?」
「えっ、えぇ……」
目の前に突き出された問題を見たけれど、正直いってよくわからない。そもそもここはまだ教えて貰っていないし見たこともないような難しい数式が所狭しと並んでいる。
「わかんないかぁ」
「……ちゃんと教えて貰ったらボクだって解けるさ」
「うーん……」
ナマエは再び考え込むような表情に戻った。
「ボクのこと、馬鹿にしてる?」
「いや、そういうのじゃないよ。別に」
「……」
これ以上会話を続けて足踏みしていると、サボっていると思われそうだしナマエも喋り続けたそうな雰囲気ではなかったから、ボクは走り込みに戻った。ナマエは分からなくてボクに聞いたんじゃなくて、多分別に考えていることがあるんだろうと思った。でも、それが何なのかは分からない。
「…………」
彼女の深刻そうな表情からして、ただごとではないのはわかる。ボクにどうにかできないことなんだろうか。……ナマエが困っているなら、助けてあげたいなぁ。
ジェイドの師匠――にあたる人が、わたしの座っている横に、少し距離を置いてどっしりと腰掛けた。
彼が座る時、そもそも動作を起こす時にはあまり音がでなくて、わたしは毎回びっくりする。
「こんにちは」
「……ああ」
レーラァことブロッケンJrさんは、わたしのことをあんまりよく思っていないと思う。ジェイドが最強の超人になるためにはわたしみたいな人間は邪魔だろうし、実際に邪魔をしている自覚はあるし。
――そもそも、わたしはジェイドがなんでそこまで強くなりたがっているのかすら、よくわからないでいる。
どうしてなのかを知るために友達になったつもりでいるけれど、こうして一ヶ月近く足繁く彼の元に通ってみても、本当に理解ができないという感想しか持てなかった。
なんであんなに苦しいことに対して必死になるのか、なんで強くないといけないのか、小さな国の一市民としてはスケールが大きすぎてついていけない話だ。
「あのぉ、ジェイドって家で勉強とかはしてるんですか?」
「……ああ、オレが見てやっている」
「そ、そうなんですね」
……困った。自分から話題を出しておいてなんて返事をしたらいいかわからない。ジェイドって、馬鹿なんですよ! って言ったら殺されそうだ(多分殺されはしないけど)し、ジェイドが馬鹿って言いたいんじゃなくて、彼がわたしと同い年なのにこういう問題もわかってないのがまずいんですよってことをなるべく失礼じゃないようにこの人に教えてあげないといけない! ような気がする……。
「あのー、これなんですけど……」
わたしは手元にある宿題用のプリントを彼に見せた。
「……これは?」
「これ、算数の復習問題で去年の範囲なんです。ジェイドはこれを見てわかんないって言ってたんですけど、ジェイドって算数が苦手なんですか?」
「……いや」
「えっと、お家で勉強してるって言ってましたよね。あー、その、学校に行く時間に練習してるし、大丈夫なのかなって思って」
わたしってお節介だ、本当に。自分で言い出したことでとてつもなく後悔している。めっちゃ怖いし、見られてるし。
「ジェイドのことなら心配しなくても、大丈夫だ」
「……そうなんですか?」
「そうだ。子供に何か言われる筋合いはない」
「…………」
怒っているみたいな感じではなかったけど、わたしにとっては威圧感がすごくて黙るしかなかった。差し出がましいことをしちゃった。
「……でも、勉強に追いつけないと将来苦労しますよ」
「…………」
「普通のことを知っておくのも、大事なんじゃないですか」
「それはもっともな意見だが……」
「……」
それだけ言われると、長い沈黙が続いた。
もう家に帰りたい。あー、なんでこんなこと言っちゃったんだろう!
……でも、わたしにはちゃんとした理由があってこんなことを言ってる。わたしが絶対正しいわけじゃないけど、普通におかしいと思ったことは言わないと気が済まないから。
「えっ⁉ 知らないの⁉」
学校で流行っているゲームの話を振ったら、よく知らないと言われた。この言葉を言うのは何回めだろう。ジェイドはみんなが知っているようなアニメとか歌とか、教科書に載ってるようなお話もしらない。何も知らないし、知らなくても問題ないって思ってる。
ひたすら練習の毎日だからそうなってしまうんだろうけど、それはそうなんだろうけれど、わたしはどうしても納得できなかった。
「ここら辺ってもう、常識じゃない?」
「……」
「ジェイド!」
「もう、別にいいだろ。知らなくたって何も困りはしないんだから」
そう言ってまた練習に戻ろうとする彼を、わたしは腕をつかんで引き留めた。
「駄目だよ。常識くらい知っとかないと」
「……なんで先生みたいなことナマエが言うんだよ」
「わたしは気にするのっ!」
ジェイドと会話していると、彼がとても世間知らずでズレているように感じられた。わたしが昨日見たテレビの話をしても、そもそも共通の話題がないから何も盛り上がらないし、世界が狭すぎるから会話が面白くない。
師匠と自分とご近所さんだけで全てが完結している。ジェイドが目標にしている超人レスリングはわたしにはよくわからない世界だし、せっかくの友達なのにわたしが学校の話をしてあげても興味がなさそうだし、はっきり言って面白くはなかった。
それでも足繁く通っているのは義務感が半分と、やっぱりジェイドのことが気になるから。彼がトレーニングをしている横で宿題をやってはいるものの、まともに集中できるわけじゃない。完全に、彼にとっては邪魔な存在だ。でも、ジェイドの世界にわたしがいないと、ずっとトレーニングだけしているなんてやっぱりおかしい。
もっと普通のことも教えてあげないと、あの師匠はストイックだからそういうことはあんまり興味なさそうだし、わたしがやってあげないと……誰が子供にとっての「普通」を教えてあげられるんだろう。
「ジェイドが……わたし以外に友達がいないから、わたしが何も言わなかったら、誰も教えてくれないでしょ」
「いらないよ、別に」
「大人になってから困るんだよ」
「大人じゃないくせに、なんだよ」
「そうだけど、世間知らずだと困るんだってお母さんが言ってたし!」
「えっ……」
大人の話題を出したら、ジェイドは一瞬動きを止めた。ああ、やっぱりこういうところがまだまだガキっていうか、ジェイドがいい子ちゃん過ぎるんだ。そもそもわたしのお母さんに会ったこともないのに、信じちゃうんだから。
「ジェイドだってずっとベルリンだけで生きていくわけじゃないんだから、普通のことも知っておかないと、困るよ。力ばっかり強くても頭馬鹿だったら意味ないじゃん」
「馬鹿じゃないよ!」
「例えだよ。皆知ってることを知らないと、馬鹿じゃなくても馬鹿だって思われるんだよ?」
自分でもよくないことだなあって思った。
ジェイドは困ったような顔をして、わたしをじっと見つめている。こんなに面と向かって、友達から馬鹿にされたことがないんだろうなぁ。いや、馬鹿にしてるとかじゃないし。わたしだってジェイドに嫌な思いとか、してほしくないからこうやって教えてあげてるだけ、だし。これって優しさだよね? わたしって性格悪いわけじゃないよね。
「やっぱり、学校とか行った方がいいのかな」
「……別に、超人だから行かなくてもいいんじゃない?」
ドイツの憲法で子供の教育の権利は保障されているけれど、別に行きたくなかったら行かなくていいし、超人の子供に対してはわたしたちとは違う価値観とかがあるだろうし、別に行かなくてもいいなら行かなくたっていいと思う。ジェイドは所謂自宅教育ってやつに該当するだろうし。
……ここまで考えて、わたしはジェイドが学校に通うようになったら嫌だな、と思った。
別にわたしはジェイドのことが嫌いとかじゃないのに、むしろ友達だって思ってるのになんでこんなこと考えちゃったんだろう。
「わたしがあの人には教えられないこと、教えてあげるから大丈夫だよ」
ジェイドは大きな目を丸く見開いて、大きく頷いた。
「じゃあ、ナマエが先生だ」
「……先生かぁ」
流れでそんな風になってしまって、わたしは責任を感じていた。
わたし一人では手に負えない案件だということに気づいたのはもっと後で、とりあえず彼の本当の先生で保護者である彼に助けを求めてみたけれど、失礼なことだけ言って何も成果はなかったし。
ブロッケンJrさんも昔はジェイドよろしく義務教育よりも特訓! みたいな感じだったらしくて、こういうことを期待できそうな感じではなかった。
だから、わたしが頑張らなくちゃいけない。
ジェイドに近寄ったのはわたしの方だ。
ちゃんと言った言葉には責任を取らないといけないってお母さんが言ってた。
だからわたしは、ジェイドの頭をよくしてあげないといけないんだ。
「うん。でも勉強もレーラァが教えてくれてるから」
「……ふーん」
公園で練習をしていると、学校帰りのナマエが現れた。水飲み場の横にあるベンチに彼女は腰掛けて、いつものように宿題を片付けている。
「宿題がないのはいいね」
「でしょ」
いいね、と言いつつその声色には納得できていなさそうな雰囲気が滲んでいた。何か他に言いたいことがあるんだろうけれど、それを聞いていいのかはちょっとわからない。
「この算数の問題、わかる?」
「えっ、えぇ……」
目の前に突き出された問題を見たけれど、正直いってよくわからない。そもそもここはまだ教えて貰っていないし見たこともないような難しい数式が所狭しと並んでいる。
「わかんないかぁ」
「……ちゃんと教えて貰ったらボクだって解けるさ」
「うーん……」
ナマエは再び考え込むような表情に戻った。
「ボクのこと、馬鹿にしてる?」
「いや、そういうのじゃないよ。別に」
「……」
これ以上会話を続けて足踏みしていると、サボっていると思われそうだしナマエも喋り続けたそうな雰囲気ではなかったから、ボクは走り込みに戻った。ナマエは分からなくてボクに聞いたんじゃなくて、多分別に考えていることがあるんだろうと思った。でも、それが何なのかは分からない。
「…………」
彼女の深刻そうな表情からして、ただごとではないのはわかる。ボクにどうにかできないことなんだろうか。……ナマエが困っているなら、助けてあげたいなぁ。
ジェイドの師匠――にあたる人が、わたしの座っている横に、少し距離を置いてどっしりと腰掛けた。
彼が座る時、そもそも動作を起こす時にはあまり音がでなくて、わたしは毎回びっくりする。
「こんにちは」
「……ああ」
レーラァことブロッケンJrさんは、わたしのことをあんまりよく思っていないと思う。ジェイドが最強の超人になるためにはわたしみたいな人間は邪魔だろうし、実際に邪魔をしている自覚はあるし。
――そもそも、わたしはジェイドがなんでそこまで強くなりたがっているのかすら、よくわからないでいる。
どうしてなのかを知るために友達になったつもりでいるけれど、こうして一ヶ月近く足繁く彼の元に通ってみても、本当に理解ができないという感想しか持てなかった。
なんであんなに苦しいことに対して必死になるのか、なんで強くないといけないのか、小さな国の一市民としてはスケールが大きすぎてついていけない話だ。
「あのぉ、ジェイドって家で勉強とかはしてるんですか?」
「……ああ、オレが見てやっている」
「そ、そうなんですね」
……困った。自分から話題を出しておいてなんて返事をしたらいいかわからない。ジェイドって、馬鹿なんですよ! って言ったら殺されそうだ(多分殺されはしないけど)し、ジェイドが馬鹿って言いたいんじゃなくて、彼がわたしと同い年なのにこういう問題もわかってないのがまずいんですよってことをなるべく失礼じゃないようにこの人に教えてあげないといけない! ような気がする……。
「あのー、これなんですけど……」
わたしは手元にある宿題用のプリントを彼に見せた。
「……これは?」
「これ、算数の復習問題で去年の範囲なんです。ジェイドはこれを見てわかんないって言ってたんですけど、ジェイドって算数が苦手なんですか?」
「……いや」
「えっと、お家で勉強してるって言ってましたよね。あー、その、学校に行く時間に練習してるし、大丈夫なのかなって思って」
わたしってお節介だ、本当に。自分で言い出したことでとてつもなく後悔している。めっちゃ怖いし、見られてるし。
「ジェイドのことなら心配しなくても、大丈夫だ」
「……そうなんですか?」
「そうだ。子供に何か言われる筋合いはない」
「…………」
怒っているみたいな感じではなかったけど、わたしにとっては威圧感がすごくて黙るしかなかった。差し出がましいことをしちゃった。
「……でも、勉強に追いつけないと将来苦労しますよ」
「…………」
「普通のことを知っておくのも、大事なんじゃないですか」
「それはもっともな意見だが……」
「……」
それだけ言われると、長い沈黙が続いた。
もう家に帰りたい。あー、なんでこんなこと言っちゃったんだろう!
……でも、わたしにはちゃんとした理由があってこんなことを言ってる。わたしが絶対正しいわけじゃないけど、普通におかしいと思ったことは言わないと気が済まないから。
「えっ⁉ 知らないの⁉」
学校で流行っているゲームの話を振ったら、よく知らないと言われた。この言葉を言うのは何回めだろう。ジェイドはみんなが知っているようなアニメとか歌とか、教科書に載ってるようなお話もしらない。何も知らないし、知らなくても問題ないって思ってる。
ひたすら練習の毎日だからそうなってしまうんだろうけど、それはそうなんだろうけれど、わたしはどうしても納得できなかった。
「ここら辺ってもう、常識じゃない?」
「……」
「ジェイド!」
「もう、別にいいだろ。知らなくたって何も困りはしないんだから」
そう言ってまた練習に戻ろうとする彼を、わたしは腕をつかんで引き留めた。
「駄目だよ。常識くらい知っとかないと」
「……なんで先生みたいなことナマエが言うんだよ」
「わたしは気にするのっ!」
ジェイドと会話していると、彼がとても世間知らずでズレているように感じられた。わたしが昨日見たテレビの話をしても、そもそも共通の話題がないから何も盛り上がらないし、世界が狭すぎるから会話が面白くない。
師匠と自分とご近所さんだけで全てが完結している。ジェイドが目標にしている超人レスリングはわたしにはよくわからない世界だし、せっかくの友達なのにわたしが学校の話をしてあげても興味がなさそうだし、はっきり言って面白くはなかった。
それでも足繁く通っているのは義務感が半分と、やっぱりジェイドのことが気になるから。彼がトレーニングをしている横で宿題をやってはいるものの、まともに集中できるわけじゃない。完全に、彼にとっては邪魔な存在だ。でも、ジェイドの世界にわたしがいないと、ずっとトレーニングだけしているなんてやっぱりおかしい。
もっと普通のことも教えてあげないと、あの師匠はストイックだからそういうことはあんまり興味なさそうだし、わたしがやってあげないと……誰が子供にとっての「普通」を教えてあげられるんだろう。
「ジェイドが……わたし以外に友達がいないから、わたしが何も言わなかったら、誰も教えてくれないでしょ」
「いらないよ、別に」
「大人になってから困るんだよ」
「大人じゃないくせに、なんだよ」
「そうだけど、世間知らずだと困るんだってお母さんが言ってたし!」
「えっ……」
大人の話題を出したら、ジェイドは一瞬動きを止めた。ああ、やっぱりこういうところがまだまだガキっていうか、ジェイドがいい子ちゃん過ぎるんだ。そもそもわたしのお母さんに会ったこともないのに、信じちゃうんだから。
「ジェイドだってずっとベルリンだけで生きていくわけじゃないんだから、普通のことも知っておかないと、困るよ。力ばっかり強くても頭馬鹿だったら意味ないじゃん」
「馬鹿じゃないよ!」
「例えだよ。皆知ってることを知らないと、馬鹿じゃなくても馬鹿だって思われるんだよ?」
自分でもよくないことだなあって思った。
ジェイドは困ったような顔をして、わたしをじっと見つめている。こんなに面と向かって、友達から馬鹿にされたことがないんだろうなぁ。いや、馬鹿にしてるとかじゃないし。わたしだってジェイドに嫌な思いとか、してほしくないからこうやって教えてあげてるだけ、だし。これって優しさだよね? わたしって性格悪いわけじゃないよね。
「やっぱり、学校とか行った方がいいのかな」
「……別に、超人だから行かなくてもいいんじゃない?」
ドイツの憲法で子供の教育の権利は保障されているけれど、別に行きたくなかったら行かなくていいし、超人の子供に対してはわたしたちとは違う価値観とかがあるだろうし、別に行かなくてもいいなら行かなくたっていいと思う。ジェイドは所謂自宅教育ってやつに該当するだろうし。
……ここまで考えて、わたしはジェイドが学校に通うようになったら嫌だな、と思った。
別にわたしはジェイドのことが嫌いとかじゃないのに、むしろ友達だって思ってるのになんでこんなこと考えちゃったんだろう。
「わたしがあの人には教えられないこと、教えてあげるから大丈夫だよ」
ジェイドは大きな目を丸く見開いて、大きく頷いた。
「じゃあ、ナマエが先生だ」
「……先生かぁ」
流れでそんな風になってしまって、わたしは責任を感じていた。
わたし一人では手に負えない案件だということに気づいたのはもっと後で、とりあえず彼の本当の先生で保護者である彼に助けを求めてみたけれど、失礼なことだけ言って何も成果はなかったし。
ブロッケンJrさんも昔はジェイドよろしく義務教育よりも特訓! みたいな感じだったらしくて、こういうことを期待できそうな感じではなかった。
だから、わたしが頑張らなくちゃいけない。
ジェイドに近寄ったのはわたしの方だ。
ちゃんと言った言葉には責任を取らないといけないってお母さんが言ってた。
だからわたしは、ジェイドの頭をよくしてあげないといけないんだ。