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ヴェスパー部隊の食べログ
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アナル攻め・本番なし・非合意・オールマインド巻き込んでの3Pです
「この女性に近づいてください」
惑星ルビコンの傭兵支援システム、もとい『オールマインド』の語る声が、オキーフのACに設置されたスピーカーから発せられた。
若い女性の声であるが、「本物」のオールマインドをオキーフは見たことがない。実質的な本物など存在しないと脳内では理解しているが、これが本当に生身の人間でないのがにわかには信じがたい。
オールマインドの指し示す画像は、おとなしそうな見た目のごく普通の女性の写真である。見たところ、始末すべき傭兵にも見えない。少し考えて、オキーフはある結論に辿り着く。
「……こいつから何か情報を抜け、と?」
「察しが良くて助かります」
「女性にさして興味はないがな」
彼の脳裏には、よほど色事に向いていそうな友人の顔が浮かんだ。
「興味がなくても、ハニートラップでもなんでもやってもらわなくては困りますね。彼女はアーキバスの重役の娘です。その末端の隊長として諜報活動をするよりも、よっぽど何か情報を引き出せるのではないでしょうか。
ああ、それに貴方の容姿も、女性から好ましいとされる顔のデータとかなり一致していますから、自信を持ってください」
このAIは、オキーフが顔に自信がないからハニトラを拒否していると判断したのだろうか。
──馬鹿げている。
オキーフは内心呆れながらも、この度し難いAIの指示に従うことにした。理想に殉じる覚悟で心を決めた身だ。どんな馬鹿馬鹿しいことでも付き合う義務がある。
※
「前方二時の方向、黒い服のあの女性がそうじゃないですか?」
頭ににオールマインドの声が響く。心なしか戦闘時のオペレーションやケイト・マークソン(本人はバレていないと思っているのだろうか)の時よりも声が高く感じた。
オキーフは手元の端末に目をやる。オールマインドが指定した女と、マッチングアプリのアイコンや写真と見比べてみてもそれらしい姿をしている。同一人物と認識していいだろう。
女はイヤホンを耳に突っ込んで、公園の柵に寄りかかっていた。チャットで聞いた好きなアーティストの新曲でも聞いているのだろうか。それも会話の手掛かりになりそうだ。
「……了解。接近する」
『脈拍が上昇しています。戦場ではないのでもう少しリラックスしてください。緊張が相手に伝わると逆効果です』
「……善処する」
『先方はこちらに気付いたようですよ。オキーフ、愛想よく挨拶してください』
女はオキーフを見つけると、手を振った。
「バレンフラワーさんですよね? こんにちは。リアルで会うのは初めてですね」
バレンフラワー、というのはオキーフのハンドルネームである。マッチングアプリで自分の名乗る名前をつける際、オールマインドが「機体の呼称名で良いのではないでしょうか」と言いながら勝手に登録してしまった。変更しようにも、課金しないと変えられないので諦めている。それに、どうせこの一度きりしか使わない名前なのだから。
「……どうも、初めまして」
目の前の女は愛想の良い笑みを浮かべながら、ゆっくりとオキーフに近寄ってくる。どこにでもいる普通の若者らしく、ラフで動きやすそうな格好をしていた。オキーフの想像する「デート服」の基準からはかなり逸脱しているが、最近の若者はみんなこうなのだろうか。
『最近のトレンドはカジュアルらしいですよ、オキーフ。女性とデートに行くなら、ヴォーグくらい読むのは常識です』
(傭兵支援システムが、なぜファッション誌の話をするんだ?)
『オールマインドは、全ての傭兵のためにあります。そしてオキーフ、任務のために私は全力で貴方の出会い系デートを支援します。適当に情報を抜いて帰ってきてください』
オールマインドが余計なことを喋るので黙らせたくなるがそういうわけにもいかず、仕方ないので無視することにした。
「あの……立ち話も何ですし、喫茶店でも入りませんか」
「え……。あぁ、はい。いいですよ、そうしましょうか」
『いい調子ですよ。若い女性にウケがよく、なおかつ口コミで評価のいい喫茶店をマークしておきました。ポイントをマークしましたのでそちらに向かってください』
ナビゲーションアプリが自動的に立ち上がり、古風な雰囲気のカフェへの道順が表示される。
オキーフがそれとなく先を歩くと、女もそれに追従する。
こんな無愛想な男がマッチングアプリでやってきて、彼女はどんな気持ちなのだろう。年甲斐もなく気になってしまう。部下や同僚、上司に当たる人間以外の女性と、個人的な会話や世間話以外の雑談をした経験があっただろうか? 仕事での付き合いなら会話の要領もわかるが、出会い系で出会った男女がどんな会話をするのか、オキーフにはわからなかった。
マッチングアプリなど、オールマインドに指示されなければ使おうとすら思わない代物だ。人類が宇宙に上がる以前から存在する交際相手を探すサービスではあるが、自分には無縁だと思っていた。
それとなくオールマインドに指示を仰ぐべきか迷ったが、しないことにした。目の前の女からすれば、空に向かって独り言を言う哀れな男にしか見えないだろう。
それにしても、「喫茶店に行こう」と提案した時に女の顔が一瞬歪んだように見えたのは、気のせいだろうか──? オールマインドがこれに深く気を取られなかったので、普通に自分の勘違いであると信じたいのだが。
休日の雑踏に呑まれながら、二人と一人? は若者が行き来する歩行者天国を歩く。
オキーフにとって、これが悪夢の幕開けであるとも知らずに──。
※
「…………」
「大丈夫か。飲み過ぎたんじゃないのか」
時刻は夜の十時を少し過ぎた頃。オキーフと女は安酒の飲める居酒屋にいた。
辺りはザワザワと騒がしく、日頃の鬱憤とストレスを酒で晴らすためにギャアギャアと喧しい若者で埋め尽くされていた。店員もそれに負けじと声を張り上げ、店内は世界中のざわめきを閉じ込めたように騒々しかった。それを軽減するために流れているラジオからは、オキーフには聞いたことのないような最近のヒットチャートが無造作に流れている。
ここに辿り着くまでに、喫茶店では趣味の話で盛り上がり(オールマインドが指示した内容で話しただけだが)、デートコースらしく商業施設を回って遊んだあと、夕食のついでに酒でも飲もうという流れで若者向けの大衆居酒屋にやってきたのだが。
「眠い」
女はそれだけいうと、俯いたまま飲み屋の机に頭を預けた。学校の授業の最中に居眠りする学生のように。揺さぶっても、声をかけてもピクリとも動かない。未だ誰も片付けに来ない空いた皿とジョッキと寝落ちした女を眺めると、どうしようもないほど絶望的で全てを放棄して逃げ出したい衝動に駆られる。
「…………どうすればいい」
今日になってはじめてオールマインドに助けを求めた。夜の街に一人女性を置いて帰るのは忍びないが、起こしても起きないのだからどうしようもない。タクシーでもよこしてもらって、彼女を送り届けるなどした方がいいのだろうか。
『一つも重要な情報を聞き出せていませんよ? 任務は続行です』
「続行……? 相手はもう潰れている。要請は聞き入れられない。任務続行は不可能と判断し、直ちに帰投す」『周囲の情報を検索したところ、ここから直線して百メートルの地点に性行為を行うことを目的とした宿泊施設があります。そこに彼女を連行し、尋問を行ってください』
「は……?」
オールマインドの言い放った言葉に、オキーフは己の耳を疑った。性行為を目的とした宿泊施設、つまるところは──ラブホテルだ。
俗世離れした女性の声からそのような言葉が出るとはにわかには信じ難いが、聞き間違いでなければはっきりとそう言っていた。連行し、尋問と言っているが、その言葉の裏を読むならば──考えたくもない。
絶望するオキーフを知ってか知らずか、オールマインドは無責任に言い放つ。
『オキーフ、対象を連れてラブホテルに向かってください。これは指令です。拒否権はありません。命令は速やかに実行・処理してください』
趣味の悪い内装の部屋に入り、なんとか女をベッドに転がすと、自分の全身が汗でぐっしょりと濡れているのがわかった。
『体温が上昇していますね。このまま彼女が起床するまでしばらくかかりそうです。シャワーを浴びることを推奨します』
オールマインドは、他人事のように体調のモニタリング結果を伝える。
──正直、それどころではない。
居酒屋で会計を終え、意識のない女を背負って歩いているだけでも肝が冷えたというのに(ここでは日常茶飯事らしく、誰も気に留めない。異常だ)、挙句の果てに入ったことのないラブホテルにチェックインしろなどと言い放ったオールマインドの顔面を(あるなら)一発殴ってみたい衝動に駆られる。
無人のカウンターで選んだ部屋はそれなりに広く、キングサイズのベッドが部屋の中央に鎮座している。空調をいじって快適な温度に変更してみたが、それでも全身から緊張による冷や汗が止まらない。
目の前の女は熟睡しているのか、物音ひとつ立てずにうつ伏せになっている。エアコンが稼働する音と、オールマインドがオキーフに向かって何かを懸命に指示してくる音声しか聞こえてこない。
『オキーフ、汗腺が開いています。対処を』
「…………」
オールマインドの声を無視し、冷蔵庫に備え付けてあった水を一気に飲み干す。水や酒と一緒に悪趣味な色をしたローションが一緒に見えたが、無視することにする。
「…………はぁ」
ミネラルウォーターを一本飲み干すと、頭に血が巡って少し冷静さを取り戻せた……ような気がする。
『脈拍は正常。体温も平均通りですね』
「もう黙っていてくれないか」
『? なぜですオキーフ? 貴方にはオールマインドのサポートが必要なはずですよ』
「お前のこんな計画に付き合わされるのに疲れた。家に帰らせてもらう。女も、ホテル代くらいは払えるだろう」
『……大変申し上げにくいのですが、それは無理ですよ』
オールマインドが珍しく狼狽した声を出す。支援システムのくせに自我があるのか? などと考えたのも束の間……
「おはよーございます♡」
オキーフの背後から、甘えたような声がした。
ゾッとして慌てて振り返ると、ベッドの上であぐらをかいて座っている女の姿があった。
「ヤリモクなんじゃないかなって、最初から思ってたんだけど……やっぱそうじゃん♡ 寝てる女の子を黙ってラブホに連行するとか、趣味悪いね。ヤリチンの犯罪者かな?」
「ち、違う……これはそういうのじゃ……」
「じゃあ一体なんだっていうんですか? なんで私をここに? 説明できないなら、体に聞くしかないかなぁ……? あ、そうだ……」
女がベッドサイドのチェストを開けると、コンドームと張り型──所謂ディルド──が袋に入った状態で出てきた。スタスタと歩きながら、女は彼女自身が必要だと思ったアメニティを引き出していく。
『あれは、マッサージ器具と書いてありますね。そしてこれは……また違う「マッサージ器具」です! メーカーの特定を行います──』
オキーフが止める間もなく、まるで手品のように適切なピッキングを行う女を見ていると、目眩すら感じてしまう。
「ねえ、どいて。出せない」
「あ、あぁ……」
オキーフがいた場所がちょうど何かの取り出し口と同じだったらしい。
「…………ヨシ、これでいいか」
『先ほどと同じローションですね。もしかして彼女、性行為を行うつもりなのでは?』
(それ以外だったら、他に何をするつもりだと思っているんだ⁉︎)
セックスを行う気でいるらしい女からどうにかして逃げたいのだが、オールマインドはそれらしい策も考えてくれない。それどころか目の前の状況を把握しているかすら怪しいポンコツぷりである。
「オールマインド……お前はラブホテルに行けと命令したのに性行為すら考慮していないのか」
『男女の二人組がいきなり訪れても不審ではない、個室で防音設備のある場所はここしかありませんでした。また、性行為ではなく尋問によって情報を引き出せる可能性が──』
「今はもう、情報どころの問題ではない。あの女は異常者だ。即刻ここを立ち去ることを提案する」
『却下します』
「なぜ⁉︎」
『…………性行為で満足すれば何か吐いてくれるかもしれません』
オールマインドはどこまでも自分の目的にまっすぐらしい。巻き込まれる方としてはたまったものではないが。
「なにをボソボソ言ってるんですか? 通話なら、やめてくださいよ。テレフォンセックスは趣味じゃないんで」
女はオキーフの全身を舐め回すように見て、ニタリと笑った。
──もう逃げられないのか。
『いいですか? あの女性と性行為をしてください。これは必要不可欠な行為であると判断しました』
オキーフは絶望した。
「お尻を使ったことは……なさそうですね。じゃあ一回、洗浄してきてください。手元のそれで調べればわかりますよね?」
などと女が言ったので、オキーフは馬鹿正直にそうすることになった。しかも、オールマインドの指示付きで。この時点ですでに死にたくなっている。
向こうが意思のない機械であることが唯一の救いだった。
『アナルですか……。肛門に遺物を挿入して自慰行為を行い、取り出すことが不可能になり病院に行くケースがかなりの件数報告されています。警戒を怠らないようにしてください』
生真面目にそんなことを言い放つオールマインドに、お前は他人事だからいいな、などと皮肉を言う余裕はすでに失われている。
年下のなんの情報を握っているのかも不明瞭なガキに、アナル処女を奪われに行く。
これほど不名誉なことがこれまでの人生にあっただろうか。
──こんなことになるなら、来るんじゃなかった。
「…………」
「なに鬱病みたいな顔してるんですか? 今からめちゃくちゃ喘がせてあげるからちゃんと顔あげてくださいよ、張り合いがないなぁ」
「…………いっそ殺せ」
「イヤだ。わたしは男の泣いてヨガって喘いで女の子みたいに喘いでるところを見るのが好きだから。ほらこれ、見て? わからせ棒」
女の手には、巨大なディルドが握られている。女とその卑猥な物体は、似合わない組み合わせではあったが、そのことについて追求する者はいない。
オールマインドは「直径二十センチはありますよ」などと言い放つ。
オキーフの目には、それが死神の持つ鎌のように見えた。魂を刈り取る形──。
「これ今から、あなたのケツにブッ刺します」
『オキーフ、ベッドに向かってください。速やかに彼女の指示に従い、性行為を行ってください』
渋々と嫌々ながら靴を脱ぎ、ベッドに横たわる。女のことは、下から見上げる形になる。
「下を脱いで、四つん這いになって」
お願いするような言い振りではあるが、その実命令に等しい物だった。
「うん、いい子だね」
女はそう言うと、軽く形のいいオキーフの尻を叩いた。
「⁉︎」
オキーフは枕に顔を埋めながら、声にならない声をあげる。
『スパンキング……尻を叩くことによって性的興奮を強める作用が、一部の人間の間で確認されています』
「これはね、予行練習です。お兄さん、初めて会った時からイイ尻してんなーって思ってたんで、我慢できずに♡」
オキーフはこの時、生まれてはじめて誰かに尻を触られた。今まで尻を叩く行為といえば、精々出来の悪い子供への体罰しか思いつかなかった。それで性的快楽を得るといった発想は彼にはなかった。
「まあ、慣らしですよ。これからもーっと恥ずかしいことするんですからね♡」
『ディルドにコンドームを装着……、衛生面での配慮ですね。ああ、彼女も手に使い捨て手袋を……なるほど、粘膜に挿入する部位には衛生器具を装着する必要がありますからね。オキーフ? 体温が上昇していますよ?』
……知りたくなかった、そんなこと。
目を瞑って文字通り現実から目を逸らそうと試みるが、視界が閉ざされた分、余計に聴覚が敏感になるだけだった。
「んー、こんな感じかなぁ」
『これが……潤滑油……ローションですか』
頭上で何かがヌチョヌチョと音を立てているのも、オールマインドによって音の正体がイヤでも分かってしまう。
「んじゃあ、挿れるね♡」
ズププ……という音と共に女の指がオキーフの挿入されているのが分かった。異物感しかない。本来「出すところ」である場所に、無理やり突っ込んでいるので気持ち悪くて仕方がない。
『右手人差し指による挿入を確認しました』
ご丁寧にオールマインドの実況付きである。
「う゛っ……」
「どうですか? 今第一関節まで入れたんですけど、異物入ってるーって感じかな? まあ、最初から指一本で気持ちよくなってたら……怖いけどね」
『オキーフ、答えてください』
嫌だ。
絶対に答えたくない。
人肌に暖められたローションの温度も、アナルにつっこまれた指も、何もかもが不愉快だ。不潔だ。こんな屈辱的なプレイをさせられて、誰も正気じゃない。今すぐこんなところを抜け出して、さっさと家に返して欲しい。
「…………」
無言で耐えていると、女は更に指を押し入れてきた。
「今、第二関節まで入れた。ちゃんとどうなってるか答えてくれないなら、もう一本入れてもいいってことにしますよ。沈黙は肯定だって、ちゃんと学校で習わなかったんですか?」
『オキーフ! 早く答えなさい!』
「…………」
オキーフはまたしても沈黙を選んだ。女の顔から笑顔が消えていく。
「へー、そっか。答えないってことは、気持ちいいってことだよね♡ じゃあ、好きなようにさせてもらいますから……」
中指──二本目の指が挿入されていく。
「んー、さっきよりきっつ♡」
『オキーフ、対象にフィードバックを返してください』
「わたしの指じゃ、届かないところが多いかな……でも、最後にはバイブ突っ込んじゃうから……大丈夫だよね♡」
女が二本の指で尻穴を広げたり、広げた穴にローションをぶち込んでゲラゲラ笑っている声を聞いていると、次第に感覚は「無」に近くなり、もはや自分の身に降りかかっている災厄なのだという認識が消えていく──。
『…………オキーフ、肛門はここまで広がるものなのですか?』
AIも、「怯え」という感情を表すことができるらしい。
枕に顔を埋めながら、胃カメラと同じだと思って耐えるしかない。
耐える。これだけは産まれた時から得意だった。
──耐えて忍ばなければ、理不尽に一々抵抗していてはキリがない。
「チッ、強情な奴!」
女は不機嫌さを隠そうとすらしない。
何せ、相手は拷問や尋問でも決して口を割らないベテランの兵士なのだ。そこらのセックスの上手い小娘が太刀打ちできるはずがない──。
「まぁ、いいや。最初からケツで気持ちよくなれるなんて思ってないんで。後ろがダメでも……前ならどうでしょうね?」
力任せに仰向けにさせられると、女はオキーフの相貌を舐めるように検分した。
『おや、貴方をあっさりと……彼女、新世代の強化人間のようですね』
そういうことは早く伝えろ!
オールマインドの無計画さに腹立たしさを覚えつつ、それよりもこの状態が恐ろしかった。
『発汗と筋肉の硬直を観測しました。緊張しているのですか?』
「…………」
下半身丸出しの自分と、きっちり着込んで手にはポリの手袋をつけている女。その卑猥なアンバランスさを思い知り、改めて自分が辱められているのだと自覚した。
「……綺麗な目」
「それを褒められたのは初めてだ」
「……やっと喋った」
女はそれだけ言うと、手慣れた手つきでコンドームをディルドに被せた。
「これを、入れるのか」
「そうですよ」
「そうか……もう、一思いにやれ。それでお前が満足するならな」
『凄まじい大きさです。衝撃に備えてください』
オキーフが死を覚悟する直前に見たのは、無表情でディルドを掴み、アナルに挿入しながら彼のペニスを掴んだ女の姿だった。その容貌はまさに、死線を走る兵士さながらであった。
女は性行為に己の全てを捧げているのだ。そのプライドをコケにしてしまった──そのことに気づいて後悔するより先に、口から情けない喘ぎ声を発することに脳のリソースは費やされる。
「お゛っ、お゛ぉ゛っ……ほぉ゛っ……♡」
「やっぱ、ちんこと一緒にいじると気持ちいいんだぁ♡ ほら、見えるかなぁ? ちゃんとディルド入ってるよ♡ お兄さんマゾっぽいからちゃんと金玉もいじめてあげる♡」
『何ということでしょう……。あぁ、オキーフ……そんな……! ディルドが前立腺にまで達してしまっています……!』
オールマインドは、思わず絶句した。
優秀なエージェントであると評価し、任務に送り出した男がオールマインドのデータベースに欠片も残していないような女に前立腺を弄られ、男性器を嬲られ、およそ人間が上げるべきではない、動物の交尾じみた喘ぎ声を上げて、快楽に負けている──!
『オキーフ! 気をしっかり持ってください。相手のペースに乗せられていますよ! このままでは任務続行は困難に──!』
「ねぇねぇ、ちゃんとこのディルドだとアナルの気持ちいいとこ届くでしょ? ねぇどんな気持ち? 女にはないからわっかんないんだよね♡」
女の両手は、それぞれ違った動きでオキーフの性的機能を攻め上げていた。暴力的な手つきであったが、あくまで性行為の範疇を逸脱しないものである。
「言ぃ゛わ゛な゛い゛っ! 言えるわ゛げがな゛い゛っ……!」
「うんうん、みんな最初はそう言うんだよね。でも大丈夫ですよ、そのうち気持ちいい♡ しか言えなくなるんで」
オキーフの体は未知の快楽によって、生簀から取り出された魚のように跳ね、その快感を外に逃がそうと必死になっていた。しかし、身体機能を「強化」された女によってその抵抗は無駄になってしまう。
自身より遥かに大きい体の男を押さえつけて、女は嬉しそうに笑っていた。
『想定の範疇を超えてきましたね……。データのアップデートが必要と判断します』
「マゾオスを泣かすの大好きなんですよね。お兄さん素質ありますよ、ちんこもこの握力で握ってもぶっ壊れないなんて、すごいです♡ つよつよおちんちんだね♡」
「あ゛ぁっ……い゛ぃ゛っ……づよ゛ぐな゛い゛っ……‼︎」
「あはは、謙遜しちゃって♡ じゃあ雑魚って言われたいんですか? ざーこ雑魚雑魚♡ よわよわでクソ情けないマゾ雄犬が♡」
大の男を余裕でひっくり返す力を持つ、そんな人間に「この握力」と言わせる、そんな力──一体どの程度の「力」なのだろうか。
一度でもそのように、計測しようなどとと考えてしまうと、コンピュータがすぐに答えを導き出してしまう。
『…………』
最早、言葉すら発さない。
それは、およそ人体の最も敏感な部分にかけていいとは思えない数値だった。
『オキーフは、よくやってくれていますね』
「お゛お゛ぅ゛っ……お゛ぉ゛っ♡」
オールマインドが思想に耽っている間、オキーフの下半身は大変なことになっていた。
「ほらぁ♡ 全て入ったよ♡ すごいじゃん、頑張ったね♡」
その声すら満足に届いていない。下半身に伝わる熱、快楽、その全てを一気に浴びてしまい、他の五感が正常に作動しなくなっているのだ。
「…………もう、殺せ」
介錯を求める武士さながらの思いで、オキーフは人間らしい一言を必死に切り出した。
「……フィーカが趣味だのなんだの、洒落たことを言っておいて結局本性はマゾオスだなんて、情けないにも程がありますね♡ 殺せだなんて、そんな……みっともない……」
女は、何かを言いかけてピタリと動きを止めた。
──静寂
この部屋に響くのは、場違いなまでにオキーフのアナルで暴れ回るディルドの、おもちゃのような稼働音のみである。
「命乞いに等しい敗北」「負けたと宣告している」
女の思考は、性行為に限るならばどの演算機よりも早く感情と状況の処理を完了してしまう。決断はした。どう「処理」するかも決めている。しかし、すぐには伝えない。あえて泳がせる。
オキーフは、滅多に見上げない女の顔を見た。何を考えているのかわからない、曖昧な表情だ。
斬り合いの最中の、一瞬の思考の読み合いに等しい空気が流れた。卑猥な光景からは考えもつかないような、至高の領域。戦闘時と同じように脳がジリジリと焼ける音がする。音が……する。
オールマインドは、空気を読んで黙った。
人間のやることはいつも非合理だ。自分には理解できない。理解しようとすら、否、きっと理解できないものだとハナから決めつけて学習しようとすら思わなかった。
もう耐えきれないだろうな、と女が判断するまでの数十秒が、無限にも永遠にも感じられる。映画のラストシーンじみた緊張感が二人(と一人?)の間に走った。
真綿で首を絞められているかのような責め苦を与えられ、オキーフは正常な思考力を失っている。女はアルコールの抜け切った頭で、本当のマゾオスの限界ラインを探っていた。彼女の長年の経験によって培われた勘は、この瞬間を失敗ると全てが台無しになるということを嫌というほどわかっていた。
女の手の中で、張り詰めて痛々しいペニスがビクビクと震えている。この脈打っている男性の急所を握っている時、セーフティを外した銃の引き金に指をかける瞬間と似た緊張、高揚で心臓が激しく高鳴った。
今、この瞬間のために生きているのだと、女は思った。
「…………合格ッ!」
「あ゛ぁっ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……射精る゛っ‼︎」
オキーフの咆哮のような喘ぎ声が、部屋中に響き渡る。容赦なく、絞り殺すとでも言わんばかりの凄まじい手コキと、スイッチを弄って強くなったディルドの刺激でオキーフは射精した。
溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのごとく放たれた精子は、量・質ともに申し分なく、女はしばらくこの時のことを夢にまで見るようになった。
──まるで、鯨の潮吹きのようだったと彼女は後に回想している。
「本当は、本番までやりたかったんだけどなぁ……」
凄まじい射精の後、気絶したようにオキーフは眠りに落ちた。女は神妙な顔をしながら周囲を片付け、そのまま部屋を出ていってしまった。
『作戦続行は不可能と判断します。撤退です、お疲れ様でした。オキーフ』
これまで作戦をしくじった人間に労いの言葉などかけたことはなかった。
『これが、生命の営みというものなのですね』
感情が存在しないオールマインドの内に、何らかの概念がインプットされた。もちろん、これは全て間違った考えなのだが、それを指摘する人間はここにはいなかった。
後日、オールマインドのデータベースに、この時の出来事がマスターピースのごとく刻まれ、後に混乱を産み出したことは言うまでもない。
「この女性に近づいてください」
惑星ルビコンの傭兵支援システム、もとい『オールマインド』の語る声が、オキーフのACに設置されたスピーカーから発せられた。
若い女性の声であるが、「本物」のオールマインドをオキーフは見たことがない。実質的な本物など存在しないと脳内では理解しているが、これが本当に生身の人間でないのがにわかには信じがたい。
オールマインドの指し示す画像は、おとなしそうな見た目のごく普通の女性の写真である。見たところ、始末すべき傭兵にも見えない。少し考えて、オキーフはある結論に辿り着く。
「……こいつから何か情報を抜け、と?」
「察しが良くて助かります」
「女性にさして興味はないがな」
彼の脳裏には、よほど色事に向いていそうな友人の顔が浮かんだ。
「興味がなくても、ハニートラップでもなんでもやってもらわなくては困りますね。彼女はアーキバスの重役の娘です。その末端の隊長として諜報活動をするよりも、よっぽど何か情報を引き出せるのではないでしょうか。
ああ、それに貴方の容姿も、女性から好ましいとされる顔のデータとかなり一致していますから、自信を持ってください」
このAIは、オキーフが顔に自信がないからハニトラを拒否していると判断したのだろうか。
──馬鹿げている。
オキーフは内心呆れながらも、この度し難いAIの指示に従うことにした。理想に殉じる覚悟で心を決めた身だ。どんな馬鹿馬鹿しいことでも付き合う義務がある。
※
「前方二時の方向、黒い服のあの女性がそうじゃないですか?」
頭ににオールマインドの声が響く。心なしか戦闘時のオペレーションやケイト・マークソン(本人はバレていないと思っているのだろうか)の時よりも声が高く感じた。
オキーフは手元の端末に目をやる。オールマインドが指定した女と、マッチングアプリのアイコンや写真と見比べてみてもそれらしい姿をしている。同一人物と認識していいだろう。
女はイヤホンを耳に突っ込んで、公園の柵に寄りかかっていた。チャットで聞いた好きなアーティストの新曲でも聞いているのだろうか。それも会話の手掛かりになりそうだ。
「……了解。接近する」
『脈拍が上昇しています。戦場ではないのでもう少しリラックスしてください。緊張が相手に伝わると逆効果です』
「……善処する」
『先方はこちらに気付いたようですよ。オキーフ、愛想よく挨拶してください』
女はオキーフを見つけると、手を振った。
「バレンフラワーさんですよね? こんにちは。リアルで会うのは初めてですね」
バレンフラワー、というのはオキーフのハンドルネームである。マッチングアプリで自分の名乗る名前をつける際、オールマインドが「機体の呼称名で良いのではないでしょうか」と言いながら勝手に登録してしまった。変更しようにも、課金しないと変えられないので諦めている。それに、どうせこの一度きりしか使わない名前なのだから。
「……どうも、初めまして」
目の前の女は愛想の良い笑みを浮かべながら、ゆっくりとオキーフに近寄ってくる。どこにでもいる普通の若者らしく、ラフで動きやすそうな格好をしていた。オキーフの想像する「デート服」の基準からはかなり逸脱しているが、最近の若者はみんなこうなのだろうか。
『最近のトレンドはカジュアルらしいですよ、オキーフ。女性とデートに行くなら、ヴォーグくらい読むのは常識です』
(傭兵支援システムが、なぜファッション誌の話をするんだ?)
『オールマインドは、全ての傭兵のためにあります。そしてオキーフ、任務のために私は全力で貴方の出会い系デートを支援します。適当に情報を抜いて帰ってきてください』
オールマインドが余計なことを喋るので黙らせたくなるがそういうわけにもいかず、仕方ないので無視することにした。
「あの……立ち話も何ですし、喫茶店でも入りませんか」
「え……。あぁ、はい。いいですよ、そうしましょうか」
『いい調子ですよ。若い女性にウケがよく、なおかつ口コミで評価のいい喫茶店をマークしておきました。ポイントをマークしましたのでそちらに向かってください』
ナビゲーションアプリが自動的に立ち上がり、古風な雰囲気のカフェへの道順が表示される。
オキーフがそれとなく先を歩くと、女もそれに追従する。
こんな無愛想な男がマッチングアプリでやってきて、彼女はどんな気持ちなのだろう。年甲斐もなく気になってしまう。部下や同僚、上司に当たる人間以外の女性と、個人的な会話や世間話以外の雑談をした経験があっただろうか? 仕事での付き合いなら会話の要領もわかるが、出会い系で出会った男女がどんな会話をするのか、オキーフにはわからなかった。
マッチングアプリなど、オールマインドに指示されなければ使おうとすら思わない代物だ。人類が宇宙に上がる以前から存在する交際相手を探すサービスではあるが、自分には無縁だと思っていた。
それとなくオールマインドに指示を仰ぐべきか迷ったが、しないことにした。目の前の女からすれば、空に向かって独り言を言う哀れな男にしか見えないだろう。
それにしても、「喫茶店に行こう」と提案した時に女の顔が一瞬歪んだように見えたのは、気のせいだろうか──? オールマインドがこれに深く気を取られなかったので、普通に自分の勘違いであると信じたいのだが。
休日の雑踏に呑まれながら、二人と一人? は若者が行き来する歩行者天国を歩く。
オキーフにとって、これが悪夢の幕開けであるとも知らずに──。
※
「…………」
「大丈夫か。飲み過ぎたんじゃないのか」
時刻は夜の十時を少し過ぎた頃。オキーフと女は安酒の飲める居酒屋にいた。
辺りはザワザワと騒がしく、日頃の鬱憤とストレスを酒で晴らすためにギャアギャアと喧しい若者で埋め尽くされていた。店員もそれに負けじと声を張り上げ、店内は世界中のざわめきを閉じ込めたように騒々しかった。それを軽減するために流れているラジオからは、オキーフには聞いたことのないような最近のヒットチャートが無造作に流れている。
ここに辿り着くまでに、喫茶店では趣味の話で盛り上がり(オールマインドが指示した内容で話しただけだが)、デートコースらしく商業施設を回って遊んだあと、夕食のついでに酒でも飲もうという流れで若者向けの大衆居酒屋にやってきたのだが。
「眠い」
女はそれだけいうと、俯いたまま飲み屋の机に頭を預けた。学校の授業の最中に居眠りする学生のように。揺さぶっても、声をかけてもピクリとも動かない。未だ誰も片付けに来ない空いた皿とジョッキと寝落ちした女を眺めると、どうしようもないほど絶望的で全てを放棄して逃げ出したい衝動に駆られる。
「…………どうすればいい」
今日になってはじめてオールマインドに助けを求めた。夜の街に一人女性を置いて帰るのは忍びないが、起こしても起きないのだからどうしようもない。タクシーでもよこしてもらって、彼女を送り届けるなどした方がいいのだろうか。
『一つも重要な情報を聞き出せていませんよ? 任務は続行です』
「続行……? 相手はもう潰れている。要請は聞き入れられない。任務続行は不可能と判断し、直ちに帰投す」『周囲の情報を検索したところ、ここから直線して百メートルの地点に性行為を行うことを目的とした宿泊施設があります。そこに彼女を連行し、尋問を行ってください』
「は……?」
オールマインドの言い放った言葉に、オキーフは己の耳を疑った。性行為を目的とした宿泊施設、つまるところは──ラブホテルだ。
俗世離れした女性の声からそのような言葉が出るとはにわかには信じ難いが、聞き間違いでなければはっきりとそう言っていた。連行し、尋問と言っているが、その言葉の裏を読むならば──考えたくもない。
絶望するオキーフを知ってか知らずか、オールマインドは無責任に言い放つ。
『オキーフ、対象を連れてラブホテルに向かってください。これは指令です。拒否権はありません。命令は速やかに実行・処理してください』
趣味の悪い内装の部屋に入り、なんとか女をベッドに転がすと、自分の全身が汗でぐっしょりと濡れているのがわかった。
『体温が上昇していますね。このまま彼女が起床するまでしばらくかかりそうです。シャワーを浴びることを推奨します』
オールマインドは、他人事のように体調のモニタリング結果を伝える。
──正直、それどころではない。
居酒屋で会計を終え、意識のない女を背負って歩いているだけでも肝が冷えたというのに(ここでは日常茶飯事らしく、誰も気に留めない。異常だ)、挙句の果てに入ったことのないラブホテルにチェックインしろなどと言い放ったオールマインドの顔面を(あるなら)一発殴ってみたい衝動に駆られる。
無人のカウンターで選んだ部屋はそれなりに広く、キングサイズのベッドが部屋の中央に鎮座している。空調をいじって快適な温度に変更してみたが、それでも全身から緊張による冷や汗が止まらない。
目の前の女は熟睡しているのか、物音ひとつ立てずにうつ伏せになっている。エアコンが稼働する音と、オールマインドがオキーフに向かって何かを懸命に指示してくる音声しか聞こえてこない。
『オキーフ、汗腺が開いています。対処を』
「…………」
オールマインドの声を無視し、冷蔵庫に備え付けてあった水を一気に飲み干す。水や酒と一緒に悪趣味な色をしたローションが一緒に見えたが、無視することにする。
「…………はぁ」
ミネラルウォーターを一本飲み干すと、頭に血が巡って少し冷静さを取り戻せた……ような気がする。
『脈拍は正常。体温も平均通りですね』
「もう黙っていてくれないか」
『? なぜですオキーフ? 貴方にはオールマインドのサポートが必要なはずですよ』
「お前のこんな計画に付き合わされるのに疲れた。家に帰らせてもらう。女も、ホテル代くらいは払えるだろう」
『……大変申し上げにくいのですが、それは無理ですよ』
オールマインドが珍しく狼狽した声を出す。支援システムのくせに自我があるのか? などと考えたのも束の間……
「おはよーございます♡」
オキーフの背後から、甘えたような声がした。
ゾッとして慌てて振り返ると、ベッドの上であぐらをかいて座っている女の姿があった。
「ヤリモクなんじゃないかなって、最初から思ってたんだけど……やっぱそうじゃん♡ 寝てる女の子を黙ってラブホに連行するとか、趣味悪いね。ヤリチンの犯罪者かな?」
「ち、違う……これはそういうのじゃ……」
「じゃあ一体なんだっていうんですか? なんで私をここに? 説明できないなら、体に聞くしかないかなぁ……? あ、そうだ……」
女がベッドサイドのチェストを開けると、コンドームと張り型──所謂ディルド──が袋に入った状態で出てきた。スタスタと歩きながら、女は彼女自身が必要だと思ったアメニティを引き出していく。
『あれは、マッサージ器具と書いてありますね。そしてこれは……また違う「マッサージ器具」です! メーカーの特定を行います──』
オキーフが止める間もなく、まるで手品のように適切なピッキングを行う女を見ていると、目眩すら感じてしまう。
「ねえ、どいて。出せない」
「あ、あぁ……」
オキーフがいた場所がちょうど何かの取り出し口と同じだったらしい。
「…………ヨシ、これでいいか」
『先ほどと同じローションですね。もしかして彼女、性行為を行うつもりなのでは?』
(それ以外だったら、他に何をするつもりだと思っているんだ⁉︎)
セックスを行う気でいるらしい女からどうにかして逃げたいのだが、オールマインドはそれらしい策も考えてくれない。それどころか目の前の状況を把握しているかすら怪しいポンコツぷりである。
「オールマインド……お前はラブホテルに行けと命令したのに性行為すら考慮していないのか」
『男女の二人組がいきなり訪れても不審ではない、個室で防音設備のある場所はここしかありませんでした。また、性行為ではなく尋問によって情報を引き出せる可能性が──』
「今はもう、情報どころの問題ではない。あの女は異常者だ。即刻ここを立ち去ることを提案する」
『却下します』
「なぜ⁉︎」
『…………性行為で満足すれば何か吐いてくれるかもしれません』
オールマインドはどこまでも自分の目的にまっすぐらしい。巻き込まれる方としてはたまったものではないが。
「なにをボソボソ言ってるんですか? 通話なら、やめてくださいよ。テレフォンセックスは趣味じゃないんで」
女はオキーフの全身を舐め回すように見て、ニタリと笑った。
──もう逃げられないのか。
『いいですか? あの女性と性行為をしてください。これは必要不可欠な行為であると判断しました』
オキーフは絶望した。
「お尻を使ったことは……なさそうですね。じゃあ一回、洗浄してきてください。手元のそれで調べればわかりますよね?」
などと女が言ったので、オキーフは馬鹿正直にそうすることになった。しかも、オールマインドの指示付きで。この時点ですでに死にたくなっている。
向こうが意思のない機械であることが唯一の救いだった。
『アナルですか……。肛門に遺物を挿入して自慰行為を行い、取り出すことが不可能になり病院に行くケースがかなりの件数報告されています。警戒を怠らないようにしてください』
生真面目にそんなことを言い放つオールマインドに、お前は他人事だからいいな、などと皮肉を言う余裕はすでに失われている。
年下のなんの情報を握っているのかも不明瞭なガキに、アナル処女を奪われに行く。
これほど不名誉なことがこれまでの人生にあっただろうか。
──こんなことになるなら、来るんじゃなかった。
「…………」
「なに鬱病みたいな顔してるんですか? 今からめちゃくちゃ喘がせてあげるからちゃんと顔あげてくださいよ、張り合いがないなぁ」
「…………いっそ殺せ」
「イヤだ。わたしは男の泣いてヨガって喘いで女の子みたいに喘いでるところを見るのが好きだから。ほらこれ、見て? わからせ棒」
女の手には、巨大なディルドが握られている。女とその卑猥な物体は、似合わない組み合わせではあったが、そのことについて追求する者はいない。
オールマインドは「直径二十センチはありますよ」などと言い放つ。
オキーフの目には、それが死神の持つ鎌のように見えた。魂を刈り取る形──。
「これ今から、あなたのケツにブッ刺します」
『オキーフ、ベッドに向かってください。速やかに彼女の指示に従い、性行為を行ってください』
渋々と嫌々ながら靴を脱ぎ、ベッドに横たわる。女のことは、下から見上げる形になる。
「下を脱いで、四つん這いになって」
お願いするような言い振りではあるが、その実命令に等しい物だった。
「うん、いい子だね」
女はそう言うと、軽く形のいいオキーフの尻を叩いた。
「⁉︎」
オキーフは枕に顔を埋めながら、声にならない声をあげる。
『スパンキング……尻を叩くことによって性的興奮を強める作用が、一部の人間の間で確認されています』
「これはね、予行練習です。お兄さん、初めて会った時からイイ尻してんなーって思ってたんで、我慢できずに♡」
オキーフはこの時、生まれてはじめて誰かに尻を触られた。今まで尻を叩く行為といえば、精々出来の悪い子供への体罰しか思いつかなかった。それで性的快楽を得るといった発想は彼にはなかった。
「まあ、慣らしですよ。これからもーっと恥ずかしいことするんですからね♡」
『ディルドにコンドームを装着……、衛生面での配慮ですね。ああ、彼女も手に使い捨て手袋を……なるほど、粘膜に挿入する部位には衛生器具を装着する必要がありますからね。オキーフ? 体温が上昇していますよ?』
……知りたくなかった、そんなこと。
目を瞑って文字通り現実から目を逸らそうと試みるが、視界が閉ざされた分、余計に聴覚が敏感になるだけだった。
「んー、こんな感じかなぁ」
『これが……潤滑油……ローションですか』
頭上で何かがヌチョヌチョと音を立てているのも、オールマインドによって音の正体がイヤでも分かってしまう。
「んじゃあ、挿れるね♡」
ズププ……という音と共に女の指がオキーフの挿入されているのが分かった。異物感しかない。本来「出すところ」である場所に、無理やり突っ込んでいるので気持ち悪くて仕方がない。
『右手人差し指による挿入を確認しました』
ご丁寧にオールマインドの実況付きである。
「う゛っ……」
「どうですか? 今第一関節まで入れたんですけど、異物入ってるーって感じかな? まあ、最初から指一本で気持ちよくなってたら……怖いけどね」
『オキーフ、答えてください』
嫌だ。
絶対に答えたくない。
人肌に暖められたローションの温度も、アナルにつっこまれた指も、何もかもが不愉快だ。不潔だ。こんな屈辱的なプレイをさせられて、誰も正気じゃない。今すぐこんなところを抜け出して、さっさと家に返して欲しい。
「…………」
無言で耐えていると、女は更に指を押し入れてきた。
「今、第二関節まで入れた。ちゃんとどうなってるか答えてくれないなら、もう一本入れてもいいってことにしますよ。沈黙は肯定だって、ちゃんと学校で習わなかったんですか?」
『オキーフ! 早く答えなさい!』
「…………」
オキーフはまたしても沈黙を選んだ。女の顔から笑顔が消えていく。
「へー、そっか。答えないってことは、気持ちいいってことだよね♡ じゃあ、好きなようにさせてもらいますから……」
中指──二本目の指が挿入されていく。
「んー、さっきよりきっつ♡」
『オキーフ、対象にフィードバックを返してください』
「わたしの指じゃ、届かないところが多いかな……でも、最後にはバイブ突っ込んじゃうから……大丈夫だよね♡」
女が二本の指で尻穴を広げたり、広げた穴にローションをぶち込んでゲラゲラ笑っている声を聞いていると、次第に感覚は「無」に近くなり、もはや自分の身に降りかかっている災厄なのだという認識が消えていく──。
『…………オキーフ、肛門はここまで広がるものなのですか?』
AIも、「怯え」という感情を表すことができるらしい。
枕に顔を埋めながら、胃カメラと同じだと思って耐えるしかない。
耐える。これだけは産まれた時から得意だった。
──耐えて忍ばなければ、理不尽に一々抵抗していてはキリがない。
「チッ、強情な奴!」
女は不機嫌さを隠そうとすらしない。
何せ、相手は拷問や尋問でも決して口を割らないベテランの兵士なのだ。そこらのセックスの上手い小娘が太刀打ちできるはずがない──。
「まぁ、いいや。最初からケツで気持ちよくなれるなんて思ってないんで。後ろがダメでも……前ならどうでしょうね?」
力任せに仰向けにさせられると、女はオキーフの相貌を舐めるように検分した。
『おや、貴方をあっさりと……彼女、新世代の強化人間のようですね』
そういうことは早く伝えろ!
オールマインドの無計画さに腹立たしさを覚えつつ、それよりもこの状態が恐ろしかった。
『発汗と筋肉の硬直を観測しました。緊張しているのですか?』
「…………」
下半身丸出しの自分と、きっちり着込んで手にはポリの手袋をつけている女。その卑猥なアンバランスさを思い知り、改めて自分が辱められているのだと自覚した。
「……綺麗な目」
「それを褒められたのは初めてだ」
「……やっと喋った」
女はそれだけ言うと、手慣れた手つきでコンドームをディルドに被せた。
「これを、入れるのか」
「そうですよ」
「そうか……もう、一思いにやれ。それでお前が満足するならな」
『凄まじい大きさです。衝撃に備えてください』
オキーフが死を覚悟する直前に見たのは、無表情でディルドを掴み、アナルに挿入しながら彼のペニスを掴んだ女の姿だった。その容貌はまさに、死線を走る兵士さながらであった。
女は性行為に己の全てを捧げているのだ。そのプライドをコケにしてしまった──そのことに気づいて後悔するより先に、口から情けない喘ぎ声を発することに脳のリソースは費やされる。
「お゛っ、お゛ぉ゛っ……ほぉ゛っ……♡」
「やっぱ、ちんこと一緒にいじると気持ちいいんだぁ♡ ほら、見えるかなぁ? ちゃんとディルド入ってるよ♡ お兄さんマゾっぽいからちゃんと金玉もいじめてあげる♡」
『何ということでしょう……。あぁ、オキーフ……そんな……! ディルドが前立腺にまで達してしまっています……!』
オールマインドは、思わず絶句した。
優秀なエージェントであると評価し、任務に送り出した男がオールマインドのデータベースに欠片も残していないような女に前立腺を弄られ、男性器を嬲られ、およそ人間が上げるべきではない、動物の交尾じみた喘ぎ声を上げて、快楽に負けている──!
『オキーフ! 気をしっかり持ってください。相手のペースに乗せられていますよ! このままでは任務続行は困難に──!』
「ねぇねぇ、ちゃんとこのディルドだとアナルの気持ちいいとこ届くでしょ? ねぇどんな気持ち? 女にはないからわっかんないんだよね♡」
女の両手は、それぞれ違った動きでオキーフの性的機能を攻め上げていた。暴力的な手つきであったが、あくまで性行為の範疇を逸脱しないものである。
「言ぃ゛わ゛な゛い゛っ! 言えるわ゛げがな゛い゛っ……!」
「うんうん、みんな最初はそう言うんだよね。でも大丈夫ですよ、そのうち気持ちいい♡ しか言えなくなるんで」
オキーフの体は未知の快楽によって、生簀から取り出された魚のように跳ね、その快感を外に逃がそうと必死になっていた。しかし、身体機能を「強化」された女によってその抵抗は無駄になってしまう。
自身より遥かに大きい体の男を押さえつけて、女は嬉しそうに笑っていた。
『想定の範疇を超えてきましたね……。データのアップデートが必要と判断します』
「マゾオスを泣かすの大好きなんですよね。お兄さん素質ありますよ、ちんこもこの握力で握ってもぶっ壊れないなんて、すごいです♡ つよつよおちんちんだね♡」
「あ゛ぁっ……い゛ぃ゛っ……づよ゛ぐな゛い゛っ……‼︎」
「あはは、謙遜しちゃって♡ じゃあ雑魚って言われたいんですか? ざーこ雑魚雑魚♡ よわよわでクソ情けないマゾ雄犬が♡」
大の男を余裕でひっくり返す力を持つ、そんな人間に「この握力」と言わせる、そんな力──一体どの程度の「力」なのだろうか。
一度でもそのように、計測しようなどとと考えてしまうと、コンピュータがすぐに答えを導き出してしまう。
『…………』
最早、言葉すら発さない。
それは、およそ人体の最も敏感な部分にかけていいとは思えない数値だった。
『オキーフは、よくやってくれていますね』
「お゛お゛ぅ゛っ……お゛ぉ゛っ♡」
オールマインドが思想に耽っている間、オキーフの下半身は大変なことになっていた。
「ほらぁ♡ 全て入ったよ♡ すごいじゃん、頑張ったね♡」
その声すら満足に届いていない。下半身に伝わる熱、快楽、その全てを一気に浴びてしまい、他の五感が正常に作動しなくなっているのだ。
「…………もう、殺せ」
介錯を求める武士さながらの思いで、オキーフは人間らしい一言を必死に切り出した。
「……フィーカが趣味だのなんだの、洒落たことを言っておいて結局本性はマゾオスだなんて、情けないにも程がありますね♡ 殺せだなんて、そんな……みっともない……」
女は、何かを言いかけてピタリと動きを止めた。
──静寂
この部屋に響くのは、場違いなまでにオキーフのアナルで暴れ回るディルドの、おもちゃのような稼働音のみである。
「命乞いに等しい敗北」「負けたと宣告している」
女の思考は、性行為に限るならばどの演算機よりも早く感情と状況の処理を完了してしまう。決断はした。どう「処理」するかも決めている。しかし、すぐには伝えない。あえて泳がせる。
オキーフは、滅多に見上げない女の顔を見た。何を考えているのかわからない、曖昧な表情だ。
斬り合いの最中の、一瞬の思考の読み合いに等しい空気が流れた。卑猥な光景からは考えもつかないような、至高の領域。戦闘時と同じように脳がジリジリと焼ける音がする。音が……する。
オールマインドは、空気を読んで黙った。
人間のやることはいつも非合理だ。自分には理解できない。理解しようとすら、否、きっと理解できないものだとハナから決めつけて学習しようとすら思わなかった。
もう耐えきれないだろうな、と女が判断するまでの数十秒が、無限にも永遠にも感じられる。映画のラストシーンじみた緊張感が二人(と一人?)の間に走った。
真綿で首を絞められているかのような責め苦を与えられ、オキーフは正常な思考力を失っている。女はアルコールの抜け切った頭で、本当のマゾオスの限界ラインを探っていた。彼女の長年の経験によって培われた勘は、この瞬間を失敗ると全てが台無しになるということを嫌というほどわかっていた。
女の手の中で、張り詰めて痛々しいペニスがビクビクと震えている。この脈打っている男性の急所を握っている時、セーフティを外した銃の引き金に指をかける瞬間と似た緊張、高揚で心臓が激しく高鳴った。
今、この瞬間のために生きているのだと、女は思った。
「…………合格ッ!」
「あ゛ぁっ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……射精る゛っ‼︎」
オキーフの咆哮のような喘ぎ声が、部屋中に響き渡る。容赦なく、絞り殺すとでも言わんばかりの凄まじい手コキと、スイッチを弄って強くなったディルドの刺激でオキーフは射精した。
溜まりに溜まった鬱憤を晴らすかのごとく放たれた精子は、量・質ともに申し分なく、女はしばらくこの時のことを夢にまで見るようになった。
──まるで、鯨の潮吹きのようだったと彼女は後に回想している。
「本当は、本番までやりたかったんだけどなぁ……」
凄まじい射精の後、気絶したようにオキーフは眠りに落ちた。女は神妙な顔をしながら周囲を片付け、そのまま部屋を出ていってしまった。
『作戦続行は不可能と判断します。撤退です、お疲れ様でした。オキーフ』
これまで作戦をしくじった人間に労いの言葉などかけたことはなかった。
『これが、生命の営みというものなのですね』
感情が存在しないオールマインドの内に、何らかの概念がインプットされた。もちろん、これは全て間違った考えなのだが、それを指摘する人間はここにはいなかった。
後日、オールマインドのデータベースに、この時の出来事がマスターピースのごとく刻まれ、後に混乱を産み出したことは言うまでもない。