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ヴェスパー部隊の食べログ
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女攻め・乳首攻め・男→女挿入・逆転なし・無理やり
『再教育センターを出禁になったやつがいるらしい』
そんな噂が、ふとフロイトの耳に飛び込んできた。僻地に飛ばされ、娯楽に飢えたヴェスパー部隊の隊員たちの間で交わされる噂は、突発的に浮上しては飽きられて消えていく。くだらない人間関係に由来したそれらの話題の出所は、たいていがちょっとした出来事の誇張、あるいは誰かの思い込みに由来するものであったりする。
基地内の廊下を左折しながら、フロイトは先ほどたまたま耳にした噂の内容を反芻する。再教育センター、出禁。滅多に結びつかないその二つのワードは、刺激に飢えた彼にとっては興味の対象となり得た。面倒なデスクワークは名前もはっきりと覚えていない直属の部下に押し付け、戦闘シミュレータのデータを片っ端から荒らしてやろう。そう思いながら、長い廊下の先にある扉を開く。
コンピュータの排熱で若干蒸し暑い室内には、先客がいた。
実際のコックピットを模した機械の中に、見慣れない女性がうつらうつらと眠っている。現在はロックがかかっているので、スペースの中は薄暗く曇っているが、それでも中に一人の人間がいることは見て取れた。液晶画面には何も映っておらず、完全に寝るためだけにこのブースを使っている様子だった。
「マジか」
この部屋は基地の中でも奥まった場所にあり、滅多に人も寄り付かず、掃除もされていない。床に散らばった埃を見れば、潔癖でない人間でも思わず顔を顰めるほどである。ここに置かれているシミュレータも旧式で、廃棄する手間を惜しんでいるから物置同然の部屋に仕舞い込まれているだけにすぎない。それ故に、絶対に誰にも邪魔されないこのスペースをフロイトは気に入っていた。
自分だけが知っている秘密のスポットだと思っていた場所を、自分以外にも見つけた人がいる。
彼は一般的な価値観を持ち合わせた人間ではなかった。なので、シミュレータの入り口にあたる扉の部分を思い切り叩きつけた。ノックと言うにはいささか乱暴だった。
「おーい! 起きろ」
ブースの中は防音になっているわけでもない。内部の振動は吸収されるが、外部からの刺激もそうだとは限らない。
「……うるさい」
扉が開く。目が覚めた女は、明らかに不機嫌なトーンでフロイトを見上げる。値踏みするような無遠慮な視線が彼に突き刺さる。女は、目の前にいるのが自分の上官たる主席隊長であることには気づいていない様子で、苛立ちを隠そうとしなかった。普段、恐れられたり腫れ物扱いされたりすることはあれど、ここまで露骨に嫌悪感を表してくる相手は滅多にいない。
珍しいし、面白い。
全く恐れという感情がない人間を見るのは久しぶりだった。こいつはどんな機体で、どんな闘いをするのだろう。彼の脳内には未知の相手の手の内を知りたいという欲求が湧いていた。
「悪い、でも俺はここを使いたいんだよ。変わってくれ」
「シミュレータなら他の部屋にもありますよ。わざわざこんな汚い部屋でやらなくても」
「俺はここが好きなんだ。昼寝なら他所でやれ」
女は上から下までフロイトを眺め切った後、何かを閃いたような顔をした。
「あー、じゃあ変わる前にわたしの動きを見てもらっていいですか。やっぱり、AIより生身の人間に見てもらった方がいいかなって思うんですけど」
「わかった、やろう」
フロイトからすれば、願ったり叶ったりの提案だった。
女は再びシミュレータの椅子に腰掛けると、機械の主電源を立ち上げ、設定を調節しているのか、激しくキーボードに指を叩きつけていた。その様子を椅子の後方にあるスペース(通常、訓練教官の立会のために設置された場所)に立ってその様子を眺める。
いくつかのコマンドを設定し終えると、シミュレータのロックがかかる音がした。液晶画面の映像が移り変わり、今より前の時代のアーキバス社のロゴが映ったのち、簡素なメニュー画面が立ち上がる。女は手慣れた手つきでアクセス権限のコマンドを入力し、すでに保存されていた機体のデータにアクセスする。
「へー、結構渋い構成じゃないか」
「いくつも好き勝手機体を弄れるわけじゃないですから。ヒラの隊員なんて、汎用機しか乗れないし……あーあ、なんでわたし、こんな前線に送られたんだろう」
愚痴じみたぼやきとは裏腹に、女は操縦桿をしっかりと握って目の前に現れる敵を千切っては投げる破竹の勢いで突き進んでいく。フロイトはその様子を見て、ゲームのタイムアタックを思い浮かべる。シミュレータといえど、出される情報の乱数は決まっているようなもので旧世代型のそれがゲームと揶揄されるのは当然のことだと思われた。つまり、実戦に沿っているとは言い難い代物なのだ。自動車学校のシミュレータのほうが、まだそれらしいだろう。
実際にACを動かす際には、重力の圧や振動がかかる。空中戦になればコックピットで嘔吐する者も出るくらいだ。それに比べるとこれはリアリティのある「おもちゃ」に過ぎない。
目の前に現れる敵を全て殲滅し終えると、女は振り返って気だるげに呟いた。
「こんなの見て何が楽しいんですか」
「……まあ、そうだな。実戦に比べればこんな物は遊びに過ぎない」
──もしかしてこいつも「同類」なのかもしれない。
フロイトは淡い期待を胸に、女の顔を覗き込む。その瞬間、有無を言わさぬ引力がフロイトを襲った。
「……⁉︎」
女は強引にフロイトの唇を奪うと、その勢いのまま体ごと椅子に引き寄せた。
「………ん」
喘ぎ声のような、それでいて諌めるような小さな声が漏れ出る。機械が熱排気のために稼働音を上げる以外は、音らしい音は二人の唇からのみ発せられる。
湿っぽい部屋で二人きり。彼は今までの人生において、女性と口付けを交わすことがなかった。
初めてがこんなに強引に奪われることがあるのか、と脳内で冷静に考える。全ての景色がスローになっていく感覚、五感の全てが研ぎ澄まされていく、薬でトリップをした時と似た光景がフロイトの脳内で弾けた。
「…………はあっ」
一瞬なのか、しばらくこうしていたのか全くわからなかった。女の拘束から解き放たれたフロイトは、思わず大きく息を吸った。性的交渉というよりは、水に顔をつける拷問から解放されたかのようだった。
息を上げるフロイトを見て女は笑う。目の焦点は合わない。
「もしかして初めてですか」
「一応、そうだな。こんな無理やりなのをカウントしていいならな」
「へぇ……そうですか。成程、体もガチガチでしたもんね」
女はケタケタと声を上げて笑う。押しつけられている体を退けようと思ったが、予想外の力で阻まれる。明らかに、
──せん妄状態か。
考えた結果、それ以外にこの女の奇行を説明できる言葉がなかった。
強化手術を行なって日が浅いと、こういった症状が発生する場合がある。そういう人間に絡まれた場合は相手を挑発せず話を聞くこと、そして医療スタッフに助けを求める行動が最適だと教わった。
昨今の強化手術の場合、そういった後遺症は滅多に起こらないと聞いていたが実際のところ相性次第なのだろう。
先ほどの接吻もつまりはそういうことだ。事故だと思って気にしないことにする。幸いにもフロイトは貞操を気にするタイプでもなければ、潔癖症でもなかった。ただ単に相手をするのが面倒くさいなあ、と思うだけだった。
肉体改造を施しているとはいえ、たかが女一匹だ。暇つぶしに面白いおもちゃと遊んでみるのもいいかもしれない。
焦点の合わない目を覗き込みながら、フロイトは覆い被さる女に問いかける。
「お前もしかして、脳じゃなくてそっちを強化したのか?」
「さぁどうだか。試したらわかるんじゃないですかね」
「ヤりたい盛りってヤツか……。まるで穴兎だな」
「は? こっちも相手くらいは選んでるし」
「選んだ結果がこれか? まあ……いいか。その代わり、終わったら模擬戦の相手になっ……おい!」
フロイトが言葉を言い終わる前に女は彼の男性器を掴んだ。布越しとはいえ、鷲掴みだった。女は切羽詰まったような表情で、ズボンのファスナーに手をかける。
「……マジで、本当に、いいんですね?」
「ちんこ触りながら言うか、それ」
「うるさい、脱がしますよ。あー、ムラムラしすぎてイライラする……。全部……脳みそ弄ったせいで、バカみたいなことで、このわたしが! あのクソジジイいつか殺してやる……!」
先ほどとは様子が異なり、女は会話らしい会話を成り立たせることが難しいようだった。血走った目からは正常な思考力が残っているようには感じられなかった。早口で独り言をぼやきながら、なれた手つきでフロイトの男性器を露出させると、女は舌打ちをした。
「勃ってないじゃん」
不愉快さを隠さない声色だった。
「勃起したらわたしのお腹突き抜けそうなデカチンのくせに、無用な長物になってんじゃん。童貞はキスするだけで出るモンだと思ってたんですけどねー、貴方はそうでもない?」
「勃つわけないだろ……」
「いやー、早く終わったら終わったで嫌ですけど」
「戦闘だってそうだ、相手が粘りを見せずにすぐに終わったらつまらないだろ?」
俺は早漏じゃない。
フロイトが自分なりに噛み砕いた語彙で語りかけても、女は面倒臭そうに目線を逸らすだけだった。
「……はぁ。じゃあ無理やりにでも、勃たせて差し上げますからね。そんじゃあ上も脱がしまーす」
獣のようにがっつきだした女にされるがままにされながら、フロイトはぼんやりと己の貞操について考えていた。
「お前は昔から何かとぼんやりしているから、異性関係には気をつけなさい」と、ことあるごとに親に注意されていた。どうせ結婚しないから大丈夫だと思っていたが、そういうことではないらしい。よくわからないけれど、今回の事態がよくないことであるのはフロイトでも理解できた。
名前もわからないような初対面の女性に貞操を捧げようとしている。一応、対価として模擬戦を申し込んだが、多分そういう風にして体の関係を持つのはよくないことだと思う。でも、今更止まりそうもないしな。仕方ないことだから諦めるしかないとフロイトは考えた。放っておいたら何をしでかすかわからない相手だ。
「はーいばんざーい」
こうされていると、子供の頃に親の手で着替えさせられていたことを思い出す。しばらく実家に帰っていないなぁ、などと悠長に考えていたら、女の刺すような一太刀が浴びせられる。
「う゛っ⁉︎」
「あはっ、乳首は感じるんだぁ♡ 自分で普段からオナってます? 思わぬところで主席隊長サマの弱点発見しちゃったかも♡」
女の小さな手からは考えられないような、乱暴な手つきでフロイトの乳首がつねられる。なんの役にも立たないはずの、授乳もできない、ただ情けなく性的快楽に耽るためだけの器官が、明らかに年下の平社員の手で嬲られ、愛撫されている。
喋らないでいれば喘ぎ声をあげることを我慢することができた。しかし、黙っていれば攻め立てる手つきが激しくなる。やや茶色がかった薄い色の乳首に、桜貝のような爪がつき刺さる。思わず口から小さな悲鳴が溢れでた。
容赦のない手つきだ。女は一切躊躇することはない。プロの拷問官のような鮮やかな仕草だ。
「あ゛っ、いや、弄ってはないん゛……だ……が……」
「へーじゃあ天然物の雑魚乳首なんですね。かわいそうに、わたしが有効活用してあげますからね、かわいく喘いでくださいね〜。そんで、乳首だけじゃなくてちんちんも勃たせてくださいよ。不能じゃないんでしょ?」
「うるさい……い゛っ……お、まえ、は……あ゛っ゛性欲でも強化されたんじゃないのかっ………あ゛っ゛……クソッ……」
フロイトは自慰行為を行う際、とても手短に済ませる方だった。乳首を使って快楽を得ることはない。つまり、女の言う通り彼は生来の乳首雑魚だったのだ。
──少し弄っただけですぐに喘ぐなんて見どころがある。女は思った。
フロイトの体には異変が生じていた。乳首を愛撫されるたびに、体の奥底から何かむず痒いものが迫り上がってくる感覚が生じた。所謂オーガズムであることは自分でも理解できたが、それでも直接生殖器に触れずに絶頂が近づいてくるという事態が恐ろしく感じられた。女は震えながら細く喘ぐフロイトを見て、意地の悪い笑みを浮かべる。
「女の子みたいで可愛いですよ♡」
「上官に楯突くと……再教育センター送りに……い゛い゛っ……! わがっでやってる、ん゛っ……だろうな?」
「それはお気になさらず。さっきシャバに出てきたところですので♡」
「……お前、そこで何人とヤった?」
「あはは、覚えてませーん! なーんてウソウソ、そこのお偉いさんともセックスして、今の貴方みたいに可愛く喘がせてあげましたよぉ〜。 ほら、これで満足か? 前のやつより上手に女みたいな声上げねえと殺すからな。未強化のやつがわたしに勝てると思うなよ……ほらっ、ねぇっ、だから殺されないように一緒に頑張りましょうねー♡」
──こいつだ。
朦朧とした頭の中でたった一つの結論に辿り着く。再教育センターを出禁になり、おそらくファクトリー送りにもされなかった社員というのは「こいつ」のことだと。なぜそうなったのか、理由は定かではないが何かしらの事情があってそうなったのだろう。
こいつは只者ではないと本能が告げている。願わくば一度手合わせ願いたいと思うが、それにはまずこの屈辱的なレイプから脱しなくてはいけない。……脱さなくても、こいつが満足したら対決はしてくれる約束だから、抵抗しなくていいのか?
女が肉体をどれほどまでに強化しているのかはわからない。強化手術の後遺症である程度の肉体機能を犠牲にすることがあるが、彼女の場合はアドレナリンが出過ぎて通常の人間より肉体的な力が増しているのだろうか。ハッタリである可能性も否定できないが、腕一本くらいは平気でへし折りそうな気迫が感じられた。只者ではないし、頭のネジが外れている、根本的に対話が通用するタイプではない。災害に襲われたようなものだ。
口から絶え間なく漏れ出る喘ぎ声を他人事のように思いながら、フロイトはシミュレーターの天井を見つめた。換気扇がぐるぐると周り、黒い天井では僅かに稼働するエアコンが見える。
以前ここで籠った時にイカくさい匂いがしたことを思い出した。ここはそういう行為のために使用された形跡があった。
……もしかして、こいつが?
だとしたら誰でもよかったのだろうか。来るもの拒まずで、誰でも……。
「なによそ見してるんですか? ちゃんとわたしを見てくれないと……ダメでしょ」
「……ぁ……」
「…………勃ってる♡」
柔らかい手が性器を這う感触があった。最初とは違い、その手つきには腫れ物を扱うような繊細さがあった。女が毛繕いでもするような仕草でそれに触れるたび、フロイトは熱い吐息を漏らした。
「………はぁっ……」
「うんうん。いいよ、これ。やればできるじゃないですか」
「……こんなの、どこで覚えたんだ?」
「生まれつきですよ。生憎とわたしは生まれつきの大馬鹿なもので。こんなことでしか満足できないんです」
「そうか、さぞかし苦労したんだろうな」
「あはは、じゃあ生きてきたご褒美に一発ぶち込んでもいいですか?」
女はフロイトの返事も聞かず、自分の制服のジッパーを下ろしてしまった。飾り気のない下着を下ろすと、むき出しの男性器に己の下半身を擦り付ける。粘膜と粘膜が接触すると、そこは卑猥な水音を立てた。
「あっ……やば、いい、かも……。うん、合格かなぁ?」
「っ…………ひ、避妊……は…………」
「あー、それは必要なくって……。手術するときにそーいう機能は大概『取っちゃう』んですよ、もしかして知りませんでした? ……まあ、それが普通かぁ。女性は男の人にそういう話しないですよね」
フロイトが女の言葉の意味を理解した瞬間、間髪いれずに素股を再開される。女はフロイトの上に跨り、ロデオマシーンに乗るような気軽さで腰を動かしていた。柔らかい肉の生暖かい体温と、愛液のぬめるような感触で脳が沸騰しそうだった。女も興奮から発情しきっているようで、頬は紅潮し、瞳孔も開ききっていた。
「う゛っ…………は、あっ…………」
「やば、素股だけでイきそうじゃん。いいですよ、ちょっとはイッても。うーん、主席隊長殿のちんこって、なーんかわたしと相性いいのかな? すっごい気持ちいいよ♡ うーん、濡れてきたし、そろそろ行けそうう……。童貞デカマラの筆おろしとでも軽く洒落込みますかな……」
女はフロイトの性器を自身の膣口に添えると、一気にねじ込んだ。卑猥なピンク色の入口は捕食するような勢いで性器を咥え込んだ。全く慣らしをしていないにも関わらず、女は顔色ひとつ変えずに根元までを迎え入れたのだ。
それなりの大きさのある男性器を挿入したことにより、女の腹には性器の形がぽっこりと浮かび上がっていた。しかし、その卑猥な姿をフロイトが目にすることはない。自身に襲いかかってくる獰猛な快楽に抗うことに必死で、視覚はぼんやりと女の笑顔を捉えるだけだった。女は蛇のような目でフロイトを見つめる。捕食者の視線だった。名器に溺れる一人の男を哀れに思うと同時に、とてつもなく愛おしく感じて仕方がないのだ。
「あ、あ、あ゛っ…………あ゛ぁ゛っ!」
「童貞卒業、おめでとー♡」
フロイトが息つく暇もなく、女は腰を振る。杭打ちのように膣道で男性器を嬲ると、フロイトはたまらず情けない喘ぎ声を上げる。それが女にはたまらなく気持ちが良かった。実力では到底敵わない相手を自分のフィールドでボコボコに負かすのは、彼女の果てしない闘争精神を存分に満たしてくれた。
「……すぐ出したら、殺すから♡」
「無茶な…………ぁ゛」
「ハァ……? 普段お前のやってる任務のほうが百倍無茶だろうが、舐めてんのか? これくらい耐えろよ、ナンバーワンなんだろ? 強いんだろ? 情けないところ見せて後輩を失望させるなよなぁ〜主席隊長殿ぉ〜」
「あ゛っ゛……ぜ、善処はっ…………」
「ふーん、まぁせいぜい頑張れば? どーせ無理だと思いますけど? ほら、出しちゃえ出しちゃえ♡」
出したら殺す。
早く出せ。
二つの相反する命令を受けてフロイトの脳はエラーを吐き出した。混乱する頭でもただひとつわかるのは、この女のセックスがとてつもなく上手いというただ一つの紛れもない事実であった。搾り取るような動きを続けながら、女はニタニタと笑っている。額に浮かぶ汗と、紛れもない息遣いだけがこれが夢ではないのだと雄弁に物語っている。膣襞のゾリゾリとした感触とぬるま湯のような胎内の温かさは、神経毒のようにフロイトの思考を麻痺させた。
男性器に全ての体温が集まっているかのようで、今にも爆発しそうな爆弾を弄ばれているのが生殺しの状態すぎて、辛かった。それと同時に暴力的な口調と同時に優しく苛められることに、とてつもない快楽を覚える己の姿を想像し、恥と呼べるような感情が湧き上がってきた。が、その羞恥心は女によって軌道修正される。
「なーに考えてるんですか?」
その言葉と共にさらに激しく揺さぶられると、紛れもなく自分の声である喘ぎ声が虚しく部屋に響いて聞こえる。
「逃げられると思わないでくださーい♡ ここで諦めたら、なっさけないエロ面晒してアリーナランク1が木端社員に辱めを受けてるんだぞーって、全員に言いますよ♡ 降格減給謹慎間違いなし♡ 大好きなロックスミスに乗れなくなっちゃいますね♡」
この場合女も似たような処遇になるのは間違いないのだが、それを指摘する気力はフロイトには残っていなかった。女は気をよくして更にねっとりと腰を動かした。膣で男性器をハグするような感触に、フロイトは再び悩ましげな喘ぎ声を上げた。
※
無限にも思えるような責め苦の果てに、ついには爆発しそうになったその瞬間、女は気まぐれに呟いた。
「んー、わたしもそろそろイっちゃいそう〜。童貞くんは、出すタイミング合わせるの、できるかなぁ? できそう? 頑張れる?」
「…………も、もう……無理だ……頼む、もう楽に……」
息も絶え絶えにフロイトは答える。普段の彼を知る人間なら想像もできないような無様な姿を晒し、年下の女に懇願する姿は惨めの一言に尽きた。
彼はプライドもこだわりも何もかもねじ伏せられたのだ。この小さな侵略者はその言葉を聞くと、満足そうに笑った
「しょうがないなぁ〜♡ ……いいよ、出しても」
その言葉と共に、フロイトは精子を女の中にぶちまけた。まさに爆発と形容するのが相応しい、そんな射精だった。
女は眉ひとつ動かさず、その様子を淡々と見つめていた。
「……あ、あぁ……あぁぁぁぁ…………う゛っ…………で、出た……」
痙攣しながら絶頂するフロイトに、女は残酷なまでの無表情で応える。出すものを出したらもう用済みだと言わんばかりにあっさりと性器を引き抜くと、側に置かれたティッシュで精子を拭い取った。
「……マジでくっさ。……はぁ、童貞卒業おめでとうございました。ま、初めての割にはいいんじゃないんですか?」
ほぼ全裸のフロイトに対して、女はズボンをずらした以外は着衣も乱れておらず、上半身だけ切り取ってみれば事後だとはわからないだろう。それが余計に哀愁を漂わせていた。
「どうせ一発出して終わりなんだから、もう終わり。はい、終わり。ここで解散ですからね」
幼児に言い聞かせるような口調に怒る暇もなく、フロイトは呆然と女を見つめた。先ほどまでサディスティックかつハイテンションでフロイトを攻め立てていたとは思えない口ぶりに、開いた口が塞がらない。
──普通、逆だろ。
完全に賢者モードに突入している女は、唖然とするフロイトに一言だけ言い放って外に消えていった。
「ここ精液でくっさいから、換気扇だけ回しといてください」
内側のロックを解除して女が出て行くと、出すものを出した後特有の虚無感がフロイトを襲った。
冷静に着衣を整え、女に言われた通りに換気扇のスイッチを入れるとドッと疲労感が押し寄せてくる。
──まるで嵐のような女だった。
これほどまでにめちゃくちゃな経験をして、夢ではないかと脳を疑う。試しに頬をつねってみると、いつもよりも痛かった。
彼が親に忠告された「異性関係には気をつけなさい」という警句は、誰も予想しない形で現実のものとなった。
結果として彼は無理やりに貞操を奪われたことになるのだが、不思議と女を責める気にはならなかった。ただ呆然と、俺って意外とマゾの気があったのか、と思った。
その後、女が約束を果たす事は当然なかった。
その姿も見えなくなった。
どこかの任務で死んでしまったのだろうと思うことにした。名前も知らない女が一人、どこかでくたばって消えただけなのだと考えることにしよう。この世界ではごく普通の、ありふれたことなのだから。
『再教育センターを出禁になったやつがいるらしい』
そんな噂が、ふとフロイトの耳に飛び込んできた。僻地に飛ばされ、娯楽に飢えたヴェスパー部隊の隊員たちの間で交わされる噂は、突発的に浮上しては飽きられて消えていく。くだらない人間関係に由来したそれらの話題の出所は、たいていがちょっとした出来事の誇張、あるいは誰かの思い込みに由来するものであったりする。
基地内の廊下を左折しながら、フロイトは先ほどたまたま耳にした噂の内容を反芻する。再教育センター、出禁。滅多に結びつかないその二つのワードは、刺激に飢えた彼にとっては興味の対象となり得た。面倒なデスクワークは名前もはっきりと覚えていない直属の部下に押し付け、戦闘シミュレータのデータを片っ端から荒らしてやろう。そう思いながら、長い廊下の先にある扉を開く。
コンピュータの排熱で若干蒸し暑い室内には、先客がいた。
実際のコックピットを模した機械の中に、見慣れない女性がうつらうつらと眠っている。現在はロックがかかっているので、スペースの中は薄暗く曇っているが、それでも中に一人の人間がいることは見て取れた。液晶画面には何も映っておらず、完全に寝るためだけにこのブースを使っている様子だった。
「マジか」
この部屋は基地の中でも奥まった場所にあり、滅多に人も寄り付かず、掃除もされていない。床に散らばった埃を見れば、潔癖でない人間でも思わず顔を顰めるほどである。ここに置かれているシミュレータも旧式で、廃棄する手間を惜しんでいるから物置同然の部屋に仕舞い込まれているだけにすぎない。それ故に、絶対に誰にも邪魔されないこのスペースをフロイトは気に入っていた。
自分だけが知っている秘密のスポットだと思っていた場所を、自分以外にも見つけた人がいる。
彼は一般的な価値観を持ち合わせた人間ではなかった。なので、シミュレータの入り口にあたる扉の部分を思い切り叩きつけた。ノックと言うにはいささか乱暴だった。
「おーい! 起きろ」
ブースの中は防音になっているわけでもない。内部の振動は吸収されるが、外部からの刺激もそうだとは限らない。
「……うるさい」
扉が開く。目が覚めた女は、明らかに不機嫌なトーンでフロイトを見上げる。値踏みするような無遠慮な視線が彼に突き刺さる。女は、目の前にいるのが自分の上官たる主席隊長であることには気づいていない様子で、苛立ちを隠そうとしなかった。普段、恐れられたり腫れ物扱いされたりすることはあれど、ここまで露骨に嫌悪感を表してくる相手は滅多にいない。
珍しいし、面白い。
全く恐れという感情がない人間を見るのは久しぶりだった。こいつはどんな機体で、どんな闘いをするのだろう。彼の脳内には未知の相手の手の内を知りたいという欲求が湧いていた。
「悪い、でも俺はここを使いたいんだよ。変わってくれ」
「シミュレータなら他の部屋にもありますよ。わざわざこんな汚い部屋でやらなくても」
「俺はここが好きなんだ。昼寝なら他所でやれ」
女は上から下までフロイトを眺め切った後、何かを閃いたような顔をした。
「あー、じゃあ変わる前にわたしの動きを見てもらっていいですか。やっぱり、AIより生身の人間に見てもらった方がいいかなって思うんですけど」
「わかった、やろう」
フロイトからすれば、願ったり叶ったりの提案だった。
女は再びシミュレータの椅子に腰掛けると、機械の主電源を立ち上げ、設定を調節しているのか、激しくキーボードに指を叩きつけていた。その様子を椅子の後方にあるスペース(通常、訓練教官の立会のために設置された場所)に立ってその様子を眺める。
いくつかのコマンドを設定し終えると、シミュレータのロックがかかる音がした。液晶画面の映像が移り変わり、今より前の時代のアーキバス社のロゴが映ったのち、簡素なメニュー画面が立ち上がる。女は手慣れた手つきでアクセス権限のコマンドを入力し、すでに保存されていた機体のデータにアクセスする。
「へー、結構渋い構成じゃないか」
「いくつも好き勝手機体を弄れるわけじゃないですから。ヒラの隊員なんて、汎用機しか乗れないし……あーあ、なんでわたし、こんな前線に送られたんだろう」
愚痴じみたぼやきとは裏腹に、女は操縦桿をしっかりと握って目の前に現れる敵を千切っては投げる破竹の勢いで突き進んでいく。フロイトはその様子を見て、ゲームのタイムアタックを思い浮かべる。シミュレータといえど、出される情報の乱数は決まっているようなもので旧世代型のそれがゲームと揶揄されるのは当然のことだと思われた。つまり、実戦に沿っているとは言い難い代物なのだ。自動車学校のシミュレータのほうが、まだそれらしいだろう。
実際にACを動かす際には、重力の圧や振動がかかる。空中戦になればコックピットで嘔吐する者も出るくらいだ。それに比べるとこれはリアリティのある「おもちゃ」に過ぎない。
目の前に現れる敵を全て殲滅し終えると、女は振り返って気だるげに呟いた。
「こんなの見て何が楽しいんですか」
「……まあ、そうだな。実戦に比べればこんな物は遊びに過ぎない」
──もしかしてこいつも「同類」なのかもしれない。
フロイトは淡い期待を胸に、女の顔を覗き込む。その瞬間、有無を言わさぬ引力がフロイトを襲った。
「……⁉︎」
女は強引にフロイトの唇を奪うと、その勢いのまま体ごと椅子に引き寄せた。
「………ん」
喘ぎ声のような、それでいて諌めるような小さな声が漏れ出る。機械が熱排気のために稼働音を上げる以外は、音らしい音は二人の唇からのみ発せられる。
湿っぽい部屋で二人きり。彼は今までの人生において、女性と口付けを交わすことがなかった。
初めてがこんなに強引に奪われることがあるのか、と脳内で冷静に考える。全ての景色がスローになっていく感覚、五感の全てが研ぎ澄まされていく、薬でトリップをした時と似た光景がフロイトの脳内で弾けた。
「…………はあっ」
一瞬なのか、しばらくこうしていたのか全くわからなかった。女の拘束から解き放たれたフロイトは、思わず大きく息を吸った。性的交渉というよりは、水に顔をつける拷問から解放されたかのようだった。
息を上げるフロイトを見て女は笑う。目の焦点は合わない。
「もしかして初めてですか」
「一応、そうだな。こんな無理やりなのをカウントしていいならな」
「へぇ……そうですか。成程、体もガチガチでしたもんね」
女はケタケタと声を上げて笑う。押しつけられている体を退けようと思ったが、予想外の力で阻まれる。明らかに、
──せん妄状態か。
考えた結果、それ以外にこの女の奇行を説明できる言葉がなかった。
強化手術を行なって日が浅いと、こういった症状が発生する場合がある。そういう人間に絡まれた場合は相手を挑発せず話を聞くこと、そして医療スタッフに助けを求める行動が最適だと教わった。
昨今の強化手術の場合、そういった後遺症は滅多に起こらないと聞いていたが実際のところ相性次第なのだろう。
先ほどの接吻もつまりはそういうことだ。事故だと思って気にしないことにする。幸いにもフロイトは貞操を気にするタイプでもなければ、潔癖症でもなかった。ただ単に相手をするのが面倒くさいなあ、と思うだけだった。
肉体改造を施しているとはいえ、たかが女一匹だ。暇つぶしに面白いおもちゃと遊んでみるのもいいかもしれない。
焦点の合わない目を覗き込みながら、フロイトは覆い被さる女に問いかける。
「お前もしかして、脳じゃなくてそっちを強化したのか?」
「さぁどうだか。試したらわかるんじゃないですかね」
「ヤりたい盛りってヤツか……。まるで穴兎だな」
「は? こっちも相手くらいは選んでるし」
「選んだ結果がこれか? まあ……いいか。その代わり、終わったら模擬戦の相手になっ……おい!」
フロイトが言葉を言い終わる前に女は彼の男性器を掴んだ。布越しとはいえ、鷲掴みだった。女は切羽詰まったような表情で、ズボンのファスナーに手をかける。
「……マジで、本当に、いいんですね?」
「ちんこ触りながら言うか、それ」
「うるさい、脱がしますよ。あー、ムラムラしすぎてイライラする……。全部……脳みそ弄ったせいで、バカみたいなことで、このわたしが! あのクソジジイいつか殺してやる……!」
先ほどとは様子が異なり、女は会話らしい会話を成り立たせることが難しいようだった。血走った目からは正常な思考力が残っているようには感じられなかった。早口で独り言をぼやきながら、なれた手つきでフロイトの男性器を露出させると、女は舌打ちをした。
「勃ってないじゃん」
不愉快さを隠さない声色だった。
「勃起したらわたしのお腹突き抜けそうなデカチンのくせに、無用な長物になってんじゃん。童貞はキスするだけで出るモンだと思ってたんですけどねー、貴方はそうでもない?」
「勃つわけないだろ……」
「いやー、早く終わったら終わったで嫌ですけど」
「戦闘だってそうだ、相手が粘りを見せずにすぐに終わったらつまらないだろ?」
俺は早漏じゃない。
フロイトが自分なりに噛み砕いた語彙で語りかけても、女は面倒臭そうに目線を逸らすだけだった。
「……はぁ。じゃあ無理やりにでも、勃たせて差し上げますからね。そんじゃあ上も脱がしまーす」
獣のようにがっつきだした女にされるがままにされながら、フロイトはぼんやりと己の貞操について考えていた。
「お前は昔から何かとぼんやりしているから、異性関係には気をつけなさい」と、ことあるごとに親に注意されていた。どうせ結婚しないから大丈夫だと思っていたが、そういうことではないらしい。よくわからないけれど、今回の事態がよくないことであるのはフロイトでも理解できた。
名前もわからないような初対面の女性に貞操を捧げようとしている。一応、対価として模擬戦を申し込んだが、多分そういう風にして体の関係を持つのはよくないことだと思う。でも、今更止まりそうもないしな。仕方ないことだから諦めるしかないとフロイトは考えた。放っておいたら何をしでかすかわからない相手だ。
「はーいばんざーい」
こうされていると、子供の頃に親の手で着替えさせられていたことを思い出す。しばらく実家に帰っていないなぁ、などと悠長に考えていたら、女の刺すような一太刀が浴びせられる。
「う゛っ⁉︎」
「あはっ、乳首は感じるんだぁ♡ 自分で普段からオナってます? 思わぬところで主席隊長サマの弱点発見しちゃったかも♡」
女の小さな手からは考えられないような、乱暴な手つきでフロイトの乳首がつねられる。なんの役にも立たないはずの、授乳もできない、ただ情けなく性的快楽に耽るためだけの器官が、明らかに年下の平社員の手で嬲られ、愛撫されている。
喋らないでいれば喘ぎ声をあげることを我慢することができた。しかし、黙っていれば攻め立てる手つきが激しくなる。やや茶色がかった薄い色の乳首に、桜貝のような爪がつき刺さる。思わず口から小さな悲鳴が溢れでた。
容赦のない手つきだ。女は一切躊躇することはない。プロの拷問官のような鮮やかな仕草だ。
「あ゛っ、いや、弄ってはないん゛……だ……が……」
「へーじゃあ天然物の雑魚乳首なんですね。かわいそうに、わたしが有効活用してあげますからね、かわいく喘いでくださいね〜。そんで、乳首だけじゃなくてちんちんも勃たせてくださいよ。不能じゃないんでしょ?」
「うるさい……い゛っ……お、まえ、は……あ゛っ゛性欲でも強化されたんじゃないのかっ………あ゛っ゛……クソッ……」
フロイトは自慰行為を行う際、とても手短に済ませる方だった。乳首を使って快楽を得ることはない。つまり、女の言う通り彼は生来の乳首雑魚だったのだ。
──少し弄っただけですぐに喘ぐなんて見どころがある。女は思った。
フロイトの体には異変が生じていた。乳首を愛撫されるたびに、体の奥底から何かむず痒いものが迫り上がってくる感覚が生じた。所謂オーガズムであることは自分でも理解できたが、それでも直接生殖器に触れずに絶頂が近づいてくるという事態が恐ろしく感じられた。女は震えながら細く喘ぐフロイトを見て、意地の悪い笑みを浮かべる。
「女の子みたいで可愛いですよ♡」
「上官に楯突くと……再教育センター送りに……い゛い゛っ……! わがっでやってる、ん゛っ……だろうな?」
「それはお気になさらず。さっきシャバに出てきたところですので♡」
「……お前、そこで何人とヤった?」
「あはは、覚えてませーん! なーんてウソウソ、そこのお偉いさんともセックスして、今の貴方みたいに可愛く喘がせてあげましたよぉ〜。 ほら、これで満足か? 前のやつより上手に女みたいな声上げねえと殺すからな。未強化のやつがわたしに勝てると思うなよ……ほらっ、ねぇっ、だから殺されないように一緒に頑張りましょうねー♡」
──こいつだ。
朦朧とした頭の中でたった一つの結論に辿り着く。再教育センターを出禁になり、おそらくファクトリー送りにもされなかった社員というのは「こいつ」のことだと。なぜそうなったのか、理由は定かではないが何かしらの事情があってそうなったのだろう。
こいつは只者ではないと本能が告げている。願わくば一度手合わせ願いたいと思うが、それにはまずこの屈辱的なレイプから脱しなくてはいけない。……脱さなくても、こいつが満足したら対決はしてくれる約束だから、抵抗しなくていいのか?
女が肉体をどれほどまでに強化しているのかはわからない。強化手術の後遺症である程度の肉体機能を犠牲にすることがあるが、彼女の場合はアドレナリンが出過ぎて通常の人間より肉体的な力が増しているのだろうか。ハッタリである可能性も否定できないが、腕一本くらいは平気でへし折りそうな気迫が感じられた。只者ではないし、頭のネジが外れている、根本的に対話が通用するタイプではない。災害に襲われたようなものだ。
口から絶え間なく漏れ出る喘ぎ声を他人事のように思いながら、フロイトはシミュレーターの天井を見つめた。換気扇がぐるぐると周り、黒い天井では僅かに稼働するエアコンが見える。
以前ここで籠った時にイカくさい匂いがしたことを思い出した。ここはそういう行為のために使用された形跡があった。
……もしかして、こいつが?
だとしたら誰でもよかったのだろうか。来るもの拒まずで、誰でも……。
「なによそ見してるんですか? ちゃんとわたしを見てくれないと……ダメでしょ」
「……ぁ……」
「…………勃ってる♡」
柔らかい手が性器を這う感触があった。最初とは違い、その手つきには腫れ物を扱うような繊細さがあった。女が毛繕いでもするような仕草でそれに触れるたび、フロイトは熱い吐息を漏らした。
「………はぁっ……」
「うんうん。いいよ、これ。やればできるじゃないですか」
「……こんなの、どこで覚えたんだ?」
「生まれつきですよ。生憎とわたしは生まれつきの大馬鹿なもので。こんなことでしか満足できないんです」
「そうか、さぞかし苦労したんだろうな」
「あはは、じゃあ生きてきたご褒美に一発ぶち込んでもいいですか?」
女はフロイトの返事も聞かず、自分の制服のジッパーを下ろしてしまった。飾り気のない下着を下ろすと、むき出しの男性器に己の下半身を擦り付ける。粘膜と粘膜が接触すると、そこは卑猥な水音を立てた。
「あっ……やば、いい、かも……。うん、合格かなぁ?」
「っ…………ひ、避妊……は…………」
「あー、それは必要なくって……。手術するときにそーいう機能は大概『取っちゃう』んですよ、もしかして知りませんでした? ……まあ、それが普通かぁ。女性は男の人にそういう話しないですよね」
フロイトが女の言葉の意味を理解した瞬間、間髪いれずに素股を再開される。女はフロイトの上に跨り、ロデオマシーンに乗るような気軽さで腰を動かしていた。柔らかい肉の生暖かい体温と、愛液のぬめるような感触で脳が沸騰しそうだった。女も興奮から発情しきっているようで、頬は紅潮し、瞳孔も開ききっていた。
「う゛っ…………は、あっ…………」
「やば、素股だけでイきそうじゃん。いいですよ、ちょっとはイッても。うーん、主席隊長殿のちんこって、なーんかわたしと相性いいのかな? すっごい気持ちいいよ♡ うーん、濡れてきたし、そろそろ行けそうう……。童貞デカマラの筆おろしとでも軽く洒落込みますかな……」
女はフロイトの性器を自身の膣口に添えると、一気にねじ込んだ。卑猥なピンク色の入口は捕食するような勢いで性器を咥え込んだ。全く慣らしをしていないにも関わらず、女は顔色ひとつ変えずに根元までを迎え入れたのだ。
それなりの大きさのある男性器を挿入したことにより、女の腹には性器の形がぽっこりと浮かび上がっていた。しかし、その卑猥な姿をフロイトが目にすることはない。自身に襲いかかってくる獰猛な快楽に抗うことに必死で、視覚はぼんやりと女の笑顔を捉えるだけだった。女は蛇のような目でフロイトを見つめる。捕食者の視線だった。名器に溺れる一人の男を哀れに思うと同時に、とてつもなく愛おしく感じて仕方がないのだ。
「あ、あ、あ゛っ…………あ゛ぁ゛っ!」
「童貞卒業、おめでとー♡」
フロイトが息つく暇もなく、女は腰を振る。杭打ちのように膣道で男性器を嬲ると、フロイトはたまらず情けない喘ぎ声を上げる。それが女にはたまらなく気持ちが良かった。実力では到底敵わない相手を自分のフィールドでボコボコに負かすのは、彼女の果てしない闘争精神を存分に満たしてくれた。
「……すぐ出したら、殺すから♡」
「無茶な…………ぁ゛」
「ハァ……? 普段お前のやってる任務のほうが百倍無茶だろうが、舐めてんのか? これくらい耐えろよ、ナンバーワンなんだろ? 強いんだろ? 情けないところ見せて後輩を失望させるなよなぁ〜主席隊長殿ぉ〜」
「あ゛っ゛……ぜ、善処はっ…………」
「ふーん、まぁせいぜい頑張れば? どーせ無理だと思いますけど? ほら、出しちゃえ出しちゃえ♡」
出したら殺す。
早く出せ。
二つの相反する命令を受けてフロイトの脳はエラーを吐き出した。混乱する頭でもただひとつわかるのは、この女のセックスがとてつもなく上手いというただ一つの紛れもない事実であった。搾り取るような動きを続けながら、女はニタニタと笑っている。額に浮かぶ汗と、紛れもない息遣いだけがこれが夢ではないのだと雄弁に物語っている。膣襞のゾリゾリとした感触とぬるま湯のような胎内の温かさは、神経毒のようにフロイトの思考を麻痺させた。
男性器に全ての体温が集まっているかのようで、今にも爆発しそうな爆弾を弄ばれているのが生殺しの状態すぎて、辛かった。それと同時に暴力的な口調と同時に優しく苛められることに、とてつもない快楽を覚える己の姿を想像し、恥と呼べるような感情が湧き上がってきた。が、その羞恥心は女によって軌道修正される。
「なーに考えてるんですか?」
その言葉と共にさらに激しく揺さぶられると、紛れもなく自分の声である喘ぎ声が虚しく部屋に響いて聞こえる。
「逃げられると思わないでくださーい♡ ここで諦めたら、なっさけないエロ面晒してアリーナランク1が木端社員に辱めを受けてるんだぞーって、全員に言いますよ♡ 降格減給謹慎間違いなし♡ 大好きなロックスミスに乗れなくなっちゃいますね♡」
この場合女も似たような処遇になるのは間違いないのだが、それを指摘する気力はフロイトには残っていなかった。女は気をよくして更にねっとりと腰を動かした。膣で男性器をハグするような感触に、フロイトは再び悩ましげな喘ぎ声を上げた。
※
無限にも思えるような責め苦の果てに、ついには爆発しそうになったその瞬間、女は気まぐれに呟いた。
「んー、わたしもそろそろイっちゃいそう〜。童貞くんは、出すタイミング合わせるの、できるかなぁ? できそう? 頑張れる?」
「…………も、もう……無理だ……頼む、もう楽に……」
息も絶え絶えにフロイトは答える。普段の彼を知る人間なら想像もできないような無様な姿を晒し、年下の女に懇願する姿は惨めの一言に尽きた。
彼はプライドもこだわりも何もかもねじ伏せられたのだ。この小さな侵略者はその言葉を聞くと、満足そうに笑った
「しょうがないなぁ〜♡ ……いいよ、出しても」
その言葉と共に、フロイトは精子を女の中にぶちまけた。まさに爆発と形容するのが相応しい、そんな射精だった。
女は眉ひとつ動かさず、その様子を淡々と見つめていた。
「……あ、あぁ……あぁぁぁぁ…………う゛っ…………で、出た……」
痙攣しながら絶頂するフロイトに、女は残酷なまでの無表情で応える。出すものを出したらもう用済みだと言わんばかりにあっさりと性器を引き抜くと、側に置かれたティッシュで精子を拭い取った。
「……マジでくっさ。……はぁ、童貞卒業おめでとうございました。ま、初めての割にはいいんじゃないんですか?」
ほぼ全裸のフロイトに対して、女はズボンをずらした以外は着衣も乱れておらず、上半身だけ切り取ってみれば事後だとはわからないだろう。それが余計に哀愁を漂わせていた。
「どうせ一発出して終わりなんだから、もう終わり。はい、終わり。ここで解散ですからね」
幼児に言い聞かせるような口調に怒る暇もなく、フロイトは呆然と女を見つめた。先ほどまでサディスティックかつハイテンションでフロイトを攻め立てていたとは思えない口ぶりに、開いた口が塞がらない。
──普通、逆だろ。
完全に賢者モードに突入している女は、唖然とするフロイトに一言だけ言い放って外に消えていった。
「ここ精液でくっさいから、換気扇だけ回しといてください」
内側のロックを解除して女が出て行くと、出すものを出した後特有の虚無感がフロイトを襲った。
冷静に着衣を整え、女に言われた通りに換気扇のスイッチを入れるとドッと疲労感が押し寄せてくる。
──まるで嵐のような女だった。
これほどまでにめちゃくちゃな経験をして、夢ではないかと脳を疑う。試しに頬をつねってみると、いつもよりも痛かった。
彼が親に忠告された「異性関係には気をつけなさい」という警句は、誰も予想しない形で現実のものとなった。
結果として彼は無理やりに貞操を奪われたことになるのだが、不思議と女を責める気にはならなかった。ただ呆然と、俺って意外とマゾの気があったのか、と思った。
その後、女が約束を果たす事は当然なかった。
その姿も見えなくなった。
どこかの任務で死んでしまったのだろうと思うことにした。名前も知らない女が一人、どこかでくたばって消えただけなのだと考えることにしよう。この世界ではごく普通の、ありふれたことなのだから。
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