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テニスの王子様
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「今日侑士が家に来るから、お前俺の部屋入ってくんなよ」
俺がそう言うと、ナマエは怪訝な顔をして頷いた。
「岳人の友達……? 今まで来たことない人だよね」
「テニス部のやつだよ。お前知らないのか?」
「知らない。テニス部の人とか興味ないし」
「お前本当変わってるよな」
「逆になんで知ってないといけないわけ? テニス部の人ってだけで、ただの生徒には変わりないじゃん」
「じゃあお前跡部のことも知らないのかよ」
「跡部さんはわかるよ、有名人じゃん」
「侑士も正レギュラーなんだから、そんくらい覚えとけよ」
「はぁ……そうですか」
我が妹ながら、全く俺には似なかったな。ナマエは手元のスイッチに視線を戻した。明日は侑士と家でスプラやるから、延長コードを借りないといけない。勝手に借りるとあいつ、めちゃくちゃ怒るし。ナマエの部屋にあるPS4、俺にはやらせてくれないんだよな。弟にはやらせてやってるのに。俺、嫌われてんのか?
「何ぶつぶつ言ってんの……」
「なぁ、延長コード貸してくれよ」
ナマエは、ポケットの中からそれを投げつけた。
「お前さぁ、物くらいちゃんと渡せよ。そんなことしてると友達いなくなるぞ」
「岳人にしかしないよ」
「生意気なやつ……」
小学生の時まではお兄ちゃんなんて呼んで、素直だったのに今はどうなってしまったんだ。
「あ、私も明日ボイチャするから部屋入ってこないでよ」
駅まで侑士を迎えに行って、スーパーで飲み物を買った。
「岳人とは付き合い長いけど、家いくんは初めてやなぁ」
「ま、部活も忙しかったしな」
外は暑かったから、部屋の中でクーラーをつけておいて良かった。
「さ、やろうぜ」
「今日は家族おらんのか?」
「いや、妹がいる」
「岳人、妹おったんやな。知らんかったわ。氷帝生か?」
「まぁな。でも、あいつ部活やってないし、友達少ないし、委員会も違うから滅多に会わねぇよ」
「ふぅん、岳人とは真逆の大人しい子なんやろな。ええやん、騒がしくなくて」
「でもあいつゲームやってる時はすぐキレるんだぜ」
「一緒にゲームやるんか?」
「……あいつ海外のアクションものしかやらねぇんだよ。しかも、貸してくれねぇし」
「そうなんや」
侑士は買ったばかりだというのに、そこそこ手練れた手つきでインクをぶちまけていた。
「あっ! クソ! やられた!」
「後ろからやられてたなぁ」
「侑士、見てたんなら援護しろよ!」
「すまんな、俺もやられたわ」
俺たち二人とも、ローラーを持ったイカにやられてしまった。
「あ、またや」
どうやらそいつは、俺たち二人を執拗に狙っているらしく、何度も何度も執念深く、俺たちのイカをキルしてきた。しかも、篦棒に上手いのだ。反撃する暇なんてない。まさに殺し屋みたいなやつだ。
「なんとか勝った……」
試合の結果自体は俺たちの勝ちだったが、かなりの接戦だった。
「そろそろなんか食おうぜ」
「せやな」
脳味噌動かしたら腹へった、なんて言い合いながら台所の方へ降りていくと、冷蔵庫を物色しているナマエがいた。
「岳人の妹さんか?」
「そうだよ。おいナマエ、早くそこをどけ。そんでこいつが侑士、挨拶しろ」
ナマエはダボダボのスウェットを部屋着代わりに着て、ヘアバンドで長い前髪を上げていた。だらしのないやつ。
「あ……ども、岳人がお世話になってます」
「お前は俺の保護者かよっ」
「どうも、忍足侑士です。岳人さんとは仲良ぅさせてもらってます」
「……あぁ、はい……」
珍しく、ナマエがきちんと初対面の人の目を見て会話している。
「……忍足、さん」
「ん?」
「……前の試合、格好良かったです」
嘘つけ!と俺は心の中で叫んだ。前の試合の日なんて、家の中で夕方まで寝てただろ。っていうか、試合の日程なんて聞かれたこともない。
「え、見とってくれたん? ありがとうな」
照れ隠しなのか、ペコペコと頭を下げるナマエを見ると、いやでも察しがつく。
「……じゃあ、あの、いつでも遊びにきてください」
ナマエはジュースとプリンの容器を胸に抱え、二階へと戻って行った。
「岳人、お前の妹結構かわいいやん」
「ばーか、あいつ猫被ってやんの。騙されんなよ」
「はぁ!? こいつまたマッチングしやがった!」
あれから何度もあいつに殺されて、俺たちは一向に手も足も出ない状態だった。
「なんでやろうなぁ」
「あーもう、こいつチートだろ」
俺たちが唸っていると、ふと俺のスマホが震える。
「あ、ラインきてるわ」
通知を見て、俺は驚いた。今まで連絡の一つもよこさなかったナマエが、初めてメッセージを送ってきたのだ。
「へたくそ」
その一言で、俺は全てを理解した。
「あいつ……!」
あのイカは、ナマエだ。我が家に二台あるスイッチのもう一台を、ナマエはほぼ自分の専用機として使っていたのだ。
「岳人、どうしたん?」
「いや、なんでもない。スプラ飽きたから、荒野行動しようぜ」
「俺、フォートナイトしかやってへんねんけど」
「……なぁ、お前侑士のこと好きだろ」
「うん、そうだよ。一目惚れってやつかな」
「はぁ!? 今まで興味もなかったのにか!?」
「かっこいい人だね。関西弁って珍しいけど、転校生?」
スマホでまとめサイトを見ながら、ナマエはニコニコと笑った。
「明日から忍足さんの練習見にいくから場所取りよろしくね」
「意味わかんねぇ、やるかよそんなの」
「まぁいいや、岳人のファンの子に写真売るから。それで場所は確保できるよね」
「お、お前なぁ……」
「あれ? 知らなかった? 三年の先輩に岳人のファンって多いんだよ。結構儲けさせていただきました」
次の日、朝練があるので早く起きると、もうすでにナマエは制服に着替えていて、玄関で待っていた。
「岳人、遅い」
「いや、早すぎんだろ」
今まで遅刻ギリギリの時間に起きていたナマエが、こうなるなんて……。感心していいのかわからない。
「忍足さん、差し入れ持ってきました!」
「おおきに、お、美味しそうやな」
今まで料理なんてまともに作ったことないくせに、目の前にある唐揚げはとても美味しそうだった。
「料理作れたのか……ってぇ!」
ナマエは笑顔のまま、俺の足を踏んだ。
その後も、食堂にわざわざ呼びつけて、三人でお昼だ。
「今日はサバの塩焼きです」
「おっ、意外と美味そうじゃん」
「…………いいよ」
ものすごく嫌そうな声で、ナマエはサバの塩焼きを俺の弁当箱の蓋にのせた。
「朝練、初めて行ってみたんですけど、皆さん凄いですね。感動しちゃいました」
「唐揚げ、レギュラー以外の分も作ってくれてありがとうな。めっちゃ好評やったで」
「ふふ……また作ってきますね」
おい、騙されるな。こんな綺麗な笑い方、家族の前ではしたことがない。いつも大口開けて、馬鹿みたいに笑っていたのに、こんなお嬢様みたいなこともできたのかよ。普段からしろよ。
「岳人、こんないい妹がおるのに隠しとったんか?」
「……別に、そういうのじゃないっての」
いつナマエにスネを蹴られるかわかったもんじゃない。こいつ、結構力が強いんだ。
「お前何やってんだよ!」
「おまじない」
夜中、トイレに行こうとしてリビングを通ると、ナマエが亡霊のように立っていて思わず叫んでしまった。
「でも岳人に見られたから、やり直さないと」
右手には、見ているだけで呪われそうな人形。夜中の三時だ。こいつ、正気か?
「お前、マジじゃん」
「本気だよ? 何言ってんの?」
そのままナマエはふらふらと、洗面台の方へと消えていった。
「まじで意味わかんねぇ」
結局トイレには行ったけど、あの後眠れなかった。
その後、ナマエは律儀にも朝練、部活、休みの日もテニス部に通い続け、レギュラー全員に顔を覚えられるほどになった。ファンクラブのやつらともうまく交渉して、特等席で侑士の活躍を見ていた。
が、今日はなぜかそれをやめてしまった。
「……なぁ、ナマエちゃん今日は風邪かな?」
「……」
侑士は珍しくソワソワしていた。おかしい。なんで急に来るのをやめてしまったんだ。
「なんで今日こなかったんだよ」
ラインを送ると、すぐ返事がきた。
「押してダメなら引いてみる卍」
「侑士、気にしてるぞ」
「やった〜!!!(^。^)」
ダメだこいつ。性格悪すぎだろ。
「バラしたら、殺す」
刃物の絵文字と一緒にそんなメッセージが送られてきて、俺は腹のそこからこいつのことが恐ろしいと思った。
「岳人、聞いてよ。私忍足さんから告白された」
1ヶ月後、ナマエはTwitterを見ながら、唐突にそういった。
「は……? マジかよ。でもまぁ、よかったな」
「うん! だから岳人は忍足さんと兄弟になるからね!」
「はいはい、言っとけ」
心底嬉しそうにはしゃぐ妹を見つつ、俺はラインのトーク画面を遡っていた。
まぁ、遅かれ早かれこうなるだろうと思っていた。ナマエは昔から、本当に欲しいもののためには手段を選ばない。
うん、あいつは恐ろしいやつだ。侑士はその毒牙にかかったかわいそうなやつ。本性を知らないのが、特に。
「ナマエちゃんと俺、付き合うことになってん」
侑士からラインがきて、俺は「おめでとう」と書かれたスタンプを送る。
「岳人」
ナマエは急に俺の方を向いた。
「岳人だったら許すけど、他の人と侑士さんが話してたら、教えてね」
新しく通知音が鳴って、手元の画面では「デートの場所どこがええと思う?」という平和ボケしたメッセージが届いた。
「デートの場所はね、映画館がいいかな」
ナマエはそう言って、ソファをおりた。
俺がそう言うと、ナマエは怪訝な顔をして頷いた。
「岳人の友達……? 今まで来たことない人だよね」
「テニス部のやつだよ。お前知らないのか?」
「知らない。テニス部の人とか興味ないし」
「お前本当変わってるよな」
「逆になんで知ってないといけないわけ? テニス部の人ってだけで、ただの生徒には変わりないじゃん」
「じゃあお前跡部のことも知らないのかよ」
「跡部さんはわかるよ、有名人じゃん」
「侑士も正レギュラーなんだから、そんくらい覚えとけよ」
「はぁ……そうですか」
我が妹ながら、全く俺には似なかったな。ナマエは手元のスイッチに視線を戻した。明日は侑士と家でスプラやるから、延長コードを借りないといけない。勝手に借りるとあいつ、めちゃくちゃ怒るし。ナマエの部屋にあるPS4、俺にはやらせてくれないんだよな。弟にはやらせてやってるのに。俺、嫌われてんのか?
「何ぶつぶつ言ってんの……」
「なぁ、延長コード貸してくれよ」
ナマエは、ポケットの中からそれを投げつけた。
「お前さぁ、物くらいちゃんと渡せよ。そんなことしてると友達いなくなるぞ」
「岳人にしかしないよ」
「生意気なやつ……」
小学生の時まではお兄ちゃんなんて呼んで、素直だったのに今はどうなってしまったんだ。
「あ、私も明日ボイチャするから部屋入ってこないでよ」
駅まで侑士を迎えに行って、スーパーで飲み物を買った。
「岳人とは付き合い長いけど、家いくんは初めてやなぁ」
「ま、部活も忙しかったしな」
外は暑かったから、部屋の中でクーラーをつけておいて良かった。
「さ、やろうぜ」
「今日は家族おらんのか?」
「いや、妹がいる」
「岳人、妹おったんやな。知らんかったわ。氷帝生か?」
「まぁな。でも、あいつ部活やってないし、友達少ないし、委員会も違うから滅多に会わねぇよ」
「ふぅん、岳人とは真逆の大人しい子なんやろな。ええやん、騒がしくなくて」
「でもあいつゲームやってる時はすぐキレるんだぜ」
「一緒にゲームやるんか?」
「……あいつ海外のアクションものしかやらねぇんだよ。しかも、貸してくれねぇし」
「そうなんや」
侑士は買ったばかりだというのに、そこそこ手練れた手つきでインクをぶちまけていた。
「あっ! クソ! やられた!」
「後ろからやられてたなぁ」
「侑士、見てたんなら援護しろよ!」
「すまんな、俺もやられたわ」
俺たち二人とも、ローラーを持ったイカにやられてしまった。
「あ、またや」
どうやらそいつは、俺たち二人を執拗に狙っているらしく、何度も何度も執念深く、俺たちのイカをキルしてきた。しかも、篦棒に上手いのだ。反撃する暇なんてない。まさに殺し屋みたいなやつだ。
「なんとか勝った……」
試合の結果自体は俺たちの勝ちだったが、かなりの接戦だった。
「そろそろなんか食おうぜ」
「せやな」
脳味噌動かしたら腹へった、なんて言い合いながら台所の方へ降りていくと、冷蔵庫を物色しているナマエがいた。
「岳人の妹さんか?」
「そうだよ。おいナマエ、早くそこをどけ。そんでこいつが侑士、挨拶しろ」
ナマエはダボダボのスウェットを部屋着代わりに着て、ヘアバンドで長い前髪を上げていた。だらしのないやつ。
「あ……ども、岳人がお世話になってます」
「お前は俺の保護者かよっ」
「どうも、忍足侑士です。岳人さんとは仲良ぅさせてもらってます」
「……あぁ、はい……」
珍しく、ナマエがきちんと初対面の人の目を見て会話している。
「……忍足、さん」
「ん?」
「……前の試合、格好良かったです」
嘘つけ!と俺は心の中で叫んだ。前の試合の日なんて、家の中で夕方まで寝てただろ。っていうか、試合の日程なんて聞かれたこともない。
「え、見とってくれたん? ありがとうな」
照れ隠しなのか、ペコペコと頭を下げるナマエを見ると、いやでも察しがつく。
「……じゃあ、あの、いつでも遊びにきてください」
ナマエはジュースとプリンの容器を胸に抱え、二階へと戻って行った。
「岳人、お前の妹結構かわいいやん」
「ばーか、あいつ猫被ってやんの。騙されんなよ」
「はぁ!? こいつまたマッチングしやがった!」
あれから何度もあいつに殺されて、俺たちは一向に手も足も出ない状態だった。
「なんでやろうなぁ」
「あーもう、こいつチートだろ」
俺たちが唸っていると、ふと俺のスマホが震える。
「あ、ラインきてるわ」
通知を見て、俺は驚いた。今まで連絡の一つもよこさなかったナマエが、初めてメッセージを送ってきたのだ。
「へたくそ」
その一言で、俺は全てを理解した。
「あいつ……!」
あのイカは、ナマエだ。我が家に二台あるスイッチのもう一台を、ナマエはほぼ自分の専用機として使っていたのだ。
「岳人、どうしたん?」
「いや、なんでもない。スプラ飽きたから、荒野行動しようぜ」
「俺、フォートナイトしかやってへんねんけど」
「……なぁ、お前侑士のこと好きだろ」
「うん、そうだよ。一目惚れってやつかな」
「はぁ!? 今まで興味もなかったのにか!?」
「かっこいい人だね。関西弁って珍しいけど、転校生?」
スマホでまとめサイトを見ながら、ナマエはニコニコと笑った。
「明日から忍足さんの練習見にいくから場所取りよろしくね」
「意味わかんねぇ、やるかよそんなの」
「まぁいいや、岳人のファンの子に写真売るから。それで場所は確保できるよね」
「お、お前なぁ……」
「あれ? 知らなかった? 三年の先輩に岳人のファンって多いんだよ。結構儲けさせていただきました」
次の日、朝練があるので早く起きると、もうすでにナマエは制服に着替えていて、玄関で待っていた。
「岳人、遅い」
「いや、早すぎんだろ」
今まで遅刻ギリギリの時間に起きていたナマエが、こうなるなんて……。感心していいのかわからない。
「忍足さん、差し入れ持ってきました!」
「おおきに、お、美味しそうやな」
今まで料理なんてまともに作ったことないくせに、目の前にある唐揚げはとても美味しそうだった。
「料理作れたのか……ってぇ!」
ナマエは笑顔のまま、俺の足を踏んだ。
その後も、食堂にわざわざ呼びつけて、三人でお昼だ。
「今日はサバの塩焼きです」
「おっ、意外と美味そうじゃん」
「…………いいよ」
ものすごく嫌そうな声で、ナマエはサバの塩焼きを俺の弁当箱の蓋にのせた。
「朝練、初めて行ってみたんですけど、皆さん凄いですね。感動しちゃいました」
「唐揚げ、レギュラー以外の分も作ってくれてありがとうな。めっちゃ好評やったで」
「ふふ……また作ってきますね」
おい、騙されるな。こんな綺麗な笑い方、家族の前ではしたことがない。いつも大口開けて、馬鹿みたいに笑っていたのに、こんなお嬢様みたいなこともできたのかよ。普段からしろよ。
「岳人、こんないい妹がおるのに隠しとったんか?」
「……別に、そういうのじゃないっての」
いつナマエにスネを蹴られるかわかったもんじゃない。こいつ、結構力が強いんだ。
「お前何やってんだよ!」
「おまじない」
夜中、トイレに行こうとしてリビングを通ると、ナマエが亡霊のように立っていて思わず叫んでしまった。
「でも岳人に見られたから、やり直さないと」
右手には、見ているだけで呪われそうな人形。夜中の三時だ。こいつ、正気か?
「お前、マジじゃん」
「本気だよ? 何言ってんの?」
そのままナマエはふらふらと、洗面台の方へと消えていった。
「まじで意味わかんねぇ」
結局トイレには行ったけど、あの後眠れなかった。
その後、ナマエは律儀にも朝練、部活、休みの日もテニス部に通い続け、レギュラー全員に顔を覚えられるほどになった。ファンクラブのやつらともうまく交渉して、特等席で侑士の活躍を見ていた。
が、今日はなぜかそれをやめてしまった。
「……なぁ、ナマエちゃん今日は風邪かな?」
「……」
侑士は珍しくソワソワしていた。おかしい。なんで急に来るのをやめてしまったんだ。
「なんで今日こなかったんだよ」
ラインを送ると、すぐ返事がきた。
「押してダメなら引いてみる卍」
「侑士、気にしてるぞ」
「やった〜!!!(^。^)」
ダメだこいつ。性格悪すぎだろ。
「バラしたら、殺す」
刃物の絵文字と一緒にそんなメッセージが送られてきて、俺は腹のそこからこいつのことが恐ろしいと思った。
「岳人、聞いてよ。私忍足さんから告白された」
1ヶ月後、ナマエはTwitterを見ながら、唐突にそういった。
「は……? マジかよ。でもまぁ、よかったな」
「うん! だから岳人は忍足さんと兄弟になるからね!」
「はいはい、言っとけ」
心底嬉しそうにはしゃぐ妹を見つつ、俺はラインのトーク画面を遡っていた。
まぁ、遅かれ早かれこうなるだろうと思っていた。ナマエは昔から、本当に欲しいもののためには手段を選ばない。
うん、あいつは恐ろしいやつだ。侑士はその毒牙にかかったかわいそうなやつ。本性を知らないのが、特に。
「ナマエちゃんと俺、付き合うことになってん」
侑士からラインがきて、俺は「おめでとう」と書かれたスタンプを送る。
「岳人」
ナマエは急に俺の方を向いた。
「岳人だったら許すけど、他の人と侑士さんが話してたら、教えてね」
新しく通知音が鳴って、手元の画面では「デートの場所どこがええと思う?」という平和ボケしたメッセージが届いた。
「デートの場所はね、映画館がいいかな」
ナマエはそう言って、ソファをおりた。
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