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テニスの王子様
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「財前先輩、部長になりはったんですね。おめでとうございます」
「あぁ……、どうも」
三年の先輩が引退して、俺は当然のように四天法寺男子テニス部の部長になった。……というか、俺以外になれるやつがおらんかったと言った方が正しいのかもしれない。
放課後、ジャージから着替えて下校しようと部室から出たところで、この女に呼び止められた。女子テニス部の部員の一人なのだろう。ユニフォームを着ていたのでわかった。それ以外――、名前であるとかそういった情報は自分の中には存在しない。ただ、先輩と呼ばれたから後輩なのだということは分かる(当たり前だが)。四天法寺の女子テニと男子テニはそれほど接点が多い訳ではない。たまにコートの使い方について話し合いの場が設けられることがあるが、あくまで儀礼的な物で、部長と副部長以外は出なくていい会議だったので、本当に俺は女子テニの人について何もしらない。
お前誰やねん、知らんわ。と言えば面倒なことになりそうだったので、礼儀として礼だけは言っておく。それくらいは、俺だってできるんで。
「あぁ……、先輩がトップになりはったらつまらないテニス部になりそうやわ」
「あ……? なんやねんお前。何が言いたいんや」
喧嘩を売られた。いきなり顔面をグーで殴ってくるのと同じ勢いで、言葉のナイフが。
死ぬほど失礼な態度の女は、馬鹿にしたような笑みを浮かべてこっちを見ている。周囲に人はいない。ほとんどの部員は最終下校時刻を過ぎないように早めに帰っている。
「去年の小石川さんの時は……、ほんまによかった。でも終わったんですよ。財前先輩、あんた何もおもんないわ。テニスもおもんないし……、よく部長しよう思わはったな」
「ハァ……? オワコンちゃうわ」
「オワコンや、こんなテニス部」
「じゃあお前はなんやねん。そんな偉そうなこと言えるような人なんか?」
「……一緒に上がったでしょう、体育館で、壇上に」「あ……?」
そういえば、夏の大会が終わった後、そんなこともあったような気がする……というか、あった。一応全国大会でいい場所まで行けたという実績の元、全校集会で男子テニス女子テニス両方のレギュラーが、あのデカいステージの上に並ばされた。挨拶をしたのは双方のキャプテンだけで、俺はほんまに突っ立ってるだけやったけど。
確かに、そこに制服のサイズが合ってない女子が一人いたようないなかったような。それがこの人なんだと自分の中ではあんま結びつかん。
「一年でレギュラーで全国に行ったの、遠山さんとわたしだけなんやねんけど」
「あぁ……、そうか」
「ほんまに……、人を見る気なんて何にもないんですね。部員の顔ちゃんと覚えられてます?」
「なんで女子のことまで覚えとかなあかんねん」
「同じテニス部ですよ?」
「……どーでもええわ。てか俺、はよ帰りたいんやけど」
女は俺の目の前を通せんぼした。
「はよどけや」
「嫌や。納得できへん」
「何がや」
「わたしが一セットでも取ったら部長やめてくれます?」
「は……? 嫌や」
「ほんまノリ悪いんやな」
「先輩にタメ口使うなや」
丁度このタイミングで、最終下校時刻まであと五分ですというアナウンスが流れた。
「もう外暗いやんけ」
「じゃあ帰り駅まで送ってください」
「めんどくさ……」
と言いつつ、ここで送らなかったら女子テニのメンバーに白い目で見られそうやから、一応付き添ってやる。誰かに見られたら、その時はその時で……。いや、やっぱダルいわ。
「なんでそんな俺に絡んでくるんや」
校門を出てから、すぐに疑問は口から出てきた。金輪際この女と関わることがないならまだしも、テニス部の横のつながりがあるため邪険にはできない。俺は気になったことはすぐ解決したい派で、できれば穏便にことを済ませたかった。
「部長になるんはもう決まったことやから、変えられへん。でもなんで俺のことが嫌いなんかは……、まぁ、想像つくけど一応言い分だけは聞いといたるわ」
女は背筋を真っ直ぐ伸ばして歩いていた。如何にもスポーツをやっている人という感じで、一緒に歩いているはずの俺とあまりにも真逆すぎて、絶対に人間として波長が合うことはないのだろうと、すぐに分かるような感じがした。
「…………忖度なく述べさせて貰いますよ」
「今さらそんなん気にするんやったら、最初から言わんかったらええやろ」
女の動きが固まる。緊張しているのか、歩き方もぎこちない。
「…………だ、男子ばっか目立ってずるいです」
「…………は? で?」
「だって財前先輩全然地味っていうか、面白くないじゃないですか。去年までやったら白石さんとかすごい派手やったし、ダブルスのお二人とかめっちゃ面白かったから女子の方が霞むっていうか、比較として弱いのは納得できるんですけど、今年の四天テニスって、おもんないっていうか、遠山さん以外別に普通っていうか……。そんなんで過去の栄華の残り香でそこそこに目立ってるのって……、なんなんですかね」
「めっちゃ悪口やんけ……」
「同じ部活やったら実力で打ち負かせるのに、男女の壁って理不尽ですよね」
「知らんわ、そんなん……」
「えっ、死活問題なんですよ、こっちは」
「女子も全国で勝ったらええやろ。優勝したらこっちより目立つやろ流石に」
「うっ……二回戦敗退の傷が……」
女は胸を押さえて大げさに苦しんでみせた。そこは腐っても四天の生徒なのだということが嫌という程わかる。
「うざ……」
話を聞いていてわかったことがある。この女の悩みは単純だ。けど……、気持ちが分からない訳ではない。根っこの部分は……要は、弱い自分が許せないという話なんやと思う。
「ほんまは俺が嫌なんやなくて……」
俺は口を開きかけて、辞めた。
これ以上言うべきではない。こういうことは、自分で気づかないと意味がない。
「え、普通に財前先輩のことはつまらん人やと思ってますけど。ギャグセン死んでますよね」
「人が親切しようとしたんやけど」
「へ~そうなんや。あ、いいこと思いつきました」
踏切前で、こいつはいきなりラケットを取り出した。
周りの視線が痛い。こいつほんまに…………、なんやねん。
「先輩のことボコボコにして、わたしが四天のトップになります。実力で、わからせます」
結局、言おうとしていたことは伝わった……のかはわからへんけど、自力で答えにたどり着いたらしかった。
どや顔で言い放ったこいつは、踏切が上がると「駅まで早かった方がアイス驕りで!」と叫んで走り出した。
「ほんま……! こいつ……!」
しかも、結構早いし。
俺の脳裏でふと、前の先輩――謙也さんやら白石さんやら銀さんやら、つまりは去年のレギュラー陣の顔が思い浮かんだ。
三年なって、ちゃんと部長というやつをやれるのか迷いがないわけではないけど。とりあえず馬鹿みたいに元気なこいつみたいなのばっかで固まってる限りは平気やろ。そんなことをなんとなく、思った。
「あぁ……、どうも」
三年の先輩が引退して、俺は当然のように四天法寺男子テニス部の部長になった。……というか、俺以外になれるやつがおらんかったと言った方が正しいのかもしれない。
放課後、ジャージから着替えて下校しようと部室から出たところで、この女に呼び止められた。女子テニス部の部員の一人なのだろう。ユニフォームを着ていたのでわかった。それ以外――、名前であるとかそういった情報は自分の中には存在しない。ただ、先輩と呼ばれたから後輩なのだということは分かる(当たり前だが)。四天法寺の女子テニと男子テニはそれほど接点が多い訳ではない。たまにコートの使い方について話し合いの場が設けられることがあるが、あくまで儀礼的な物で、部長と副部長以外は出なくていい会議だったので、本当に俺は女子テニの人について何もしらない。
お前誰やねん、知らんわ。と言えば面倒なことになりそうだったので、礼儀として礼だけは言っておく。それくらいは、俺だってできるんで。
「あぁ……、先輩がトップになりはったらつまらないテニス部になりそうやわ」
「あ……? なんやねんお前。何が言いたいんや」
喧嘩を売られた。いきなり顔面をグーで殴ってくるのと同じ勢いで、言葉のナイフが。
死ぬほど失礼な態度の女は、馬鹿にしたような笑みを浮かべてこっちを見ている。周囲に人はいない。ほとんどの部員は最終下校時刻を過ぎないように早めに帰っている。
「去年の小石川さんの時は……、ほんまによかった。でも終わったんですよ。財前先輩、あんた何もおもんないわ。テニスもおもんないし……、よく部長しよう思わはったな」
「ハァ……? オワコンちゃうわ」
「オワコンや、こんなテニス部」
「じゃあお前はなんやねん。そんな偉そうなこと言えるような人なんか?」
「……一緒に上がったでしょう、体育館で、壇上に」「あ……?」
そういえば、夏の大会が終わった後、そんなこともあったような気がする……というか、あった。一応全国大会でいい場所まで行けたという実績の元、全校集会で男子テニス女子テニス両方のレギュラーが、あのデカいステージの上に並ばされた。挨拶をしたのは双方のキャプテンだけで、俺はほんまに突っ立ってるだけやったけど。
確かに、そこに制服のサイズが合ってない女子が一人いたようないなかったような。それがこの人なんだと自分の中ではあんま結びつかん。
「一年でレギュラーで全国に行ったの、遠山さんとわたしだけなんやねんけど」
「あぁ……、そうか」
「ほんまに……、人を見る気なんて何にもないんですね。部員の顔ちゃんと覚えられてます?」
「なんで女子のことまで覚えとかなあかんねん」
「同じテニス部ですよ?」
「……どーでもええわ。てか俺、はよ帰りたいんやけど」
女は俺の目の前を通せんぼした。
「はよどけや」
「嫌や。納得できへん」
「何がや」
「わたしが一セットでも取ったら部長やめてくれます?」
「は……? 嫌や」
「ほんまノリ悪いんやな」
「先輩にタメ口使うなや」
丁度このタイミングで、最終下校時刻まであと五分ですというアナウンスが流れた。
「もう外暗いやんけ」
「じゃあ帰り駅まで送ってください」
「めんどくさ……」
と言いつつ、ここで送らなかったら女子テニのメンバーに白い目で見られそうやから、一応付き添ってやる。誰かに見られたら、その時はその時で……。いや、やっぱダルいわ。
「なんでそんな俺に絡んでくるんや」
校門を出てから、すぐに疑問は口から出てきた。金輪際この女と関わることがないならまだしも、テニス部の横のつながりがあるため邪険にはできない。俺は気になったことはすぐ解決したい派で、できれば穏便にことを済ませたかった。
「部長になるんはもう決まったことやから、変えられへん。でもなんで俺のことが嫌いなんかは……、まぁ、想像つくけど一応言い分だけは聞いといたるわ」
女は背筋を真っ直ぐ伸ばして歩いていた。如何にもスポーツをやっている人という感じで、一緒に歩いているはずの俺とあまりにも真逆すぎて、絶対に人間として波長が合うことはないのだろうと、すぐに分かるような感じがした。
「…………忖度なく述べさせて貰いますよ」
「今さらそんなん気にするんやったら、最初から言わんかったらええやろ」
女の動きが固まる。緊張しているのか、歩き方もぎこちない。
「…………だ、男子ばっか目立ってずるいです」
「…………は? で?」
「だって財前先輩全然地味っていうか、面白くないじゃないですか。去年までやったら白石さんとかすごい派手やったし、ダブルスのお二人とかめっちゃ面白かったから女子の方が霞むっていうか、比較として弱いのは納得できるんですけど、今年の四天テニスって、おもんないっていうか、遠山さん以外別に普通っていうか……。そんなんで過去の栄華の残り香でそこそこに目立ってるのって……、なんなんですかね」
「めっちゃ悪口やんけ……」
「同じ部活やったら実力で打ち負かせるのに、男女の壁って理不尽ですよね」
「知らんわ、そんなん……」
「えっ、死活問題なんですよ、こっちは」
「女子も全国で勝ったらええやろ。優勝したらこっちより目立つやろ流石に」
「うっ……二回戦敗退の傷が……」
女は胸を押さえて大げさに苦しんでみせた。そこは腐っても四天の生徒なのだということが嫌という程わかる。
「うざ……」
話を聞いていてわかったことがある。この女の悩みは単純だ。けど……、気持ちが分からない訳ではない。根っこの部分は……要は、弱い自分が許せないという話なんやと思う。
「ほんまは俺が嫌なんやなくて……」
俺は口を開きかけて、辞めた。
これ以上言うべきではない。こういうことは、自分で気づかないと意味がない。
「え、普通に財前先輩のことはつまらん人やと思ってますけど。ギャグセン死んでますよね」
「人が親切しようとしたんやけど」
「へ~そうなんや。あ、いいこと思いつきました」
踏切前で、こいつはいきなりラケットを取り出した。
周りの視線が痛い。こいつほんまに…………、なんやねん。
「先輩のことボコボコにして、わたしが四天のトップになります。実力で、わからせます」
結局、言おうとしていたことは伝わった……のかはわからへんけど、自力で答えにたどり着いたらしかった。
どや顔で言い放ったこいつは、踏切が上がると「駅まで早かった方がアイス驕りで!」と叫んで走り出した。
「ほんま……! こいつ……!」
しかも、結構早いし。
俺の脳裏でふと、前の先輩――謙也さんやら白石さんやら銀さんやら、つまりは去年のレギュラー陣の顔が思い浮かんだ。
三年なって、ちゃんと部長というやつをやれるのか迷いがないわけではないけど。とりあえず馬鹿みたいに元気なこいつみたいなのばっかで固まってる限りは平気やろ。そんなことをなんとなく、思った。
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