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ジェイド、頭をよくしてあげよう
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「何やってんの?」
声が聞こえてきたけれど、ボクは起き上がってその方を見る気力がなかった。仰向けになって見上げる空は薄暗くて、夕暮れ時の赤と紫のグラデーションがぼんやりと浮かんでいるみたいな色をしている。
「……無視? それとも疲れすぎて声が出ないの?」
「……あ」
視界が暗くなる。声の主がボクの顔を覗き込んでいた。ボクの真上から見下ろしてくるその人の顔は笑顔だったけれど、どことなくぎこちなさを感じた。硬い――というか、不慣れな笑い方をする子なんだなと思った。
逆光でちょうど光が彼女の背後から差していた。
まだ夏の名残が少し残っていて、この時間はまだ日の光が眩しい。暑さはとっくに通り過ぎたけれど、必死になってトレーニングしていると、季節や寒さに関係なく汗だくになって、身体の奥底から沸騰するように全身が熱くなる。地面は固いけれど、冷たくて気持ちいい。
「わたし、ずっと見てたんだ。超人の子ってここらだと珍しいし、いつも大きなタイヤ引いて何してるんだろうって」
「強くなるため、だよ」
「君って強くなりたいの?」
「うん……」
「へぇ、だったらわかった」
わかった、というのがどういう意味なのか、ボクはわからなかった。何も言わないでいると、彼女は僕の横に座った。大きな通学鞄を横に置くと、彼女は水筒をこちらに差し出した。
「飲みなよ、疲れてるでしょ」
「う、うん……」
女の子から受け取ってしまったけれど、これはいいことなのか駄目なことなのかわからない。今はたまたまレーラァは席を外していたし、彼女が悪意をもってこれを手渡している可能性もある。知らない人から物を貰ってはいけないって教えられたこともあるし、でもかといってそのまま突き返すのも悪いような気がして、ボクは固まった。
「……変なのじゃないよ」
彼女はボクから水筒をひったくると、蓋を開けて一口だけ中身を飲んだ。
「毒、入ってないよ。普通の水だから」
「うん、ごめん……。じゃあ、いただきます」
本当に冷たい水だった。喉を通ると滲みるように気持ちが良くて、思わず全部飲み干してしまった。
「ごめん、全部飲んじゃった」
「いいよ。もう、うちに帰るだけだし」
「……ありがとう」
「ううん、わたしもいきなり話しかけちゃったのに、ちゃんと応えてくれてありがとう」
彼女はそれを再び鞄の中にしまって、ゆっくりと立ち上がった。
「……わたし、そろそろ帰るね」
そのままボクに背を向けた彼女を見て、置いていかれるような気がした。置いていかれるも何もボクたちは初対面だし、まだお互いの名前も知らない状態の他人同士だ。それでも背中を押されるような感覚がして、慌てて立ち上がる。
「ねぇ、また会えるかな⁉」
「それなら明日も来るよ」
振り返ってそう言った彼女の顔が、瞼の裏にまで焼き付いたみたいに離れなかった。
家の近所で、すごい訓練をしている男の子がいる。学校に行く時間から帰る時間までずっと自分の身体よりも大きなタイヤを引いて訓練(?)をしているその子を見て、わたしはずっと興味を引かれていた。お母さんに「なんであの子はずっとあんなことをしてるんだろう」と聞いたとき、「超人だからかなぁ」と返されたのを覚えている。
普通の人間じゃないから、学校なんて行かなくてもいいんだよ、なんて言われてそりゃあないでしょと思ったけど、世の中はわたしの知ってる理屈だけで動いてるわけじゃないから、何も反論できなくて黙ってしまった。
でもお母さんが言ってるからそうだと素直に納得できるわけもなくて、わたしは彼に近づいてみた。多分年齢も同じくらいだろうし、友達にだってなれるかもしれない。話もちゃんと通じたし、力が強いってだけで普通の子供と変わらなかった。
「……明日も会えるかな、か」
まさか向こうから仲良くなりたいだなんて言ってくるなんて思ってもいなくて、ベッドの中で言葉を反芻する。野良の犬みたいだった。汗と土でドロドロで、地面に寝っ転がっても平気な顔をしてる。わたしの周りにはそういう子はいない。
名前も聞きそびれてしまった。でも、明日も会えるからそのとき聞けばいいか。
声が聞こえてきたけれど、ボクは起き上がってその方を見る気力がなかった。仰向けになって見上げる空は薄暗くて、夕暮れ時の赤と紫のグラデーションがぼんやりと浮かんでいるみたいな色をしている。
「……無視? それとも疲れすぎて声が出ないの?」
「……あ」
視界が暗くなる。声の主がボクの顔を覗き込んでいた。ボクの真上から見下ろしてくるその人の顔は笑顔だったけれど、どことなくぎこちなさを感じた。硬い――というか、不慣れな笑い方をする子なんだなと思った。
逆光でちょうど光が彼女の背後から差していた。
まだ夏の名残が少し残っていて、この時間はまだ日の光が眩しい。暑さはとっくに通り過ぎたけれど、必死になってトレーニングしていると、季節や寒さに関係なく汗だくになって、身体の奥底から沸騰するように全身が熱くなる。地面は固いけれど、冷たくて気持ちいい。
「わたし、ずっと見てたんだ。超人の子ってここらだと珍しいし、いつも大きなタイヤ引いて何してるんだろうって」
「強くなるため、だよ」
「君って強くなりたいの?」
「うん……」
「へぇ、だったらわかった」
わかった、というのがどういう意味なのか、ボクはわからなかった。何も言わないでいると、彼女は僕の横に座った。大きな通学鞄を横に置くと、彼女は水筒をこちらに差し出した。
「飲みなよ、疲れてるでしょ」
「う、うん……」
女の子から受け取ってしまったけれど、これはいいことなのか駄目なことなのかわからない。今はたまたまレーラァは席を外していたし、彼女が悪意をもってこれを手渡している可能性もある。知らない人から物を貰ってはいけないって教えられたこともあるし、でもかといってそのまま突き返すのも悪いような気がして、ボクは固まった。
「……変なのじゃないよ」
彼女はボクから水筒をひったくると、蓋を開けて一口だけ中身を飲んだ。
「毒、入ってないよ。普通の水だから」
「うん、ごめん……。じゃあ、いただきます」
本当に冷たい水だった。喉を通ると滲みるように気持ちが良くて、思わず全部飲み干してしまった。
「ごめん、全部飲んじゃった」
「いいよ。もう、うちに帰るだけだし」
「……ありがとう」
「ううん、わたしもいきなり話しかけちゃったのに、ちゃんと応えてくれてありがとう」
彼女はそれを再び鞄の中にしまって、ゆっくりと立ち上がった。
「……わたし、そろそろ帰るね」
そのままボクに背を向けた彼女を見て、置いていかれるような気がした。置いていかれるも何もボクたちは初対面だし、まだお互いの名前も知らない状態の他人同士だ。それでも背中を押されるような感覚がして、慌てて立ち上がる。
「ねぇ、また会えるかな⁉」
「それなら明日も来るよ」
振り返ってそう言った彼女の顔が、瞼の裏にまで焼き付いたみたいに離れなかった。
家の近所で、すごい訓練をしている男の子がいる。学校に行く時間から帰る時間までずっと自分の身体よりも大きなタイヤを引いて訓練(?)をしているその子を見て、わたしはずっと興味を引かれていた。お母さんに「なんであの子はずっとあんなことをしてるんだろう」と聞いたとき、「超人だからかなぁ」と返されたのを覚えている。
普通の人間じゃないから、学校なんて行かなくてもいいんだよ、なんて言われてそりゃあないでしょと思ったけど、世の中はわたしの知ってる理屈だけで動いてるわけじゃないから、何も反論できなくて黙ってしまった。
でもお母さんが言ってるからそうだと素直に納得できるわけもなくて、わたしは彼に近づいてみた。多分年齢も同じくらいだろうし、友達にだってなれるかもしれない。話もちゃんと通じたし、力が強いってだけで普通の子供と変わらなかった。
「……明日も会えるかな、か」
まさか向こうから仲良くなりたいだなんて言ってくるなんて思ってもいなくて、ベッドの中で言葉を反芻する。野良の犬みたいだった。汗と土でドロドロで、地面に寝っ転がっても平気な顔をしてる。わたしの周りにはそういう子はいない。
名前も聞きそびれてしまった。でも、明日も会えるからそのとき聞けばいいか。