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テニスの王子様
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「冬と言えばコタツですよね!」
「おぉ、赤也わかってんじゃん!やっぱし寒い日にはコタツに入ってのんびりするのが最高だよな! 最近急に冷え込んできたし」
「今日の朝練の前とかマジで凍え死ぬかと思ったっスよ」
「ほんとそれな」
真田弦一郎は部室で談笑する他の部員の声に耳を傾けた。練習が終わり、帰宅準備を進める時間。切原と丸井は制服に着替えながら談笑している。真田の隣では、もうすでにコートに身を包んだ幸村が、涼しい顔で二人の様子を見守っている。
「全く、こんな寒さ程度で音を上げるとはたるんどる……って言おうとしたよね」
「幸村」
図星だった。
眉間にシワのよった真田の表情を見て、幸村はほくそ笑む。
「確かに、俺もここ数年で異様に冷え込んできている気がしていたところだよ。
地球温暖化から来る異常気象の影響もあるだろうし、なんて言ったって寒いことには変わりないからね」
学校指定のマフラーを首に巻き付けながら、幸村は続ける。
「もちろん、寒さを理由に練習量を減らしたりはしないさ。ただ、モチベーションの問題だよ。選手の精神だけではどうにもならないことはある。うちには日々の部活に出るのが億劫になる選手なんてここにはいないと思うけど、寒さを感じているより感じていない方が良いプレイはできるよ。本腰を入れるのが早くなれば早くなるほど、成長速度は伸びてくる。俺の言いたいことはわかるよね」
幸村の畳み掛けるような言葉に、思わず真田は呑まれてしまう。
(確かに、幸村の言い分もわからないことはない。しかし……)
「あっ!」
ぐるぐると考え込んでいると、後ろから赤也の叫び声が響いてきた。
「部室にコタツを作りません!?」
これは良いアイデアだ! と無邪気な表情を浮かべる赤也を見て、真田は思わず絶句する。
赤也が本気でやりたい!と騒ぎ出すとストップがかかるまで止まらない。丸井や仁王もノリノリで赤也を囃し立てている。
「しかし、どうやって部室にコタツを置くのですか? スペースがないわけではないですが……」
横から柳生が口を出した。
「えぇ~~! でもでも、部室にコタツがあったら最高じゃないっスか!?」
「確かに部室にコタツを置くのは良いかもね」
「幸村部長!」
「幸村!?」
何をふざけた考えを、と口出ししようとしていた矢先、幸村が赤也の意見に同意を示した。
「前から今年の寒さはどうにか対処しないといけないと思っていたところだしね。良い機会じゃないか。うん、部費も余っているし、早速作ろう」
さぁ、みんな行くよ、といつの間にか外に出ていた幸村はズンズン進んでいく。
「幸村部長~! 待ってくださいよぉ!」
「おやおや、これは面白いことになりそうですね」
「幸村……」
(お前は何を考えているんだ?)
幸村の強引な行動に何も言えず、真田は黙って後をついていくことにした。
「学校の近くにこんな店があったんですね」
「うん、ここは結構品揃えがあって良いよ」
幸村が向かった先は家具屋だった。しかも、ニトリのような量販店とは違う、個人が経営するような店。
中に入ると暖房が効いていて暖かい。入り口から奥に至るまで所狭しと家具が並べられている。暖かい照明がゾロゾロと入ってきたテニス部の面々を照らしていた。
「これとかどうじゃ?」
ちょうど冬のシーズンだからか、コタツ特集と称されたコーナーにコタツテーブルやコタツ布団がご丁寧に陳列されていた。
仁王が指差した机は、すぐに買えるような値段ではなかった。
「それ、ブランドの良いやつだろぃ。こんなの部費で降りるわけねぇって」
「良いデザインですが、10万円を超えるのはあまりよろしくないですね」
「えー!じゃあコタツ買えないんですか!?」
「いや、きっと手ごろな値段のものがあるはずだ。みんなで探せば見つかるはずだよ」
幸村の一声で、真田以外のメンバーはクモの子のように散らばっていった。
(全く……なぜこのようなことに)
「いらっしゃいませー……って真田くん!?」
「ミョウジ!?どうしてここに……」
店の奥から出てきたのは、真田のクラスメイトであるミョウジナマエであった。いつも教室で見るような制服姿ではなく、私服のワンピースの上からエプロンをつけている。彼女は、彼が密かに恋い慕う相手であった。本人は真面目すぎるが故に気づかないふりをしているが。
「うちの家、ここなの。私は家の手伝いで」
「あ、あぁ、そうか……」
(制服以外も似合って……いや、何を考えているのだ俺は)
「真田くんこそどうしてここに?」
「実は……」
真田はことの顛末を語り出した。
「へぇ、なるほどね……ってなんで部室にコタツ!? 運動部なのにコタツ!?」
ナマエは真田から全てを聞かされたのち、腹を抱えて笑い出した。
「……俺もおかしいとは思っている」
「まさか幸村くんが率先してやろうとするなんて、意外だなぁ
それにその、後輩の切原くんだっけ?その子も面白い子だね。私だったら絶対そんなの思い付かないよ」
目に涙を浮かべて大笑いしたナマエは落ち着きを取り戻すと、気を取り直して真田に向き合った。
「どれにしようとか決まってる?」
「ひとまず、部室に入れるものだからそこまで大きくないものが好ましいな。そして、収納が容易なものが良いだろう。そして、これが一番重要なのだが、値段が手頃なものはないだろうか」
ナマエは、うーんと頭を捻らせると、「ついてきて」と店の奥へと歩き出した。
「コタツ特集のところは、良いやつが多いんだけど結構値段が高いんだよね。勿論、個人的な使用ならそっちを進めてたよ。でも、今回は部費か部員からのカンパでしょう? だったらコスパがいいやつがいいと思って。はい、これとかどうかな?」
店の一番奥までやってくると、ナマエは在庫棚からカタログを捲って折りたたみ式のコタツテーブルのページを真田に見せた。
「大きさはどのくらいだ?」
「さっき見てたやつと同じだよ。ただ、これは組み立てがちょっと複雑だから値段は安め。ナラ材を使ってるからデザインもシックだし、セットでコタツ布団もついてるからお得だと思うよ」
確かに、デザインも落ち着いているし大きさもちょうどいい。組み立てるのは部員にやらせればすぐに終わるだろう。
(しかし……)
ナマエは説明に力が入るあまり真田との距離がとても危ういものになってしまっている。しかも、下から見上げる上目遣いの姿勢だ。
「私はこれ好きだなぁ。早く家具にはお嫁に行って大事に使ってもらいたいし、この木は真田くんにも似合ってるよ」
「俺もそう思うよ。ミョウジさん、これいただけるかな?」
「幸村!?」
「あ、幸村くん」
いつの間にか背後からぬっと出てきた幸村に、真田は心底驚いた。
「テニス部のみんなで買いに来たんだね。そう言えばさっき仁王くんや丸井くんのこと見かけたかも」
「部活終わりだからね」
ナマエはニコニコと笑いながらレジへと移動する。
「うん、君の家で買ったら学校まで運んできてくれるんだろう?」
「まかせといて、ちゃんと責任を持ってお届けします! お父さんが」
「じゃあ、明日の午後四時に西門までお願いできるかな?」
「テニスコートの近くだよね? わかった」
「領収書もお願いしようかな。請求先は立海大付属中学校男子テニス部でよろしくね」
「はいはーい」
レジを打つナマエの横で、幸村は財布から1万円札を2枚取り出した。
「幸村?」
「大丈夫だよ、建て替えておくから」
領収書と明細、保証書を受け取った幸村はナマエに手を振ってさっさと出ていってしまった。
「お買い上げありがとうございます! 真田くん、これからもうちをご贔屓にね」
ナマエに、この店に自分を連れてきたのは幸村だと言おうか迷ったが、結局言わなかった。
「あぁミョウジ、よろしく頼む」
「また明日、学校で」
「また明日」
ナマエがひらひらと手を振ったので、それに習って少しだけ手を振ってみる。
(何故だ、何故俺はこの程度で照れている……)
静かに降った己の手を見て、悶々とする気持ちが湧き上がってくる。浮かれる気持ちを抑えようと店の外に出ると、他の面々が出揃っていた。
「真田副部長、一番遅かったっスね」
「いいものが見つかったようで何よりです」
「じゃあ帰ろうか」
帰り道でそれぞれが別れいく中、幸村はこっそり耳打ちした。
「明日、楽しみにしておいて」
そう言うと、颯爽と去っていってしまった。
「明日、か……」
放課後、部室に向かうとナマエが台車に大きな段ボール箱を乗せて待っていた。
「真田くん、アレ持ってきたよ。部室開けて欲しいな」
「結構大きいな」
「うん、頑張って組み立てようね」
部室に入ると、ナマエは台車から荷物を下ろし、カッターナイフで段ボール箱を解体する。スカートのポケットからカッターナイフが出てきたので、真田が思わず凝視すると、「こんなの持ち運ぶわけないじゃん!」とナマエは笑った。
「みんなこないね」
「全く、たるんどる。あいつらは後で練習メニューを増やしておかんとな」
ナマエが板を支え、真田がボルトを閉める。地面に座って二人、黙々と作業を続ける。ナマエは家具屋の娘ということもあってか手慣れた手つきで作業を進めていた。コタツはそれらしい形になりつつあり、作業を始めてからしばらく経つというのに部員が来る気配はなかった。
「校門までこの荷物をミョウジのお父上が運んできてくださったのだろう。あとで礼を言わなくてはな」
「いえいえ、これが仕事ですから……っくしゅん」
「ミョウジ、これを」
部室の中に暖房はない。冷え切った室内で作業をしていたせいで彼女が風邪を引いては困る。そんな下心一切なしの純粋な思いでジャージをナマエの肩にかけた真田であったが、
「えっ……あの……えっと」
思わず固まった。目の前には困った顔で顔を真っ赤にするナマエ。今まで見せたことのないような表情に胸の奥からむかむかと湧き上がってくる言い表しようのない恥ずかしさと、とんでもないことをしてしまったという焦りが生まれる。
「あ、ありがと……うわーやっぱ大きいんだね、うん……運動部だし、当たり前か、あはは……」
何か声をかけようとするが、なんと言って良いのかわからない。異性と二人っきり、部室の中、共同作業。真田の脳内で「責任を取れ!破廉恥だ!」ともう一人の自分が叫んだ。
「え、あの、真田くん……もこういうことしてくれんだね、なんか意外」
「あぁ、その……なんだ、すまない」
「ううん、良いの。えっと、なんだろう、他の子にもしたことあるの?……あ、ごめん今のは」
「ない、お前が初めてだ」
「あ、うん!そ、そうなんだ……結構仕草が手馴れてたからさ……」
「は、初めて!?」
壁の向こうから素っ頓狂な声とガタガタという物音が聞こえ、二人の意識は急速にそちらに向かった。浮ついた考えは頭から消え去り、立ち上がって部室のドアを開けた。
「さ、真田副部長……!いや、あの、これは違くて!」
「……赤也、もう遅いって」
「あーあ、赤也が騒ぐからバレちまった」
「貴様ら……なぜ、なぜ……」
後ろにいたナマエは心底動揺して、手をワタワタと動かしていた。
「だから言ったじゃないか、ミョウジと真田の共同作業を邪魔したらいけないって」
「赤也が騒いで弦一郎にバレる確率100%」
「いや、もうバレてるじゃろ」
「初めて、なんて言葉に反応して叫ぶなんて、まだまだ切原君も子供ですね」
「やってることは分かってただろう?二人の邪魔をしちゃいけないって気を利かせてあげたのに……」
ごめんね、真田と幸村は笑った。
「幸村……」
「真田くん……幸村くん……」
ナマエは半信半疑で交互に二人の顔を見て目を回した。
「ふふ、キャパオーバーしてるみたいだし、今回はこのくらいで良いや。さぁ、コタツもさっさと完成させてしまおう。二人はお疲れ様、今日はもう休んでて良いよ、さぁ」
幸村はそういうと強引に二人を部室の外に追い出した。
バタン、と扉が閉まり二人は顔を見合わせる。
「あの……真田くん、なんかごめんね」
「ミョウジが謝る必要はない。悪いのは、あいつらだ……」
「作業も途中で任せちゃったけど、良いのかな」
「元はと言えばあいつらが騒ぎ出したことだ、任せておけば良い」
「うん、じゃあえっとジャージありがとう。完成したらまた見せてね。また、学校で!」
ナマエはそういうと颯爽と走って消えていった。
(カッターナイフ、落としていったな)
追いかけようにも、混乱している彼女をさらに追い詰めるようなことをするのは酷だろう、と結論づけ、真田は物騒な刃物を見つめた。
(そういえば、これを持ち込むのは校則違反ではないのか……)
「真田、次はうまくやるんだよ」
幸村は窓越しにその様子を眺め、小さなため息をついた。
「おぉ、赤也わかってんじゃん!やっぱし寒い日にはコタツに入ってのんびりするのが最高だよな! 最近急に冷え込んできたし」
「今日の朝練の前とかマジで凍え死ぬかと思ったっスよ」
「ほんとそれな」
真田弦一郎は部室で談笑する他の部員の声に耳を傾けた。練習が終わり、帰宅準備を進める時間。切原と丸井は制服に着替えながら談笑している。真田の隣では、もうすでにコートに身を包んだ幸村が、涼しい顔で二人の様子を見守っている。
「全く、こんな寒さ程度で音を上げるとはたるんどる……って言おうとしたよね」
「幸村」
図星だった。
眉間にシワのよった真田の表情を見て、幸村はほくそ笑む。
「確かに、俺もここ数年で異様に冷え込んできている気がしていたところだよ。
地球温暖化から来る異常気象の影響もあるだろうし、なんて言ったって寒いことには変わりないからね」
学校指定のマフラーを首に巻き付けながら、幸村は続ける。
「もちろん、寒さを理由に練習量を減らしたりはしないさ。ただ、モチベーションの問題だよ。選手の精神だけではどうにもならないことはある。うちには日々の部活に出るのが億劫になる選手なんてここにはいないと思うけど、寒さを感じているより感じていない方が良いプレイはできるよ。本腰を入れるのが早くなれば早くなるほど、成長速度は伸びてくる。俺の言いたいことはわかるよね」
幸村の畳み掛けるような言葉に、思わず真田は呑まれてしまう。
(確かに、幸村の言い分もわからないことはない。しかし……)
「あっ!」
ぐるぐると考え込んでいると、後ろから赤也の叫び声が響いてきた。
「部室にコタツを作りません!?」
これは良いアイデアだ! と無邪気な表情を浮かべる赤也を見て、真田は思わず絶句する。
赤也が本気でやりたい!と騒ぎ出すとストップがかかるまで止まらない。丸井や仁王もノリノリで赤也を囃し立てている。
「しかし、どうやって部室にコタツを置くのですか? スペースがないわけではないですが……」
横から柳生が口を出した。
「えぇ~~! でもでも、部室にコタツがあったら最高じゃないっスか!?」
「確かに部室にコタツを置くのは良いかもね」
「幸村部長!」
「幸村!?」
何をふざけた考えを、と口出ししようとしていた矢先、幸村が赤也の意見に同意を示した。
「前から今年の寒さはどうにか対処しないといけないと思っていたところだしね。良い機会じゃないか。うん、部費も余っているし、早速作ろう」
さぁ、みんな行くよ、といつの間にか外に出ていた幸村はズンズン進んでいく。
「幸村部長~! 待ってくださいよぉ!」
「おやおや、これは面白いことになりそうですね」
「幸村……」
(お前は何を考えているんだ?)
幸村の強引な行動に何も言えず、真田は黙って後をついていくことにした。
「学校の近くにこんな店があったんですね」
「うん、ここは結構品揃えがあって良いよ」
幸村が向かった先は家具屋だった。しかも、ニトリのような量販店とは違う、個人が経営するような店。
中に入ると暖房が効いていて暖かい。入り口から奥に至るまで所狭しと家具が並べられている。暖かい照明がゾロゾロと入ってきたテニス部の面々を照らしていた。
「これとかどうじゃ?」
ちょうど冬のシーズンだからか、コタツ特集と称されたコーナーにコタツテーブルやコタツ布団がご丁寧に陳列されていた。
仁王が指差した机は、すぐに買えるような値段ではなかった。
「それ、ブランドの良いやつだろぃ。こんなの部費で降りるわけねぇって」
「良いデザインですが、10万円を超えるのはあまりよろしくないですね」
「えー!じゃあコタツ買えないんですか!?」
「いや、きっと手ごろな値段のものがあるはずだ。みんなで探せば見つかるはずだよ」
幸村の一声で、真田以外のメンバーはクモの子のように散らばっていった。
(全く……なぜこのようなことに)
「いらっしゃいませー……って真田くん!?」
「ミョウジ!?どうしてここに……」
店の奥から出てきたのは、真田のクラスメイトであるミョウジナマエであった。いつも教室で見るような制服姿ではなく、私服のワンピースの上からエプロンをつけている。彼女は、彼が密かに恋い慕う相手であった。本人は真面目すぎるが故に気づかないふりをしているが。
「うちの家、ここなの。私は家の手伝いで」
「あ、あぁ、そうか……」
(制服以外も似合って……いや、何を考えているのだ俺は)
「真田くんこそどうしてここに?」
「実は……」
真田はことの顛末を語り出した。
「へぇ、なるほどね……ってなんで部室にコタツ!? 運動部なのにコタツ!?」
ナマエは真田から全てを聞かされたのち、腹を抱えて笑い出した。
「……俺もおかしいとは思っている」
「まさか幸村くんが率先してやろうとするなんて、意外だなぁ
それにその、後輩の切原くんだっけ?その子も面白い子だね。私だったら絶対そんなの思い付かないよ」
目に涙を浮かべて大笑いしたナマエは落ち着きを取り戻すと、気を取り直して真田に向き合った。
「どれにしようとか決まってる?」
「ひとまず、部室に入れるものだからそこまで大きくないものが好ましいな。そして、収納が容易なものが良いだろう。そして、これが一番重要なのだが、値段が手頃なものはないだろうか」
ナマエは、うーんと頭を捻らせると、「ついてきて」と店の奥へと歩き出した。
「コタツ特集のところは、良いやつが多いんだけど結構値段が高いんだよね。勿論、個人的な使用ならそっちを進めてたよ。でも、今回は部費か部員からのカンパでしょう? だったらコスパがいいやつがいいと思って。はい、これとかどうかな?」
店の一番奥までやってくると、ナマエは在庫棚からカタログを捲って折りたたみ式のコタツテーブルのページを真田に見せた。
「大きさはどのくらいだ?」
「さっき見てたやつと同じだよ。ただ、これは組み立てがちょっと複雑だから値段は安め。ナラ材を使ってるからデザインもシックだし、セットでコタツ布団もついてるからお得だと思うよ」
確かに、デザインも落ち着いているし大きさもちょうどいい。組み立てるのは部員にやらせればすぐに終わるだろう。
(しかし……)
ナマエは説明に力が入るあまり真田との距離がとても危ういものになってしまっている。しかも、下から見上げる上目遣いの姿勢だ。
「私はこれ好きだなぁ。早く家具にはお嫁に行って大事に使ってもらいたいし、この木は真田くんにも似合ってるよ」
「俺もそう思うよ。ミョウジさん、これいただけるかな?」
「幸村!?」
「あ、幸村くん」
いつの間にか背後からぬっと出てきた幸村に、真田は心底驚いた。
「テニス部のみんなで買いに来たんだね。そう言えばさっき仁王くんや丸井くんのこと見かけたかも」
「部活終わりだからね」
ナマエはニコニコと笑いながらレジへと移動する。
「うん、君の家で買ったら学校まで運んできてくれるんだろう?」
「まかせといて、ちゃんと責任を持ってお届けします! お父さんが」
「じゃあ、明日の午後四時に西門までお願いできるかな?」
「テニスコートの近くだよね? わかった」
「領収書もお願いしようかな。請求先は立海大付属中学校男子テニス部でよろしくね」
「はいはーい」
レジを打つナマエの横で、幸村は財布から1万円札を2枚取り出した。
「幸村?」
「大丈夫だよ、建て替えておくから」
領収書と明細、保証書を受け取った幸村はナマエに手を振ってさっさと出ていってしまった。
「お買い上げありがとうございます! 真田くん、これからもうちをご贔屓にね」
ナマエに、この店に自分を連れてきたのは幸村だと言おうか迷ったが、結局言わなかった。
「あぁミョウジ、よろしく頼む」
「また明日、学校で」
「また明日」
ナマエがひらひらと手を振ったので、それに習って少しだけ手を振ってみる。
(何故だ、何故俺はこの程度で照れている……)
静かに降った己の手を見て、悶々とする気持ちが湧き上がってくる。浮かれる気持ちを抑えようと店の外に出ると、他の面々が出揃っていた。
「真田副部長、一番遅かったっスね」
「いいものが見つかったようで何よりです」
「じゃあ帰ろうか」
帰り道でそれぞれが別れいく中、幸村はこっそり耳打ちした。
「明日、楽しみにしておいて」
そう言うと、颯爽と去っていってしまった。
「明日、か……」
放課後、部室に向かうとナマエが台車に大きな段ボール箱を乗せて待っていた。
「真田くん、アレ持ってきたよ。部室開けて欲しいな」
「結構大きいな」
「うん、頑張って組み立てようね」
部室に入ると、ナマエは台車から荷物を下ろし、カッターナイフで段ボール箱を解体する。スカートのポケットからカッターナイフが出てきたので、真田が思わず凝視すると、「こんなの持ち運ぶわけないじゃん!」とナマエは笑った。
「みんなこないね」
「全く、たるんどる。あいつらは後で練習メニューを増やしておかんとな」
ナマエが板を支え、真田がボルトを閉める。地面に座って二人、黙々と作業を続ける。ナマエは家具屋の娘ということもあってか手慣れた手つきで作業を進めていた。コタツはそれらしい形になりつつあり、作業を始めてからしばらく経つというのに部員が来る気配はなかった。
「校門までこの荷物をミョウジのお父上が運んできてくださったのだろう。あとで礼を言わなくてはな」
「いえいえ、これが仕事ですから……っくしゅん」
「ミョウジ、これを」
部室の中に暖房はない。冷え切った室内で作業をしていたせいで彼女が風邪を引いては困る。そんな下心一切なしの純粋な思いでジャージをナマエの肩にかけた真田であったが、
「えっ……あの……えっと」
思わず固まった。目の前には困った顔で顔を真っ赤にするナマエ。今まで見せたことのないような表情に胸の奥からむかむかと湧き上がってくる言い表しようのない恥ずかしさと、とんでもないことをしてしまったという焦りが生まれる。
「あ、ありがと……うわーやっぱ大きいんだね、うん……運動部だし、当たり前か、あはは……」
何か声をかけようとするが、なんと言って良いのかわからない。異性と二人っきり、部室の中、共同作業。真田の脳内で「責任を取れ!破廉恥だ!」ともう一人の自分が叫んだ。
「え、あの、真田くん……もこういうことしてくれんだね、なんか意外」
「あぁ、その……なんだ、すまない」
「ううん、良いの。えっと、なんだろう、他の子にもしたことあるの?……あ、ごめん今のは」
「ない、お前が初めてだ」
「あ、うん!そ、そうなんだ……結構仕草が手馴れてたからさ……」
「は、初めて!?」
壁の向こうから素っ頓狂な声とガタガタという物音が聞こえ、二人の意識は急速にそちらに向かった。浮ついた考えは頭から消え去り、立ち上がって部室のドアを開けた。
「さ、真田副部長……!いや、あの、これは違くて!」
「……赤也、もう遅いって」
「あーあ、赤也が騒ぐからバレちまった」
「貴様ら……なぜ、なぜ……」
後ろにいたナマエは心底動揺して、手をワタワタと動かしていた。
「だから言ったじゃないか、ミョウジと真田の共同作業を邪魔したらいけないって」
「赤也が騒いで弦一郎にバレる確率100%」
「いや、もうバレてるじゃろ」
「初めて、なんて言葉に反応して叫ぶなんて、まだまだ切原君も子供ですね」
「やってることは分かってただろう?二人の邪魔をしちゃいけないって気を利かせてあげたのに……」
ごめんね、真田と幸村は笑った。
「幸村……」
「真田くん……幸村くん……」
ナマエは半信半疑で交互に二人の顔を見て目を回した。
「ふふ、キャパオーバーしてるみたいだし、今回はこのくらいで良いや。さぁ、コタツもさっさと完成させてしまおう。二人はお疲れ様、今日はもう休んでて良いよ、さぁ」
幸村はそういうと強引に二人を部室の外に追い出した。
バタン、と扉が閉まり二人は顔を見合わせる。
「あの……真田くん、なんかごめんね」
「ミョウジが謝る必要はない。悪いのは、あいつらだ……」
「作業も途中で任せちゃったけど、良いのかな」
「元はと言えばあいつらが騒ぎ出したことだ、任せておけば良い」
「うん、じゃあえっとジャージありがとう。完成したらまた見せてね。また、学校で!」
ナマエはそういうと颯爽と走って消えていった。
(カッターナイフ、落としていったな)
追いかけようにも、混乱している彼女をさらに追い詰めるようなことをするのは酷だろう、と結論づけ、真田は物騒な刃物を見つめた。
(そういえば、これを持ち込むのは校則違反ではないのか……)
「真田、次はうまくやるんだよ」
幸村は窓越しにその様子を眺め、小さなため息をついた。
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