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ヴェスパー部隊の食べログ
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赤ちゃんプレイ・女攻め・授乳手コキ・色々捏造などしてます
「…………御息女の件ですか?」
モニターに映し出されたアーキバスグループの役員であるは、首を縦に振った。仕立てのいいスーツに身を包んだ男の左手薬指には、プラチナの指輪が光っている。
眉間に皺が寄ってしまっているのが、自分でもわかる。スネイルは努めて平然を装うつもりだったが、面倒ごとに巻き込まれることが確実である以上、不愉快さを隠し切ることができない。先方は気づいているのかいないのか、それでも厄介な案件を押し付けていることには自覚的なのだろう、普段の姿勢からは考えられない低姿勢での交渉だった。交渉とは名ばかりの、ただの個人的な命令ではあるが。
「……はい、承知しました。ええ、私に任せてくださっているのであれば、何なりと。どうにかしてみましょう…………では、失礼致します」
ミーティングアプリをタスクキルすると、押し殺していた疲労がどっと押し寄せる。しかし休んでいる暇はない。
人事部門が管理するデータベースにアクセスすると、問題の女性社員のページを開いた。入社前の経歴から、現在の部署に配属されるまでの人材評価──有り体に述べれば個人情報が、黒塗りもされず完全な状態で閲覧できる。
彼女はそれなりの名門大学を卒業後、少しの外遊を経てアーキバスグループに入社(おそらくコネであると考えられる。通常彼女のような人間は病歴で弾かれる)、入社時に行った適正検査の結果、ヴェスパー部隊に配属されることになった。
入社後すぐに第七世代の強化人間手術を行い、術後の経過は良好とは言い難い。発言・素行に大きな問題あり。組織への忠誠心にも欠け、術後の後遺症で常識的ではない言動を多く発するようになっている。シミュレータでの成績は平均より上位に位置するが、特出した技能はない。
要約すると、そこそこの能力を持ち、怠け者であり、手懐けることが難しい問題児であるということだ。
しかも、重役の娘。
「……はぁ」
──家族なら、こんなところに送り込まずにいればいいものを。
スネイルは思わずこめかみを抑えた。
『娘の曲がった性根を叩き直してやってくれ。やつは昔から人とは違っていてね、私も常に手を焼いている。他の社員と同じように、厳しく指導してやってほしい』
『愚娘は昔から私の胃痛の元だ。しかし、身内を見捨てることはできない。君にならあの馬鹿を矯正できるはずだ』
先ほどの通話の内容が、スネイルの脳内で反芻される。愚かな娘だというのなら、突き放して切り離せばいいと考えてしまうのは、子を持つ親になったことがないからだろうか。
「……とんだ親バカだ」
眼前のモニターには、先ほどの男とよく似た雰囲気を持つ女の写真が映し出されている。見る限りは問題行動など起こしそうもない、大人しそうな顔立ちの若い娘だった。
目線をカメラに向け、何を考えているかわからないような重たげな瞳を見ていると、写真越しでも気味が悪い。強化人間特有の脱力感なのか、それともこの女の性根がそうなのかはわからない。
わからないからこそ、会って確かめなければ──。
スネイルは、慣れた手つきで面談の連絡を個人の端末に送信する。しばらくしてから、それには既読が付いた。
「……待っていなさい、七光りのバカ娘」
スネイルはまだ知らない。
自分が祭壇に備えられた無知な子羊であること。
これから起こることが、人生の汚点の一つになるような恥辱的な体験であることを——。
※
女は気怠げな調子で椅子に座り、与えらた職務を淡々とこなしていた。といっても、彼女は新人なのでやれる仕事といえばたかがしれている。同期に入社した社員たちもまた似たような空気を出しており、スネイルが見張っている間に不審な動きをしたことはなかった。やや注意力に欠ける態度ではあるし、何度か遅刻をしたことはあったが再教育を施すほどの勤務態度ではなかった。
訓練の際には特出するほどでは無いものの、優秀な働きをする女に対して、スネイルはやや安堵する気持ちでいた。
(結局あの親バカが、過保護なまでに心配していただけだったか——)
命令には反抗的な視線で訴えかけてくるが、渋々といった様子で従っているし、他の協調性も社会性にも欠けているような個性の強い強化人間たちに比べれば、全然御し易い方であるとスネイルは感じている。無能な怠け者は、適切に鞭を入れればそれなりの戦力にはなる。それがスネイルの持論だった。
モニタをじっと見つめながらガチャガチャとタイピングをしたり、資料と睨み合う女を見ていると、新卒特有の初々しさすら感じられる。見れば見るほど、問題行動を起こしそうな兆しは見当たらなかった。
(こんな新人一人を抱え込むだけで、お偉方から評価してもらえるなんて、なんて運がいいのでしょうか。やはり、日頃の私の成果と信頼——ですかね)
スネイルの口元は、本人が意識しないままに釣り上がっていた。そして、それを見るものは誰もいない。
——しかし、女はスネイルが考えるほど甘い人間ではなかったのである。
※
「…………あの、面談って何話せばいいんですか」
女はスネイルを上目で見ながら口を開いた。猫背の姿勢はそのままに、強張った体で椅子に座っている。
スネイルは女を見ながら、「コーヒーでも飲みなさい」と言ってカップを差し出した。普段はこんなことをしない彼だが、部下を気遣う優しい上司だという印象を与えたいがために、わざわざ給湯器を使い、こんな庶務じみたことまでやっている。
「コーヒーは飲めないんです」
「……そうですか」
(私だったら、無理矢理にでも飲んでいたがな)
出世欲の強くない、最近の若者らしいと思った。
コーヒーを脇に避けると、スネイルは改まって彼女に向き合う。二人の間にはローテーブルがあり、学校の来賓室じみた雰囲気があった。
「まぁ、貴方は新入社員ですから。会社に馴染めているかだとか……今回は当たり障りのない雑談ですよ」
「嘘ですね」
スネイルが言い切る前に、女は間髪入れずに切り込んだ。
「少し落ち着きなさい。冬眠を邪魔された熊じゃないんですから、そこまで興奮しなくてもよろしい」
「どうせうちの親父に言われて、どうだのこうだの報告してるんでしょう?」
女が発狂し出しても、スネイルは落ち着いていた。幻覚・幻聴で暴れ出す強化人間を何人も見ていたからである。今回の場合、彼女が感じていることは紛れもない事実ではあるのだが。
「人事的な評価を下すのは、何も貴方のお父様ではありません。この私です。それに、私がスパイのような諜報活動をしても何もメリットがありません」
「あのクソジジイは娘を束縛しなきゃ気が済まないんです。絶対に、何かしらの根回しはしているはず。わたしの直属の上司にスネイル隊長が選ばれたのも、父の差金だとしか思えませんね。この会社で出世したいんでしょう? 何か変なことでも言ってます? 貴方の言い分の方が、何かと無理があるように感じられますけど」
「……だとしても、取引をするつもりはありませんよ」
いくら重役の娘といえど、こんな子供一人と何かしら契約したところで何もメリットはない。せいぜい口添えをしてくれる程度だろう。それに、この女は何かと口が軽そうに見える。信用もなければ力もない。手元で飼っておくには使えそうだが、切り札にはなり得ないだろう。逆に、置いておくことでデメリットが生じる可能性すらあるのだ。爆弾と一緒に心中するなど絶対に御免だ。
「じゃあ、パパに言うから」
「……ハ?」
目にも止まらぬ速さだった。
女は勢いよく立ち上がったかと思うと、テーブルを踏み越えてスネイルの元へと——跳躍——飛び込んできたのだ。
「…………ん⁉︎ …………っ………はぁ⁉︎」
スネイルの唇に女の唇が寄せられる。それは勢いが早すぎるあまりに前歯と前歯がぶつかる痛みすらも感じるものだった。
衝撃で開いた唇に、女が強引に舌を捩じ込もうとしたところでようやくスネイルは状況を把握した。見開いた目には女の顔だけがうつっている。
……意外にも、年頃の女性らしい華やかな香水の匂いが僅かに香っている。野暮ったく重たいと感じていた瞳も、間近でじっと見れば綺麗な双眸をしていると思えた。
「ん〜…………」
女はスネイルの首に手を回しながら、我が物顔で彼の口内を荒らしまわっていた。何も事情を知らない者が見れば、二人は恋人同士にも見えただろう。
この年になるまで恋愛らしい恋愛、ましてや誰とも肉体関係を持ったことのないスネイルにとって、これは未知の経験だった。
無礼な輩は切って捨てる。それを徹底しているスネイルにとって体が抵抗できないような、こんな未知の快楽は抗い難いものがあった。それ故に、どうしていいのか分からずに手は空中で静止している。今すぐにでも跳ね除けて構わないはずなのに、どうしても体が言うことを聞かない。
「……っはぁ。つまり、こういうこと♡」
「お、おま、お前ェ〜〜‼︎ 気が狂ったのか⁉︎」
「スネイル隊長って、結構初心なんですね。この後に及んでそんなこと言っちゃって」
「わ、私に、いきなり接吻など、恥というものがないのか⁉︎」
「わぁ♡ 敬語取れちゃってる♡ 恥がないィ? 当たり前だろ、今からわたしがお前を犯すんだからさァ。スネイル隊長♡ 貴方の方が恥を晒すんですから、そんな物言いはないだろ、理解できてんのかよ? 脳みそ萎縮してんのか?」
——これは何かの悪い夢だ。
女はスルスルと自分の服を脱ぐ。ついでとばかりにスネイルの服も脱がされていく。手品のような手つきに、ただ見ていることしかできない。
「いいですか? ここで黙って言うことを聞かないと、わたしはスネイル隊長に行為を強要されたと吹聴します。わたしは女で、新入社員で、この会社の役員の娘です。つまりどうなるか……頭がいいんですからわかりますよね?」
「め、メチャクチャだ……」
「うるせえな、それを決めるのはお前じゃねえんだよ。キスしたから馬鹿になったのか?」
普段は切れる頭で作戦行動を立案するスネイルが、たかだか女一人に圧倒されている。
そんな己の状況が恥ずかしく、情けなくてたまらない。スネイルは辛抱強く耐えることを強要されているのである。つまり——
「怯えてる童貞食うのが一番楽しいでーす♡」
今から、哀れな企業戦士が貞操を奪われて小娘一人に屈服することになるのだ。それは、プライドが高く、己の強さを自覚しているスネイルにとって死刑宣告にも等しかった。しかも、女性経験がないことをズバリ見抜かれている。
「顔をそらさないでくださいよ、ちゃんと目を見て。悲しいじゃあないですか♡」
女はスネイルの顔を掴み、強引に自分の方へと向かせた。
「それが礼儀ってモンだろうが。ビジネスマナーですよ♡」
これが本当に夢だとしたら、自分はどんな変態的欲求を持っているのだろう。
二重人格じみた新入社員に、無理やりに犯されたいなどと、思っているのだろうか——。
「現実逃避するのやめな? これ、現実だから」
無理やり引っ叩かれた頬がやけに痛かった。痛覚だけが、この状況が夢でも妄想でもない、紛れもなく現実であると伝えてくれる。
スネイルの目には、天使のように穏やかに微笑む女の姿があった。
「隊長ってぇ、女の子の裸見たことあります? ないよなァ、童貞だもんね♡ しょうがないから見せてやるよ、勃つものを勃たせないとブチ込めないですしね♡」
女はそう言うと、素早くブラジャーのホックを外した。簡素な下着の下には、それなりの大きさの胸があった。蛍光灯の光に反射して、白い産毛が雪のように光っている。
スネイルにはそれが脂肪の塊であるとしか認識できなかった。女のバストの大きさが平均から大きいか小さいかなどと考える余裕もなければ、そういった知識にも乏しかった。スネイルにとって性欲などというものは邪魔でしかなく、これまでの人生で、女性に興味も関心も抱いたことはなかった。
——何か、感想を求められている。
スネイルは必死で脳を回転させ、この場で必要とされているであろう言葉を自身の語彙力の中から捻くり出そうと試みた。
しかし——
(ダメだ……。何を言っても無意味だ……!)
諦めかけたその時だった。
「ほら、触らせてあげます」
女はスネイルの手を掴んで、自身の胸に導いた。硬直した右手が女の胸に触れた時、スネイルの体に電撃が走った!
皮下脂肪としか認識できなかった女性の胸部に、スネイルは生まれて初めて触れてしまった。
「…………!」
それは未体験の衝撃だった。
──今までに、こんな柔らかいものに触れたことはない。全身は固まり、手から伝わる快楽信号を素直に享受していた。
低俗なポルノ……そもそも性的欲求自体を無駄な物だと切り捨ててきたスネイルにとって、これは人生観がひっくり返すほどの心地よさだった。母の胸に抱かれていた時の記憶はないが、もしこれが幼児期の原体験から来る本能であるとするならば、あまりにも「危険」だ。排除しなくては──「あ゛っ……」
「ほらほらー、おっぱいでちゅよー」
女は煽るように赤ちゃん言葉を使う。体がにじり寄ってくると、必然的に手が胸に触れる面積が大きくなり、自然と掴むような形になってしまう。意図していないというのに! 向こうから近寄って来ているのに!
スネイルは叫びにならない叫びを上げた。手のうちにある女の乳房に触れれば触れるほど、失ったはずの性的欲求が湧き上がってくる。しかも、最悪なことにそのことは女の意図した通りの事態なのだ。
「わ、わっわ、私は……乳児期の赤子などではありません! 訂正しなさ……ん゛っ……♡」
「うーん? 下はこんなにおっきく『たっち』してるのに、僕ちゃんは素直じゃないでちゅね〜」
女はさらにスネイルに近寄ると、その胸にスネイルの顔を埋めた。ちょうど子供が母親の胸から授乳するような形で、スネイルの口には女の乳首が当てられていた。
「ほーら、おっぱい大好きなくせに♡ この歳まで童貞拗らせてただけあって、素直になれない『おじさん』なんだから♡ ほら、サービスしてあげるからいっぱい『たっち』頑張れ頑張れ♡ 僕ちゃん、できまちゅよね? ママの期待に応えるいい子だもんねぇ。部下の赤ちゃんプレイで興奮してんじゃねえよ変態クソ上司」
女が片手で器用にズボンを脱がし、下着も強引に下ろすと、そこには勃起したスネイルの男性器があった。外気に晒され、可哀想なほどに少し震えているが、ガンガンに勃起していた。
女の胸に押しつぶされていながらも性器が露出したことにより、スネイルは「これはヤバい」と少しばかり頭が冷静に回り出した。
「責任」「リスク」「起訴」
そんな言葉が脳内を占領する。
(──この女、挿入までするんじゃないだろうな?)
流石にそこまでされてしまったら「間違い」では済まないだろう。今ならまだ止められるはず。そう思って立ちあがろうとしたスネイルを、女はあっけなく押し戻す。
スネイルをおっぱいで無理やり黙らせ、全力でアクセルをベタ踏みする女の姿がそこにはあった。普段のスネイルを知る人間であったら、驚くだろうか。それとも、バカにして全力で嘲笑うかもしれない。悲しいことに、屈辱的な状況に甘んじているしかないのである。
「なんだぁ? このチンポ、皮被りかよ……。ふーん、匂いはまぁ……許容範囲か。チンカス溜まってヤバいってほどでもないですね」
手入れしてて偉いね♡ などと言いながら、女は容赦なく性器の根元を掴んですぐに容赦なく扱き出した。所謂「搾精手コキ」の姿勢である。
スネイルは口と下半身にくる刺激に耐えながら、脳内で己の母親のことを考えていた。要は、萎えようと思ったのである。
彼の母親は彼に似て、徹底的な合理主義者だった。自身の分身が欲しいがために子供を作り、男児が生まれたとわかると育児書や論文を読み漁り、情ではなく理論で息子を育てた。典型的な教育ママだった。
息子の成功は理論に裏打ちされた完璧な計画による当たり前の結果であり、全てを自分の成果だと思い込んだ。
スネイルは母親に頭を撫でられた経験すらない。子供は外交の道具であり、外では厳しくも優しい母を演じていたが、家では情緒教育目的以外では息子と会話らしい会話すらしなかった。実質的な世話はシッターに任せきりで、スネイルは常に承認に飢えていた。
しかし、上昇志向は母親譲りであり、神経質な性格も母親と同じであり、スネイルは自身が苛立ちとそれによる神経性の頭痛を発症するたびに密かに母親のことを思い出すのであった。回想終わり。
「たっちが上手♡ あんよが上手♡ 大企業に勤めているエリートで偉いね♡ ……なに一丁前に反応してんだよ。って、えぇ……泣いてる……」
女は思わず手コキをやめ、スネイルから少し体を離した。
「泣いている……? 私が?」
「えー、まぁ……はい」
そう言われるまで、スネイルは己が涙を流していることに気づいていなかった。調整によって、余計な感情は極力消し去っているはずが、こんな情けない雑な言葉攻めで母性を感じて涙を流すなど、恐ろしい屈辱である。それが女の計算通りなら怖いところだが、ドン引きしている様を見るに、上司が「こう」なることまでは想定していなかったのだろう。
「……わたしでママみを感じてオギャった、っつー認識でいいすか」
「言っている意味がわかりません」
「あー、スネイル隊長言ったら怒りますよ、絶対」
「もう貴方はこれまでに充分退職させられるくらいのことはやっていますがね」
「…………要は、わたしにお母さんを感じて赤ちゃん返りしちゃったのかな……と」
「‼︎」
「ほらぁ……言わんこっちゃない」
「………………」
「いや、まあ、でも、はい。珍しいことじゃないんで。ほら、社会にもまれてる大人って母性を求めてることが多いんですよ、それに、母親との関係がアレな人って少なくないんで、うん、気にしなくてもいいと思い……ます」
(この私が! 新卒の青臭いガキに心配され、励まされているっ‼︎)
なんたる屈辱だろう。
スネイルの脳内は、恥と今すぐに目の前の女を消し去りたい欲求で満たされた。
先ほどまでノリノリでちんこをしばいていたとは思えない萎えた顔で、女はスネイルを見つめている。よく見るやつだ。冗談で軽く弄ったら、思ったより相手が本気で傷ついたので、反省して、これはやっちゃったなぁ〜‼︎ と思っている時の、小学生の顔だ!
──弱みを握られた!
今までに醜態を晒してしまった相手はそのことを思い出せなくなるほど痛めつけて、表舞台から姿を消させていた。口外できないように始末したこともある。しかし、女はどうだろう。このことを他に漏らしてしまう危険性はあるだろうか? 万が一このことが外部で漏れた場合……もう社会人としての面子は完全に消え去る──
「えいえいっ♡ お、ちんぽは泣いてても正直だなぁ。まあこれからわたしがちんこ泣かすんですけどね、白い涙で。あははっ」
女はそう言うと、いつの間にか脱いでいた下半身をむき出しで、スネイルの男性器に接近させた。
「お、おお、お前っ! な、何を……」
「えー? 何を? って、ナニをするに決まってるじゃないですか……♡ 涙腺ちょちょぎれてた涙も引っ込んでよかったね♡ でもこれから、お前のこと上も下も泣かすんですけどねっ♡」
「まっ、待て……! お父上にご挨拶もまだ済んでない……!」
「うるっせぇなぁ〜! 今時婚前交渉が〜とか言い出すクチかよ、次席隊長殿ぉ〜? 意外とお硬いんですね。まっ、ちんぽもガチガチだもんなぁ〜♡」
そう言いながら、女はスネイルの反りたった男性器を自身の膣に挿入した。
「お゛っお゛ぉ゛っ……お゛お゛お゛っっ……♡」
「おーすっげ、作戦指揮してる姿からは想像できない汚い喘ぎ声♡ お見事ですよ、実に誉高い……♡ でもこれをアラサーがやってると思うと、マジできんもっ♡」
女の膣はギチギチに締め上げてくる上に、湯たんぽのようにぬくぬくとしていて風呂に浸かった時のように心地が良かった。
ゴムなしで挿入しているという事実が余計にスネイルの、普段は感じることのない残り少ない罪悪感の部分に火をつけた。
「や゛っ、やめなさい゛ぃぃっ! 精子、上がってぐる゛っ♡ 婚前の女性に゛ぃ゛っ、中出ししてしまう゛っ……♡」
「そうだが? 今、カメラ回してるんです。ちゃんと綺麗に撮ってあげますから、その情けない顔やめてくれます? あぁ、それともアレ? また赤ちゃん扱いして欲しいですか? ほらほら、しーしママの中で出しちゃえ♡ 白いおしっこ出したらママがママになっちゃうよー♡ ギャハハ!」
目線を上にやると、いつの間にかカメラが構えられているのがわかった。ビデオを撮影するための家庭用小型カメラである。普段はファミリービデオを撮るために使用されるそれが、今ではただのハメ撮り撮影器具と化している。
今すぐこの行為をやめさせなくては。
中に出したら、終わる。
上司の娘に手を出したなんて思われたらもっと僻地に飛ばされて、歴戦の猛者でも死ぬような任務に就かされてしまう……!
出世がさらに遠のく──!
その思いだけがずっと頭にあるのだが、到底叶うわけもなく──
「ん゛っ……ん゛ん゛っ……」
「ハ? なんですか僕ちゃん、そのクッソ情けないヘコヘコ腰使いは? ママを舐めてるんでちゅか? いつから勝手に動いていいなんて言った? 許可を出していないことをするな、殺すぞ♡」
スネイルとしては、この行為を終わらせるために性器を外に抜こうとしての行動だった。女にはそれも読めていたのだろう。さらに腹筋に力を入れられ、まんこの締め付けが窮屈になり、思わず射精しそうになった。
「ママの言うとおりにしようねぇ♡ そしたら気持ちいいからね。いち、に、いち、に、ほら、あんよが上手♡ たっちが上手♡ スネイルくんは将来サッカー選手になるのかなぁ? それとも弁護士かなぁ? 有望だね♡ まあお前のタマで遊んでるのはわたしですけどね」
「う゛っ、う゛ぅ……」
「うん♡ ママでちゅよー♡ あーあ、泣いちゃってかーわい♡」
結合部分からどちらのものともわからないような汁が垂れでてくる。女も母親(と呼ぶには口が悪すぎる)になりきることでそれなりに興奮しているのだった。
自分が想定していた人生の中で、赤ちゃんプレイによる脱童貞など全くの予想外だった。人生は悲しいかな、彼の計画通りに動くとは限らないのである。
快楽に飲まれ、薄れゆく意識の中で彼はある一つの結論に辿り着く。
逆に「妊娠させればいい」のだと。
この時点で、スネイルはもう理性というものを放棄していた。ただ、彼の脳細胞が屈辱的かつ最悪な状況下で唯一たどり着いた結論が「妊娠させて認知して、お偉方とのパイプを持つ」ということだった。
女と自分は愛し合ってセックスをしたが、避妊に失敗して妊娠させてしまった。責任を取り、結婚して父親になるので許してくださいと土下座する。
流石に娘の夫になる人間を僻地に飛ばして簡単に殺したりはしないだろう。托卵という言葉が一瞬頭をよぎったが、考えないことにする。
そうすれば、色々と便宜を図ってもらえるかもしれないし、いずれはこの会社のトップに──!
「ふ、ふふっ……あはははははは! 私と共に子作りに励めること、光栄に思いなさい」
「えぇ……なんか急に怖……。強化手術受けた人ってみんなこうなのかな……。受けなきゃ良かったかもしれない……」
「構いません。もう私は勝ったも同然なのですから。今くらいはくだらない赤ちゃんプレイなどにも付き合ってあげましょう」
「……何言ってるかわからないし、情緒不安定でキモ」
女は完全に萎えて動きを止めた。動かなくなった膣内でも、散々焦らされて爆発寸前だったスネイルの性器は勢いよく射精した。
「出すタイミングもマジでキモッ」
「あ゛っ………………出た…………あぁ…………これで私も…………! 父親にっ……なるかもしれませんね♡」
「何がしたいんだよ、この人……」
「安心なさい、万が一のことがあれば私が責任を取ります」
「…………」
膣から性器を抜き出すと、女はティッシュで膣を拭った。白く濁ったそれはいかにも濃くて、スネイルは普段オナニーもせず禁欲的であるのだと容易に察せられた。
「あぁっ! 勿体無い!」
「…………」
女は下着も服装もきちんと元通りに戻してしまうと、何かと騒ぐスネイルを無視して部屋を出た。
(……マジで意味わからない上司と寝ちゃった。今回はハズレだったな)
たまによくあるハズレの人間だったと割り切るしかない。ちんぽの食べログをしているとまあまあ遭遇する事態だ。
廊下を歩き、オフィスに戻ると何事もなかった顔で仕事の続きに取り掛かった。
※
あれからしばらく経った。
女の姿が見えない。
セックスした手前、同じ部署には居難かろう(実際のところ、女はスネイルの部下にも手を出していた)と変な気を効かせたスネイルは、女を自分の息のかかった別部門に移動させた。しかし、同じ会社に勤めて同じオフィスに出社しているはずの女の姿が一向に見えない。
辞めたか、飛んだかすればスネイルのところにも連絡がくる。
──それか、とうとう「アレ」になったか。
産休でも申請したかと人事部のファイルを覗き見れば、そういった休暇の申請はなされていない。しかし、出社記録もない。
欠勤理由は個人情報なので伏せられているが、欠勤しているというわけでもない。しかし、女がここにいないという事実は確かに認められている。
スネイルは震える手で内線電話をかけた。
受けた相手はその場で上司に交代し、そこで衝撃の事実を聞くことになる──。
「な、何っ⁉︎ 誰があの女を再教育センター送りにしたんだ⁉︎」
「いや、それは通報者の守秘義務がありますから、私からはなんとも──!」
「ざ、罪状は⁉︎ なにが理由で送られたかはわかるはずです!」
「…………風紀違反……要は、その、猥褻行為、です」
──終わった。
何かが崩れる音がした。
スネイルの脳内で完璧に描き終えていた明るい家族計画笑のビジョンが完全に崩壊していく。
「…………あ、あのー、彼女は元々第二部隊所属の隊員ですよね。何かあったんですか……」
「……他に話すことはありません。報告、ご苦労」
何か言いかけた社員を無視して、スネイルは強引に通話を切った。足がガクガクと震え、寒気にも襲われるが、スネイルはもう一度受話器を手に、打ち慣れたナンバーを入力した。
(う、裏切り者! クソアバズレ! 裏切り者の売女ッ! 私という者があっての背信行為! 絶対に許せない! 殺す!)
スネイルの脳内では、勘違いでしかない恨みの言葉が並んで踊っている。数コールほどして、再教育センター長と電話がつながった。
「閣下、ど、どうされましたか……?」
「スウィンバーン、そちらに社員番号──の──という女性社員が輸送されてきていませんか?」
「──ですか? え、えぇ、昨日から懲罰を課していますが、中々骨のあるやつで……手ずから教育をしているのですが……その…………なんと言いましょうか……」
「今すぐ中止させなさい! あの女の再教育は打ち止めです。理由は……言えません。それを聞くなら、お前は降格させます」
「は、はいっ! ただいま……! すぐにでも中止させます!」
「……結構。これからも勤勉に職務に励むように」
それだけ言い終えると、受話器を下ろした。
──こうしてはいられない。何か手を打たなくては。
今まで誤魔化し誤魔化し、騙し騙しでやってきたことが全て無駄になろうとしている。女の父親にとってスネイルは娘の面倒を見る上司であり、経営者としては手駒の一つでしかない。それをひっくり返すチャンスだったのに、あの女は馬鹿な真似を──!
などと、スネイルは自分のガバガバかつ荒唐無稽な作戦を棚に上げて、他人を批判していた。
(私の貞操を汚した責任、あの女にとって貰いましょう……)
そう心に決め、スネイルはとりあえずヴェスパー部隊の格下ナンバーであり、実質的な部下であるメーテルリンクを呼び出した。彼女はスネイルにとって優秀な駒の一つであり、あの女を監視するように言いつけていた一人だった。
「スネイル、失礼します。ご用件とは何事でしょう」
「メーテルリンク、そちらに預けていた私の部隊員のことなのですが──メーテルリンク?」
メーテルリンクは、女の名前を聞くと途端に顔をこわばらせた。体は緊張で震え、呼吸も荒く落ち着かない様子である。
「あ、あの……大変申し上げ難いことなのですが……」
──その後、スネイルは彼女からの報告を聞いて激しく怒ることになった。その怒声は防音仕様の隊長室を突き破り、社内全体に響き渡ったとか渡ってないとか。
彼が激怒したその理由は、女がスネイルの部隊から離れて少し経った日にまで遡ることとなる──。
「…………御息女の件ですか?」
モニターに映し出されたアーキバスグループの役員であるは、首を縦に振った。仕立てのいいスーツに身を包んだ男の左手薬指には、プラチナの指輪が光っている。
眉間に皺が寄ってしまっているのが、自分でもわかる。スネイルは努めて平然を装うつもりだったが、面倒ごとに巻き込まれることが確実である以上、不愉快さを隠し切ることができない。先方は気づいているのかいないのか、それでも厄介な案件を押し付けていることには自覚的なのだろう、普段の姿勢からは考えられない低姿勢での交渉だった。交渉とは名ばかりの、ただの個人的な命令ではあるが。
「……はい、承知しました。ええ、私に任せてくださっているのであれば、何なりと。どうにかしてみましょう…………では、失礼致します」
ミーティングアプリをタスクキルすると、押し殺していた疲労がどっと押し寄せる。しかし休んでいる暇はない。
人事部門が管理するデータベースにアクセスすると、問題の女性社員のページを開いた。入社前の経歴から、現在の部署に配属されるまでの人材評価──有り体に述べれば個人情報が、黒塗りもされず完全な状態で閲覧できる。
彼女はそれなりの名門大学を卒業後、少しの外遊を経てアーキバスグループに入社(おそらくコネであると考えられる。通常彼女のような人間は病歴で弾かれる)、入社時に行った適正検査の結果、ヴェスパー部隊に配属されることになった。
入社後すぐに第七世代の強化人間手術を行い、術後の経過は良好とは言い難い。発言・素行に大きな問題あり。組織への忠誠心にも欠け、術後の後遺症で常識的ではない言動を多く発するようになっている。シミュレータでの成績は平均より上位に位置するが、特出した技能はない。
要約すると、そこそこの能力を持ち、怠け者であり、手懐けることが難しい問題児であるということだ。
しかも、重役の娘。
「……はぁ」
──家族なら、こんなところに送り込まずにいればいいものを。
スネイルは思わずこめかみを抑えた。
『娘の曲がった性根を叩き直してやってくれ。やつは昔から人とは違っていてね、私も常に手を焼いている。他の社員と同じように、厳しく指導してやってほしい』
『愚娘は昔から私の胃痛の元だ。しかし、身内を見捨てることはできない。君にならあの馬鹿を矯正できるはずだ』
先ほどの通話の内容が、スネイルの脳内で反芻される。愚かな娘だというのなら、突き放して切り離せばいいと考えてしまうのは、子を持つ親になったことがないからだろうか。
「……とんだ親バカだ」
眼前のモニターには、先ほどの男とよく似た雰囲気を持つ女の写真が映し出されている。見る限りは問題行動など起こしそうもない、大人しそうな顔立ちの若い娘だった。
目線をカメラに向け、何を考えているかわからないような重たげな瞳を見ていると、写真越しでも気味が悪い。強化人間特有の脱力感なのか、それともこの女の性根がそうなのかはわからない。
わからないからこそ、会って確かめなければ──。
スネイルは、慣れた手つきで面談の連絡を個人の端末に送信する。しばらくしてから、それには既読が付いた。
「……待っていなさい、七光りのバカ娘」
スネイルはまだ知らない。
自分が祭壇に備えられた無知な子羊であること。
これから起こることが、人生の汚点の一つになるような恥辱的な体験であることを——。
※
女は気怠げな調子で椅子に座り、与えらた職務を淡々とこなしていた。といっても、彼女は新人なのでやれる仕事といえばたかがしれている。同期に入社した社員たちもまた似たような空気を出しており、スネイルが見張っている間に不審な動きをしたことはなかった。やや注意力に欠ける態度ではあるし、何度か遅刻をしたことはあったが再教育を施すほどの勤務態度ではなかった。
訓練の際には特出するほどでは無いものの、優秀な働きをする女に対して、スネイルはやや安堵する気持ちでいた。
(結局あの親バカが、過保護なまでに心配していただけだったか——)
命令には反抗的な視線で訴えかけてくるが、渋々といった様子で従っているし、他の協調性も社会性にも欠けているような個性の強い強化人間たちに比べれば、全然御し易い方であるとスネイルは感じている。無能な怠け者は、適切に鞭を入れればそれなりの戦力にはなる。それがスネイルの持論だった。
モニタをじっと見つめながらガチャガチャとタイピングをしたり、資料と睨み合う女を見ていると、新卒特有の初々しさすら感じられる。見れば見るほど、問題行動を起こしそうな兆しは見当たらなかった。
(こんな新人一人を抱え込むだけで、お偉方から評価してもらえるなんて、なんて運がいいのでしょうか。やはり、日頃の私の成果と信頼——ですかね)
スネイルの口元は、本人が意識しないままに釣り上がっていた。そして、それを見るものは誰もいない。
——しかし、女はスネイルが考えるほど甘い人間ではなかったのである。
※
「…………あの、面談って何話せばいいんですか」
女はスネイルを上目で見ながら口を開いた。猫背の姿勢はそのままに、強張った体で椅子に座っている。
スネイルは女を見ながら、「コーヒーでも飲みなさい」と言ってカップを差し出した。普段はこんなことをしない彼だが、部下を気遣う優しい上司だという印象を与えたいがために、わざわざ給湯器を使い、こんな庶務じみたことまでやっている。
「コーヒーは飲めないんです」
「……そうですか」
(私だったら、無理矢理にでも飲んでいたがな)
出世欲の強くない、最近の若者らしいと思った。
コーヒーを脇に避けると、スネイルは改まって彼女に向き合う。二人の間にはローテーブルがあり、学校の来賓室じみた雰囲気があった。
「まぁ、貴方は新入社員ですから。会社に馴染めているかだとか……今回は当たり障りのない雑談ですよ」
「嘘ですね」
スネイルが言い切る前に、女は間髪入れずに切り込んだ。
「少し落ち着きなさい。冬眠を邪魔された熊じゃないんですから、そこまで興奮しなくてもよろしい」
「どうせうちの親父に言われて、どうだのこうだの報告してるんでしょう?」
女が発狂し出しても、スネイルは落ち着いていた。幻覚・幻聴で暴れ出す強化人間を何人も見ていたからである。今回の場合、彼女が感じていることは紛れもない事実ではあるのだが。
「人事的な評価を下すのは、何も貴方のお父様ではありません。この私です。それに、私がスパイのような諜報活動をしても何もメリットがありません」
「あのクソジジイは娘を束縛しなきゃ気が済まないんです。絶対に、何かしらの根回しはしているはず。わたしの直属の上司にスネイル隊長が選ばれたのも、父の差金だとしか思えませんね。この会社で出世したいんでしょう? 何か変なことでも言ってます? 貴方の言い分の方が、何かと無理があるように感じられますけど」
「……だとしても、取引をするつもりはありませんよ」
いくら重役の娘といえど、こんな子供一人と何かしら契約したところで何もメリットはない。せいぜい口添えをしてくれる程度だろう。それに、この女は何かと口が軽そうに見える。信用もなければ力もない。手元で飼っておくには使えそうだが、切り札にはなり得ないだろう。逆に、置いておくことでデメリットが生じる可能性すらあるのだ。爆弾と一緒に心中するなど絶対に御免だ。
「じゃあ、パパに言うから」
「……ハ?」
目にも止まらぬ速さだった。
女は勢いよく立ち上がったかと思うと、テーブルを踏み越えてスネイルの元へと——跳躍——飛び込んできたのだ。
「…………ん⁉︎ …………っ………はぁ⁉︎」
スネイルの唇に女の唇が寄せられる。それは勢いが早すぎるあまりに前歯と前歯がぶつかる痛みすらも感じるものだった。
衝撃で開いた唇に、女が強引に舌を捩じ込もうとしたところでようやくスネイルは状況を把握した。見開いた目には女の顔だけがうつっている。
……意外にも、年頃の女性らしい華やかな香水の匂いが僅かに香っている。野暮ったく重たいと感じていた瞳も、間近でじっと見れば綺麗な双眸をしていると思えた。
「ん〜…………」
女はスネイルの首に手を回しながら、我が物顔で彼の口内を荒らしまわっていた。何も事情を知らない者が見れば、二人は恋人同士にも見えただろう。
この年になるまで恋愛らしい恋愛、ましてや誰とも肉体関係を持ったことのないスネイルにとって、これは未知の経験だった。
無礼な輩は切って捨てる。それを徹底しているスネイルにとって体が抵抗できないような、こんな未知の快楽は抗い難いものがあった。それ故に、どうしていいのか分からずに手は空中で静止している。今すぐにでも跳ね除けて構わないはずなのに、どうしても体が言うことを聞かない。
「……っはぁ。つまり、こういうこと♡」
「お、おま、お前ェ〜〜‼︎ 気が狂ったのか⁉︎」
「スネイル隊長って、結構初心なんですね。この後に及んでそんなこと言っちゃって」
「わ、私に、いきなり接吻など、恥というものがないのか⁉︎」
「わぁ♡ 敬語取れちゃってる♡ 恥がないィ? 当たり前だろ、今からわたしがお前を犯すんだからさァ。スネイル隊長♡ 貴方の方が恥を晒すんですから、そんな物言いはないだろ、理解できてんのかよ? 脳みそ萎縮してんのか?」
——これは何かの悪い夢だ。
女はスルスルと自分の服を脱ぐ。ついでとばかりにスネイルの服も脱がされていく。手品のような手つきに、ただ見ていることしかできない。
「いいですか? ここで黙って言うことを聞かないと、わたしはスネイル隊長に行為を強要されたと吹聴します。わたしは女で、新入社員で、この会社の役員の娘です。つまりどうなるか……頭がいいんですからわかりますよね?」
「め、メチャクチャだ……」
「うるせえな、それを決めるのはお前じゃねえんだよ。キスしたから馬鹿になったのか?」
普段は切れる頭で作戦行動を立案するスネイルが、たかだか女一人に圧倒されている。
そんな己の状況が恥ずかしく、情けなくてたまらない。スネイルは辛抱強く耐えることを強要されているのである。つまり——
「怯えてる童貞食うのが一番楽しいでーす♡」
今から、哀れな企業戦士が貞操を奪われて小娘一人に屈服することになるのだ。それは、プライドが高く、己の強さを自覚しているスネイルにとって死刑宣告にも等しかった。しかも、女性経験がないことをズバリ見抜かれている。
「顔をそらさないでくださいよ、ちゃんと目を見て。悲しいじゃあないですか♡」
女はスネイルの顔を掴み、強引に自分の方へと向かせた。
「それが礼儀ってモンだろうが。ビジネスマナーですよ♡」
これが本当に夢だとしたら、自分はどんな変態的欲求を持っているのだろう。
二重人格じみた新入社員に、無理やりに犯されたいなどと、思っているのだろうか——。
「現実逃避するのやめな? これ、現実だから」
無理やり引っ叩かれた頬がやけに痛かった。痛覚だけが、この状況が夢でも妄想でもない、紛れもなく現実であると伝えてくれる。
スネイルの目には、天使のように穏やかに微笑む女の姿があった。
「隊長ってぇ、女の子の裸見たことあります? ないよなァ、童貞だもんね♡ しょうがないから見せてやるよ、勃つものを勃たせないとブチ込めないですしね♡」
女はそう言うと、素早くブラジャーのホックを外した。簡素な下着の下には、それなりの大きさの胸があった。蛍光灯の光に反射して、白い産毛が雪のように光っている。
スネイルにはそれが脂肪の塊であるとしか認識できなかった。女のバストの大きさが平均から大きいか小さいかなどと考える余裕もなければ、そういった知識にも乏しかった。スネイルにとって性欲などというものは邪魔でしかなく、これまでの人生で、女性に興味も関心も抱いたことはなかった。
——何か、感想を求められている。
スネイルは必死で脳を回転させ、この場で必要とされているであろう言葉を自身の語彙力の中から捻くり出そうと試みた。
しかし——
(ダメだ……。何を言っても無意味だ……!)
諦めかけたその時だった。
「ほら、触らせてあげます」
女はスネイルの手を掴んで、自身の胸に導いた。硬直した右手が女の胸に触れた時、スネイルの体に電撃が走った!
皮下脂肪としか認識できなかった女性の胸部に、スネイルは生まれて初めて触れてしまった。
「…………!」
それは未体験の衝撃だった。
──今までに、こんな柔らかいものに触れたことはない。全身は固まり、手から伝わる快楽信号を素直に享受していた。
低俗なポルノ……そもそも性的欲求自体を無駄な物だと切り捨ててきたスネイルにとって、これは人生観がひっくり返すほどの心地よさだった。母の胸に抱かれていた時の記憶はないが、もしこれが幼児期の原体験から来る本能であるとするならば、あまりにも「危険」だ。排除しなくては──「あ゛っ……」
「ほらほらー、おっぱいでちゅよー」
女は煽るように赤ちゃん言葉を使う。体がにじり寄ってくると、必然的に手が胸に触れる面積が大きくなり、自然と掴むような形になってしまう。意図していないというのに! 向こうから近寄って来ているのに!
スネイルは叫びにならない叫びを上げた。手のうちにある女の乳房に触れれば触れるほど、失ったはずの性的欲求が湧き上がってくる。しかも、最悪なことにそのことは女の意図した通りの事態なのだ。
「わ、わっわ、私は……乳児期の赤子などではありません! 訂正しなさ……ん゛っ……♡」
「うーん? 下はこんなにおっきく『たっち』してるのに、僕ちゃんは素直じゃないでちゅね〜」
女はさらにスネイルに近寄ると、その胸にスネイルの顔を埋めた。ちょうど子供が母親の胸から授乳するような形で、スネイルの口には女の乳首が当てられていた。
「ほーら、おっぱい大好きなくせに♡ この歳まで童貞拗らせてただけあって、素直になれない『おじさん』なんだから♡ ほら、サービスしてあげるからいっぱい『たっち』頑張れ頑張れ♡ 僕ちゃん、できまちゅよね? ママの期待に応えるいい子だもんねぇ。部下の赤ちゃんプレイで興奮してんじゃねえよ変態クソ上司」
女が片手で器用にズボンを脱がし、下着も強引に下ろすと、そこには勃起したスネイルの男性器があった。外気に晒され、可哀想なほどに少し震えているが、ガンガンに勃起していた。
女の胸に押しつぶされていながらも性器が露出したことにより、スネイルは「これはヤバい」と少しばかり頭が冷静に回り出した。
「責任」「リスク」「起訴」
そんな言葉が脳内を占領する。
(──この女、挿入までするんじゃないだろうな?)
流石にそこまでされてしまったら「間違い」では済まないだろう。今ならまだ止められるはず。そう思って立ちあがろうとしたスネイルを、女はあっけなく押し戻す。
スネイルをおっぱいで無理やり黙らせ、全力でアクセルをベタ踏みする女の姿がそこにはあった。普段のスネイルを知る人間であったら、驚くだろうか。それとも、バカにして全力で嘲笑うかもしれない。悲しいことに、屈辱的な状況に甘んじているしかないのである。
「なんだぁ? このチンポ、皮被りかよ……。ふーん、匂いはまぁ……許容範囲か。チンカス溜まってヤバいってほどでもないですね」
手入れしてて偉いね♡ などと言いながら、女は容赦なく性器の根元を掴んですぐに容赦なく扱き出した。所謂「搾精手コキ」の姿勢である。
スネイルは口と下半身にくる刺激に耐えながら、脳内で己の母親のことを考えていた。要は、萎えようと思ったのである。
彼の母親は彼に似て、徹底的な合理主義者だった。自身の分身が欲しいがために子供を作り、男児が生まれたとわかると育児書や論文を読み漁り、情ではなく理論で息子を育てた。典型的な教育ママだった。
息子の成功は理論に裏打ちされた完璧な計画による当たり前の結果であり、全てを自分の成果だと思い込んだ。
スネイルは母親に頭を撫でられた経験すらない。子供は外交の道具であり、外では厳しくも優しい母を演じていたが、家では情緒教育目的以外では息子と会話らしい会話すらしなかった。実質的な世話はシッターに任せきりで、スネイルは常に承認に飢えていた。
しかし、上昇志向は母親譲りであり、神経質な性格も母親と同じであり、スネイルは自身が苛立ちとそれによる神経性の頭痛を発症するたびに密かに母親のことを思い出すのであった。回想終わり。
「たっちが上手♡ あんよが上手♡ 大企業に勤めているエリートで偉いね♡ ……なに一丁前に反応してんだよ。って、えぇ……泣いてる……」
女は思わず手コキをやめ、スネイルから少し体を離した。
「泣いている……? 私が?」
「えー、まぁ……はい」
そう言われるまで、スネイルは己が涙を流していることに気づいていなかった。調整によって、余計な感情は極力消し去っているはずが、こんな情けない雑な言葉攻めで母性を感じて涙を流すなど、恐ろしい屈辱である。それが女の計算通りなら怖いところだが、ドン引きしている様を見るに、上司が「こう」なることまでは想定していなかったのだろう。
「……わたしでママみを感じてオギャった、っつー認識でいいすか」
「言っている意味がわかりません」
「あー、スネイル隊長言ったら怒りますよ、絶対」
「もう貴方はこれまでに充分退職させられるくらいのことはやっていますがね」
「…………要は、わたしにお母さんを感じて赤ちゃん返りしちゃったのかな……と」
「‼︎」
「ほらぁ……言わんこっちゃない」
「………………」
「いや、まあ、でも、はい。珍しいことじゃないんで。ほら、社会にもまれてる大人って母性を求めてることが多いんですよ、それに、母親との関係がアレな人って少なくないんで、うん、気にしなくてもいいと思い……ます」
(この私が! 新卒の青臭いガキに心配され、励まされているっ‼︎)
なんたる屈辱だろう。
スネイルの脳内は、恥と今すぐに目の前の女を消し去りたい欲求で満たされた。
先ほどまでノリノリでちんこをしばいていたとは思えない萎えた顔で、女はスネイルを見つめている。よく見るやつだ。冗談で軽く弄ったら、思ったより相手が本気で傷ついたので、反省して、これはやっちゃったなぁ〜‼︎ と思っている時の、小学生の顔だ!
──弱みを握られた!
今までに醜態を晒してしまった相手はそのことを思い出せなくなるほど痛めつけて、表舞台から姿を消させていた。口外できないように始末したこともある。しかし、女はどうだろう。このことを他に漏らしてしまう危険性はあるだろうか? 万が一このことが外部で漏れた場合……もう社会人としての面子は完全に消え去る──
「えいえいっ♡ お、ちんぽは泣いてても正直だなぁ。まあこれからわたしがちんこ泣かすんですけどね、白い涙で。あははっ」
女はそう言うと、いつの間にか脱いでいた下半身をむき出しで、スネイルの男性器に接近させた。
「お、おお、お前っ! な、何を……」
「えー? 何を? って、ナニをするに決まってるじゃないですか……♡ 涙腺ちょちょぎれてた涙も引っ込んでよかったね♡ でもこれから、お前のこと上も下も泣かすんですけどねっ♡」
「まっ、待て……! お父上にご挨拶もまだ済んでない……!」
「うるっせぇなぁ〜! 今時婚前交渉が〜とか言い出すクチかよ、次席隊長殿ぉ〜? 意外とお硬いんですね。まっ、ちんぽもガチガチだもんなぁ〜♡」
そう言いながら、女はスネイルの反りたった男性器を自身の膣に挿入した。
「お゛っお゛ぉ゛っ……お゛お゛お゛っっ……♡」
「おーすっげ、作戦指揮してる姿からは想像できない汚い喘ぎ声♡ お見事ですよ、実に誉高い……♡ でもこれをアラサーがやってると思うと、マジできんもっ♡」
女の膣はギチギチに締め上げてくる上に、湯たんぽのようにぬくぬくとしていて風呂に浸かった時のように心地が良かった。
ゴムなしで挿入しているという事実が余計にスネイルの、普段は感じることのない残り少ない罪悪感の部分に火をつけた。
「や゛っ、やめなさい゛ぃぃっ! 精子、上がってぐる゛っ♡ 婚前の女性に゛ぃ゛っ、中出ししてしまう゛っ……♡」
「そうだが? 今、カメラ回してるんです。ちゃんと綺麗に撮ってあげますから、その情けない顔やめてくれます? あぁ、それともアレ? また赤ちゃん扱いして欲しいですか? ほらほら、しーしママの中で出しちゃえ♡ 白いおしっこ出したらママがママになっちゃうよー♡ ギャハハ!」
目線を上にやると、いつの間にかカメラが構えられているのがわかった。ビデオを撮影するための家庭用小型カメラである。普段はファミリービデオを撮るために使用されるそれが、今ではただのハメ撮り撮影器具と化している。
今すぐこの行為をやめさせなくては。
中に出したら、終わる。
上司の娘に手を出したなんて思われたらもっと僻地に飛ばされて、歴戦の猛者でも死ぬような任務に就かされてしまう……!
出世がさらに遠のく──!
その思いだけがずっと頭にあるのだが、到底叶うわけもなく──
「ん゛っ……ん゛ん゛っ……」
「ハ? なんですか僕ちゃん、そのクッソ情けないヘコヘコ腰使いは? ママを舐めてるんでちゅか? いつから勝手に動いていいなんて言った? 許可を出していないことをするな、殺すぞ♡」
スネイルとしては、この行為を終わらせるために性器を外に抜こうとしての行動だった。女にはそれも読めていたのだろう。さらに腹筋に力を入れられ、まんこの締め付けが窮屈になり、思わず射精しそうになった。
「ママの言うとおりにしようねぇ♡ そしたら気持ちいいからね。いち、に、いち、に、ほら、あんよが上手♡ たっちが上手♡ スネイルくんは将来サッカー選手になるのかなぁ? それとも弁護士かなぁ? 有望だね♡ まあお前のタマで遊んでるのはわたしですけどね」
「う゛っ、う゛ぅ……」
「うん♡ ママでちゅよー♡ あーあ、泣いちゃってかーわい♡」
結合部分からどちらのものともわからないような汁が垂れでてくる。女も母親(と呼ぶには口が悪すぎる)になりきることでそれなりに興奮しているのだった。
自分が想定していた人生の中で、赤ちゃんプレイによる脱童貞など全くの予想外だった。人生は悲しいかな、彼の計画通りに動くとは限らないのである。
快楽に飲まれ、薄れゆく意識の中で彼はある一つの結論に辿り着く。
逆に「妊娠させればいい」のだと。
この時点で、スネイルはもう理性というものを放棄していた。ただ、彼の脳細胞が屈辱的かつ最悪な状況下で唯一たどり着いた結論が「妊娠させて認知して、お偉方とのパイプを持つ」ということだった。
女と自分は愛し合ってセックスをしたが、避妊に失敗して妊娠させてしまった。責任を取り、結婚して父親になるので許してくださいと土下座する。
流石に娘の夫になる人間を僻地に飛ばして簡単に殺したりはしないだろう。托卵という言葉が一瞬頭をよぎったが、考えないことにする。
そうすれば、色々と便宜を図ってもらえるかもしれないし、いずれはこの会社のトップに──!
「ふ、ふふっ……あはははははは! 私と共に子作りに励めること、光栄に思いなさい」
「えぇ……なんか急に怖……。強化手術受けた人ってみんなこうなのかな……。受けなきゃ良かったかもしれない……」
「構いません。もう私は勝ったも同然なのですから。今くらいはくだらない赤ちゃんプレイなどにも付き合ってあげましょう」
「……何言ってるかわからないし、情緒不安定でキモ」
女は完全に萎えて動きを止めた。動かなくなった膣内でも、散々焦らされて爆発寸前だったスネイルの性器は勢いよく射精した。
「出すタイミングもマジでキモッ」
「あ゛っ………………出た…………あぁ…………これで私も…………! 父親にっ……なるかもしれませんね♡」
「何がしたいんだよ、この人……」
「安心なさい、万が一のことがあれば私が責任を取ります」
「…………」
膣から性器を抜き出すと、女はティッシュで膣を拭った。白く濁ったそれはいかにも濃くて、スネイルは普段オナニーもせず禁欲的であるのだと容易に察せられた。
「あぁっ! 勿体無い!」
「…………」
女は下着も服装もきちんと元通りに戻してしまうと、何かと騒ぐスネイルを無視して部屋を出た。
(……マジで意味わからない上司と寝ちゃった。今回はハズレだったな)
たまによくあるハズレの人間だったと割り切るしかない。ちんぽの食べログをしているとまあまあ遭遇する事態だ。
廊下を歩き、オフィスに戻ると何事もなかった顔で仕事の続きに取り掛かった。
※
あれからしばらく経った。
女の姿が見えない。
セックスした手前、同じ部署には居難かろう(実際のところ、女はスネイルの部下にも手を出していた)と変な気を効かせたスネイルは、女を自分の息のかかった別部門に移動させた。しかし、同じ会社に勤めて同じオフィスに出社しているはずの女の姿が一向に見えない。
辞めたか、飛んだかすればスネイルのところにも連絡がくる。
──それか、とうとう「アレ」になったか。
産休でも申請したかと人事部のファイルを覗き見れば、そういった休暇の申請はなされていない。しかし、出社記録もない。
欠勤理由は個人情報なので伏せられているが、欠勤しているというわけでもない。しかし、女がここにいないという事実は確かに認められている。
スネイルは震える手で内線電話をかけた。
受けた相手はその場で上司に交代し、そこで衝撃の事実を聞くことになる──。
「な、何っ⁉︎ 誰があの女を再教育センター送りにしたんだ⁉︎」
「いや、それは通報者の守秘義務がありますから、私からはなんとも──!」
「ざ、罪状は⁉︎ なにが理由で送られたかはわかるはずです!」
「…………風紀違反……要は、その、猥褻行為、です」
──終わった。
何かが崩れる音がした。
スネイルの脳内で完璧に描き終えていた明るい家族計画笑のビジョンが完全に崩壊していく。
「…………あ、あのー、彼女は元々第二部隊所属の隊員ですよね。何かあったんですか……」
「……他に話すことはありません。報告、ご苦労」
何か言いかけた社員を無視して、スネイルは強引に通話を切った。足がガクガクと震え、寒気にも襲われるが、スネイルはもう一度受話器を手に、打ち慣れたナンバーを入力した。
(う、裏切り者! クソアバズレ! 裏切り者の売女ッ! 私という者があっての背信行為! 絶対に許せない! 殺す!)
スネイルの脳内では、勘違いでしかない恨みの言葉が並んで踊っている。数コールほどして、再教育センター長と電話がつながった。
「閣下、ど、どうされましたか……?」
「スウィンバーン、そちらに社員番号──の──という女性社員が輸送されてきていませんか?」
「──ですか? え、えぇ、昨日から懲罰を課していますが、中々骨のあるやつで……手ずから教育をしているのですが……その…………なんと言いましょうか……」
「今すぐ中止させなさい! あの女の再教育は打ち止めです。理由は……言えません。それを聞くなら、お前は降格させます」
「は、はいっ! ただいま……! すぐにでも中止させます!」
「……結構。これからも勤勉に職務に励むように」
それだけ言い終えると、受話器を下ろした。
──こうしてはいられない。何か手を打たなくては。
今まで誤魔化し誤魔化し、騙し騙しでやってきたことが全て無駄になろうとしている。女の父親にとってスネイルは娘の面倒を見る上司であり、経営者としては手駒の一つでしかない。それをひっくり返すチャンスだったのに、あの女は馬鹿な真似を──!
などと、スネイルは自分のガバガバかつ荒唐無稽な作戦を棚に上げて、他人を批判していた。
(私の貞操を汚した責任、あの女にとって貰いましょう……)
そう心に決め、スネイルはとりあえずヴェスパー部隊の格下ナンバーであり、実質的な部下であるメーテルリンクを呼び出した。彼女はスネイルにとって優秀な駒の一つであり、あの女を監視するように言いつけていた一人だった。
「スネイル、失礼します。ご用件とは何事でしょう」
「メーテルリンク、そちらに預けていた私の部隊員のことなのですが──メーテルリンク?」
メーテルリンクは、女の名前を聞くと途端に顔をこわばらせた。体は緊張で震え、呼吸も荒く落ち着かない様子である。
「あ、あの……大変申し上げ難いことなのですが……」
──その後、スネイルは彼女からの報告を聞いて激しく怒ることになった。その怒声は防音仕様の隊長室を突き破り、社内全体に響き渡ったとか渡ってないとか。
彼が激怒したその理由は、女がスネイルの部隊から離れて少し経った日にまで遡ることとなる──。